悠久書店・偽通信販売第二部 その1〜その4(担当:ヘキサ&ローラ・ニューフィールド)
その1、挽き割り納豆
ヘキサ:「さてっ! 記念すべき第1回の商品は……」
ローラ:「なになに?」
ヘキサ:「じゃーん! 挽き割り納豆!」
ローラ:「……挽き割り納豆?」
ヘキサ:「そう。大陸東方・ウォーターゲート地方の名物・挽き割り納豆だ」
ローラ:「やだ、変な匂い……。腐ってるんじゃないの、これ? ぬるぬるして糸も引いてるし」
ヘキサ:「やだねえ、お子様は。納豆の真髄も理解できないなんて」
ローラ:「わ……分からなくたっていいもん。ふん!」
ヘキサ:「醤油とマスタードと青ネギを付けて白い飯と一緒に食べるのが最高なんだぜ、これ」
ばたん。
アルベルト:「見回りに来たぞ、お前ら」
ヘキサ:「おお、アルベルト。いい所に来たな」
アルベルト:「危険な代物扱ってないか心配でな。前例もあるし(【偽通信販売】第1回参照)」
ヘキサ:「心配無用! なにしろ今回の商品はこれだからな……ほれっ!」
アルベルト:「うおおおっ! 納豆っ!」
ローラ:「……どうしたの、アルベルトさん?」
ヘキサ:「あいつ、納豆が大嫌いなんだとよ。フォスター隊長から仕入れたネタだから確かだぜ」
アルベルト:「やめろヘキサっ! 俺、その匂いだけはダメなんだっ!」
ヘキサ:「ほれほれほれ♪」
ばきっ!
ヘキサ:「うげっ!」
アルベルト:「ったく……。ローラ、これの始末はちゃんとしておけ!」
ローラ:「は〜い」
ばたん。
ヘキサ:「何だよあいつ……。あの程度で他人を殴りやがって……」
ローラ:「あれで殴らないのはアリサおばさまかセリーヌさんかメロディちゃんか、隊長のお兄ちゃんくらいよ」
ヘキサ:「かーっ……。この街、気の短い奴しかいねえのか?」
ローラ:「アルベルトさんは特別だけど。そういえば、ジョートショップのお兄ちゃんもすっごく短気だったわ」
ヘキサ:「色々噂聞いてるけど……。シェリルを路上で後ろから抱き締めたとか、パティを公園で押し倒したとか、シーラを――え〜と、あと何だっけ?」
ローラ:「煩悩まみれの噂が一番有名なのね、あのお兄ちゃん……」
ヘキサ:「でも、ローラの体を見つけたのはあいつなんだろ?」
ローラ:「うん。そーいえばあの時、『お兄ちゃんに抱かれて嬉しい』なんて言っちゃった♪ きゃはっ、どーしよ?」
ヘキサ:「……………………。で、ローラはそいつに気があるのか?」
ローラ:「う〜ん。不倫っていうのもいいけど、あっちのお兄ちゃんにはエルちゃんとかパティちゃんとかマリアちゃんとか大勢いるもん」
ヘキサ:「ん? 何の話だ?」
ローラ:「えへへ、内緒♪」
ヘキサ:「…………変な奴……」
その2、降魔荷電粒子砲
ローラ:「では引き続き、偽通信販売第二部、第2回行くわね」
ヘキサ:「え〜と、次の商品は――」
ばたん!
パメラ:「ほーっほっほっほ!」
ローラ:「あ、公安のおばさん」
パメラ:「きいいいいいっ! 誰がオバンよっ!」
ヘキサ:「オバンをオバンと呼んで何が悪いんだ、え?」
パメラ:「うきいいいいいいっっ!!」
ギャラン:「課長、課長!」
パメラ:「……はっ」
ギャラン:「さあ、子供と魔法生物なんか放っといて、とっとと依頼の横取りをしましょう」
ヘキサ:「とーとー本性を露呈したな……」
ローラ:「初めっから隠してなんかなかったよーな気もするけど……」
パメラ:「まあいいわ。挽き割り納豆なんて下らない物よりずっとマシなのを見せてやるからね、おちびちゃん達。おーっほっほっほ! ……例の物を出しなさい、ギャラン、ボル!」
ギャラン&ボル:「はっ!」
どさっ。
ヘキサ:「何だこりゃ? 筒状の金属に、正体不明の部品がごろごろ付いてやがる」
ローラ:「ま、まさか……きゃあああああっ!」
パメラ:「あら、何で悲鳴を上げるのかしら?」
ローラ:「だって、おばさんの持って来た物だから、乙女に見せられないようなすっごくいかがわしいアイテムだと思って……」
パメラ:「きいいいいいいいっっ!」
ヘキサ:「おいオバン、その鉄砲みたいなのが何なのか早く説明しろよ」
パメラ:「誰がオバンよおおおおっっ!」
ヘキサ:「10数えるうちに紹介始めないと負けだぜ。10、9、8、7、……」
パメラ:「はあはあ……。説明してやるわ。この降魔荷電粒子砲は、最新のエネルギー、“電気”の力で動いているのよ」
……………………。
ヘキサ&ローラ:「は?」
ギャラン:「ははは、我々の高度な技術力に圧倒されてますね」
ボル:「ま、田舎者には高度な技術など理解できなくて当然でしょうな」
ヘキサ:「(2人を無視して)電気ってあの、雷のエネルギーの事だろ? そんなもんどーやって溜めるんだよ」
ギャラン:「君達に言ってもどうせ分かりっこないけど、一応教えてやるよ」
ローラ:「じゃあ教えて、嫌みな熱血お兄ちゃん(微笑みながら威圧)」
ギャラン:「…………ボル、頼む」
ボル:「…………ま、まあこういうのは、課長が適任ですな」
パメラ:「…………あなた達、自警団の小娘に手っ取り早く教えなさいよ」
ヘキサ:「……あいつら、虫食いリンゴより脳味噌スカスカなんじゃねーのか?」
ローラ:「そんな事言っちゃ虫食いリンゴが可哀想よ、ヘキサ」(←そこまで言うか、おい)
3分後――
ギャラン:「…………せ、責任者である課長が説明するのが本筋ではありませんか」
ボル:「…………私も同感ですね」
パメラ:「…………ま、まあ説明は勘弁してあげるわ、お嬢ちゃん」
ローラ:「(なーんだ、結局分かんないんだ)そんなに降魔荷電粒子砲が凄いんだったら試しに撃ってみてよ、おばさん」
パメラ:「へ?」
ローラ:「ほんとに凄ければ偽通販の紹介の仕事、譲ってもいいけど」
パメラ:「う……ちょっと待ちなさい」
ギャラン:「うんせ、こらせ……ああ、何でエリートのこの僕がこんな事を……」
ボル:「どっこいせっと……やですねえ、肉体労働なんて……」
ローラ:「…………?」
パメラ:「降魔荷電粒子砲の発射には、手回し式発電機で電気を作るのに十分な時間が必要なのよ」
ローラ:「……………………」
ギャラン:「全く……こんな所で働いてたら気持ちがすさんでしまうよ……」
ボル:「同感ですね……ぜいぜい……」
ローラ:(とっくの昔にすさみ果ててるよーな気がするんだけど、この人達)
更に3分後――
ギャラン:「はぁ……はぁ……」
ボル:「ぜえ……ぜえ……」
ローラ:(うまくやったみたいね、ヘキサ)
パメラ:「はあはあ……こ、これの威力を見て後悔なさい」
ローラ:(何だかこの人達相手って、全然罪悪感湧かないんだけど……ま、いいよね)
パメラ:「降魔荷電粒子砲、発射!」
ぼすっ! ばちいいいいっ!
3人:「ぐぎゃああああああ!」
ぷしゅううう……。
ローラ:「…………。もういいわよ、ヘキサ」
ぽんっ。
ヘキサ:「けけっ。ローラがオバンと話してる間に、姿を消して部品を1個外してやったぜ」
ローラ:「お手柄ね、ヘキサ」
ヘキサ:「で、この欠陥品の料金は?」
ローラ:「廃品回収業で1ゴールド、ってとこじゃない?」
ヘキサ:「よし、任務完了! ……じゃ、さくら亭にメシでも食いに行こうぜ」
ローラ:「うん!」
ばたん。
ギャラン:「…………(ぴくぴく)」
ボル:「…………(ぴくぴく)」
パメラ:「…………お、覚えてらっしゃい」
その3、トリーシャのチョップ棒
ヘキサ:「さてと、あの3人は燃えないゴミに出したし、次行くか」
ローラ:「はいっ! 偽通信販売第二部第3回の商品は――」
トリーシャ:「トリーシャチョ〜ップ!」
とすっ!
ヘキサ:「うわああああっ! い、いきなり何だよ!」
トリーシャ:「やだなあヘキサ。ボクじゃないか」
ローラ:「あ、トリーシャちゃん。商品持って来てくれたの?」
トリーシャ:「うん!」
ヘキサ:「商品って……先っちょに手が付いた、この変な棒の事か?」
トリーシャ:「ひどいなあ、ヘキサ! ボクがマジックアイテム作成実習で作った、れっきとしたマジックアイテムなんだからね!」
ヘキサ:「あー、悪かった悪かった」
トリーシャ:「でね、賞金稼ぎのクランクさんがこの前、『100ゴールドで譲ってほしい』って言ってくれたんだ!」
ヘキサ:「それってマジックアイテムとしての価値よりも……」
ローラ:「……トリーシャちゃんの作品という知名度で付加価値が付いてるとしか思えないんだけど」
トリーシャ:「まあまあ、カタい事言いっこなし!」
ヘキサ:「という事で、希望価格は1000ゴールドか?」
トリーシャ:「あったり〜! 何で分かったの?」
ヘキサ:「当てずっぽう」
ローラ:「なーんだ……」
ヘキサ:「おほん……。ところで聞くけどよ、トリーシャ」
トリーシャ:「なあに?」
ヘキサ:「そのマジックアイテムの効果って、何なんだ?」
トリーシャ:「対シェリル専用の精神沈静化」
…………。
ヘキサ&ローラ:「え?」
トリーシャ:「だから、最近トリーシャチョップの威力が鈍っちゃって……。前は1発でシェリルをノックアウトできたのに、今だと3、4発は出さないと現世復帰してくれないし……」
ヘキサ:「……シェリルって電算機だったっけ?」
ローラ:「……立て付けの悪い扉でもないと思うんだけど」
トリーシャ:「実習で作ったアイテムが売れないと、マジックアイテム作成の講義で単位が貰えなくて困ってるんだけど……こんな変なアイテム売れないよね。しくしくしく……」
ヘキサ:「そんな事ないぜ。改造さえすれば、立派に売れるいいマジックアイテムじゃねーか」
ローラ:「あ、そうよね。精神沈静化の効果があるんだから、マリアちゃんの家とか、パティちゃんのお店とか――」
ヘキサ:「アリサさんの店でも高く買ってくれそうじゃねーか。なあ?」
ローラ:「自警団にノウハウごと売り込んで、量産化してもらうなんてどう?」
トリーシャ:「あ、そりゃいいや。どうもありがと〜」
ばたん。
ローラ:「よかったね、トリーシャちゃん。チョップ棒が売れそうで」
ヘキサ:「……改造できれば、だけどな」
ローラ:「マジックアイテムの改造って、難しいの?」
ヘキサ:「ああ。特に特殊な代物はな。あのチョップ棒だって、精霊魔法が役所の公式認定で10レベルの術者でかろうじて改造できる辺りだと思うぜ、きっと」
ローラ:「トリーシャちゃん、かわいそ……」
ヘキサ:「ま、トリーシャのファンなら大枚はたいて購入するはずだから心配いらねーけどな」
ローラ:「何か複雑な気分……」
トリーシャ:「えいえいお〜っ!」
その4、セリーヌ特製オレンジジュース
ヘキサ:「今回こそマトモな品物あるんだろーな、ローラ」
ローラ:「なによヘキサ、『今回こそマトモな品物あるんだろーな』って!」
ヘキサ:「反論できるのか? オレが言える事じゃねーけどよ(←第1回責任者)」
ローラ:「う……(←第3回責任者)。セ、セリーヌさ〜ん」
セリーヌ:「はい、何でしょう?」
ヘキサ:「うわああああっ! で、出やがったっ!」
セリーヌ:「……は?」
ローラ:「セリーヌさん、いいから。こいつの事は気にしないで」
セリーヌ:「そうですね、ローラさん」
ヘキサ:「(反射的に受け答えしてるだけだな、絶対)……で、この方向音痴女と偽通信販売にどーゆー関係があるんだよ」
ローラ:「だから、偽通信販売の商品持って来てくれたのよ。ね、セリーヌさん」
セリーヌ:「はい。今回の偽通信販売の商品は、私のオレンジジュースです」
ヘキサ:「そーだったら早く言えよ、なっ! ささ、セリーヌ、オレにも1杯」
セリーヌ:「え〜と、その前にお仕事をしてから……」
ローラ:「だってさ。我慢しててね、ヘキサ」
ヘキサ:「ちぇーっ……」
ローラ:「セント・ウィンザー教会の保母、セリーヌ・ホワイトスノウが届ける新鮮な味! 農薬無使用の天然果実をそのまま使用した100パーセント天然果汁! お値段は何と、1パック3ゴールドという超お買い得!」
ヘキサ:「……なあセリーヌ。ありきたりの販売方法じゃ売れ行き伸びねーからもっと工夫して売り込もうぜ」
セリーヌ:「実演販売……ですか?」
ヘキサ:「ああ、公園でよくやってる奴。実際に絞って飲んでみるんだよ」
セリーヌ:「あ、それはいい考えですね」
ヘキサ:「ほらよ。オレンジとコップはこっちに用意してあるから絞ってみな」
セリーヌ:「はい。それでは……」
ぎゅっ。
ヘキサ:「ぐぎゃああああああ!!」
ローラ:「セリーヌさんっ! ヘキサの頭掴んでる!」
セリーヌ:「え? そうですか?」
ヘキサ:「は、早く離せっつーの、おいっ!」
セリーヌ:「あ、すみません……」
ヘキサ:「とか言いながら更に力加えるんじゃねえっての! あだだだだだ!」
セリーヌ:「ヘキサさん、大声を出すのは体に良くないですよ」
みしっ(←頭蓋骨がきしむ音)。
ヘキサ:「ああっ! この大ボケ女、ますますパワーアップしてやがる!」
ローラ:「…………」
みしみしっ。
ヘキサ:「ああ……会った事のねえノイマン隊長の姿が見える……」
ローラ:「…………」
みしみしみしみし。
ヘキサ:「ノイマン隊長〜……」
セリーヌ:「あら。ヘキサさん、ノイマン隊長さんの夢を見てらっしゃるようですね」
ローラ:「絶対違うと思う……」
セリーヌ:「おやすみなさい、ヘキサさん」
ローラ:「……セリーヌさん、怖い」
ヘキサ:「か、川の向こうでノイマン隊長が手を振って……」
この後、ヘキサが即座にクラウド医院に強制収容されたのは、言うまでもない。