恥辱のおしおき

 「待てこらあ!」
 今日も今日とてマリアを追いかけるジョートショップの居候、保。原因は言うまでもなくマリアの魔法が失敗して騒動が起きたことによる。
「待てって言われて待つ人はいないわよ!保、捕まえたらおしおきするつもりなんでしょ!?」
「ああその通りさ!だからおとなしくお縄をちょうだいしやがれ!」
「だからイヤなんだってば!」
 運動は苦手だが逃げ足だけは早いマリア。このまま彼女を追いかけていてもらちがあかないと思った保は、奥義を使うことにした。
「イダテン!」
 その声とともに保の走るスピードが急激にアップした。一瞬のうちにマリアを追い越し、彼女の目の前に立ちふさがった。
「えっ、うそ、なにそれ!?こうなったら保をやっつけてでも逃げるもんね!」
 魔法大好き少女ではあるが、保の偏った育成方針により武闘派になってしまったマリアは、目の前の「敵」に拳での一撃をくわえようとする。
「ていやー!」
 しかし、格闘技のレベルは保の方が数段上である。マリアのパンチを受け止めると、彼女のみぞおちにひじを叩き込んだ。
「かっ…!ひ、ひどいよ、保…」
 そしてマリアはそのまま気を失ってしまった。倒れてきた彼女を保が受け止める。
「う〜ん、やりすぎちゃったなあ…」
 そんなことをつぶやいた保はぽりぽりと頬をかいている。そうこうしているうちに、保といっしょにマリアを追いかけていたアレフがこの場にやってきた。
「おい保、どうなった?…って、おいおい、気絶してるじゃねえか!おまえ、この娘になにした!?」
「カウンターアタック…」
 保はぼそりと言った。
「あのな保、いくらマリアが悪いことしたからって言って、やっていいことと悪いことがあるんだ。それぐらいわからないのか!?」
 気を失っている女の子を見て、フェミニストのアレフはすこし興奮気味だ。
「わかってる、やりすぎたと思ってる。反省してる」
「まったく…。で、これからどうするのよ、この娘?」
「俺にまかせてくれ。アレフ、おまえはもう帰っていいよ」
「そうか?まあおまえのことだからだいじょうぶだと思うけど…。じゃあ俺帰るわ」
 こうしてアレフは去っていった。
「さて、と…」
 そうつぶやくと保は腕の中にいるマリアを抱きかかえてとある場所に移動した。

 「う…ううん…」
 気を失っていたマリアが目を覚ました。自分はいったいなにをしていたのだろう?そしてここはどこだろう?マリアは自分の記憶をたどってみた。そして思い出したのである。自分の魔法が失敗し、保に追いかけられていたことを。
「でも、たしかマリアは道路の真ん中で保に気絶させられて…」
 マリアは周囲を見回した。ここはどこかの部屋のようだ。自分は柔らかいベッドの上にいる。ただしちゃんと寝かしつけられていたわけではないし、さらに彼女はとんでもないことに気がついた。
「なにこれ!?なんでマリア縛られてるの!?」
 縛られてる、というのは体全部がではない。手首だけが縛られていた。
「マリア、誘拐されちゃったの!?でもマリアを追っかけてたのは保なんだから…まさかあいつの仕業!?」
「その通りだよ、マ・リ・ア」
 その声を聞いてマリアはぞくっとなった。毎日聞いている保の声。しかしいつもとは感じが違った。どこか邪悪さを感じた。実際に声のした方を見てみると、にやにやしながら立っている保がそこにいた。
「保、これ、あんたがやったの!?なんなのよ、なにするつもりなのよ!?」
 興奮気味にそうたずねたマリアだったが、保は対照的に冷静に答える。
「決まってるだろう、おしおきだ。おまえは俺やその他の人間に迷惑をかけたんだ。悪い子には罰を与えなきゃあな」
 その保の表情に悪寒さえ感じるマリア。しかし、彼女の口が自然に開き、さらにこんなことをたずねた。
「おしおきってなにするの…?」
 こう聞かれた保はクククと笑うとこんなことを言った。
「おしりペンペン。小さな子の罰はこれに決まってる」
「ちょっと、だれが小さな子なのよ!?マリアを子供扱いしないでよね!」
「小さいじゃないか。特にこの胸なんか」
 そう言うと保はマリアの胸を指ではじいた。
「痛っ…!なにするのよ!!もう怒った!あんたなんか、魔法で粉砕してやるんだから!!」
 こう言われても保は冷静さを失わない。逆に、マリアの不安ばかりが大きくなった。
「なによ、なんでそんなに落ちついてるの!?あっ、わかった。腕縛られてるから魔法使えないって思ってるんでしょ?残念でした、印を組まなくても使える魔法だってあるんだから!」
 しかしまだ保はにやにや笑っている。
「もう、なんなのよ〜!?どうせ失敗すると思ってるの!?」
「そうじゃないさ。実はな、ここは結界の中なんだよ。だからたとえどんなに強力な魔法使いでもここじゃあ魔法なんか使えないのさ」
「えっ、え〜っ!?なんでわざわざマリアをそんなところに連れてきたのよお!?」
「わからないやつだな。おまえにおしおきするためだよ」
 あいかわらずの表情の保。なぜだろう、いつもは保のことを憎からず思っているマリアなのに、今は彼の顔を見ているだけで吐き気さえもよおしてくる。
「まっ、そういうわけだから観念するんだな。なあに心配するな、おしおきのおしりペンペンが終わったら家に帰してやるよ。ただし…」
「ただし…?」
「ここがどこかかも知らないまま、おしおきをしたのが俺だということを忘れさせてな」
 その保の顔にマリアは身震いした。だが、こんな状況では彼の言う通りおとなしく罰を受けるしかない。
「わ、わかったわよ!罰受けるから、やるんならさっさとしなさいよ!」
「よーしいい子だ。それじゃあ四つん這いになってこっちにおしり向けな」
 そう言われたマリアは歯を食いしばって保の言葉にしたがった。恥ずかしい。彼女の顔が赤くなった。
「ククク、かわいいおしりだなあ。それじゃあ…」
 そしてなんと保は、マリアのスカートをまくりあげたのである。
「な、なにするのよ!?スカートの上から叩くんじゃないの!?」
「いいじゃねえか、べつに。本当ならパンツまで脱がせたいところだけど、さすがにそれはなあ…」
「おかしい…保、あんたおかしいよ!」
「うるせえや!それじゃ行くぜ!」
 そう言うと保はマリアのおしりを平手でひっぱたいた。
「きゃあ!痛いわよ、保!!」
「そりゃそうだ。痛くなきゃおしおきにならないからな。そら、もう一丁!」
 そしてまたマリアのおしりを叩く保。今度は5発ほど連発させた。
「ううっ…保、もうやめてよ…。痛いよ…」
 マリアの目から涙が流れだした。痛さと恥ずかしさで彼女の思考がすこし麻痺しはじめた。
「ねえお願い…できることなんでもするから…」
「なんでも?」
 保がにやりとする。そして彼はこう言った。
「じゃあ、俺のことをお兄ちゃんって呼べ。そう呼んでくれたらあるいは許すかもしれないぞ」
「な、なによそれ?なんであんたをお兄ちゃんなんて呼ばなくちゃいけないの!?」
「イヤならべつにいいぜ。それならそれで、俺はおまえのしりを叩き続けるだけだからよ!」
 そう言って保はまたもや平手打ちを炸裂させた。
「きゃあ!痛い痛い!!やめてお兄ちゃん!!」
 マリアが思わずこう言うと、保の動きが止まった。
「ど…どうしたの、お兄ちゃん…じゃなくって保…?」
「ククククク、予想外だったぜ…」
「へっ…?」
 保は自分の顔をおさえながらクククと笑い続ける。そしてこんなことを言った。
「お兄ちゃんって言われれば気持ちが落ちつくんじゃないかと思ってたんだがな…逆に気持ちが高ぶっちまったぜ!」
「きゃああ!なにそれえ!?」
 マリアが言う間もなく、保が彼女に襲いかかった。そして彼は、ロープを使ってマリアを天井からつりさげたのである。
「うう…なんでこんなことするのよ…」
 涙目になったマリアが泣きそうな…いや、すでに涙声で言う。
「保、あんたやっぱりおかしいわよ!!変態よ、変態!!」
 このマリアの言葉に保のこめかみがぴくんとなった。
「変態だあ〜?違うね。本当の変態ってのは…こういうことするやつのことを言うんだよ!」
 その言葉とともに、保は手刀を振った。その手刀は直接マリアの体に触れなかったが、かまいたち現象を起こしてマリアの服を切り裂いた。
「きゃああ!!なにするのよ!?」
「心配するな、体に傷はつけないよ。もっとも、体以外はずたずたにするけどよ!!」
 そしてまた手刀を繰り出す保。何度も何度も振られた手刀により、マリアの服は破れ、床に落ちた。残っているのは下着だけである。
「ふ〜ん、おまえってノーブラだったんだ。もっとも、そんな小さな胸じゃつける必要ないけどな」
 15歳という年齢のわりには小さなマリアの乳房を凝視しながら保が言う。
「ひ…ひどいよ…気にしてるのに…」
 男に自分の胸を見られ、さらに言葉ではずかしめられた。マリアの目から流れる涙の量がさっきよりも多くなった。
「さーて、これからなにしようっかなあ…。さっきの続きやってもいいけど、せっかくこんな状況になったしなあ…」
「なったんじゃなくてしたんでしょ、あんたが!!」
 そんなマリアの言葉を保は聞いていない。そしてにやにやしながらこんなことを言った。
「なあマリア、知ってるか?女の子の胸ってのはよ、揉まれたり吸われたりすると大きくなるんだよ」
「へっ…?」
 一瞬、保がなにを言っているのか理解できなかったマリアだったが、冷静に言葉を理解して、保がとんでもないことを言っていることに気がついた。
「まさか、それをマリアにやろうって言うの!?」
「ご名答。気にしてるんだろう?自分の胸が小さいことをよ」
「だからってイヤぁ!こんな状況であんたなんかにそんなことされるのイヤぁ!!」
 泣き叫ぶマリアを無視して、保は彼女の胸に人差し指を当てた。マリアの体がぴくんとなる。
「う〜ん、おしりもかわいいけど胸もかわいいねえ」
 そんなことを言いながら保はマリアの胸に当てた自分の指をはわせる。
「あっ…保…やめ…」
 マリアの体が小刻みに震える。そしてしばらく彼女の胸の弾力を楽しんだ後、保は指をはなした。
「ふう、終わったあ…」
 マリアが息をもらした。しかしー。
「終わり?冗談じゃない。まだまだこれからだよ!」
 そう言うと保は、おもむろにピンク色のマリアの乳首をつまんだのである。
「あんっ…」
 マリアは思わず甘い吐息をもらしてしまった。しかも、それを保に聞かれてしまった。
「なんだ今の声?そうか、俗に言う心でいやがっていても体は…ってやつか」
「違うー!不意打ちだったから声が出ちゃっただけー!!」
 こう言ったマリアは自分の言葉に顔を赤くした。「声が出る」という言葉は、彼女にとってとても恥ずかしい言葉だったのだ。
「さあて、マリアも気分出てきたみたいだし、次は吸ってあげようか」
 完全に自分本位の考えの保がマリアの胸に顔を近づけ、そして軽いキスをした。
「もうイヤ…もうイヤ、もうイヤー!!」
 マリアが叫ぶ。そして、それと同時に彼女の体が光りだした。
「な、なんだこれは!?この部屋で魔法は使えないはずなのに…」
 保があせる。そして次の瞬間、彼とマリアの精神が闇に消えた−。

 「うっ…うう…あっ!?」
 マリアの目が覚めた。ここはどこだろう?マリアは周囲を見回した。ここはどこかの部屋のようだ。自分は柔らかいベッドの上にいる。
「ま、まさか…!」
 彼女は顔を青くした。これはあの屈辱的な出来事が起きる直前と同じ状況である。
「イヤ…だれか助けてー!!」
 思わず大声を出すマリア。その直後、大きな音ともに部屋のドアが開いた。
「どうしたマリア、なにがあった!?」
 それは保だったのだが、彼の姿を見たとたん、マリアが叫んだ。
「きゃああ、変態ー!よるな触るな近づくなー!!」
 そしてベッドにあった枕を保に投げつけるマリア。突然の出来事に保は飛んできた枕を避けることもできなかった。
「あのさマリア…いきなりなんなんだこれは?」
「なんだじゃないわよ、この変態!」
「変態?たしかにカウンターでみぞおちにひじぶち込んだのは悪かったけどさ、それだけで変態か?」
「それだけですってえ!?あんなことしといてよく言うわね、あんた!!」
「あんなこと?俺は気絶したおまえをジョートショップに連れてきてベッドに寝かしつけただけだぜ?」
「えっ…?」
 保の言葉にマリアは驚いた。そしてなにか変だなと思った。
「まさか…」
 そうつぶやいたマリアは自分のおしりに触ってみた。何回も保に叩かれたはずなのに、その形跡が残っていない。そして、切り刻まれたはずの服が元通りになっていることにも気がついた。
「もしかして夢…だったの?」
「夢?もしかして夢の中で俺がおまえになにかしたのか?」
「う、うん…。そうだ!保、マリアへのおしおきは!?」
「おしおき?ああ、ひじぶち込んじまったし、夢の中でひどい目にあったみたいだから、それでちゃらにしてやるよ。でももうあんなことするなよな」
「うん…ごめんなさい…」
 そうあやまったマリアは保の顔を見た。その顔は、彼女の夢の中に出てきた邪悪な保とはまったく別の、いつものやさしい彼の物であった。
「ねえ保、マリア、おうちに帰るね」
 そう言ってマリアがベッドから起き上がった。
「だいじょうぶか?なんだったら送ってこうか?」
「ううん、平気。じゃあね、保」
 そしてマリアは家に帰った。しかし、1人残った保がこんなことをつぶやいたのである。
「どうやら俺が使った、他人に見せたい夢を見せる魔法は成功したみたいだな…。今回は夢の中だけで終わりにしてやるが、次は現実世界で…」
 そうして保がクククと笑う。はたして、彼の本性は−。

<了>

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