悠久書店・偽通信販売 その1〜その4(担当:エル・ルイス&マリア・ショート)



その1、魔道砲ファランクス

エル:「さて、記念すべき第1回は……」
マリア:「魔道砲ファランクスでーす☆」
エル:「……待てぇぇぇっ!! ンなもんどこから持ち出した、どこから!」
マリア:「パパの会社の倉庫から」
エル:「おいおいおいっ!」
マリア:「いーじゃない。“自警団から返品”って帳簿に書いてあったんだから勝手に持ち出しても」
エル:「ンな訳ないだろ……っておいっ! 勝手にコントロール・パネルいじるんじゃ――」
マリア:「座標よし、魔法力充填よし、パワーゲージ10パーセント……ファイヤー!」

どか――――ん!!

エル:「……………………」
マリア:「どうでしょう、この威力! 数百機で王都を消滅させた脅威の破壊力が今、貴方のものに!」
エル:「森が……森がえぐれてる」
マリア:「魔道砲の操縦初心者の君も大丈夫。照準設定から仰射角計算、エネルギー充填から反動修正まで、なんと全てがワンタッチ!」
エル:「……おい、マリア」
マリア:「世界に現存するのはあと数機のみ。これが最後のチャンス!」
エル:「……聞いてるのか、おい」
マリア:「今回はこれを特別価格、175,000ゴールドで――」
エル:「……一度しかない人生のかけがえの無さを、この場でじっくり教えてほしいか?」
マリア:「ああーん☆目がマジっ」

ばたん。

アルベルト:「マリア!」
マリア:「どうしたの、アル?」
アルベルト:「第一級禁止武器所持、及び使用罪で逮捕する!」
マリア:「し、知らないわよ。そーゆー事は店主に聞いて」
アルベルト:「店主の企画では、今回は『リサさん愛用・シーケンシャルのナイフ』のはずだが……」
マリア:「ぎくっ。で、でも……魔法兵器の方が面白いし……」
エル:「爆発するから、だろ?」
マリア:「うん☆ ……だめ?」
アルベルト:「(くらっ)……ええい、間違った狩猟本能誘発攻撃などこの俺に効くか! 逮捕だ逮捕っ! 未成年でも容赦しないぞっ!」
マリア:「あああああーん! 助けてエルっ!」
エル:「……知るか」



その2、機動兵器

アルザ:「さて、エルはんとマリアが自警団に連れてかれとる間は、うちらが担当するで」
キャラット:「第2回の商品はこれ、機動兵器です!」
アルザ:「ああ、トロッコやな。フェーゼとかいうけったいな鏡が住んでおったボー・グーンの廃坑の中を走っとった」
キャラット:「……身も蓋もない言い方よしてよ、アルザさぁん」
アルザ:「せやさかい、トロッコはトロッコ――」
キャラット:「実はこのトロッコ、軌道上巡行速度は時速200キロメートルあるんだよ」

……………………。

アルザ:「は?」
キャラット:「あとね、外殻は魔法リアクティブ・アーマーとメビウス・バリアーの二段構えで、ライトニング・ジャベリンを発射する魔法の槍が4本にクリムゾン・ナパームを発射する大砲が2門搭載されていて、攻撃・防御共に無敵なんだよ。知ってた?」
アルザ:「……知らへん」
キャラット:「泥人形やバジリスクみたいな、地底のモンスターと戦うには最適でしょ?」
アルザ:「…………そやな」
キャラット:「という訳で、この有軌条魔法兵器“べヒーモス98”、牙人族の伝統工芸・骨細工を付けて、今なら何と92,000ゴールドで――ちょっと、アルザさん?」
アルザ:「……………………」
キャラット:「アルザさん……?」



その3、タナトスの魔法書(偽物)

エル:「……第3回は」
マリア:「何と! タナトスの魔法書(偽物)でーす☆」
エル:「“魔法の花言葉”に出てきた奴だな」
マリア:「うん♪」
エル:「…………まあ、本物じゃないから別に心配ないか、マリアに売らせても」
マリア:「さて――このタナトスの魔法書(偽物)は、本物のタナトスの魔法書の外見を完璧に再現しております。残念ながら、禁忌の呪詛が掲載されていたり使用者の生命エネルギーを吸ったりは致しません」
エル:「(……残念?)」
マリア:「で、どう使えるかというと」

がりがりがり。

エル:「……“エルのバカ”……?」
マリア:「中のページは、ご覧の通り全て白紙なので書き込みが可能です☆」
エル:「待たんかおい」
マリア:「メモ帳代わりにも日頃の愚痴を綴るにも、硬い枕としても押し花の道具にも、まさに最適! 今なら一家に1冊、ご奉仕価格1000ゴールドで――」
見習い魔術師:「マリアちゃん」
マリア:「なあに、見習いさん?」
見習い魔術師:「美術館から店主さんが借り出したタナトスの魔法書の900年前の写本、見覚えありませんか?」
マリア:「……もしかして、こんな感じの本?」
見習い魔術師:「はい」
エル:「貴重なのか、その写本って?」
見習い魔術師:「はい。原本から直接写したものですからね。装丁も本物と寸分の違いもありませんし、ファティマ大辞典と同様に魔法を使わないと読めないようにプロテクトを施してある唯一の写本ですし」
マリア:「あは……あはは……あはははははは♪」
エル:「おい、マリア。変なもんでも食ったか?」
見習い魔術師:「おや? こんな所に、この前マリアさんが持っていたタナトスの魔法書の偽物が」
マリア:「あははははははははははははははは☆(裏返った笑い声)」
見習い魔術師:「……マリアさん?」
エル:「…………」
マリア:「…………ダーッシュ!」
エル:「待てーっ!」



その4、天使の巻いたオルゴール

エル:「さて、第4回は……」
メロディ:「“てんしのまいたおるごーる”なのぉ」
マリア:「そうです! 偽通信販売第4回の商品は、橘家秘蔵の物を橘由羅女史のご芳志により特別に譲って頂きました“天使の巻いたオルゴール”です!」
メロディ:「みゃうっ!」
エル:「はいはい。ごたくはいいからさっさと売っ払っちまいな」
マリア:「ネジを巻き切れば、天使の奏でる音色と共に天使が誕生致します! ただしその天使は、ネジに手を掛けた貴方の心を受け継ぎます。つまり、天使が生まれるか悪魔が生まれるかは貴方の心次第。エルみたいながさつな方は購入をご遠慮下さい――」

べき。

マリア:「いった〜い! いきなり何するのよ、格闘型エルフ!!」
エル:「やかましい、爆裂魔法娘!!」
メロディ:「エルちゃん、なぐっちゃダメですぅ〜!」
エル:「……はっ」
マリア:「生まれる天使は周囲の人の精神的影響をまともに受けるんだからっ! もし変な子になったら、エルが責任取ってよね!」
エル:「う〜っ」
マリア:「さてと……当品は既に半分天使がネジを巻いた状態のレアアイテム! 今回は特別に、このオルゴールを5000ゴールドで皆様に――って何してんのよエルっ!」
エル:「いや、アタシもちょっとネジを巻いてみようかと――あれ?」
マリア:「だからダメだってばっ! そんな力任せじゃなくて指先に心を込めてソフトなタッチで――ちょっと聞いてる?」
エル:「ふぬううううううっ!!」
メロディ:「みゃぅっ! おるごーるがぁ!」

ばき。
からんからんからん……。

メロディ:「お……おるごーる……」
マリア:「…………」
エル:「…………」
メロディ:「エルちゃんのばかぁぁぁ! ふみゃ――――っ!!」
エル&マリア:「………………」
マリア:「どーすんのよ、エル!」
エル:「どーするって……」
マリア:「女の子泣かすなんて、最低!」
エル:「何でだおいっ!」



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