―Runal Topics(2)―

 ルナル世界の様々な話題を綴ったコーナーです。

 
〈目次〉

 他サプリメント武器導入の口実一例勝手に作ろう選王家推定神殿組織図


◇他サプリメント武器導入の口実一例◇

 「マーシャルアーツ」や「パワーアップ」の武器で、世界観的に説明の付く物は、GMとプレイヤーの相談の上でルナルでの使用が認められています。その言い訳用設定をここに挙げておきますので、GMの説得用材料に使えるかもしれません(笑)。

*マーシャルアーツ

#中国の武器

・斬馬刀
 400〜500年ほど昔のリアド大陸中原では、馬にも鎧を着せた重装騎兵を中心とした南方(ナーレンス河口付近)の騎馬遊牧民が巨大帝国を築いており、それに対抗するために草創期のザノンで考案されたのが、馬鎧ごと馬を叩き切る斬馬刀です。馬鎧が廃れた現在ではほとんど使う者もいない廃れた武器ですが、トルアドネス帝国では辺境の怪獣や魔獣対策に採用を検討しているそうです。

・蝶剣(=「武侠」の双剣)
 ペテルギュアにおいて、船上で取り回しの利くショートソードの打撃力を強化するために誕生した短刀です。現在では帝国海軍の制式武器に採用されている他に、紫の群島や旧ザノン地方でも時折見られます。

・鎖鞭(=「SKA」の鎖鞭)
 鎖を鞭にするアイデアがどこで生まれたのかは定かでありませんが、シュラナート帝国には既に剣闘士が使う武器として存在していました。現在でもグラダスでは時折使用者が存在しますが、他の地方では存在すら知られていません。爬虫人も、一部の部族では別系統で発達した鎖鞭を使用しています。

#日本の武器

・鉈
 ルナルでもごくありふれた生活器具ですが、近年になるまで武器として認識される事はありませんでした。一部のジェスタ神殿では、《素早い斧》を魔化したジェスタ・ナタ(400ムーナ)を販売してくれます。

・鎌(=「武侠」の草刈り鎌)
 ルナルでもごくありふれた生活器具ですが(中略)。一部のジェスタ神殿では、《素早い斧》を魔化したジェスタ・カマ(700ムーナ)を販売してくれます。

・刀(=「武侠」の倭刀)
 〈遥か人〉の時代、刀術が精妙さを増す前のカルシファード・ブレードで、やや重い代わりに片手での取り扱いが楽になっています。ザノン軍の侵入やその後の内乱時代に逃亡した〈遥か人〉やカルシファード・ドワーフの部族の手により、製法と扱い方がルークス大神殿の守衛や紫の群島の数ヶ国に伝わりました。現在ではこの古流のブレードは、主流と区別して単に「ブレード」と呼ばれています。
 異国で〈遥か人〉のブレードを扱うには、「特殊な背景」に10CPが必要です。格闘動作は基本のものしか取れず、流派を選ぶ事はできません。

・鎖(=「武侠」の鎖)
 〈悪魔〉戦争時代に奴隷とされていた人間が蜂起する際に武器として用いたのが始まりと言われ、テック・マーレンの十五の武器の一つにも挙げられた由緒ある道具です。しかしあくまでも間に合わせの武器として見なされる代物であり、主な使い道は〈徒党〉の不良少年が喧嘩に持ち出すくらいです。とはいえリアド全土で見た普及率では、このコーナーの他の武器が束になってもかなわないでしょう。

・長刀
 現在ではカルシファードの武戦士の家の女性がしばしば扱いを学ぶだけですが、〈遥か人〉の時代には「柄を伸ばす」「石突」の改造を施した立派な戦場用武器でした。しかし刀術が流行ると共に長刀は弓矢と共に地位を凋落させて、現在では見る影もありません。

・鉄棒
 カルシファードの雑兵の間で、ごく稀に見られる武器です。〈遥か人〉の行僧であったブゾウボウ・ワケヨシが用いた八つの武器の一つとされ、ジェスタ神官の中にもこの武器を使う者が見られます。

・野太刀(=「武侠」の野太刀)
 戦国時代や東西時代のカルシファードでよく使われた武器で、威力を重視する天落轟破流や古流武刀術の使い手がしばしば愛用しました。現在のカルシファードでは武戦士の普段差しとしては好まれず、武浪士や武豪士が(それも、武張った風潮の強い旧メジ封領やセイヨウ封領などで)時折手にする程度です。野太刀では、「突き」を用いる刀術を用いる事はできません。

・大弓
 カルシファードで一般に使われる弓で、所民の武術としては棒術と並んで親しまれています。紫の群島の一部の国でも、よく似た弓を用いています。

#インドの武器

・カタール→「SKA」のデータ使用

#インドネシアの武器

・クリス→「SKA」のデータ使用

#フィリピンの武器

・バリソンナイフ
 ゼクスのシャロッツの民族的武器です。隠匿に長けたシャロッツは、より隠匿しやすいこのナイフをしばしば、戦闘やいたずらやいたずらやいたずらに使います。捕虜として連行されたシャロッツが、逃げる際にザノンの大将軍の大天幕をバリソンナイフ1本で綺麗さっぱり解体してのけた英雄譚は、遠くジャナストラにも伝わっています。

#ヨーロッパのフェンシング武器

・クローク
 シャストア信者の間では、特製のマントがない場合にも普通のマントや布を防護に使う手段を教えています。〈クローク〉ではなく〈シャストアのマント〉で扱う事に注意して下さい。

*パワーアップ/ソーサルナイツ・アカデミー(初出のみ)

・ハンマー
 ルナルでもごく(以下略)。パリイング・ハンマーと特に区別する際には、スミス・ハンマー(鍛冶師の鎚)と呼ばれます。一部のジェスタ神殿では、《素早い斧》を魔化したジェスタ・スミス・ハンマー(350ムーナ)を販売してくれます。

・エストック
 20年ほど前に紫の群島で、剣の貫通能力にこだわり続けたタマット信者の剣鍛冶が作り上げた特殊な剣です。しかし考案者の意に反して、現在の紫の群島やバドッカでは細さを活かして、仕込み武器の素材としての使い道が主流です。

・ショーテル
 マーディール大陸の武器ですが、リアドでは主に未踏砂漠周囲の爬虫人が用います。しかしなぜか、シュルシュシシィの爬虫人はショーテルを一切使いません。

・ファルシオン
 クールヘンレントの短剣で、クールヘンレント語ではスクラマサクスと呼ばれるものです。昔の海賊の間では斧かそれ以上に日用品兼戦闘用として親しまれ、現在ではクールヘンレントに限らず、紫の群島やソイル沿岸部、またはそれ以外の地域の海賊にも広まっています。

・長刃ナイフ
 ゼクスとトリースの旧ペノン地方で、主に遊牧民が使うナイフです。〈悪魔〉海で分断される前の2つの地方は陸続きだったと伝えられ、このナイフに代表される文化的共通性がその証拠とされています。

・カタール
 ジャナストラ大陸から伝わった短剣で、ザムーラ、バドッカ、紫の群島で使われます。ジャナストラやザムーラでは別の種類の武器を指す呼び名なのですが、リアド本土に伝わった際に間違われたようで、もはや修正は手遅れです。

・クリス
 ケレストの魔術師の間で伝わる秘伝により成形されたナイフで、魔化のエネルギーが減少するようになっています。武器としてではなく、魔術具や非戦闘系呪文の媒体として用いられる方が普通です。近頃はピールにもこの秘伝が流れ出していますが、耐久性を重んじるピールの魔術師/邪術師はこの仕様をあまり好んでいません。

・ロングスピア
 紫の群島では無数にあるスピアのバリエーションの中でも、比較的大人しい部類の武器です。歩兵のポールアーム装備が多い大陸の軍と違い、比較的小規模で小回りを重視する紫の群島の諸国軍は、歩兵の制式武器としてロングスピアを用いています。

・大槍
 大陸中原のごく一部の地域で昔から使われる大型の槍で、カルシファード大槍の直接の先祖です。ただし、この槍でカルシファード大槍固有の動作を使う事はできません。

・パイク
 グラダスでは前シュラナート時代に西部の都市国家群で用いられた記録が残されていますが、しかしあまりの動きの鈍重さに、シュラナートの機動戦法の前にことごとく敗れて廃れたとされます。現在では攻撃ではなく防御用にファイニアの精鋭部隊で用いるくらいで、民間人が使う事はありません。

・トライデント
 セレン内海や南洋の沿岸で漁師が使う銛から発展した武器です。現在でも人間や怪物相手に用いる事はまずなく、基本的には生活用具です。マーマン、海エルファ、ジャナストラの人間もこの武器を使う事があります。

・フランベルジュ
 エストックよりやや遅れて開発された剣で、考案者はエストックの作成者のライバルだと伝えられています。こちらはほとんど紫の群島から流出しておらず、他の地域では全く知られていません。

・ブーメラン
 罠や遠距離攻撃を好む、ギャビット・ラーが愛用する武器です。開けた所に向いた武器であるため、森に住むギャビット・ビーはあまり好んでいません。

・スリング専用弾
 スリングで投げるタイプの金属の弾です。元は紫の群島の一部の国でしか作られないマイナーな弾でしたが、数年前にオータネスでも製造が始まり、グラダス全土に流布し始めています。しかし今までの石に慣れ親しんだ使用者は、今でも容易に手を出そうとはしません。

・ハープーン
 リアドのほぼ全土で狩猟や漁撈に用いる道具です。一般には武器として認識されていませんし、わざわざ持ち歩く変人はいないでしょう。

・レザー&ラメラー
 安上がりな金属製防具として、古い時代には多くの兵士達に愛用されました。後にスケイル・アーマーの製造技術が普及して「時代遅れの」武具になりましたが、それでもスケイル・アーマーに手の届かない田舎の一般人や特殊な防具を欲しがる休日冒険者のために、大都市を離れた各地で細々と作られ続けてきました。爬虫人も死んだ同族の皮のライト・レザーに金属を縫い付ける事がありますが、よほど強力な敵対勢力(人間の大国、他の爬虫人部族、シェクラシュなど)がいない限りそのような事は行いません。

*パワーアップ/武侠ウォリアーズ(初出のみ)

・胡蝶剣
 紫の群島の小国のごく一部の工房で作られ、国外には滅多に流出しない特殊な剣です。女性の貴族や神官の護身用となる事が多く、一種のステータスシンボルとなっています。

・大まさかり
 これも斬馬刀と同じ時期に、極限まで進んだ騎兵の重装化に対処するために作られた武器です。もちろん現在では、武器として使われる事は滅多にありません。

・コンポジット・クロスボウ
 騎兵の重装備化が行き着く所まで行き着いたかつての大陸中原で、最終手段として開発された物です。この武器の誕生と機を同じくして重装騎兵は廃れ始め、それ以来この最強射撃武器は滅多に作られなくなりました。帝国では斬馬刀と同様に、怪獣や魔獣を攻撃するための武器として採用を検討しています。

・ピストル型・クロスボウ
 紫の群島でごく少数作られる特殊な弩です。主に小さな獲物を狙う狩猟用か、毒を塗った暗殺用か、紐やスイッチで発射される罠用に使われます。

・弾き弓
 スティニア高地の少数民族が、狩猟用に用いていた弓です。最近スティニアを訪れたバドッカのタマット神官が、自分の友人が経営する遊戯場に射的ゲームの新趣向として導入しました。

・チャクラム
 ジャナストラ大陸に由来する投擲武器です。近年の旅行ブームの際に使い方を学んだ休日冒険者(本業は武器鍛冶)の手により、ザムーラからバドッカに使い方が伝わりました。

・毛皮/綿包鎧
 武具作成の技術が低い種族や民族(ギャビット、ゴブリン、スティニア高地民族など)では、毛皮をそのまま鎧にしています。普通のレザー・アーマーが存在する地方でも、防寒や威圧のために毛皮を鎧代わりに纏う事があります。
 古い時代のリアド大陸中央部では、徴集兵に綿入れを鎧代わりに着せていました。後の皮革産業の発展に伴い、現在の帝国軍では綿入れを制式装備に入れていませんが、町や村の自警団クラスでは今でも装備に含めている所もあるでしょう。


◇勝手に作ろう選王家◇

 題名通り、設定の詳細がGMの任意に任されている選王家の実情を自作してみました。

◆選王家とソイル貴族

 ソイルは本来、王国群の連合国家でした。現在でも元の王国を基礎とする選王家は、その内部に半独立の勢力を築いており、紫の群島の大抵の国やグラダスの独立都市など問題にならないほどの力を振るっています。大抵の貴族は選王家の家臣として仕えていますが、そうでない直轄領貴族、元独立都市の都市貴族、その他複雑な経緯を持つ独立貴族も存在します。

(ソイルの爵位)
 基本的に公爵/侯爵/伯爵/子爵/男爵くらいしかないグラダスの他国に比べて、三国時代の制度を引きずっているソイルには特有の爵位が多く見られます。これらの爵位は通常は相続人1名(通常は嫡子のうちの年長の男子)にのみ相続され、相続対象にならない一代限りの爵位は大貴族の傍系血縁(アナルダ姫やラーシャ高司祭など)がほとんどです。平民が上級官職に就任しても、王国への献金の代わりに王国騎士となるのが限界で、子供はともかく本人が男爵以上に昇進する事はまずありません(爵位ごとに選王選挙の所持票数が決められているため、新貴族の創設が非常に難しいからです)。
・大公
  所持票数:ハルシュタット134票、ザルベスタン95票、ウォーランゲル152票、フォルベルト101票、カナンストライド109票、ベークリンガー86票
       これに加えて、同時に所持する爵位の分も投票できる。
 選帝国時代には存在しなかった爵位で、当時の「王(邦王)」に相当。選王家全体の当主にのみ与えられ、王家の根本所領と十指に余る爵位(グラダスでは複数の爵位の同時所持が可能)、そして選王国の多数の官職が付随する――その大半は任命した代理官に任せるが。
・公爵
  平均所持票数:42.7票
 他国では最高の爵位。選王家の重要人物や臣下の大貴族家の当主、直轄領貴族の最上層、独立貴族のごく一部に与えられる。ソイルでは他国の侯爵〜伯爵レベルでも名乗る者があり、爵位がインフレーションを起こしている。ソイルの大都市の領主はほとんどが公爵。
・侯爵
  平均所持票数:30.4票
 言うまでもないが公爵に次ぐ地位。1つの地方を丸ごと領有しているのは、辺境伯でもなければまず間違いなく侯爵以上。
・辺境伯、宮中伯、城伯、方伯
  平均所持票数:16.2票
 他国では伯爵扱いだが、ソイルでは伯爵より上位の爵位。辺境伯は国境地帯や辺境の侯爵並の所領、宮中伯は選王国の上位の官職、城伯は重要な城塞都市を保有している事が多い。選帝国時代には皇帝直轄であったため、今でも基本的に選王に直属しており、選王家の完全な支配は及んでいない。
・伯爵
  平均所持票数:11.9票
 一般人が想像する「貴族」のイメージに最も近い地位。数千人〜1万人規模の都市と周囲の村落を領有しており、下位の貴族を傘下に従えている事が多い。選王家の庶子や支流の当主は、多くが伯爵位を与えられる。
・子爵
  平均所持票数:7.5票
 選帝国時代の「副伯」に相当。直接選王家に属するのではなく、特定の上位貴族に従属している子爵も多い。小規模な街(だけ。周辺地域を含まない)か、街から離れた複数の村落を領有する事が多い。時には2〜3人の子爵が1つの地域を共同統治している事もある。
・男爵
  平均所持票数:2.8票
 他国では最も低い爵位だが、ソイルではそうではない。もちろん、「他国人が見て貴族らしく感じる最低ランクの貴族」である事は間違いない。1000人規模の街(だけ)の領主は男爵が多い。
・王国騎士
  平均所持票数:1.004票(2票持ちは全て選王家の一族)
 他国の上級騎兵である「騎士」とは異なり、貴族として扱われる(他国ではスティニアの准男爵やオータネスの無爵貴族が近いが、この両者は正規の貴族としては扱われない)。ソイルの貴族の8割半が王国騎士で、貴族比率が約15%になるソイル特有の人口比率を生み出している。領主としてはせいぜい小さな村落を統治するに過ぎず、領地を持たない地主や商人も多い。小作人や使用人の王国騎士も、かなり稀にだが存在している。もちろん、男爵以上の貴族の男子が望みさえすれば王国騎士になれるソイルの制度が、この傾向を助長しているのは疑いがない。称号に領地名を冠する事ができない、紋章に本体以外の飾りを使えない、爵位の同時所持の許可対象とならない、などの様々な制約を持つ。

(王国騎士への新規叙任に必要なもの)
 ・直属する上位の貴族と選王国内務省への献納と、それに対する受理
  (それぞれに最低でも1000ムーナ(合計2000ムーナ)の金銭と、金銭以外で貴重な物品を納入します。功績を立てていれば献納は最小限で済みますが、ただ献納だけで叙任を受けるには、最低でも2倍の金額が必要です)
 ・(a)伯爵以上の貴族1名
  (b)子爵〜男爵、王国官僚のうち都市代官(俗称は市長)以上、これらの中から3名
  以上の(a)(b)どちらかの推薦と、それに対する選王国政府の受理
  ((a)は推薦状と代理人出頭で構いませんが、(b)は本人達の出頭が必要です)
 ・祖父と祖母まで遡る家系図(騎士としての紋章の草案を添付)、直系親族と配偶者以外の記述は不要
  (連座制度の廃止以前は傍系親族の記入も義務でしたが、ゲルンシュバルト王家の滅亡に際して、王家や配下の貴族家と親族関係を持っていた選王家や大貴族の圧力により廃止されました)
 ・ソイル選王国の「選王冠」に対する忠誠の宣誓
  (選王個人への宣誓ではありません)
 ・人間で、双子の月の信徒であり、黒の月信仰その他の反社会的信条を持たない事
  (異種族は王国騎士となる事ができません(なろうとも思わないのが普通でしょう)。ただしドワーフの場合は、ドワーフの自治領の貴族となる事でほぼ同等の待遇を受けられます)
 ・ソイル選王国に対して反逆の意思が存在した経緯がない事
  (現実の公務員に一見似てはいますが、「暴力で体制を破壊する」「組織への所属」には限定されず、そもそも不文律なので、かなり恣意的な解釈で叙任を却下される事があります……さすがに、「目付きが悪いから」「俺への態度が反逆的」「付け届けがないから」「私には分かります!」という理由での却下は政治問題になりましたが。なお選王個人への反逆は問われないため、明白な国家反逆であっても、政治的取引で次の選王からは不問にされてしまう事があります)
 ・ソイル国籍のみを持ち、国内・国外を問わず、いかなる貴族位も本人が所持していない事
  (性別制限はもちろん、年齢制限すらありません。もちろん、宣誓は必要なので年齢はおのずから限定されますが、それでも「おぎゃあ」を宣誓と無理矢理見なして生後半年の乳児を王国騎士に叙任した例があります。ちなみに、既に貴族なら他の貴族位を相続や購入できますので、他国の貴族位を持つ貴族も意外と多く存在します)
 ・戦時叙任では、以上の手続きは省略され、選王冠への宣誓だけで王国騎士に叙任できる。
  (選帝国時代からの慣例ですが、選王の中には自分の愛人を叙任するためにわざわざオータネスと国境紛争を起こして親征した者までいます)

◆六選王家

(貴族データ細則)
紋章:宗家の紋章の特徴を示します。個人の紋章はこれに手を加えて使用するため、「王家全体の紋章」は「当主の紋章」とイコールではありません。
当主:当主のフルネームと正式な称号です。長過ぎる場合は適宜省略しています。
本拠地:当主の居城と中心的な行政機構が集まっている場所です。領内の中心的な神殿もこの付近にあるのが普通です。
勢力圏:家そのものや傘下の貴族の領地が固まっている地域です。実際は相続、授与、購入、没収、売却などで、他の家の勢力圏に割り込んでいる事も多くあります。

◇ハルシュタット王家
紋章:直立する竜
当主:トーバルラント大公兼スュードラント大公ジョアネス・ハルシュタット陛下、南部山岳ドワーフ四都市自治領総督
本拠地:〈王女の街〉ベルンクース(人口1万5千)、〈英雄の城塞〉トーバルデルク(ソイル戦争の救国の英雄、ハンス・ハルシュタット・トーバルステイン大公の故郷。人口1万2千)など数ヶ所に散在
勢力圏:中南部内陸〜南部平野

 1095年時点では、最も有力な王家です。ソイルの穀倉地帯の半分近くを支配し、その上にボノン、ゴルンなどのドワーフ都市を領内に抱えており、生産力と軍事力では間違いなく最強でしょう。問題点は農業以外が盛んでない事と、都市が分散型でハルシュタット家自体の本拠地すら数ヶ所に分散している事です。傘下の貴族の封土も細分化が最も進んでおり、生計を立てるのがやっとの弱小貴族ばかりが目立っています。実際ハルシュタット家では、世襲的に重要な地位を占めるような公爵・侯爵級の貴族はほとんどが当主の近親者に占められています。
 スティニア戦争では、ジョアネス王はソイルだけでなくグラダス全体の事を考え、早期に兵力を用いて終戦に持ち込む事を狙っていました。仲の悪いいくつかの選王家の反対はその指揮下にある軍の反旗を促す危険がありましたが、それはフォルベルト家との同盟と貧乏騎士達の支持で乗り切るつもりだったと言われます。少なくとも1093年の選挙が迫る前に参戦にこぎつけないと、新しい選王が何をするか不安だったからでしょう。その後計画は成功し、〈四姉妹〉政権は打倒されて終戦を迎えましたが、その後の選挙の結果はジョアネス王には予想外の結果に終わりました。期待した褒賞の無かった事への嫌悪、王朝の世襲化に対する反発、ジョアネスが圧倒的な力を占める事を嫌った他の選王家やその家臣の意向、またはただ単に飽きたから、といった理由が考えられますが、ともあれジョアネスは大人しく譲位して元通りのハルシュタット家の大公に納まっています。
 現在の問題は貴族の貧困化と、それにも増してジョアネス大公の子供達の間の次期当主争いです。本来は長男のゲーレンが順当なのですが、ゲーレンの存在感が薄いうえに妾腹の子供がやたらと多いため、「我こそは」という子弟間での睨み合いが続いています。貴族勢力が弱いせいで、他の選王家に見られる「支持者を集めて権力奪取」という手も取りにくく、そのせいか今までにもミヒャエル・ハルシュタット、カースレーゼ・ハルシュタット、その他数名によるゲーレンやジョアネス本人の暗殺未遂が発覚しています。当主争いに加担する、あるいは呆れ果てた騎士や男爵達が、集団で政治的な徒党を組む事も頻繁に起こっています。

◇ザルベスタン王家
紋章:天馬
当主:ロジーゼ(ロズルィチカ)大公カレル・ザルベスタン殿下、選王国陸軍北西独立軍団司令、エサレーグ流刑地監視団選王国代表
本拠地:〈緑の城塞〉ザールハイド(ザウロヴィッツェ)(自然に城塞型になった自然の岩盤を中心とする街。人口5万5千)
勢力圏:北部森林

 ソイルの北西を支配する王家で、かつては異民族の国家でした。現在でも領内には他の地方とは明らかに違う方言、人名、服装、料理、建築、慣習、その他が濃厚に残っています。土地は肥えていますが平均気温が低く、農業、特に小麦の栽培は盛んではありません。代わりに盛んなのは林業、鉱業、狩猟などです。
 スティニア戦争当時には、ザルベスタンはスティニアと手を組もうとしていた派閥に属していました。そもそも「異民族の子孫」として差別視されていたザルベスタンは閉鎖的な気風が特に強く、〈盟約〉破棄の声すら強く上がっていました。もちろん当主の〈鴉〉のカレル大公も、ジョアネス王の力を牽制するために、その風潮に便乗してスティニア寄りの主張を支持していました。
 しかし、アナルダ・ハルシュタットとエインリッヒ・フォルベルトの結婚式(結局は破談になりましたが)に王家付きのサリカ高司祭を派遣した事が、それまでのザルベスタン王家の立場を一転させます。ハルシュタット=フォルベルト同盟を形だけでも支援する事になった上に、スティニアの手の者に高司祭が殺害された(が、辛うじて蘇生された)事件によりスティニアに対する感情が激しく悪化、カレル大公は表面上はスティニア支持の姿勢を取りながら、徐々に不干渉方面に転換していきます。更に領内の不満分子を排除してから国内諸派の仲介役を演じてソイルの主導権を握ろうと目論みましたが、結局は領内でも票を取れずに終わりました。
 現在の問題は、選王国政府との間に横たわる大きな隔意です。前述した理由により元から隔意はあったのですが、戦争中の実質的非協力が災いして外部での印象が悪化しています。元々ザルベスタン王家も外部との姻戚関係をほとんど持たないため、そちらの方面から改善する事も期待できません。領内の過激派は、ソイルを見限り独立する事すら想定していると噂されます。

◇ウォーランゲル王家
紋章:黄金の薔薇
当主:ソイル選王セイヤー・ウォーランゲル陛下、選王国ガヤン神殿最高司祭、ベルベンラント大公、コンツデルク伯爵
本拠地:〈七君主の街〉ベルベンバルト(人口6万)
勢力圏:西部北寄り一帯

 ハルシュタット家に次ぐ勢力を持つ王家で、現選王セイヤーはこの王家の出身です。農業生産こそハルシュタット領に一歩譲りますが、産業のトータルバランスとしては工業や鉱業が弱い以外は良好な部類です。唯一の問題は他の選王家の領内より社会制度が全般的に古い点で、グラダスのほとんどで悪弊として廃止された官職売買、農奴制度、荘園での賦役といったものが1095年現在でもしばしば見られます。その分古い名誉心を残す貴族も多く、「平民を守り戦場で血を流すのが貴族の責務」とする気風も浸透しています。
 スティニア戦争当時、セイヤー大公はまだ大公位を継承したばかりで、ウォーランゲル家宰相のセントアイブズが政務を取り仕切っており、そのセントアイブズはジョアネス王の即時参戦論には異議を感じていました。ウォーランゲル家の勢力を守るために幾度もハルシュタット家と衝突してきた当人としては、ジョアネス王が他家に犠牲を強いて国内外での名声を高め、その勢いで選王位に居座ろうとしていると感じられたのです。しかし武官出身である事もあり、絶対的な確証があるまで血を流すのを厭う気持ちも本心からのものでした。しかしそのセントアイブズも逡巡している間に「急死」し、フォルベルト家から急遽戻ったサリカ高司祭ラーシャ・リーデンスベックは動揺を抑えるのが精一杯、国政を左右するどころではなく戦争はジョアネス王の下で終結してしまいました。これでは1093年にセイヤーが選王となったのもカルシファードで言う「箪笥の上から小豆餅」という代物で、はっきり言うならば有難迷惑でしたが、投げ出すわけにもいかず「渋々と即位した稀有な選王」として長く伝えられる事となります。
 そして現在の問題は、ウォーランゲル家が選王を出しているという一点に尽きます。選王国政府から利権を搾り取る事だけを考えて重要ポストを奪い合う傘下の貴族、セイヤー不在をいい事に領内で蔓延する不正、どちらも指導力不足を露呈したセイヤーにはどうにもならず、皮肉な事に単独王家支配を嫌った親スティニア派の目標はここで達成されたような形になってしまいました。

◇フォルベルト王家
紋章:優しき獅子
当主:オストゼーマルク大公エインリッヒ・フォルベルト殿下、レーヴェングレッシャー塩商人組合長官
本拠地:〈塩田の街〉レーヴェングレッシャー(遠浅の海を改造した塩田と木を伐採された禿山の間に広がる細長い街。人口4万)
勢力圏:東部〜東南部沿岸

 海沿いに大きな領地を持ち、富強で知られる王家です。ハルシュタット家やウォーランゲル家のような穀倉地帯はありませんが、沿岸に広がる塩田から取れる塩を王家の専売品としており、沿岸漁業による干魚の生産でも有名です(小売まで専売の塩が領内では高いため、塩蔵品はベークリンガー家やその他の貴族の領地で多く作られます)。近年では昆布の輸出も始まり、ヨードが不足しがちな人間の鉱夫などに供給しています(ドワーフは肉体的にヨードを必要としていません)。
 スティニア戦争では、フォルベルト家はウォーランゲル家と同様に日和見派に属していましたが、当主のエーリッヒ大公がジョアネス王と結んだリューベルツ会議を起点として、ハルシュタット家を支持してスティニアへの制裁を主張するようになります。息子のエインリッヒとアナルダ・ハルシュタットとの結婚で縁を強めようとする動きはノイエ・シュナイトによって白紙撤回されましたが、〈悪魔〉と手を結んでいたルガール・ゼーベンドルツ公爵は倒され、フォルベルト家からスティニアとの内通者はほぼ一掃されました。そして後顧の憂いなくフォルベルト家はジョアネス王に積極的な協力を行い、スティニア戦争を終結させる原動力となりました。しかし過労が祟ったのか終戦直後にエーリッヒ大公は急死、スティニアやオータネスに出張していた兄達を差し置いて四男のエインリッヒ、先ほど名前の出た〈逃げられた花婿〉が大公に祭り上げられます。
 現在時点での問題は、エインリッヒ大公そのものにあります。兄達を差し置いた即位が問題となり、大公を担ぎ上げたグループ以外からは「王家を分解させたくないから仕方なく頭を下げる」という程度の扱いしか受けていません。しかも兄達は王国陸軍の大将、ガヤン大神殿の高司祭、バドッカ駐在の王国大使という具合に選王国政府の有力者でもあり、早急な即位は結果としてフォルベルト王家の立場を苦しいものにしてしまいました。肝心のエインリッヒの能力も芳しくなく、それ以上に〈逃げられた花婿〉として嘲笑を受ける立場にあり、エインリッヒの存命中はフォルベルト王家が選王位を得る事は事実上不可能と言われています。

◇カナンストライド王家
紋章:二つの鐘
当主:バーネウ大公リエーゼ・カナンストライド殿下、フェインハーデン伯爵、選王宮殿宝器室監督官
本拠地:〈青の丘の街〉バーネウ(9つの丘の上に点在し、全体を囲む城壁の無い街。人口5万)
勢力圏:中西部国境沿い

 勢力圏が最も小さな王家で、しかも元から中西部で勢力を強めた王家ではありません。出身地は南東端のカナンストライド半島であり、選帝国時代に対トルドット防衛線を担うために領地を西方に与えられましたが、この当時はまだカナンストライドに本拠を置いて、バーネウには代官を差し向けていただけでした。カナンストライド家の勢力圏が現在の形に落ち着いたのは、三国戦争後に当主の位が一鐘家からバーネウ代官を輩出した二鐘家に移った頃と「されています」。実際には他の選王家に仕えていた貴族の傘下への編入、独立宣言をしたかつての皇帝直轄都市の併呑、オータネスとの度重なる国境紛争などがあり、1095年現在でも未だに10ヶ所近くの国境未確定地点が残っています。
 以上のような経緯もあり、人の交流が国内完結的なソイルでは珍しく、この地域は国境を接するオータネス北東部との交流が盛んで、文化的にもかなり強い影響を受けています。土地は起伏が激しく、エルファや翼人の領域が多い事もあり、農業はあまり盛んでなく、それも穀物より単価の高い他の作物の方が多くなっています(この地方はソイルでは珍しく、ビールと同じほどワインを好みます)。工業にも力を入れているのですが、穀物を輸出して工業製品を輸入する他の王家によりソイルの輸入関税は低く据え置かれており、保護のないこの地方の工業は苦戦を強いられています。
 スティニア戦争では、当主のペーター大公は反選王側に立ち、スティニアと手を結ぶ事をほのめかしながら力を高く売り付けようと図っていました。しかし問題になったのは、ペーター大公の長男のゴーランです。ゴーランは短慮で知られており(狩猟に出てワイラーを挑発し、護衛数名の犠牲を出しながらも辛うじて生還した話は有名です)、父親の方針を勘違いして、スティニア軍の侵入の際に呼応して選王軍を背後から襲うための軍事計画を立て始めたのです。結局その計画は思うように行かないまま終戦を迎えましたが、機密保持が疎漏だったために文官、武官、一般人、神殿の神官、日曜冒険者、その他諸々から情報が洩れていました。ペーター大公はスティニア戦争終了後も位にしがみ付こうとしていましたが、貴族達が内紛状態を突いてクーデターを起こし、遠縁である一鐘家の一員リエーゼ・カナンストライド伯爵が迎えられて新たな大公に即位、ペーターとゴーランはバーネウの王城の〈鳥籠〉に幽閉される事になります。
 現在の領内の問題は、ゴーランの無謀な計画で破綻寸前になった領内の立て直しです。貴族制度の形骸化が最も激しいために僅かに残った特権にしがみ付く貴族、地位上昇と利権の拡大を目論む都市市民、双方に疑念を抱く村落住民などが、しかも一枚岩にならずに個々の思惑で離合集散を繰り返している始末で、若くしかも二鐘家にとっては外来者のリエーゼ大公にとっては、セイヤー王に対するウォーランゲル家領以上に手に負えなくなっています。

◇ベークリンガー王家
紋章:グリフォン(鷲頭獅子)
当主:ザターラント大公ハンナ・ベークリンガー殿下、ディグ他三地区総督
本拠地:〈天蓋都市〉デア・ハーク(夜間は《完全障壁》に包まれる街。人口3万5千)
勢力圏:北東部

 北東に拠点を持つ王家です。領地は日照量が多く乾燥気味の土地が中心で、ジャガイモ、大麦、蕎麦中心の農業が主産業となっています。牧畜もソイルでは最も盛んです。フォルベルト家領と同じく海に面してはいますが、沿岸が雨がちなため塩はほとんど産出しません。沿岸では貿易港計画もありますが、現状では北の港町ヘンデルクでバドッカ向けの食料輸出が始められたくらいです。ソイルとしては珍しく、この地域は人口が希薄(といってもトリースの旧ペノン地方の平均程度)になっています。
 スティニア戦争で、当主のベルンハルト大公はスティニア支持を訴えましたが、本人としては中立寄りな意見に、ジョアネス選王とハルシュタット家への牽制、ハルシュタット家領との間の家畜取引問題での有利な決着、陸軍に対する圧力、その他諸々を付け加えただけのつもりでした。しかしカレル・ザルベスタン大公の転向とペーター・カナンストライド大公の優柔不断のせいで、いつの間にか親スティニア派の中心になってしまい、終戦直前に責任を取って退位、娘のハンナに大公位を押し付けてルークスへの巡礼に赴いてしまいます。ベルンハルトの勇退のおかげか、その後さしたる問題は領内には発生していません。
 余談ながら紋章のグリフォンは厳密には「鷲頭獅子」として分類され、ザノンや帝国式の紋章にある「鷹虎」とは別の生物として扱われます。

◇ゲルンシュバルト王家
紋章:不明(存在するのだが、現在のソイル国内では使用を禁止)
当主:なし
本拠地:なし(元は〈新黄金都市〉ゲルツハイム)
勢力圏:なし(元は南西部山地)

 既に滅びた王家です。ソイル最大の鉱山地帯を抱え、金や宝石のような高価な物、銀のような魔法触媒金属はもとより、パワーストーンの材料〈龍の落とし物〉さえも採掘され、それを元としてソイル最大の富裕な領邦としての地位を築きました。しかし1080年に選王だった〈名を抹殺された王〉が終生王位宣言(皇帝復活宣言)を行ったのが元となり、内戦が起こったのは周知の通りです。〈名を抹殺された王〉は各選王家内部の反主流派を味方に付けて他の王家を屈服させるつもりのようでしたが、反主流派も選王位を狙って活動していたという事を見逃していたため、ゲルンシュバルト王家は孤立無援の戦いを強いられます。結果としてはオータネス国境沿いを早期に占領されたのが原因で農業生産の乏しいゲルンシュバルト王家は干上がってしまい、傘下の貴族の離反の末に壊滅、〈名を抹殺された王〉はカーベルデルクで車裂きの刑に処せられます。主立った一族もできるだけ処刑され、紋章は使用禁止の上碑文からは削り取って抹消、ここにおいて七王家で最大の豪奢を誇ったゲルンシュバルト王家は地上から消え去りました。
 滅亡後の領地は、ゲルツハイム周辺が直轄領に編入された他は、大半を六王家連合軍の主導者ジョアネス大公の属するハルシュタット家が獲得しました。しかし膨大な宝は手に触れずに消え去り、今もなお埋蔵金伝説さながらに噂が飛び交っています。

◆その他の有力諸侯

◇カナンストライド一鐘家
紋章:一つの鐘
当主:カナンストライド半島独立公爵フェレンツ・カナンストライド閣下、選王国海軍南部艦隊司令、カナンストライド旧灯台及び新灯台の灯し手
本拠地:〈灯台都市〉カナンストライド(古代遺跡の灯台を中心とした都市。人口1万)
勢力圏:南東端・カナンストライド半島

 選王家の1つ、カナンストライド二鐘家の本家にあたる名門です。ヒスター皇帝に当時の当主が殺害されたせいで大公位を二鐘家に譲る羽目になりましたが、今でも六選王家に次ぐ名門として認められています。他の王家や大貴族家はもとより、二鐘家ともしばしば縁組を結び、友好関係を保っています。土地が痩せ寒流のために気温が低いためにあまり産業が盛んな土地ではありませんが、ソイル海軍は伝統的にほとんどカナンストライド一鐘家の私兵同然ですし、民間の船乗りもバドッカを拠点として各地を駆け巡っています。

◇エスコナ宮中伯家
紋章:環群星と剣
当主:グラーフシャイデ宮中伯クロチルド・エスコナ・アヴファーク、カーベルデルク市評議会顧問、グラーフシャイデ城補修官
本拠地:〈洞穴都市〉ヘルロスコー(石灰岩大地に隠れるように存在する半地底都市。人口7000)
勢力圏:王都北西・グラーフシャイデ台地

 皇家に直属していた武門の名家で、カーベルデルク防衛の拠点の1つであるグラーフシャイデ城を代々預かっています。長年に渡って選王家を簒奪者として敵視していたために冷遇されてきましたが、先代当主がジョアネス大公に懇意であったために内務大臣にまで出世、長い間取り上げられていた一部の領地を取り戻しました。しかし先代当主が親スティニア派に殺害されたため、遺児である現在の当主は方針を転換してハルシュタット家を激しく敵視しています。


◇推定神殿組織図◇

 ガヤン神殿の構造を基に、勝手に作ってみた双子の月の神殿の組織図です。

・青の月の神殿

 青の月の神殿組織は、秩序立った部局の集まりにより構成されています。神殿に勤める神官や高司祭だけでなく、勤労奉仕を行う外部の信者であっても所属部局は明確に決められており、1人が複数の役を務める事はよほど小さな神殿でない限りまずありえない事です。1つの神殿の内部に勤める信者の大半が、入信者となってからの半生を同じ神殿に奉げてきた者である事もよく見られるでしょう。

・ガヤン神殿組織図

神殿長┬(契約の神殿)┬審訴部…商業組合・貨幣鋳造所
    │         └執行部…行政府
    ├(法の神殿)┬裁決部─記録室
    │       └警邏部┬内警
    │            └外警…軍・衛視組合
    └教導部┬道場
          └施設管理係
(部の長は「〜長」)

 「契約の神殿」と「法の神殿」は別の建物を、時には別の神殿長を持つ事もあります。統治組織との結合が強い地域(もしくは統治組織が弱い地域)ではガヤン神殿が事実上の行政府となり、神殿長が町長などを兼ねますが、逆に警察権の多くを統治組織が持っているなら、警邏部は神殿の警備役や私的な衛視(ガードマン)の組合に過ぎません。教導部には現場を退いた人物かもしくは現場就任前の未熟な者、もしくは実務を行うには心身に問題のある者が多く、教導長には権威はともかく権力はさほどありません。大きな神殿の神殿長には、副神殿長、秘書、書記、護衛といった、他の部局から独立した要員が付いています。
 ドワーフのガヤン神殿には「契約の神殿」に相当する部署は存在せず、行政一般はジェスタ神殿で扱い、民事訴訟も刑事裁判と同じ裁決部で審判します。人間の神殿とは教義の違いが大きいため交流は盛んでなく、犯罪者の引渡しすら行わない所がかなり多くなっています。例外は、ドワーフ勢力が国家の中枢に深く関わっているトルアドネス帝国と、ドワーフが被差別民族であるカルシファード侯国くらいです(後者の場合、交流というよりは一方的な支配ですが)。

・サリカ神殿組織図

神殿長┬教導社/教えの司┬教導所
    │           └修練所…修道学院
    ├集会社/集いの司┬施設管理係
    │           ├生活保護係…孤児院・養老所など
    │           └各種相談係…農事相談所・結婚相談所・各種呪文サービスなど
    └施療社/癒しの司─施療院

 この組織図は街の神殿における模範例で、村の神殿ではせいぜい、神官1名が神殿長となり、専任の入信者1名が補佐をしている程度です。大きな神殿でも青の月の神殿としては組織的にややルーズで、1人が所属する部局はやはり1つだけですが、他の部局の仕事の手伝いに出される事が頻繁にあります。
 ドワーフのサリカ神殿は全ての部局が「〜部」、長は「〜長」となります。また、地下空間の換気を司る「空調部」が存在します。やはり、人間の神殿との交流は乏しいものです。

・ペローマ神殿組織図

神殿長┬医学門┬医学学院
    │     └施療院
    ├史学門─歴史学院
    ├博物学門┬博物学院
    │      └博物館
    ├その他多数
    │(以上の学術関連の門は、あくまでも一例。小都市の神殿にはまず存在しない)
    ├教導門┬上級教導所
    │    ├修練所
    │    └施設管理係┬警備班
    │             ├宿舎
    │             ├購買所…薬種組合・霊薬製造所
    │             └収蔵庫
    └書記門┬図書館・文庫
          └写生所・写本所・印刷所…書籍組合・画工組合・書記組合・製紙組合(ドワーフ)
(門の長は「〜長」)

 大都市では多くの学院を連ねるペローマ神殿ですが、普通の都市では図書館などを併設しているだけの小規模なものです。そういった神殿の独立性は低く、事実上大都市の分神殿……というかフィールドワークを行う信者用の宿舎と化している事も珍しくありません。ペローマの教導長は役割が非常に多いため、しばしば「その他長」と冗談めかして呼ばれます。
 ドワーフのペローマ神殿は、信者がかなり少ないために規模も小さくなります。ハン=トルアのような大都市でもない限り、各種の学院を構えた堂々たる姿を見る事はできません。また、やはり全ての部局が「〜部」となりますし、技術の研鑽を行うのはペローマではなくデルバイの神殿になります。ファウンの医師はスポーツのトレーナーと鍼師と按摩師と救急隊員を兼ねたような存在(つまりは、「鍛錬を成し遂げる補助をする」のが中心)であるため、薬品や複雑な手術を用いる医術はペローマ神殿が扱っています。信者の人数がかなり少ないため、特に人文系の学問を行う者は人間の神殿と頻繁に交流しています。

・ジェスタ神殿組織図

神殿長┬工匠部…職工組合
    ├防衛部…軍
    ├修営部┬消防
    │    ├清掃
    │    ├道路整備…リャノ神殿
    │    ├水道・運河整備…リャノ神殿
    │    ├防壁整備
    │    └その他様々
    └教導部┬鍛錬場
          └施設管理係
(部の長は「〜長」)

 ジェスタ神殿の部署の役割分担は、青の月の神殿でも特に厳密なものです。「部」の内部でも担当領域は厳密に決められており、越権行為は厳しく排斥されています。組織の上下関係を重視するあまり部局間の連携が乏しくなる事は、近頃では内部でも問題視されています。なお専門の訓練施設は神殿により「道場」「修練所」「鍛錬場」と呼ばれますが、ガヤンやアルリアナの道場は武術を通して教えに至る〈道〉を見出す事を趣旨としている特徴的な施設です。それと比べると修練所は精神寄り、鍛錬場は肉体寄りという意味合いをやや含んでいる程度で、あまり深い意味合いはありません。
 ドワーフのジェスタ神殿は社会の中心として、民事調停や水道管理のような、人間では他の神殿が行う役割まで担当しなくてはなりません。人間社会の王とガヤン最高司祭の関係と同様に、ドワーフの国では総領がジェスタ最高司祭を兼ねている事がよくあります。

・デルバイ神殿組織図

神殿長┬開削部┬居住区開削(地下道・地底街道含む)
    │     └坑道開削
    ├工匠部…職工組合・技師組合・火薬製造所
    └教導部┬工学院
          └施設管理係
(部の長は「〜長」)

 デルバイの神殿のほとんどは、ドワーフ社会に存在します。職工組合はジェスタとデルバイの両方の神殿と関係を持っていますが、秩序重視のドワーフ社会ではほぼ確実にジェスタ信者が主導権を握っています。
 人間のデルバイ信者はジェスタ神殿の組織に混ざって行動するか、もしくは自らもドワーフの共同体に混ざって生活しています。ファイニアには陸軍直属のデルバイ神殿が存在し、火薬の製造と銃兵の訓練を行っていますが、従来の神殿とは「敵対する神殿」関係になっています。

・ファウン神殿組織図

神殿長┬医術部┬施療院…薬種組合
    │     └養生院
    ├祓魔部┬葬祭師…墓地
    │    ├祓魔師(アンデッド退治人)
    │    └執行師(死刑執行人)
    └教導部┬鍛錬場
          └施設管理係
(部の長は「〜長」)

 ファウンの神殿も、ほぼ全てがドワーフ社会に存在します。ドワーフの集落では片隅に(主要部分が地下なら大空洞から離れて)存在する事が多く、地底に広がる墓地群(もちろん土葬)を管理しています。英雄とされた死者ほど地底深くに葬るため、その際に〈多足のもの〉や封印された〈悪魔〉を発掘してしまう事があります。逆に地位が低いほど埋められる場所は浅くなり、処刑された者は地下水脈に捨てられるか、ぞんざいに火葬されて地上に捨てられるかのどちらかです。ドワーフ社会では墓地を不浄とする事はなく、施療院の近くや家屋の敷地内に埋葬する事もしばしばあります。ファウン神殿ではしばしば、主に外傷に対処する施療院と、痛んだ肉体を鍛えられる状態に復帰させる養生院が別個に存在しています。
 人間のファウン信者は個人の家やサリカ神殿の一角を用いる事がほとんどで、鍛錬やアンデッド退治の側面を持つ事は滅多にありません。もっとも、ドワーフ社会の少数民族としての人間は話が別ですが。

・赤の月の神殿

 赤の月の神殿組織は、必要に迫られた部分だけは整備されています――つまり、大半はかなりいい加減な代物です。部局の長も1人が複数を兼任していたり、複数の人物が同時に1ヶ所で務めていたりする事がしばしばです。信者の流動性もかなり高く、あるガヤン信者の統計では部署の長クラスの在任期間の平均が、リャノ神殿でもガヤン神殿の6割、シャストア神殿では「記録が存在せず調査不可能」だったそうです。

・シャストア神殿組織図

神殿長─教導…劇場・劇団・遊戯場・浴場・印刷所など

 シャストアの神殿に、部局らしい部局は基本的にありません。しかし何名かの教導が存在しており、自己の権利と責務により神殿の付属施設を管理して、従事する信者への技能や呪文の指導も行っています。もちろん、信者の大半は複数の役割を掛け持ちしています。シャストアの神殿長は純然たる名誉職である事が多く、プリシラさんのように秘密結社の活動をしながら遊び歩いているだけという事もよくあります(いや、さすがに秘密結社で活動するのは少数派でしょうが)。

・アルリアナ神殿組織図

神殿長─教導(組合の長のみ「束ね」)…遊興組合・施療院・霊薬製造所・道場・庇護結社・狩猟組合・祭祀会など

 アルリアナの神殿のほとんどの部局は、必要に応じて結成され、役目を終われば解散される一過性のものです。もちろん必要な時期が短期間でなければ、職業組合や錬金術の製造施設などのように安定して存在する事もあります。一過性の部局で最も重要なのは、冬至・春分・夏至・秋分などの祭りを運営する祭祀会でしょう。

・タマット神殿組織図

表の神殿長┬兵の束ね─鍛錬場…傭兵組合・軍
 │     ├商いの束ね…商業組合
 │     └賭けの束ね(賭博が合法な地域のみ)…賭博場
 │
裏の神殿長┬盗みの束ね…すり・夜盗
       ├街の束ね…物乞い・情報屋
       ├影の束ね…スパイ・始末屋
       ├賭けの束ね(賭博が合法な地域では表と兼任)…賭博場
       ├市の束ね…闇市場
       └野の束ね…レンジャー・スカウト
        (あくまでも一例。闇タマットでは快楽の束ね、鎖の束ね、血の束ねなども存在。詳しくは「ルナル」P42・44参照)
(部門そのものに名前は付いていない。表と裏、または裏の内部相互で束ねを兼任する事も多い)

 部局そのものに名前が無い事から分かるかもしれませんが、タマット神殿の組織は個人的繋がりを紐帯としている事が多く、1つの部門が個人的抗争を理由に2つ(もしくはそれ以上)に分割されている事もよくあります。後任者に渡すまいと書類や備品を先任者が持ち去る事も、神殿長と関係が悪い束ねが配下を率いて部局全体が他の神殿に鞍替えする事もありえます。なおルナルの「ギルド」(カルシファードでは「座」)は特定の神の信奉団を兼ねているものを指すのが普通で、そうでないもの(主に複数の神の信奉者が関わるもの)だけが「組合」と呼ばれます……という事にしておきます(組織図では全て「組合」としています)。

・リャノ神殿組織図

神殿長┬(水利神殿)─水利社/樋(ひ)の司…水道(飲用/農業用/工業用)管理局
    ├(水運神殿)─水運社/船の司…船員組合・商人組合・漁撈組合・水路管理局・造船所・水軍/海軍
    ├(旅宿神殿)─旅宿社/標(しるべ)の司…旅館組合・商人組合・街道管理局・公設宿泊所・憩いの小屋
    ├(料理神殿)─料理社/膳の司…料理人組合・醸造組合・糧食管理局・飲食品市場
    ├(楽人神殿)─楽人社/音(ね)の司…楽人組合・楽器職人組合
    └(教導神殿)─教導社/教えの司─教導所・その他の訓練施設
(大きな神殿でなければ、各神殿は同居している場合も多い(水利+水運で「水の神殿」、料理+楽人で「宴の神殿」など)。同じ街で同機能の神殿が分散している場合もある(泉に「第一水利神殿」、用水路に「第二水利神殿」など))

 よく知られているように、「社」ごとに別の神殿を建てるのが大きな神殿では普通です(組織化の際にガヤン神殿を参考にしたとも、赤の月の信者にとって可視化されない概念上の組織を維持するのは困難だったからとも言われます)。結果として神殿長は強い権力を持つのではなく、社ごとの利害を調整するのが主な任務となります。社の代表である司が複数存在する事もよく見られ、しかもその中での代表者や順列を決めていない(もしくは決めていても特別な呼び名を持たない)事が多く、時折外部(政府や青の月神殿)との揉め事の発生源となっています。

・ナーチャ神殿組織図

 ……はありません。ごく稀に複数のナーチャ信者が共同生活している事がありますが、明確な役職は存在せず、尊敬される年長者や実力者が自然と代表を務めるくらいです。


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