GURPS Runal-Future
Rhiado Continent1248


 「完全版」の約150年後のリアド大陸、特にグラダス大半島の姿です。雷管式の銃や蒸気機関車が存在しますが、まだ一般のルナルの感覚で遊べる時代でしょう。

・文明レベル
 1248年現在のルナルの文明レベルは5(医療は6)です。
 ギャビットの文明レベルは3となり、種族基本セットが1095年現在より−5CPされます。

・〈〜処置〉の回復量
 負傷の治療に要する時間が2/3、回復する点数が+1されます。また、特殊な〈〜処置〉全てはそのままのレベルで〈応急処置〉の技能無し値として使えます。

・新技能
 〈銃器〉〈準備/ライフル、ピストル、弾倉〉〈再装填/ライフル、ピストル〉〈砲術/大砲、魔法兵器〉〈運転/歩行装置、蒸気機関車〉〈操縦/潜水装置、飛行装置、飛行要塞、グライダー、気球、飛行船〉等が新たに存在します。〈操縦/グライダー、気球、飛行船〉はミュルーンのボーナス技能として、+1のボーナスを受けられます。

・暦
 「刻」の長さが不定時法から定時法に変わり、昼夜や季節を問わず現実世界の1時間半に相当する長さになっています。1日の始まりはかつては日の出でしたが、船舶や鉄道などでは夜の紫の時を1日の区切りとしています。人間とドワーフを除く種族(=双子の月の信者ではない種族)は、夜のシャストアの刻を第1刻、夜のアルリアナの刻を第2刻……と言い慣わしています。人間やドワーフも、実務上では刻の名前を数字で呼び、信仰上の務めや手紙文では神名を用いる事があります。
 1刻は90点(ラウンド)に分けられ、刻の始まりが0点となり、1点あたりの長さは現実世界の1分に相当します(この長さは、呪文の持続時間から取られたそうです)。1点は60拍(ターン)に分けられ、当然1ターン=1秒です。
(例:「双月暦1248年3巡り目の銀の月の日、夜のリャノの刻の半ばより少し前」は、新しい流儀では「双月暦1248年3巡り目の緑の月の日、夜のリャノの刻の40点(第4刻40点)頃」となります)
 日付の区切りそのものは昔と変わっていません。具体的には以下の通りですが、昔は前後どちらの年にも含まれなかった冬至の扱いが混乱しがちです。冬至祝日全体を年始として扱うルークスの方式が、一応国際的に公式のものとされています。こちらの日の呼び名は人間以外でも通用しており、黒の月種族でさえ安息日(黒の月の日)に儀式を行う事が増えています(そのおかげで、休日冒険者が仕事を休まずに攻撃を仕掛ける事ができるのですが)。
  冬至第1日
  冬至第2日┐…どちらが冬至かは年により違う。
  冬至第3日┘ 一部の国の年始は冬至第3日。
  冬至第4日
  1巡り目の輪の月の日
   :(87〜88日間)
  13巡り目の銀の月の日or緑の月の日
  春分第1日┐…どちらが春分かは年により違う。
  春分第2日┘
  13巡り目の緑の月の日or安息日
   :(87〜88日間)
  25巡り目の青の月の日
  夏至第1日┐…どちらが夏至かは年により違う。
  夏至第2日┘
  26巡り目の輪の月の日
   :(87〜88日間)
  38巡り目の銀の月の日or緑の月の日
  秋分第1日┐…どちらが秋分かは年により違う。
  秋分第2日┘
  38巡り目の緑の月の日or安息日
   :(87〜88日間)
  50巡り目の青の月の日


グラダス大半島

・半島盟約機構
 1094年に再締結された〈バドッカの盟約〉によりグラダス諸国の関係がより緊密さを増すと共に国家間の問題も増加し、常に国際問題を討議するための組織が必要となりました。そして結成したのが〈半島盟約機構〉で、本部をバドッカに置いています。下部には神殿協議会、船舶同盟、関税同盟などの組織がありますが、最も著名なのがオータネスに本部を置くグラダス半島鉄道です。
 現在の加盟国は、トリース森林共和国、ファイニア低地共和国、ソイル連邦王国、オータネス湖王国、スティニア高地王国、バドッカ市国、ピール市国の7国で、オブザーバーとしてラジスの〈フェルトレの環〉とギョロロ市が参加しています。

・神殿
 ルナルの神殿は、「祈る場」であると同時に「働く場」でもあります。そのため小国が乱立する紫の群島はいざ知らず、他の地方では「異端」(=ルークスの戒律に従わない者)が存在する余地はほとんど無く、地下組織化せざるを得ませんでした。しかし自由な風潮が広まると共に、そのような「異端」の生存する余地も増えてきました(もっともこれは青の月の話であり、元々師弟相承ごとに多かれ少なかれ違う考えを持つ赤の月にはあまり該当しません)。
 〈半島盟約機構〉が関係を持つのは圧倒的多数を占め国教的立場にある「ルークス派」ですが、他にも様々な少数派が存在します。教義は穏健なものから過激なものまで様々で、中には闇タマットや〈悪魔〉信者と変わらないような代物まで存在します。

・ガヤン神殿…商業活動が盛んになり、信者の数と商業調停の仕事の量が増えています。警邏部は他の神の信者も加えて独立した警察機構になった所も増えていますが、裁決の方は今でもガヤン神殿が担当する国がほとんどです。余談ですが、ファイニアで革命が発生した背後に、ガヤン自らが伝えた「社会主義」思想が影響しているとの噂もあります。
・サリカ神殿…一般人の生活に深く根付いている点では、この時代にも変化ありません。中等教育を行うペローマ分神殿や身寄りの無い者を保護するアルリアナ分神殿が付属する事が多くなっています。一部の地域では魔法による通信の制度化に着手しており、伝令ギルドと勢力圏争いをしています。
・ペローマ神殿…大きな神殿は最先端の技術開発の中心となり、政府や商会が支援する研究施設が数多く付属しています。神殿が中等教育を行うのもグラダスでは一般化し、大陸本土でも次第に広まっています。
・ジェスタ神殿…大きな技術学校が付属し、徒弟制の前段階として一般化しています。街のインフラが増加するに従い、インフラの維持・点検の中枢となるジェスタ神殿の役割が大きくなっています。なお、ゴミ処理場はジェスタ神殿の管轄です。

・デルバイ神殿…度重なる技術流出の結果、既得権を護るために他の神殿との銃器・爆薬技術の共有を余儀なくされました。しかし結果として他の神殿との交流も多くなり、人間の信者も僅かながら増えています――「特殊な背景」が不要となるほどではありませんが。
・ファウン神殿…大して変わりありません(笑)。

・シャストア神殿…エンターテインメントの普及により、大きな劇場や娯楽施設を付属させた神殿が増えています。一部のシャストア神殿は、表との関係が減少した裏タマット神殿を新たに傘下に組み入れています。
・アルリアナ神殿…技術革新とほとんど無縁なため、信者も大半の地域では割合が減少しています。その分少数精鋭化が進んでおり、いい加減な信者が減ったせいか、弱者救済のための社会活動にも積極的に関わっています。医療用の霊薬の販路を巡り、しばしばペローマ神殿と衝突する事があります。
・タマット神殿…表の神殿は、警備員としての傭兵を斡旋する機能が重視されています(タマット信者には斡旋料を割引するため、リスクの大きな仕事を行う商人はこぞって入信してきます)。裏の神殿は盗賊の組合としての色彩が色濃くなり、表と組織的に分離する所が増えました。
・リャノ神殿…上下水道の管理が欠かせなくなっています。鉄道はハード部分はジェスタ神殿が大きく関わるものの、営業面ではリャノ神殿が全面的に関与しています。一部の地域では水力発電所も管理しています(電気は工業用が中心で、《持続光》が普及したルナルでは照明には使っていません)。

・グラダス半島鉄道
 双月暦1204年に建設を開始した鉄道で、本部、最大の車輌基地、貨物の大ヤードなどをエグの郊外に置き、〈半島盟約機構〉の傘下組織として各国の神殿(特にジェスタとリャノ)からメンバーが派遣されています。40年以上を経てグラダスの主要部に路線が開通しましたが、幹線部すら未開通区間が多く残っています。特に山地が多く環境が厳しいスティニアでは、鉱山ルートを除いてほとんどのルートが未開通のままです。
 半島鉄道は、蒸気機関車が客車(半鋼製ボギー車、1等車と2等車が存在)や貨車を牽引しています。また軍事的にも中立を保障され、独自の鉄道防衛部隊を所持しています(グラダス全土の危機、もしくは黒の月種族の脅威に対しては、盟約に従って各国軍の出動に協力します)。
 グラダスには半島鉄道以外のローカル鉄道もいくつか存在しており、その大半は大荷物を運ぶ貨物関係の路線です。ファイニアには軍用と地方サービスを兼ねた国営鉄道が存在し、内務部鉄路局が運営しています。
 なお、鉱山のトロッコから人力→畜力→蒸気と段階的に進化した現実世界の鉄道とは違い、リアドの鉄道は1170〜90年頃にシステムが一気に出来上がったものです。原型はジャナストラ大陸にあるとも、異次元から召喚された技術者にあるとも、はたまたジェスタ神の囁きによるともされ、実用化の先駆者もトリースのポール・セイシェル、ファイニアのロレンゾ・ラ・メナウディ、スティニアのアレグザンダー・マクヴィール、バドッカの〈鋼の細工師〉ハーベ、帝国のエーコムシュ・ファノマとワインズ・エルナイド、ルークスのメリーヌ・コーサフィディル・エシンカーヴェなどが知られており、誰が一番早く発明したかで論争となる事もしばしばです。

*西線:エグ〜ベシール(国境)〜ワイズバーグ〜ターデン〜クラース
*西北線:エグ〜アダリエ/ハダール(国境)〜ワイズバーグ〜フィンブル〜サレイン
*トリース・ファイニア線:ワイズバーグ〜クレメット/クレメト(国境)〜ペレート〜マトベ
*北線:エグ〜ディーネ/ディーニャ(国境)〜マトベ〜ビレナラ〜ヒターゴ〜イルゼ
*北支線(デント線):ヒターゴ〜デント
*ファイニア・ピール線:ヒターゴ〜ラルテーヌ
*東線:エグ〜ミルザイム(ミルズハイム)〜ケイセルスデルク(ケイサスダーク)(国境)〜サディケルツ〜カーベルデルク
*東南線(旧コースシー線):ミルザイム〜コースシー〜ヴィルドフルト(国境)〜ゼナハーヘン
*東ソイル線:ゼナハーヘン〜カーニヒスデルク〜ベルンクース〜カーベルデルク〜リーザルハイム
*西ソイル線:ベルンクース〜ヒューレック〜サディケルツ〜ベルベンバルト
*南線:エグ〜ノーフェイ〜シャルペー〜クリエーユ/クリエイル(国境)〜モムグリム
 (所要日数は、徒歩の1/10を目安にして下さい。エグから2〜3日でほとんどの場所に行けます。料金基準は2等座席車の1日行程で100ムーナ(子供は1/2〜2/3)ですが、神殿専用アイテムと同様に神官・高司祭割引が適用されます)

・街道
 1095年時点とは、一部の街道の経路が変更されています。

*トリース国内
 サレイン〜オータネス、クラース〜オータネスの両街道が、デューラーの南東付近で×字型に結合。新都市ワイズバーグの建設による。
*ファイニア国内
 トリース〜イルゼ間のルートがペレート経由に変更。〈百万決壊〉による大堤防の破壊と干拓地の全滅による。
*ソイル国内
 オータネス〜カーベルデルクの直行ルート誕生。
*オータネス国内
 コースシーからゼナ川沿いに河口(バドッカ〜ソイル国境)までのルート完成。

・伝令ギルド
 現在はミュルーンだけの組織ではなく、サリカ信者やウィザードによって魔法による通信も行っています(大きな支部で受け取り、文章化して配達するという形式を取ります)。手紙の輸送には半島鉄道を使う事が多いですが、一部の「けちんぼ」は自分の足で野宿しながら格安で手紙を運んでいます。
 最近では、飛行の魔法装置より安価な気球や飛行船の開発を積極的に援助して、空中輸送の民生開発を計画しているそうです。既に試作機は存在し、試験運用を行っていますが、その裏でライバル組織(サリカ神殿やペローマ神殿、魔術師団、いくつかの商会など)に対して妨害工作を行っているとの噂もあります。


トリース森林共和国
 共和制となって以来、様々な政治問題が発生しました。1120年頃までに官僚の綱紀粛正は達成しましたが、大衆迎合的な代表議員の増加、政党間の対立、旧セラーノと旧ペノンの地域紛争、犯罪増加によるガヤン神殿からの警察権の移譲と拡張、ウェブス王家本家の断絶による王位廃止と王党派のテロ活動、セレン内海の利権を巡ってのトルアドネス帝国とのカルシファードを舞台とした戦争といった大事件が巻き起こっています。しかし政府やガヤン神殿(後には政府保安部)や各地の冒険者が解決に尽力し、破滅的な被害は全て回避しています。現在の代表議会は「元老院」「代表院」の二院制を取り、主な政党は「共和理論党」「農民党」「協同党」「急進党」「第二急進会議」の5つです。
 現在の総統領はナイジェル・バートナムで、共和理論党の総裁です。共和理論党の有力者が失脚で共倒れした後に担ぎ出された人物であり、実権はハリー・サムソン内務部長とゲオルギー・ペルトーク商業部長(農民党総裁)に握られている事はオーガーでも周知の事実です。

ワイズバーグ
 トリースの新しい首都で、デューラー南東の旧セラーノ・旧ペノンの境界付近に1185年に建設を開始し、1198年に遷都しました。グラダスの大都市としては初めて、鉄道施設を都市機能の中心に据えています。周辺には工場が広がりますが、環境汚染の防止にトリースはグラダスで最も厳しい規制を敷いています。街で最大の有名人は「ストッキング男爵家の末裔」を自称するサムソン内務部長で、しばしば街に出ては美女を口説いて歩いています。

デューラー
 遷都以降、この古い首都は急速に寂れるばかりです。新しい街道も半島鉄道もデューラーを通らないルートに変更されてしまい、ペローマ大神殿の研究施設が(移転をめんどくさがって)居残っているため、辛うじて都市機能の崩壊は避けられています。しかし市内には空地も増えて、かつての繁栄の面影はありません。旧セラーノの権益擁護を訴える政党「北部党」や王党派の様々な地下組織が本拠を構えているため、対抗策として旧総統領公邸兼代表議会議事堂である〈広きウルスク〉に陸軍が駐屯しています。

フィンブル
 デューラーから南へ8メイルほど離れている小さな町で、半島鉄道の駅があります。デューラーへは植林地を抜ける脇街道があり、鉄道の発着に合わせて駅馬車が出ています。

サレイン
 トルアドネスとの交易は、1世紀半前と比べてほとんど増加していません。ゼクス共和国やカルシファード侯国との交易はやや増加傾向にありますが、セレン内海で紛争が起こる度に出航が停止されます。大陸中央部への渡航には、ほとんどの場合西回りで紫の群島やペテル地方に向かう経路が使われます。郊外の古城跡(鉄の姫の配下の海賊の拠点だった場所)では、大きな海軍の基地が建設中です。

ターデン
 市域を大幅に拡大し、旧ペノンでも5本の指に入る都市に成長しました。中央集権化によりエルファとの交渉の中心はワイズバーグに集中されましたが、西高地の部族との友好関係は維持されています。アンディとエフィの生まれた家は、1248年現在では「クルツ兄妹記念館」となっています。ラジスの森に近いため、工場はほとんどありません。

ゲンティシャー・ノーヴァ
 陥没により壊滅した旧ゲンティシャーから北に10メイルほど離れた工業都市で、主に金属製品の生産を行っています。ターデンから私営鉄道が延びており、主に貨物を運びますが、旅客輸送も行っています。珍しく高度に組織された〈多足のもの〉との交流が近年は盛んですが、相手は価値基準が違う銀の月種族ですので、交易の代価はケースバイケースなのが悩みの種です。

クラース
 旧ペノン最大の都市です。1160〜70年頃に南部の旧ペノン地域では人口で有利な北部の旧セラーノに偏向した政策を採る中央政府に対する反感が強く、数度に渡る暴動や反乱を経て二院制の成立により収拾に向かいました。現在は航路(南方の海路と、ターデン近くまで遡るクラート川を使った水路)と鉄道の結節点として栄えています。

マイテ
 エデールの森の入口として、あまり変化もなく栄えています。森の中でしか取れなかった物資の一部は既に代用品が開発されていますが、森からは毎年のように新たな有用物資が発見されているため、プラスマイナスすると森への需要がほとんど変わりないからです。

エーリン
 スティニアとの往来に陸路を使う者が少ないため、街道はほとんど廃れかけています。漁業も大都市から遠いため地域の活性化の役に立たず、1200年頃から激しい過疎化が進んでおり、遠からずエーリンの町は姿を消すものと思われていました。しかし1233年にスティニア領の鉱山から貨物を積み出す鉄道が開通し、鉱物の積み出し口としてささやかながら賑わいを得ています。

ラジスの森
 〈螺旋派〉と呼ばれる、〈螺旋〉の教えを信奉するエルファ達の最大の拠点です。昔からエルファや彷徨いの月の種族が住まう森は、たとえ人間国家に包摂されていても事実上は独立国でしたが、政治レベルでの恒常的な関係が無かったために揉め事がしばしば起き、それが解決しても再発を防ぐ措置はほとんど存在しませんでした。しかし〈半島盟約機構〉が成立して以降は、異種族の領域を自治地域と見なし、最寄の人間国家と様々な条約を取り交わしています。このような異種族の領域でも最大の存在がラジスの森で、ここは特例として法的にも独立国としての扱いを受けています。人間との交流が盛んなせいか、稀にハーフ・エルファ(エルファ語では「半人間」)も見受けられる場合があります。
 政治の中心となるのは、冬至、春分、夏至、秋分の年4回開かれる〈円環会議〉で、エルファの〈フェルトレの環〉の構成員である長老達に加え、フェリアの村長やギャビットの族長も加わっています。現在の最大の課題は、トリースやオータネスの小さな森を〈円環会議〉に加える事の可否です。


ファイニア低地共和国
 ランベルテ王家により極端な重工業推進政策が取られていましたが、環境汚染の蔓延と反対勢力弾圧が国民(と異種族)の不満を醸成して行きました。そして完成した〈大堤防〉が破壊されたのを契機として絶対王政に異議を唱える貴族や大商人、国民を犠牲にする政策に反対するガヤン、サリカ、リャノの神殿、家族や財産を失った難民、迫害を受け続けたエルファ、ディワン、グルグドゥが糾合され、流血革命により王家と軍部が打倒されて共和制に移行しました。現在はトリースと同じ共和制ですが総統領の権力が強く、代表議会も一院制であり革命組織を元とする「赤党」を除いて大きな政党組織は存在しません(少数政党として「白党」「青党」が存在します)。グラダスにおいてガヤン神殿が司法権を持たない唯一の国でもあります。
 現在の総統領はミゲル・カッサローゼで、タマット信者の多いこの国では珍しくリャノ信者の政治家です。国の不安定な経済基盤を周知しているため、大陸南西部の大湿圏(バムート)への植民とリュートゥク島(元カルシファード領)の属領化を積極的に推進しています。

イルゼ
 現在は大陸から離れた島になっている首都です。後述する〈百万決壊〉により受けた大打撃が原因としてガヤン神殿がクーデターを起こし、1192年にランベルテ王家が全員処刑されて共和国の首都となりました。4つの王城は現在、グルグドゥの魔法兵器により破壊された〈春の館〉を除いて、トリースに倣った代表議会の議事堂と政府官僚のオフィスになっています。政治的には今でも中心とはいえ、陸路をほとんど遮断されたのが災いして商業の中心をヒターゴに奪われています。

ヒターゴ
 元はイルゼ東方の小さな宿場町でしたが、1170年にガヤン大神殿がイルゼから移されました(〈大堤防〉建設に反対するディワンとグルグドゥを虐殺した事に抗議したため、当時の国王の機嫌を損ねて警察権と司法権を奪われたのです)。しかし1179年の〈百万決壊〉により当時の人口の半数近くが失われた際に復興活動の中心となったのを契機として商業活動が移転して、イルゼの国王勢力を打倒するだけの力を発揮する事が可能となります。現在はイルゼから他の地方へ赴く陸路が集中しており、半島鉄道の拠点の1つともなっています。

デント
 ファイニア最大の軍港にして、最大の造船所も所在しています。ルナルでも初めて鋼鉄艦の製造を行ったこの造船所で、グラダス諸国の海軍(オータネスは水軍)の船が生まれています。工業も盛んで、その大半は鉱油(燃える黒水)の精製と生活物資を中心とした軽工業です。リュートゥク島の占領以来カルシファード本土との行き来は途絶えていますが、帝国との交易が新たに行われています。

ラルテーヌ
 元はソイルからの穀物の輸入の中心でしたが、鉄道開通によりオータネス経由にその地位を奪われています。ピールへ向かう鉄道は建設中で、現在はこの街で駅馬車に乗換えが必要です。

ベスタンティア
 元はワインの生産で名を馳せていましたが、〈百万決壊〉により街の近くまで海が押し寄せ、葡萄畑は大半が泥に埋もれ、または海に沈みました。しかし塩害に強い品種を植える事により畑は蘇り、生産量こそ減ったものの現在でもワインで有名な街です。風光明媚なため保養地にもなっていますが、多くの人命を一夜で飲み込んだ海で泳ごうとするファイニア人はほとんどいません。海の見える場所の宿屋はほとんど他国人専用です。

ビレナラ
 汚染が問題になってから長い間、王国は何の対策も施さずに工場を増やし続けて、周囲に汚染を垂れ流しました。特に1150年頃からは各地の農村から離農者が流れ込み、労働者の環境が悪化し続けます。数度に渡るサリカ神殿やリャノ神殿への弾圧、労働者組織の摘発、エルファ部族への迫害が相次ぎ、最後には〈百万決壊〉直後の混乱期に複合的な暴動が発生して工場や中心街が焼き払われました。そして共和国成立後に国営事業の大半が放棄され、各地の新技術を取り入れた工場に競争で敗れて荒廃の一途を辿ります。現在では荒れ果てた廃墟とスラムが広がり、ファイニアでも一番治安の悪い地域となり、かつての繁栄の面影はどこにもありません。現在、最大の工業地帯はペレートとデントです。

ペレート
 〈百万決壊〉で一切被害を受けなかった数少ない街です。現在は兵器の製造と共に、日用品の刃物の生産でも有名です。野営用の道具を仕込んだファイニア・アーミー・ナイフが、ここのお土産として有名です。

マドート
 〈百万決壊〉では被害を受けませんでしたが、その直後に土地が激しく隆起して沼地の大半が干上がりました。現在では農地となっており、しかも地味が肥えているためかつての干拓地を上回る収穫を得ています。しかし他の地方との陸路がほとんど断絶してしまい、交通には海路を使うかトリース国境付近まで迂回するかしかありません。

大堤防跡
 100年を掛けて着々と工事が進んだ大堤防でしたが、内海に住むディワンとグルグドゥには生活圏を奪う侵略に他なりませんでした。一時はガヤン神殿との間で水中種族の領域が決められましたが、当時の国王ロドリゴ2世は守る気はなく、抵抗する水中種族を陸軍と海軍により抹殺しました。そして1170年に大堤防完成を祝い、新入植地に大勢の人間を移住させましたが……。
 1179年22巡り目の輪の月の日、夜のペローマの刻。異常な高潮と大地震により大堤防は呆気なく決壊し、海が建国以来の干拓地と200万を越す人々を飲み込みました。その中にはロドリゴ2世(狩猟の最中)も含まれています。現在は〈ロドリゴ2世海〉の入口に点々と連なる小島と暗礁になり、辛うじて生き残った住民が漁業を営んでいます。

リュートゥク島
 トリースと帝国の戦争の際に、政僚府が一時期帝国寄りの行動を取った事を理由としてカルシファードから奪った島です。終戦後もファイニアは撤退せず、それどころか属領として自国のドワーフを送り込んで金を採掘しています。


ソイル連邦王国
 10年毎に国王が交代するという政治制度ゆえの不安定が、「3の年(選王選挙の年)には反乱起きる」という俚言まで発生させました。特に1141〜44年と1222〜24年には本格的な内乱に発展し、1224年には選王家であったフォルベルト家が国家反逆罪により国外追放されて滅びています。当時の選王であったディーナ・カナンストライド3世は王家同士の抗争に終止符を打つため、それまで王家の抗争の中で蔑ろにされてきた王国政府の強化政策に乗り出します。後継者であるアマデウス・ザルベスタン2世も方針を受け継ぎ、代表議会と責任内閣を持つ連邦制へ制度を移行させました。しかし邦(各王家領、旧直轄領、旧フォルベルト領)の内部では改革が徹底しない所も多く、強力な貴族の多いベルント邦(ウォーランゲル領)では、未だに議会は貴族の議会のみで、平民が持つのは連邦への参政権だけです。中央政府が弱体な時代が長く続いたため、ドワーフのものを除くと技術水準は低く、穀物を輸出する代わりにトリースやファイニアから工業製品を輸入しています。
 現在の連邦国王(旧選王)は任期5年で、君主制の5つの邦の王による互選で選出します。連邦国王は権力よりは権威を司る存在で、政治実務は連邦宰相と内閣が行います。1248年現在の連邦国王はハンス・ベークリンガー、連邦宰相はカレル・セントアイブズ公爵です。政党は各邦別に乱立しており、主張の近い政党同士で連邦規模の連携を図っています。

カーベルデルク
 王国政府の強化と半島鉄道の開通により、現在では各王家の本拠地に並ぶ規模に急成長しています。カーベルラント邦(旧直轄領、その前は皇帝直轄領)の首都でもあります。

サディケルツ
 ソイル西部における半島鉄道の中心地です。初期計画では迂回してベルベンバルトを通るはずでしたが、鉄道無用論を唱える貴族が多いウォーランゲル家の状況を見てカナンストライド家が運動を行い、半島鉄道はカナンストライド領であるサディケルツを経由して短絡経路を取る事になりました。現在では穀物の流通拠点であり、軽工業も発展しています。

ベルベンバルト
 ウォーランゲル家が支配するベルント邦の首都です。守旧的な貴族勢力が強大であり、産業革命に反するような方針を採り続けています。未だに産業は農業が中心ですが生産性は上昇しておらず、南部のベルンクース邦(ハルシュタット家領)に比べると50年は遅れています。現在の連邦宰相カレル・セントアイブズはこの地域の大貴族の本家の出身ですが、生まれてから片手の指で数えるほどしか訪れていませんし、本人もベルント邦の守旧的な政策を嫌っています。

リーザルハイム
 カーベルデルク〜ピール間に計画されている半島鉄道の現在の終点で、ベークリンガー家領の一部です。ピールまでの間に険しい峠が存在し、周辺の森は様々なモンスターも生息しているため、今のところピールへ行くには歩くか駅馬車を使うしかないようです。

ノイエゲルツハイム
 西部山岳地帯に存在する小さな街で、かつては選王家で最強を誇ったゲルンシュバルト家の本拠地でした(現在はここの周辺だけがカーベルラント邦の飛び地で、周辺は隣接する邦に編入されています)。元は8メイル離れたゲルンシュバルト城の城下にゲルツハイムの街がありましたが、戦争で焼き払われて移住したのがこの街です。

ヒューレック
 旅行の一般化により、ヒューレックは家族で安心できる観光地を目指して風紀刷新に取り組みました。現在では刺激が少ないものの、落ち着いて休暇を取るには良い所です。

タースシャス
 化学染料の発明により、天然染料を使っていた時代より激しく川が汚染され、1152年から二十数回に渡って下流の村(他の貴族領)やエルファ部族により襲撃を受けました。またファッションのオータネスへの一極集中や度重なる内乱により服飾業は衰退してしまい、現在生産されている布は大半が需要の偏った高級品、しかもそのままオータネスに輸出されている有様です。

ベルンクース
 ベルンクース邦の首都で、アナルダ女王の在位時にハルシュタット家領の首都がここに移されました。ソイル南部の農業生産の中心ですが、ハルシュタット家の方は選王や連邦国王の地位を逃し続けており、現在はソイルの政治の中枢から脱落しかけています。

リューベルツ
 旧フォルベルト家領の南端近くにありますが、邦内の他の地域との関係は弱く、銀の月の遺跡以外は平凡な農業都市として穀物をベルンクースの市場に運び出しています。

ゴルン
 ベルンクースと深い関係を持つドワーフの街で、大きなファウン神殿が存在しアンデッド退治人が大勢常駐しています。金属加工も行われていますが、ほとんどが農具なのでPCにとっては魅力が少ないでしょう。

カーニヒスデルク
 かつてのバドッカの隣街ですが、現在はゼナハーヘンにその地位を譲っています。今も農業や林業が中心で、半島鉄道の駅はあるもののルートが急坂を避けて幾分海沿いを通っているため、そこまでの3メイルを半刻(45分)掛けて歩かなくてはならない始末で、駅の近くに街を移転する計画まで持ち上がっています。

ゼナハーヘン
 オータン湖から流れ出すゼナ川の河口にある、バドッカとの国境に面した港町です。昔は渡し場とリャノ神殿の検疫拠点があるだけでしたが、半島鉄道がバドッカに乗り入れる事ができずにソイルからの路線の終点をここに置いたのが町の始まりとなりました。現在は対岸のバドッカ領にも街が広がっており、貨物の積み替えはソイル側で、商取引はバドッカ側で行う者が多くなっています。

ディグ
 シュルシュシシィの爬虫人に備えて、1145年から20年を掛けて大城塞とタルサ、アレーナをも包み込んだ防衛線が作られました。1202年に始まるシュルシュシシィの爬虫人の侵略に対しても、300万を超える犠牲者を出した大陸本土北部とは違い、一般人の被害をほとんど出さずに済んでいます(未踏砂漠周辺の爬虫人と相争い、既にダメージを受けていたという事もありますが)。現在では、リアドではこの地域にしかいない珍獣「ラクダ」を見に金持ちや物好きがしばしば観光に訪れます。ここは王国直轄領で、どの邦にも含まれていません。


オータネス湖王国
 スティニア戦争以来の1世紀半を平穏無事に過ごしたという、グラダスの五大国唯一の国です。「いや、実は裏側では様々な暗闘が行われたはずだ」というシャストア信者の激しい思い込みにより無数の小説や戯曲が生まれましたが、その99.9%は事実の裏付けが存在しない、あるいは事実を歪曲している、あるいは(以下略)です。しかし残りの0.1%が真実を掘り当てているというのは、さすがシャストア信者であると言えるかもしれません(おい)。
 現在のリシャール王はシャストア神殿の最高司祭でもあり、普段は政治に口出ししませんが稀に鋭い助言を行います。スティニア戦争から数十年に渡り活躍したエフェメラ・クルツ高司祭の研究家としても有名です。首相のメイ・ルネ子爵は影が薄いものの、無能というわけではなく日々の職務を忠実に果たしています。トリースに次いで1128年に誕生している代表議会の中心政党は「山岳党」「平原党」の2つですが、単独で政権を形成するほどの大政党ではありませんし、貴族議会の貴族や高司祭達(高司祭は最低でも地位レベル3です)の意向を完全に無視する事もできません。

エグ
 相変わらず、グラダス最大の文化と学術の中心として栄えています。特筆すべき事は郊外に誕生した半島鉄道の本部施設、そして近頃の「怪盗ブーム」「名探偵ブーム」でしょう。

ノーフェイ
 1209年に、街の上にある輝く遺跡から「塔のような物」が天空目掛けて発射されます。「白い球体」に乗り数巡り後に帰還した冒険者は、打ち上げられた「宇宙船」によりルナルを狙っていた〈虚空の悪魔〉を滅ぼしたと語りました。後の研究により輝く遺跡が戦闘用の「宇宙船」を発射する施設であると判明しましたが、肝心の「宇宙船」が存在しない今では研究は中断しています。「宇宙船」の方の製造技術は白の月の時代に遡る事が分かっているので、またどこかで「宇宙船」が発見される日が来るかもしれません。

旧ベルベク
 バルベクは利権に群がる幾つもの闇タマットの巣窟と化し、「第八都市」ビレナラにちなんで「第六都市」と呼ばれる爛れた悦楽を貪る場に成り果てました。しかし1157年にバルベクからの麻薬の密売がオータネスの保安庁にばれて、特殊部隊との数日に渡る掃討戦の末に制圧、街は取り潰されてオータネス政府に接収されました。現在は休日冒険者の人気スポットであり、時折財宝が掘り出されます。

シャルペー
 スティニアから輸出される金属資源を利用して、金属加工が盛んになっています。スティニア戦争で使用された無人の要塞がありますが、近年では亡霊出現の噂が頻繁に流れており、ファウン神殿やシャストア神殿が(目的が全く違う)調査隊を送り込んでいます。

ミルザイム
 ソイル国境近くに存在する半島鉄道の分岐点の町です。ソイル方言では「ミルズハイム」と呼ばれるこの街は〈盟約〉締結までは独立都市であったせいか、オータネスとソイルの両方の影響を受けた独自の文化を育んでいます。

タリス
 1120年頃から細密画中心であったエグの風潮に反する印象派に似た画風の画家がこの地域を拠点とするようになり(というかエグの画壇から排斥されて)、タリス派の拠点として知られるようになります。現在では様々な絵画の流派がオータネスにはありますが、かつてとは違い流派間の激しい抗争はありません。

コースシー
 ゼナ川の河口に通じる鉄道と、湖の対岸側との間の貨物の中継地点となっています(現在半島鉄道では、シャルペーと結んだオータン湖一周路線の建設を計画しています)。スティニア戦争時代のアンデッド襲撃以来、この地域では火葬を慣わしとしています。他にもグラダスでは各地に点々と火葬を行う地域がありますが、主流は土葬になっています。

ケレスト山脈
 奥地に存在する魔術師団は、現在でも俗世に関わる事を嫌っています。しかし研究と芸術のために個人的に関わるウィザードは多く、山脈のより開けた所にはそのようなウィザードが開いた小さな魔術師団が散在しています。もっとも奥地の魔術師団も、1つなのか複数なのかは謎に包まれていますが。
 麓に出たウィザードも、元の居場所との連絡が切れてはいないので、間接的に奥地の魔術師団と接触する事は決して不可能ではありません。


スティニア高地王国
 貴族連合と様々な協力者の手により、〈四姉妹〉の残党や黒の月の種族は20年以上の時間を経て壊滅し、スティニアは滅亡の淵から何とか這い上がりました。それとほぼ同時期に国内の各地から鉄や石炭の非常に良質な鉱脈が次々と発見され、鉄鉱石や石炭が産業革命たけなわのトリースやファイニアに次々と輸出されました。この時の収入をスティニアは設備投資に回し、鉄の精錬は自国で行うようになりましたが、鉱物資源輸出国である事には変わりありません。特に鉱山都市では他国や半島外からの労働者の流入が著しく、民族間の対立が激しい地域も存在します。スティニア政府は定住者への国籍付与を積極的に進めていますが、出稼ぎ感覚の抜けない労働者が応じるようになるのはまだ先のようです。
 スティニアでは1190年代にようやく戸籍が完成し、これを基礎として議会制度が作られました。現在でも辺鄙な場所は多く、戸籍作成や投票が行き渡っていない所もあります。
 現在の国王アルピン5世はまだ若く、仲の悪い伯叔父や従兄弟が大勢いるのが悩みの種です。長女のクロード・ランバートは本物の〈黄金の姫〉(名前に反して黒髪)ですが、17歳にして国家の終身顧問でありながら王位継承権は与えられていません。特に宰相はおらず、国務大臣が交替で首班を務めます。今のところ政党制度はほとんど根付いていません。

ハルドゥル
 1127年に正式な首都になった、かつての〈下の王都〉です。元は離宮であった〈真珠のペルハイル〉を改築して王城としていますが、政府の様々な施設と同居しているため手狭になっています。グラダスの五大国において、未だに半島鉄道が通っていない唯一の首都です(周辺の鉱山から鉱物を運ぶ貨物鉄道は存在し、精錬した後は川船と水力ケーブルで海まで送ります)。

パディート
 放棄された旧王城〈いと高きハーラー〉がある無人の街です。現在も〈悪魔〉が跳梁する危険な場所であり、稀に必要になった書類を取りに行く時には多くの傭兵を雇います。

モムグリム
 オータネスから通じている半島鉄道の、現在時点での終点です。周辺の鉱山から産出する鉄や石炭は、この街の貨物駅で1本の列車に仕立てられてオータネスやファイニア、トリースに輸出されます。

ムルマイル
 スティニアの警察権と司法権の中心で、〈第二都〉とも呼ばれます。ここの周辺の鉄や石炭は、海岸側に運ばれて船でソイル、オータネス、トリースに輸出されます。〈スティニアの裏側〉からもたらされた発掘品や〈多足のもの〉の作った品物もこの街で取引され、時折街に騒ぎをもたらします。

ジェヌクア
 痩せた土地と厳しい冬のために山奥の小さな街として留まり続けていましたが、政情が落ち着いてからはバドッカの商人貴族達の避暑地として着目されました。現在は郊外に商人達の別邸が建ち並んでおり、夏には一気に人口が膨れ上がります。最近では冬にも、ルークスからもたらされた「スキー」をするためにバドッカから物好き達が集まります。

新テロン
 1241年の春、鉱脈を探していたドワーフの山師ボキサが、谷間に隠れるように存在する、ほとんど原形を留めていないドワーフ都市の廃墟を発見しました。廃墟になった原因が何らかの爆発である事に気付いたボキサは念入りに調査を進め、鉄と銅、そしてアルミニウムの鉱脈を見付けます。ボキサは故郷のドワーフ都市の援助を受け、崩落の危険のある廃墟からやや離れた場所に新たに集落を建設しました。その際にペローマ神官の歴史学者により、この都市がクルツ兄妹の冒険に出てくる、青銅の姫との戦いで壊滅した都市テロンである事を明らかにし、新しい集落も同じくテロンと命名されます。現在のテロンはアルミニウム鉱石の採掘で有名であり、鉱石もボキサにちなんで「ボーキサイト」と呼ばれるほどです(笑)。


バドッカ市国
 〈半島盟約機構〉が置かれてからしばらくの間は繁栄し続けましたが、半島鉄道がバドッカに入らない事が決定し、ゼナ川の河口に新たな港が作られたために、バドッカを経由する商取引は激減してしまいました。しかし〈頭部議会〉は「便宜船籍制度」を考案し、他国の船を「バドッカ籍」として登録する事により莫大な収入を生み出しました(そのせいでいらん仕事が激増したため、ガヤン神殿では極めて不評です)。他にも鬼の手群島のリゾート開発や周辺の荒野の開拓など、なりふり構わず収入源を模索しています。裏社会では相変わらず、バドッカはグラダス、いやリアドでも最大の拠点です。近年はバドッカ周辺に巨大遺跡が大量に発見され、大勢の遺跡探索者を呼び寄せています。政治は〈頭部議会(三十一人会議)〉が全てを掌握し、一般人の参政権は存在しませんでしたが、議員の醜聞や失策が頻発した事が問題となり、現在は頭部議会の監察組織として各神殿の高司祭達が会合を持っています。


 頭部議会が本拠を置くと共に、各国の大使館や〈半島盟約機構〉の施設も存在する、いわばバドッカの心臓部です。1100年頃の度重なり過ぎた(汗)災害のために古い建造物はほとんど残っておらず、コンクリートのビルの立ち並ぶ光景には過去の面影はほとんど残されていません。当時の商人貴族もほとんどが顔触れを変えており、栄華は名誉議長パドル家の館に併設された「盟約記念博物館」に史料を留めるのみとなっています。山側へ入った場所に半島鉄道の駅を造る計画もありますが、トンネル掘削技術と煤煙問題を解決できる新動力の開発まで計画は沙汰止みとなっています。なお、バドッカの地底の一部にはマナが「やや疎」〜「疎」、あるいは「濃密」の場所があり、魔法動力の安定した使用は困難です。


 今も異種族の自治区同然の場所ですが、人口が増えると共に争いも増えるようになり、ガヤン神殿の分神殿が新設されています。分神殿には異種族慣行裁決部が併設されており、異種族に関わる裁決(というか調停)を担当しています。この地域のシャロッツが作る赤ワイン「アンガローメニアミツ・サングローニムエーフィクテ」、通称「眉の赤」は、リアドでも最高級品として1瓶2000ムーナとも3000ムーナとも言われています。

目・鼻
 目は相も変わらぬ下町ですが、開発の余地が年々狭まりつつあるため、ゼナハーヘンや開拓都市に人口が流出してきています。左目の目尻側には、ゼナハーヘンのバドッカ領側との間を結ぶ駅馬車の駅があります。
 鼻は1235年の大掃討で表をうろつく連中は一掃されましたが、残りの連中はより深くに潜伏してしまい、バドッカ八大暗黒組織は未だに暗躍を繰り返しています。現在の暗黒組織のほぼ全ては八大組織の系列下にあり、スティニア戦争以前のような群小組織の乱立とは正反対の状況にあります。
(八大暗黒組織一覧)
・七本目の腕:「七本目の指」の系譜を受け継ぐ、窃盗や強奪を中心とする闇タマット。指でなく腕であるせいか、荒っぽい盗みが結構多い。
・煙水晶:「朱色の暗黒」の中から、「商売」に少しは節度のある連中が分離した組織。現在は娼館より薬物(麻薬以外も)を中心にしており、ペローマ信者が錬金術で密造した違法霊薬を各地に売り飛ばしているらしい。
・黒い目:「闇の千の目」の内紛の勝利側が組織替えした闇の情報屋。必要な情報を詐欺、脅迫、窃盗、強奪、暴行、洗脳、殺人、その他ありとあらゆる手段により掻き集めている。
・緋色の短剣:「噛み砕く顎」を壊滅させて闇組織に参入した暗殺組織。強固なピラミッド組織であり、自爆すら辞さないその行動から、影タマットの流れを汲むと噂されている。
・鱗の深淵:かつて「巨人の剣」と提携していたディワンの犯罪結社。密輸や海難詐欺を中心としており、マーマンや海エルファ、はぐれグルグドゥも加わっている。
・アンティーム商会:違法物品の売買を中心とする地下組織。闇の社会の中では中立的立場にあり、組織間の仲介も事業の1つとしている。
・血塗られし斧:はぐれドワーフの犯罪結社。「戦闘馬鹿とマッドサイエンティストの集団」呼ばわりされる事が多いが、実際にそうなので弁解はできない。
・双面の徒:〈教主〉に率いられていたサンダミオン信仰の教団の末裔。鬼面を再度覚醒させるべく、様々な犯罪行為を繰り返している。

ジーゼ穴
 〈月に至る子〉事件の際に、眉間から発せられたエネルギーによって中央大会議場が破壊されて貫通した穴で、人気の観光名所の1つです。夜に穴の下からアレイシア座を眺める事ができれば異性運に恵まれるという噂がありますが、恐らく真実ではないでしょう。


 商業区ですが、港はかつてとは比べようもないほど寂れています。シュナイト商会などの商社も、ここでは現物取引より書類上の決済が中心となっています。シュナイト家の屋敷はエフェメラ・クルツの百八足跡の1つとして、入場料3ムーナで一部見学が可能です。ギョロロ経由鬼の手群島行きの定期船は、シュナイト海運とシルクレーン水運が毎日2〜5便(季節により変動)出帆しています(ギョロロまでは1刻半(2時間15分)で2ムーナ、群島までは3刻半(5時間15分)で4ムーナです。シュナイト海運の魔法動力船は、所要時間が半分で運賃は2.5倍です)。

ケーブルカー
 市内に激しい高低差のあるバドッカでは、大階段、魔法の昇降床、翼人の渡しなどによって上下間の移動を行っていました。しかし1157年にドワーフの最新技術であったケーブルカーがグラダスでは初めて建設され、現在に至るまで運行が続いています。右頭〜右目目尻〜右奥歯を上下する右目線と左頭〜左目目尻〜左奥歯を上下する左目線があり、1区間0.5ムーナ、2区間1ムーナで乗車できます(1巡り分のフリーパスは10ムーナです)。ほとんどの区間が地下ですが、眉付近では地上に出て、海上に鬼の手群島を見る事ができます。
 今でもケーブルカーの駅が無い眉に行くには大階段を使いますし、翼人の渡しも中心寄りの地域の行き来や観光用に残っています。

元別荘地
 元は頭に住む豪商達の別荘地でしたが、鬼の手群島がリゾート化されるに伴って寂れました。今では廃屋が立ち並ぶばかりですが、闇タマットなどの密輸に使われているという噂もあります。

ギョロロ
 ディワンの大都市で、バドッカとは別個にオブザーバーとして〈半島盟約機構〉に名を連ねています。街外れの水上にある魔法の浮島(旧式の飛行要塞の転用)には船着き場と潜水用具の貸し出し店(1日100ムーナ+保証金400ムーナ)があり、水中にはディワンのみならずマーマンや海エルファ、海洋種グルグドゥの姿も見られます。もちろん、リアド周辺のディワン国家の大使館や公使館も軒を連ねています。水中種族のウィザードも多く見られ、水中で使える紙やインク、陸上活動用水密多脚歩行装置、高速潜水船を開発しているとの噂です。
 街のある一角にある広場からは、鯨船や海豚船、レモラ船やボースタン船が、リアド各地の水中種族の街に向けて発着しています。

鬼の手群島
 口地区から出ている群島行き定期船は、漁村がある右中指島と左親指島の両方に接岸しており(島の間だけの乗船は0.5ムーナ)、他の島々のリゾートへは漁船に便乗して行く事ができます。もちろん、バドッカから直接船を借り切ってリゾートに乗り付ける事も可能です。昔から休日冒険者の名所として親しまれていましたが、もはやほとんどの遺跡は漁り尽くされ、一部の安全な遺跡は滞在者向けのアトラクションになっています。右中指島にはガヤン分神殿とリャノ分神殿(それと、併設された海上警備隊と出入市管理所)があり、周辺の警護を行っています。
 左薬指島のリゾート施設〈月への道〉は、水中を含む周囲の警備ゴーレムと島全域の《感知防御壁》《瞬間移動阻止》により、鉄壁のプライベートを滞在者に約束しています。費用は高級な宿屋の貴賓室を余裕で上回りますが、その性質上しばしば秘密の会談が行われたり、人目を眩ます必要のある者が転がり込んだりもします。なぜか、料金には神官割引や高司祭割引が本人に限り有効です。


ピール市国
 魔化の効率化が進むと同時に、研究施設である塔の群れを取り巻くように魔化工房が林立するようになりました。現在のグラダスを支える科学の産物にも、魔法の助力なしでは成立し難い物が数多くあります(例えば、蒸気機関車も《発火》により石炭に効率良く点火しています)。純然たる魔法の品にも重要な物は多く、1094年にアルバが開発した搭乗型ゴーレムは、現在でも作業用に各地で使われています。弟子への偏った教育をなくすために、ウィザードの修行の一部を徒弟制度ではなく学校制度により行う計画もあるそうです。
 評議会は出席率も昔より上昇し(重要決議以外で弟子の代理出席を認めたせいもありますが)、治安組織となった風紀委員会が魔術も駆使して治安を厳しく取り締まっています(風紀委員になるには、「法の番人2レベル」「使命(ときどき)」を相殺して5CPが必要です)。一般人は一般居住区のガヤン神殿にある「自治会」を中心として活動していますが、魔術に関わる事件の警察権は風紀委員会が行使します。


旧エサレーグ
 犯罪者の流刑地としていたエサレーグは、1236年に原因不明の火災で四角錘の上の建築物がほとんど焼き払われました。これを機にエサレーグ流刑の制度は廃止されましたが、監視所はそれまで通り機能しており、四角錘への出入りを厳しく取り締まっています。


ザムーラ王国
 1210年から1216年まで足掛け7年も続いた〈火の山〉の噴火で、有史以来初めての飢饉がザムーラを襲い、グラダス諸国からの援助により辛うじて社会の崩壊を免れました。しかし経済的な打撃は大きく、この時に入り込んだグラダス系の資本によりザムーラの経済は牛耳られるようになってしまいました。
 現在のザムーラは、天然ゴムや熱帯産の薬品を生産してグラダスに売っています。しかし地元への見返りは乏しく、反発するザムーラ人による農場焼き討ちや傷害事件も急増しています。バドッカのシャストア信者の作ったジョークに曰く、「近頃のザムーラで良い事は、ガヤン神官の腹が引き締まった事だ」だとか……。
 旧態依然とした長老支配体制に反対する運動家が「ザムーラ青年党」を作っていますが、利権を握っている長老達により弾圧されて地下に潜伏しています。まだ若いザムーラ・ザト王は青年党に同情的との噂もありますが、王宮に閉じこもってほとんど外には出てきません。


トルアドネス帝国(後帝国)
 1110〜11年(SNEサイトの記事に準じて訂正)の〈月に至る子〉事件の後、サンバート・デルフとサーライト・ティーグの謎の失踪により、ナーデベント・ジェム皇帝は完全に帝国の実権を掌握します。……かに見えましたが、国内ではブランのランカイナ・ジェム、ペテルのウォルフィリー・ベイト、ハンのダエナという3人の公王、国外ではグラダス諸国や赤の三国(特に巫王が再誕生したルークス)との抗争が激化します。一時期は国内の諸勢力を力押しで沈黙させて周辺諸国の制圧を狙いますが、カルシファードに力を注いでいる最中にゼクスや紫の群島から攻撃を受け、長期化した戦役が国内を完全に混迷させます。その結果1123年の飢饉に伴う諸都市暴動をきっかけに内乱に発展し、ザノン末期もかくやという群雄乱立の中、混乱を憂いて世を去ったウォルフィリーの跡を継いだペテルの〈新たなる栄光の担い手〉アレイシア公王が、ダエナ公王やルークスの巫王の支援を受けて、皇帝と対峙する一大勢力を築き上げます。追い詰められたナーデベント皇帝はようやく立ち上がりますが、1131年の帝都合戦で皇帝派は敗北、翌年にナーデベント皇帝は退位を余儀なくされてアレイシアが第三代皇帝となり、四頭一身の獅子に代わってアレイシア座を皇帝の紋章とします(笑)。しかし皇帝の庶子達は散り散りになりながら反乱を継続し、1135年にようやく終息を見ました。この戦争を青の月のみを旗印とした皇帝派と双子の月双方を旗印としたアレイシア派から〈青紫戦争〉と呼び、戦乱の期間から〈前九年戦争〉〈後三年戦争〉とも呼びます。なお詳しくは、〈新たなる栄光の担い手〉の仲間であったラズリィ・ステイシークの著作である『覇道物語』を参照のこと(笑)。
 さて、アレイシア皇帝は長い生涯を掛けて帝国の体制を再編し、直轄領と公国からなる構造を、自治権を付与された州からなる体制に組み替え、貴族の領主権を国家に吸収する事により、トリースに似た中央集権型国家を中原で初めて作り上げました。しかしこの際に、ハンは帝国内の公国から独立王国に戻り、ゼクスやカルシファードとの非友好関係を改善する事はなりませんでした。その後の帝国は軍事だけでなく経済や文化でも繁栄を見せ、しばしばゼクスやカルシファードと戦争を起こしながらも、今に至るまで国内は磐石のままです。特に軍事力は兵士の銃器装備こそ遅れを取っているものの、魔法兵器を中心にしたバリエーションでは他国の追随を許しません。特に飛行要塞では、質量共に帝国が他国を大きく上回っています。
 現在の皇帝はエルゼリア・ベイト。ベイト朝初代皇帝アレイシアから数えて5代目にあたる、女性としては2人目の皇帝です。本人は温和で(少なくとも普段は)、強いリーダーシップを発揮するタイプではありませんが、宰相ザーディレイン・クレードの姪であり海軍大将軍ベルガラード・スレムの剣術の弟子でもあるため、蔑ろにするような者は帝国には誰一人としていません。

ディネス=トルア
 帝国の帝都であり、人口80万を数える現在のリアド大陸最大の都市です。皇宮を中心とする壮麗で広大な都市は、建設を続けながらも技術革新に伴い順次計画を変更して行き、現在の計画は帝国鉄道の中央駅をも中心に加えて進行中です。第一〜第三近衛軍と第一地方軍と水軍とドワーフ兵団と魔法兵団の他に、現在のルナルでは唯一の空軍も郊外に駐屯しています。アレイシア皇帝は内戦中に赤の月信仰の禁止を放棄しましたが、帝国では今でも神殿に対する統制が強く、青の月の神官は半ば公務員扱いですし、赤の月でもリャノ神殿は似たような扱いを受けています。

皇宮
 帝都の中心ですが、実際には中央よりやや北寄りにあります(ゼモス山とルークス市の位置関係を引き写しているこのような配置は、大陸中央部の伝統的な都の作り方です)。内部の全てが皇帝の住まいなのではなく、半分は帝国政府の官庁の敷地、4分の1ほどは皇族や貴族の住居となっています(残りの4分の1だけでも相当な広さですが)。かつての金波宮は皇太子/皇太女の宮殿、他の元公王宮殿も他の様々な施設になっていますが、宰相の塔はサーライト公王やアレイシア皇帝に仕えたという偏屈なプファイト・エルファの老人が1人で住んでおり、征古宮は不吉な場所として空き家のままになっています。

ペテル=トルア
 帝国南西部の中心都市で、中ペテル州の州都です。体制変革と共に四聖都制度が廃止されましたが、「トルア」の呼称は「いちいち取っ払うのも面倒じゃ」とのアレイシア皇帝の意見によりそのまま残されています。現在も海軍の本拠であると同時に帝国の経済の中心で、帝国鉄道の最初の路線(現在は複線)が帝都との間を結んでいます。

ブラン=トルア
 上ブラン州の州都であると同時に、〈第二の夜明け〉の本拠として名高い魔化産業の中心地です。〈第二の夜明け〉は帝国政府の受注しか受け付けていないため、魔化産業と関わりのない住民は、研究者のウィザード、行政や魔化受注を扱う帝国の公務員、生活物資を扱う商人くらいで、ピールのように大勢の訪問者で賑わうような場所ではありません。この地域の更に山奥、グラバードート山の一帯には、〈龍〉信者のドワーフが神殿を築いており、稀に必需品を入手するためにブラン=トルアの辺りまで降りてきます。

ザノス=トルア
 サーライト公王が死亡した後、公王位はスティニアの〈四姉妹〉政権と友好的だったために失脚していた兄のベールトンが継承しました。しかしなにぶん失脚していただけあって政治発言力は弱く、やがて弟のラースデン共々政治犯として北方に流刑されて、エレネーゼ皇太后(ライテロッヒ皇帝の皇后。ティーグ家出身)を名目的な公王としてナーデベント皇帝は公国を直轄下に置いてしまいます。皇太后の没後に公王を皇帝が兼ねる事になり、公国は皇帝の庶子達の1人に相続される事が決定しますが、その直後に帝国が内乱に突入したために、公国内部は各派閥が干戈を交える巷と化して、青紫戦争では最もひどい被害を受けました。戦後に公国が解体されてからはある程度持ち直しましたが、過去の爛熟した繁栄は程遠いものとなり、人口も30万余りまでしか回復していません。特に復興の手が入りきらなかった東地区の奥は、雅やかな空気すら漂う西地区とは対照的に、バドッカの鼻地区に匹敵する大陸有数の危険地帯と化しています。現在はザノス州の州都(というか、州の範囲はザノス=トルアの市内だけ)であり、街壁を切り開いて中心部まで帝国鉄道が乗り入れています。

キーンブルグ
 元〈滝の街〉ですが、1090年に滝が崩落してから158年経過した現在では、街より更に北、滝を迂回するための運河が分岐していた場所より川上まで無数の滝や急流が広がってしまい、川船はナーレンス川を大きく西に迂回してバウル湖に入っています。当然ながら滝の中の城は跡形もなく崩れ去り、流通路から外れた街も寂れきってしまいました。エフェメラ・クルツが訪れた事を観光の材料にしようという計画もありましたが、肝心の城がなくなっていてはほとんど意味がない事に気付かれ沙汰止みになっています。城の埋蔵金伝説は今でも根強く残っており、埋蔵金目当てで川に乗り出して溺れたり謎の怪魚に襲われたりという事故も頻発しています。

セルターク
 グラダスとの主な貿易港でしたが、カルシファードとの戦争の度に私掠船が出没するために外洋回りの航路が一般的になった現在では、あまり活気のある港ではありません。内陸との間に水晶連峰があるために後背地にも恵まれず、帝国鉄道も山の向こうのセーブラント村で止まっています。ナーレンスの河口に新たな港湾都市を建設する計画が進んでいる現在、街の未来はお世辞にも明るくないでしょう。

ディエンレン
 アレイシア皇帝が若かりし頃、素性を隠して育てられていた修道学院(アーシェリカ記念修道学院)のある街です。現在の学院は街の対岸に大きな面積を占めており、男子部も併設された共学になっています。学院では部活動も盛んで、帝室の至宝であるおみごと扇子を紋章に頂いた(笑)フルコンタクト系バトル・ファン部は帝国国体で何度も優勝しており、そちら系の同人誌……もとい物語本の草分けとして名高い文学部は、ディネス=トルアのシャストア大神殿で夏至と冬至に催される〈喜劇の市場(コミック・マーケット)〉において〈壁際〉の称号を冠されています。

アーノジー
 カルシファードに向かい合う港街で、帝国空軍の駐屯地が置かれています。セレン内海の戦争ではカルシファード侵攻の拠点として海軍の拠点ともなりましたが、現在はカルシファードとの交易の中心となっています。しかし良好な関係と断言しがたい状況であり、出入国検査もかなり厳しくなっています(全員に《鉱物探知》まで掛けるのは、せいぜいここの港くらいでしょう)。特に機密保持は、本人が飛空戦闘艇を乗っ取った事があるアレイシア皇帝による綱紀粛正以来非常に厳しくなっており、駐屯地の周囲は魔法の警備網が囲んでおり、1メイル以内に立ち入ると生命の保証がされないとまで噂されています。また、サーライト公王の墓がある事で若い女性達に有名であり、お参りすると美形との良縁に恵まれるそうです。

ハン王国
 一時期は帝国の属国となっていましたが、帝国再編後に元の独立王国に戻りました。その後も帝国とは友好関係が続き、飛行要塞シリーズの部品にはハンの製品が数多く使われています。工業化が進むと共に周辺から人間の労働者が流れ込み、ドワーフ中心の体制に混乱が起きているのも問題ですが、より大きな問題は帝国から追い出された〈真碧の軍団〉の残党が未だに存在し、しばしばテロ活動を働いている事でしょう。現在のレトナ女王はドワーフ女性には珍しい技術者であるせいか、工業の発展以外にさして興味はなく、数々の政治問題にも有効な手を取れていません。東側で接している小国群との国境紛争も、解決の目途が立っておらず、国境警備隊のフラストレーションが限界に達しかけています。

ハン=トルア
 ハン王国の首都で、地上と地下に跨る巨大な重層都市です。重工業の工場は安全を考慮して衛星都市に分散させており、都市機能は行政と商業が中心となっています。増えた人間人口のための歓楽街も(地上部分に)できましたが、最も人気があるのが闘技場でのプロスポーツという辺り、完璧に染まっているとしか言いようがありません。地底深くにある中央駅から延びている王国内部の鉄道は、ほぼ全区間で地底を走っているため魔法動力で動いています。

小国群
 混乱期に帝国の体制から離脱して、後帝国による再編に加わらなかった地域の総称です。帝国の周縁部、特にナーレンス下流とエデラ山地〜ブラネス山脈に集中しています。かつては北東辺境にも多数存在しましたが、1202年に始まるシュルシュシシィの爬虫人の侵略により300万を超える犠牲者を出してほとんどが滅びています。規模としては数千〜数万人がせいぜいで、経済的にも軍事的にも脆弱な国が多く、中には盗賊団や〈悪魔〉教団に国ごと乗っ取られたりするケースも存在しています。


ルークス聖域王国
 帝国でアレイシア皇帝が即位してから、帝国との戦争は起きていません。ゼクスやカルシファードとの同盟は切れてしまいましたが、元々関わりの乏しい地域だったので、特に悪影響は生じていないのが救いでしょう。今では高性能な帆船の普及により海上の行き来が昔より楽になった事もあり、ルークスへの巡礼者も次第に増えています。現在の中心的な産業は、ドワーフ部族の伝統を受け継いだ精密機器の製造で、他国では作れないような高品質の機械部品も輸出しています。ごく最近アルブレフのペローマ神殿で手回し式計算機が発明されましたが、高価過ぎて未だに買い手は付いていません。
 現在、巫王は空位になっています。高司祭達が転生体を探している最中ですが、現在の八聖師が傑物揃いで結束も強いため、不安定な様子は微塵もありません。

ルークス
 言うまでもないゼモス山の麓に広がる神殿都市ですが、現在は魔化工業都市としても有名です。〈三つの輪〉のウィザードが開発した〈波動〉を熱や電気に変換する魔化装置をエネルギーとする機械も、少量ながら生産されています。バレブまでの鉄道を建設する計画がありますが、厳しい気候を克服する目途が立っていません。


ゼクス共和国
 長い間国の体を成していなかったようなゼクス共和国でしたが、トルアドネス帝国からの圧力により暢気なエタンといえども対抗策を真剣に練るようになりました。特にサイスの森のエルファやラランの台地の翼人との同盟を機能させるには、戦いの都度変わる戦術指揮者ではなく、より長い期間を掛けて一貫して物事に当たれる戦略中枢を必要としたのです。貴重な現金収入である家畜の販路がほとんどトルアドネス帝国に頼っていたのが最大の懸念でしたが、1127年にトリース森林共和国と通商条約を結ぶ際に結成された部族会議がゼクス共和国の「政府」の始まりとなりました。その後の帝国内乱の間に家畜の販路のグラダス方面への転換に成功し、戦乱の波及を食い止めるためにナーレンス川沿いに配置された選抜部隊が常備軍の基礎となります。この頃にそれまで一部の部族が耕していただけだった南岸地域の肥沃な土地にグラダスから入った移民によって穀物の自給率が大幅に上がり、自給できない分も帝国から買うのをやめてソイル産に切り替える事により、帝国への経済依存を完全に断ち切ったのです。
 1160〜70年頃には建造物も増えたイーアを中心とした行政・軍事組織も充実し、不安定だった部族組織も1248年現在と同じ名称・規模・行動範囲に固まります。この頃からゼクスの民は個人名の後に姓(部族名)を持つようになり、部族がアイデンティティの基本となっていきます。
 今のゼクスでは半農半牧の定住民も多くなり、エタンの気風はあまり見られない物になってしまいました。内陸部では昔のゼクスとあまり変わらない生活をしている者も多いですが、南岸地域ではグラダス、特にトリース南部に近い文化が一般的になっています。現在のハーンであるエユーフ・カラトグズオウルは、グラダスからの輸入頼りの銃器の完全国産化と特権階級化している「選抜部隊」の解消に力を入れています。

イーア
 神殿以外は天幕の群れでしかなかったイーアの街も、随分と定住化が進んで、現在では帝国の小都市並みの人口を抱えるようになりました。神殿や商店街のある中心部以外は相変わらず天幕が延々と広がっていますが、地面には区画整理がなされ、所々に上下水道が備え付けてあります。エタンのほとんどは「土壁」に住むのを嫌がり、中心部に住むのはほとんどが、定住生活を営む海岸の部族か、外国からの移民の子孫です。1220年に帝国軍の前に一旦陥落しましたが、大半の住民は天幕ごと逃亡して無事でした。


カルシファード国
 メジの乱から始まる、イキサキ大軍監の変死、スイゲン家内部の紛争、アンデン家支持派とウェンディエン女王支持派の戦争という一連の政争の末に、ウェンディエン女王は行方不明となり、政僚府が新たな政府として誕生しました。もっとも代表は幕僚府の要人であったカドウ・ヘイシュンで、役人達も半分ほど(特に実務担当者)は旧幕僚府の人員でしたが、国内を結束させた事により帝国の第二次侵略を未然に阻止、開国政策によりド、カノー、ヒルイなどの開港を行います。その後に大々的な第三次侵略を受けますが、水際阻止を続けているうちに帝国内乱により侵略は停止し、逆に帝国本土に頻々と襲撃を行うようになりました。もっともその結果、帝国の再統一後には冷戦状態になり、しかも冷戦の長期化により士気は弛緩状態になり、それが後に致命的な結果を生む事になります。また軍事重視の政策はひずみを生み、異種族への待遇改善や技術革新は半ば放棄状態にされ、所民の生活は鎖国時代と大して変わらないままでいました(気候の安定と中央からの統制により、一番ひどかった部類の地方は少しはマシになりましたが)。
 セレン内海戦争(1225〜1230年)は、安逸を貪った政僚府に致命的な打撃を与えました。帝国とトリースやファイニアの軍隊はカルシファードの各地を占領して軍事基地を構え、政僚府や旗将の武戦士は為す術もなくライフル銃や大砲や様々な魔法兵器で排除されます。ドワーフ達はこき使う旗将がいなくなった隙に、外国軍の補給船に紛れて大陸本土やグラダスに姿を消しました。オレアノイやビジュラは武浪士やウィザードと共に傭兵となり、武戦士狩りに積極的に協力します。そうして混乱したカルシファードの民の盾となり安住の地を確保したのは、刀をちらつかせて威張り腐っていた武戦士ではなく、所民の有力者や武豪士と手を携えた神官達でした。目端の利く旗将は既に銃器を大量に買い揃えており、地の利を活かした抵抗と必死の外交交渉によって北部と南部を戦禍から何とか防いでみせたのです。
 カルシファードの誰にも関係なく終戦が決まって外国の軍隊が撤退したその時、既に政僚府は崩壊していました。ダイハンは政僚府の幕僚共々、恨みを持っていたビジュラの一族により、シャクティの炎で骨も残さず焼き尽くされていたのです。生き残った様々な勢力は対立を捨てて、コウルイに新たな政僚府を建てました。未だに外国に奪われたままのリュートゥク島とマダスカル島を奪回するために、そして二度と故郷を蹂躙させないために。
 結局マダスカル島は1241年に帝国から返還されましたが、大量の金を産出するリュートゥク島は周辺の小島と共にファイニアが占領したままです。政僚府に総統領制度が採用されなかったのも、共和制を取るファイニアへの憎悪が根底にあったからだといいます(ただし封領制度は廃止され、武戦士も政僚府に仕えるか野に下るかを余儀なくされました)。現在の政僚府の代表は、タガト封領(現在のヒガン県)の旗将であったカエン・ゲンガで、旗将の嫡子でありながら影闘法も会得していると噂されています。現在は異種族抑圧は行われておらず、ドワーフも自由な移動が可能になり、多くが人間の街に移住しています。移動生活を強制されていたビジュラも定住し、ウィザードもフダラク山に大きな魔術師団を作り始めました。このような傾向に反発を覚える武戦士が数度に渡り反政僚府蜂起を繰り返しましたが、所民の支持を受けられず全て迅速に鎮圧されています。

コウルイ
 政僚府の所在地である、現在のカルシファードの首都です。内海戦争では両軍の頻繁な激突によりあちこちが焦土と化してしまい、現在も復興の最中です。かつての都市計画の及んでいた地域より外まで市街地が溢れ出しており、隣接する村や街の編入が問題となっています。役所は王宮近くの各封領の屋敷(もしくは屋敷跡)を接収して充てており、大評定などはガヤン大神殿に間借りしています。
 政僚府の代表は、広義の武戦士か神官以上の聖職者の中から、大評定に出席する各県の選出代表により選ばれます(紫の群島にいくつか存在する、貴族共和制の国家に近い制度です)。選出代表や役人の大半は崩壊しなかった封領の旗将の息が掛かった人物で、危難の時を迎えている今現在はともかく、長期的には結束を危惧する声もあります。

ダイハン
 元はカルシファードの首都だった城塞都市は、現在はガラス状に熔けた砂に覆われた、黒ずんだ更地に過ぎません。1229年までは各国軍の攻撃により西部や東部の主要都市が蹂躙されるのをよそに、散発的に襲撃する帝国軍やトリース軍を撃退していたのですが、ある夜にビジュラのある一座の、戦の巻き添えを免れた生き残りにより、一瞬で完全に焼き払われました。飛翔の技を使う影タマットも、転移の術を使う魔術師も、誰一人として逃げる事すらできないほど、瞬間的で強烈な炎だったようですが、《防熱》の魔法の品を身に着けていた生き残りが1名だけ存在したと噂されています。現在内部は立ち入り禁止区域として政僚府の武戦士が周囲をパトロールしていますが、焼け残った財宝を求めて侵入しようとする者が跡を絶ちません。周辺には店舗営業が禁止されていたダイハンの代わりに店や酒場があった小さな街がいくつかありましたが、今では完全に寂れています。

風の源
 影タマットの本拠地は、帝国軍の攻撃により壊滅しました。いかに凄腕であろうとも正面からの戦闘では力を発揮できませんし、そもそも百倍以上の人数差があっては端者も含む顔触れでは対抗しようがなかったでしょう。しかし目端の利く〈衆〉は逃亡するか帝国軍の傘下に入り、モラルを喪失した〈衆〉は双方構わずに手を結ぶか単なる強盗に成り果てました。現在も大半の影は故郷を捨てて、各地の山奥や都市を新たな拠点としています。

タノガ島
 巨大昆虫の群れで知られる狂宴の島も、侵略を免れる事はできませんでした。住んでいた人間やオレアノイの被害はもちろんですが、ちょうど戦争中にケラーグの繁殖期が来てしまい、巻き添えを受けて大勢のケラーグがタノガ島の土となりました。木材以外に特筆すべき資源のないこの島はグラダス側の撤退と共にカルシファードの手に戻り、今では各地の神殿の再建に使う大木を切り出しています。この島の南部海岸にはリュートゥク奪回を目指す武浪士の一団が本拠を構えており、しばしばセレン内海でファイニアの商船や漁船を襲っていますが、別に私掠船としての許可が出ているわけではありませんし、元からファイニア領の島に上陸して住民を殺害した事も度重なり、グラダスからの報復攻撃が懸念されています。

ヒルイ
 南部最大の都市で、ツチスケ家のヒルイ封領の中心だった所です。トリース軍の攻撃を幾度も受け、単独講和した後にトリース軍は直轄領に転じたため、南部と東部の間には未だに悪感情がわだかまっています。戦争中は〈多足のもの〉がヒルイ軍を支援しており、その際にグノーメや戦闘用歩行機械の一部が命令に異常を来して戦場を離脱し、山や農地に出没してしばしば所民や武豪士を襲っています。……なぜか直接的な死傷者は出ていませんが。

リガの森
 カルシファード最後の大きなエルファの森「だった」所です。戦争中に墜落した帝国軍とトリース軍の飛行要塞の魔力結晶の相乗暴走により漏出した硫黄の毒煙(……ファンブル表で7を出したようです)により中心部分が枯れ果ててしまい、エルファ達は海エルファの助けを受けて大陸本土に亡命してしまいました。現在は人間のソーサラーが〈悪魔〉信者の一団を連れて占拠しているとの情報があり、近隣の県の領官所が討伐隊の結成を急いでいます。

マツトキ/カノー
 開国後に市街地が半ば繋がった、西部最大の2つの街です。戦争中は真っ先に帝国軍に占領され、撤退まで一貫してマツトキに帝国軍の司令部が置かれていました。戦争による被害は比較的少ない方でしたが、流れ込んだ難民や帝国軍撤退後に焼き討ちにあった帝国系商人の店などの傷跡は隠せず、人心もどことなく荒んだ空気が漂っています。
 沖合にはかの〈新たなる栄光の担い手〉達の冒険の際に墜落した〈天空の龍の島〉が鎮座しており、カルシファードのドワーフ達にとって聖地のように扱われています。カノーの街にはエフェメラ・クルツの訪れたというヒビト家屋敷、ナギ道場、茶店などがあり、はるばる外国からも観光客が訪れます。

メジ
 153年前のメジの乱の中心地で、乱の後は直轄地に組み込まれていました。内海戦争ではメジの家臣の末裔だった武浪士達が率先して帝国軍に呼応して、領官所を皆殺しにして街を乗っ取り、フダラク山脈を越えて東部を攻撃する軍にも加わりました。そのため戦後は政僚府の軍が駐留して内通者狩りを行い、多くの武浪士が家名剥奪の後に斬首されています。塩田は座礁した補給艦により鉱油で汚され、復旧を求めた度重なる陳情も、完全に心証を害した政僚府から無視されています。

フダラク
 大本殿と並ぶ、カルシファードの双子の月信仰の中心の1つです。強硬な民族主義者の拠点でもあり、ファイニア軍との「裾野の合戦」(1226年)では、一般人も加わった抗戦により、人口の1割以上を失いながら辛うじて撃退に成功します。騎馬の武戦士が爆薬を背負い(しかも《矢返し》を掛けられて)ファイニア軍に突入して自爆する戦法は、〈遥か人〉語の「天地よ永遠なれ」を意味する「バンザイ」という掛け声により「バンザイ突撃」と呼ばれ、その威力以上に精神的な恐怖をファイニア軍に植え付けました(待てい)。その後も、タマット大神殿を自ら焼き払い広大な裾野に潜伏した武戦士や神官、行僧、翼人によるゲリラ活動は各地からの人的物的支援を受け、そうした援軍の1グループが漆黒の混沌龍のエネルギーを一部解放して古代の魔法装置を使用した事により、帝国やファイニアの海軍に損害を与えるまでに至ります。戦後は戦災を免れた大本殿や新たに魔術師団を築いたウィザード達の支援により街の再建が進み、門前町として復興する日も近いようです。

大本殿
 嫉妬深い幕僚府により交通路を外れた痩せた土地を所領としてあてがわれていたためか、内海戦争の被害を免れた数少ない土地です。現在は避難民も大半が帰還しているものの、完全に故郷に戻る望みを失うなり捨てるなりした残留者がおり、その一部は大本殿による各地の支援活動に駆り出されています。

リュウホウ川
 カルシファード最大の川です。長い間幕僚府や政僚府は「軍事上の防衛線である」と称して、「川のどちらもカルシファードなんだから、進撃路と補給路を確保する方が大事じゃないのかえ?」と指摘したカドウ・ヘイシュンのような例外を除いて架橋には否定的でしたが、戦争中にファイニア軍とトリース軍が、底の分厚い泥の層を穿って橋脚を立てる最新技術により次々と鉄橋を架け渡しました。最大のガタロ橋はマツトキとコウルイを結ぶ街道上にあり、ゲリラによる破壊工作を受けても平然としていたほどの耐久力を見せ付け、現在も多くの旅人を助けています。川のオレアノイは戦争中はスオウ湖に逃亡していましたが、現在では元の〈溜まり〉に戻り、伝統的な漁業や製薬だけでなく、橋の点検修理や水運(汽船を持つ船主もいます)に従事しています。

スオウ湖
 1095年頃にオレアノイが再居住して以来、人間と共存してきた場所です(1120年頃から、オレアノイの代表が特有4種族を代表して政僚府の大評定に加わっています)。戦争中も避難民をセイヨウ封領や湖底遺跡にかくまって、フダラクへの補給ルートの維持にも貢献してきました。現在は湖の半分ほどと湖岸の〈溜まり〉周辺がスオウ自治県とされていますが、漁場の争いは湖上に線を引いてしまった事によりかえって激しくなっています。

セイヨウ
 北東部最大の都市であるよりも、ナガス家の本拠地であるよりも、カルシファードの武術の本場として名高い所です。そのイメージに反して武戦士が刀以外を使う事に寛容な土地でもあり、ライフル銃を最も多く揃えていました(戦争末期になりますが、後には銃器の完全自作にも成功しています)。戦争中は柔硬取り分けた動きにより、北部の政治的な動きを主導してきましたが、現在では軍の縮小により失業した武戦士や所民の元兵士が溢れており、封領制度の廃止時には激しい反乱により戦争を遥かに上回る被害を受けてしまいました。最新の兵器工廠もコウルイに移され、人材流出も相まって活気は幾分損なわれています。

黒原
 カルシファードの黒の月種族の最大の根拠地で、セイヨウ封領が士気を弛緩させなかった最大の要因でもあります。内海戦争の後期になって、各国軍の疲弊を突くように侵略を始めましたが、さすがにこれには帝国側とグラダス側は一時停戦に移り、共同作戦により黒の月の種族の都市を、王と側近であった美王鬼6人(!)と共に壊滅させました。現在も大頭鬼や大牙鬼や武頼鬼は頻繁に出没しており、入植計画を立てている政僚府は討伐隊を送り込んで駆除を行っています。

ジャビ山
 この山の翼人最大の部族はセイヨウの軍と動きを共にして、フダラクの翼人部族の抗戦を支援しました。しかし危難が去り、セイヨウ封領がなくなった今では、人間国家の傘下に入る事を肯んぜず、政僚府との直接接触を事実上絶っています。特に先代族王は不平派武戦士との付き合いが深かったため、煽動者として名指しされたナガス家の末家の当主やその配下と共にどこか(グラダスのスティニアと噂されています)に出奔してしまいました。

マダスカル島
 終戦後も帝国に占領されていましたが、後に返還された島です。元の旗将だったマツサ家は直臣の武戦士と共に壊滅したため、現在では政僚府が直轄支配をしています。占領下で傀儡政権を作っていた下士の親方達がマダスカルを独立させようとしていますが、戦で疲弊した一般の下士や所民からはほとんど支持を受けておらず、今の独立派はいつ暴走してもおかしくない状態です。内陸の爬虫人達は外部にも内部にも我関せず状態ですが、異国から来たサリカ神官が内部に迎え入れられたという噂があります。

コウザ洞
 戦後からビジュラが周辺に定住しているという他には、特に言及するような事はありません。内部にいるはずの爬虫人達も外部の事は全く構わず、踏み込んだ帝国軍やファイニア軍やカルシファード軍を手当たり次第に元素神の生贄にしていたようです。生き残りの脱走者によると、これは〈龍の杖〉と〈審判者〉を得るための儀式だという事ですが……。

ランルイ
 コエノマエ家の本拠地です。終戦直前にランルイ封領とその周辺に謎の記憶喪失現象が起きたため、帝国軍の占領下で何があったのかを知る者はほとんどいません。現象発生の直前に起きたと思しき、所民によるドワーフ虐殺との関わりも不明です。

王竜山脈
 北西の寒冷地は、帝国軍の占領下に置かれてもほとんど何も変わりませんでした。雪原の彼方ではボックと〈多足のもの〉が共同で謎の大作業をしており、目撃者を半殺しにして追い返すという事件が起こっています。


紫の群島
 紫の群島の内情は、国によって千差万別です。魔術師団や技能者集団が存在する国は工業化に進み、豊かな農地を持つ国は農業生産の増加を目指しています。改革に失敗して崩壊した国もいくつかありますし(小さな国では人口が千人単位ですので、意外と呆気なく滅亡します)、今まで通りに海外貿易に集中する国も数多くあります。つい近年まで人間の領域ではなかった大湿圏や無限回廊山脈、〈世界創世の島〉にも、紫の群島からの植民者の集落が存在しています。


サイスの森
 現在のサイスの森は、静寂を好むエルファらしくない喧騒に満ちています。螺旋を奉じる〈螺旋派〉と永遠の円環を奉じる〈円環派〉は11世紀中葉以降の螺旋哲学再発掘以来対立を高めていましたが、13世紀に入ってからは対立が激しくなり、敵対派閥に属する他部族への嫌がらせ、抗争の果ての部族分裂、分裂部族間のフェルトレの樹争奪戦などが相次いだ挙句に、1245年からは部族間の武力衝突がフェリアやギャビット・ビーも巻き込んで続いています。それでもエルファの生活サイクルに従って冬は休戦するような、人間からするとのどかな戦いですが、近頃は人間を含む外部の傭兵を引き込む部族まで出始めています。隣接する小国群や帝国領には戦乱が波及して被害が及ぶ所が現れており、両方の派閥の穏健派は現状を危惧し始めています。現在は〈フェルトレの環〉も両派で分裂しており、しかもごく一部の部族はどちらにも参加していません――もしくは二重参加しています。


北東の地

シュルシュシシィ
 1202年から爬虫人の大群が元帝国領の中原北東辺境とグラダスに同時に溢れ出し、グラダスではディグ大城塞で辛うじて阻止されましたが、北東辺境の小国群では300万を超える犠牲者を出して1215年にようやく撤退しています。それ以外に何が起こっているか知る者は、シュルシュシシィの外にはほとんどいません。外洋沿いに点在するドワーフ都市の一部に、人間の列強国の1つが秘密の基地を設けたとの噂もあります。

未踏砂漠
 やはり内情は定かでありませんが、1210年頃からなぜか気温が低下し始めました。1230年代後半にこの現象は収まりましたが、それでも中心部の酷暑と乾燥はかつての周縁部を上回り、勢力圏を広げようとする数多の爬虫人部族を拒んでいます。


南西半島

ラランの台地
 翼人は、現在でもゼクス共和国との同盟を継続しており、帝国との国境付近に常に1000人近くが待機しています。飛行兵器を所持していないゼクス軍にとっては、翼人の元素魔法と元素獣は稀少な空中戦力となっています。それと同時に新たな世界の覇権を握るための〈龍の杖〉と〈審判者〉の探索も継続しており、風の元素神の目となり耳となり、多くの翼人が傭兵としてリアド全土を歩き回っています。

大湿圏
 ここ100年の間に数多くの探検隊が入り、様々な発見と約2700人に及ぶ行方不明者を生み出しました。沿岸部は詳細な地図もできていますが、無限回廊山脈との接点付近は極端な多雨地帯で気流も不安定であり、〈波動〉の乱れが原因で探知系魔法も働かなくなるため、未だに未踏区域のままになっています。
 共和国成立後、ファイニアは大湿圏に植民地を作りゴムと香辛料の獲得を計画していますが、今のところは食糧の自給を達成できたかどうかという段階です。

無限回廊山脈
 無限回廊山脈の何ヶ所かで、ドワーフによる探検隊が白い肌に金髪のリアド系ドワーフと接触を果たしています。しかしそれらは全て青の月の信者であり、〈龍〉信者のドワーフを求める探索は今もなお(現地の白いドワーフも加わって)続いています。
 紫の群島の諸国は単独、もしくは共同で無限回廊山脈や大湿圏の沿岸に拠点を作り、航路の監視や救助に乗り出しています。半島南端部の島にある共同植民地は、南海航路における最大の中継地点となっています。


クールヘンレント
 ゴールドラッシュは1120年頃を境に過ぎ去り、それ以来は大した変化もなく過ごしています。最大の変化は、伝説の〈緑の谷〉とその住人のウーティや爬虫人部族との交流により、地熱を利用して農業を行う技術が普及した事でしょう。


〈天空の龍の島〉
 〈月に至る子〉事件以来、比較的小さな一部の島は円軌道を外れて動くようになりました。また度重なるドワーフの挑戦により、いくつかの島で白いリアド系ドワーフが現存する事も確認されています(ジャナストラに近い島では、住んでいたのはやはりジャナストラ系ドワーフですが)。魔術の研究を行うウィザードが定住したり、国家の支援を受けた探検隊が領有を主張したりした事もありますが、30年ほど前(〈月に至る子〉事件からほぼ100年後です)に一部の島が石化から解けて大騒ぎになった事があったため、現在は原住者を除いて定住者はほとんど存在しません。


武器・防具

 1095年に使われていた武器や防具は、銃器が開発された1248年にも一般的に使われています。銃器は確かに強力ですが、近年の〈悪魔〉は大半が銃器無効化能力か《矢よけ》《矢返し》を備えているため、近接戦闘用武器もその価値を失っていません。弓矢や弩も、「発射音や硝煙の臭いがしない」という利点を持つため暗殺や襲撃に用いられます。

銃器データ一覧
 これらの銃器は、主に軍関係者が使用します。ただしライフル銃と散弾銃は入信者以上、リボルバーは神官以上で所持が許されます。デルバイ信者の場合、全ての個人用銃器を入信者以上で所持が許されます。双子の月以外の信者は、「特殊な背景」に5CP(銀の月信者は10CP以上)を消費する事で所持が許されます。もちろん違法所持も可能ですが、PCが銃器をゲーム開始時に違法所持する事はできません。
※銃器の使用は人里を離れれば自由ですが、街中での発砲は基本的に違法行為です。特に銃を抜いた場合、ほぼ確実に「殺傷の意図」を認められます!
 ペローマ信者やジェスタ信者も、銃器は戒律による武器制限には該当しません(他の戒律に抵触しない限り)。タマットの入信者以上は〈致命傷/銃器〉を修得可能です。

*故障値
 射撃を行う際の技能判定で、目標値に関わらず3Dで故障値かそれ以上の目を出したら不発扱いとなります。通常のTL5の世界では故障値は14〜15が普通ですが、ルナルでは銃器の製造に魔法を応用しているために安定性が高くなっています。このルールを使用する場合、ルナルの黒色火薬銃は故障値15として扱って下さい。

リボルバー
 9式リボルバー
 叩き/2D-1、抜撃10、正確2、半致傷90、射程900、重量1、連射1、弾数6、必要体力9、反動−1、故障値16、価格300
 10式リボルバー
 叩き/2D+1、抜撃10、正確2、半致傷100、射程1000、重量1.2、連射1、弾数6、必要体力10、反動−1、故障値16、価格350
 12式リボルバー
 叩き/3D-1、抜撃10、正確2、半致傷120、射程1200、重量1.5、連射1、弾数6、必要体力12、反動−2、故障値16、価格400
 弾薬:1個2ムーナ、33g(3個で100g)

散弾銃
 13式散弾銃
 叩き/5D、抜撃14、正確3、半致傷15、射程100、重量5、連射1/10、弾数1、必要体力13、反動−4、故障値15、価格500
 弾薬:1個3ムーナ、50g

ライフル銃
 10式ライフル銃
 叩き/4D、抜撃15、正確5、半致傷300、射程1500、重量2、連射1/4、弾数1、必要体力10、反動−2、故障値16、価格500
 12式ライフル銃
 叩き/4D+2、抜撃15、正確5、半致傷360、射程1800、重量2.5、連射1/4、弾数1、必要体力12、反動−3、故障値16、価格600
 13式ライフル銃
 叩き/5D、抜撃15、正確5、半致傷390、射程1950、重量3、連射1/4、弾数1、必要体力13、反動−4、故障値16、価格700
 弾薬:1個3ムーナ、50g

*上質の銃器
 試作段階の物や特殊な用途の銃器を除き、4倍の値段で正確さが+1されます。
*安物の銃器
 通常の60%の値段で、正確さが−1、故障値が−1された安物が(中古品として)入手できます。より性能の悪い銃器も稀に存在しますが、それは単なる整備不良の結果であるため売買する事はできません。
*貫通呪文の付与
 デルバイの祝福により製作された銃器は、鎧の素材による(=魔化の分を含まない)防護点を半分(端数切り上げ)と見なします。デルバイ信者しか購入はできず、価格は100ムーナ追加されます。

カルシファード・ブレード
 セレン内海戦争により、カルシファードからブレードの製造技術を持つドワーフがリアド大陸全土に流れ出しました。そのため現在では、カルシファードの外でも大きな街の武器屋なら時折ドワーフの手によるブレードが商品として並んでいます。中には片手剣の扱いに慣れた大陸本土やグラダスの使い手に合わせ、片手での取り回しに向いた形状の物が現れました(データは「マーシャルアーツ完訳版」の物を使い、同じ値段で上質な武器として扱います)。
 カルシファード人以外で刀使い(流派選択ができない)になるには10CP、刀術使いになるには15CPが必要です。

生体兵器
 爬虫人や〈多足のもの〉が開発した、元素獣を素材として改造を施した兵器です。異種族でもコネがあれば入手できるかもしれません。爬虫人は攻撃的で単純な物を、〈多足のもの〉は防御的、複雑、時には何が役に立つのかさっぱり分からない物を得意とします。
 データは「百鬼夜翔」の妖具に従いますが、妖力のレベルや妖術のパワーレベルは3が上限です。抵抗する場合でも、目標は「妖怪の抵抗力」を持つものとします。

爆裂弾/発火弾
 デルバイ神殿でのみ購入できます。データは1095年当時と変わりませんが、価格が10分の1に低下しています。

火炎瓶
 「ベーシック完訳版」P264のデータと同じ物で、鉱油(燃える黒水)を原料としてファイニア陸軍において開発されました。価格は1個5ムーナです。


その他の装備

蒸気機関車
 最大で時速40〜50メイル程度を出せる機関車で、《発火》による点火や水霊系呪文による排気からの水蒸気回収を併用しており、現世のTL5段階の物より高い性能を持っています。個人で購入しても意味はありませんが、〈運転/蒸気機関車〉は、ジェスタ神殿やリャノ神殿で(主に信者に)教えてもらえます。

ファイニア・アーミー・ナイフ
 主にペレートで作られている、野営に向いたナイフです。データは「ベーシック完訳版」のスイス・アーミー・ナイフを参照して下さい。


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