裏【シンデレラ悠久2編】
 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ある所にシュリという女の子が住んでいました。
 彼女、もとい彼は自警団第二部隊の隊長ではなく、いわゆるひとつのシンデレラでした。
「説明がそれだけか?」
 それだけ。

 

 


 

 

 

 シンデレラはやっぱり継母ヴァネッサと姉ローラとトリーシャにいぢめられて毎日を過ごしています。
 そしてやっぱりお城でパーティーがあるのです。
 そしてやっぱりやっぱりシンデレラことシュリはお城のパーティーにはいけないのです。
「シュリ君、報告書の方頼んだわよ」
「お兄ちゃん、あたしのこのドレスもっとフリルつけて可愛くしてねっ!」
「ボク、チョップ棒のアップリケ!」
「……チョップ棒のアップリケ?」
 ダサダサと違うか?とシュリは思いましたが、とりあえず逆らわずにおきました。
 賢明です。

 

 


 

 

 

「俺もパーティーに行きたいな」
 そっちの方が楽そうだ。
 報告書を片付けるのの面倒くささから逃避しかけて、そう呟くと。
「お前の願いをかなえてやろーっ」
  BOM
 急に目の前が煙で真っ白になると、そこ(報告書の上に、土足)には偉そうにふんぞり返ったずるずる生地のマントをまとう魔法使いヘキサがいました。
 ヘキサはシュリがせき込んでいるのもお構いなしに、べらべらとまくしたてます。
「俺は魔法使いのヘキサ。お前の願いをかなえてやるよ」
「邪魔するなヘキサ」
 報告書をヘキサの足の下から抜き取り、シュリはどきっぱりと言い放ちました。絨毯にしていた報告書を抜き取られ足元をすくわれ、ヘキサはその場にごろんと転びます。
「何すんだコノヤローっ!」
 怒ったヘキサは、どこからともなく杖を取り出すとそれをシュリへ振りかざしました。
 またもや視界が煙に包まれます。
 げほごほと咳き込むのが止む頃、シュリは自分が真新しい豪華なドレスに身を包み、いつの間にか外の馬車の中へ放り込まれていました。
「何だこれは!?」
「これでよし、っと」
 慌てふためくシュリを尻目に、ヘキサはまたもやべらべらとまくしたてます。
「十二時過ぎると魔法とけてそのドレスも馬車もなくなっちまうから、十二時までにそれ脱いでどうにか王子モノにしろよ」
「…………おい!?」
「じゃあなっ」
 ヘキサはとっとと消えてしまいました。
「待てヘキサ……っあああああああああ!!!?」
 立ち上がって追い掛けようとしたシュリは、唐突に走り出した馬車の勢いで転んで頭を打ちました。
 そしてお城に着くまで気絶しっぱなしです。

 

 


 

 

 

 この国の化粧趣味の王子には、奥方がいません。
「……いい加減お化粧をやめていただかないと結婚も出来ませんわ、お兄様……ではなく王子」
「別に俺の勝手だろう」
 ふかーく溜め息をつくクレア王に、アルベルト王子は顔をしかめて言い返しました。
「これはお兄様……ではなく王子のお相手の方を決めるパーティーですのよ。もう少しビシッとなさっていて下さい」
「俺の勝手だろうが!」
 化粧趣味以外にも問題はあったりするのでしょうが、クレア王はそんなこと考えていません。

 

 


 

 

 

 うっとおしーなーと思いながら聞き流そうとつとめるアルベルト王子の目に、ダンスの輪から外れて何がなにやらという顔でたたずむ友人シュリの姿が目に入りました。
 ――使える。
 即座に彼はそう思いました。そうして、シュリを指差すとこう叫んだのです。
「あれがいい!」

 

 


 

 

 

 王子とのダンスがあったりその他もろもろがあって、十二時になります。
 ――まあ、靴なんて残してこなくていいだろ。
 御伽噺の筋書きを思い出しながらも、慌てて帰宅するシュリはそう思いました。
 追われたくないし。

 

 


 

 

 

「ようシュリ!」
 次の日朝一番に尋ねてきたアルベルト王子を見て、シュリは驚きのあまり飲みかけの牛乳を吹き出しそうになりました。
「なんでお前、ここがわかったんだ!?」
 そうシュリが訊ねると、
「そりゃお前、友達の家くらい知ってるだろうが」
 至極当然です。
「で、まさかこのパターンで行くと、お前が俺に結婚を申し込み……?」
「ああ、よく分かったな。その通り」
「断る!!」
「頼むシュリ!」
「いやだっっ!!」
「なあシュリ〜」
「だから何で俺がお前とっ」
「ホラ、クレアがな。俺が結婚すりゃ、化粧が原因で結婚できないなんてこともうるさく言わねーだろうし。な?建前だけでいいんだよ」
 そう必死に頼むアルベルトの姿に、友人思いのシュリの心はゆらぎました(頼まれたくらいでホイホイ同性との結婚決めるなよって気もしますけど)。
「まあ……そういうことなら」
『ちょっと待った』
 声が、三人分ハモりました。
 声の主は、“いつからそこにいたのか”な継母と姉二人です。
 彼女たちはいきなり割り込まれて唖然とするアルベルトをシュリの側から引き剥がすと、取り囲んで威圧しました。
「シュリ君はわたしたちが先に目つけていたのよ。横からかっさらう気?」
「は?」
「そうよ、お兄ちゃんはあたしたちがずっと狙ってたんだからねーっ」
「え?」
「美味しくなるまでじっと我慢してたのにアルベルトさんずるーい!」
「へ?」
「アルベルトさんに食べられちゃうくらいならさっさと頂いちゃおうよ。ね?」
「頂いちゃいましょう」
「じゃあ順番に使い回しね」
「順番はどうする?」
「あたし初めがいいなっ」
「あ、ずるーい」
「どうせなら少しくらい場慣れした方が楽しめるわよ」
「お、おいっ!ちょっと待てっっ」
 慌ててアルベルト王子が話を遮ります。
「こいつは俺の嫁になるんであって……しかもお前ら三人で何する気だっっ!」
「いいじゃないアルベルト王子」
 にっこりと微笑んで、ヴァネッサは言いました。
「仲間にいれてあげるから」
「…………」
  ごくん。
「オイ、今生唾飲み込まなかったか?」

 

 


 

 

 

 こうしてシンデレラと継母や姉達と王子様は、幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。

 

 



あとがき
 

危険度、高いですよね多分。

主人公が巻き込まれ型不幸なのが好きみたいです私(笑)。WHのルー君の影響が大きいなあ。


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