◇新大陸通信・07号◇


 二次創作の伝承類です。


◇アルフレイムの神話と伝説

 
 時代も場所も様々な二次創作話です。


☆アステリアの渡来

 
 レーゼルドーン大陸の神々の都で、日々を満喫する人々の姿にライフォスが満足し、ティダンが人々と暮らしを共にするなか、アステリアは物足りなさを感じていた。すでにアステリアと従者のエルフ達は、レーゼルドーン大陸もテラスティア大陸も隅々まで探検して、人の手が触れた事のない新しい場所を探していたからだった。
 ある朝、レーゼルドーンとテラスティアを跨ぐアレスタ海から、アステリアはエルフ達と、帆掛け船で東の彼方へ旅立った。エルフの数は十二を十二倍した数。十二の船に分かれて乗って、先頭の船にアステリアが腰掛けた。

〜海の冒険譚が続く〜

 いくつもの昼と夜を重ねたある日、船団は新たな大地を見出した。自然の力が大地にも空にも満ちて、小島が天の上を駆ける。
「ああ女王よ、これはいかなる不思議なるか。奇しくも妙なる大地なり」
 エルフの長が女神に拝し奉る。
「こは言いようもなく素晴らしき土地ぞ。広く歩き、広く見、ライフォス達にも伝えたし」
 女神の言葉を賜り、長は首を垂れた。
「そうあらば、速やかに舟艇を」
「そなたらは後につきて参りなされ。我は汝らを先導せん」
 女神は海に足を踏み入れ、波は女神の足を支えるかに鎮まる。
 水面を踏みしめて渡ったアステリアの足が、アルフレイムの大地に触れる。そこには[記録により異なる]が芽吹き、花が咲き誇った。

〜あとは長いので略する〜

 
(解説)
 アルフレイム大陸で最も親しまれている神話のエピソードで、本筋から異伝まで含むと本棚を埋め尽くすほどのバリエーションがあります。神々の都に近かったテラスティア大陸とは異なり、古代神には「海の彼方から来訪する神」としてのイメージが強くあります。
 バリエーションの中には、「リカントに人と獣の力を授ける」「美しい花に魅せられてメリアを創造する」など、アルフレイムならではのエピソードも豊富です。

(解説の解説)
 本気で書くと長いので適当に。あと実際のアステリアの言動はもっとカジュアル。


☆ラクシアの信仰概説と、異端信仰について

 
――とある“知識の剣”塔において――

「急募:ラクシアの信仰概説についてのレポートの材料」
「まあいいけど、随分大雑把な課題だよね。まあ入りたてだし」
「ありがと。えーと、ラクシアの人族と蛮族は、〈始まりの剣〉から力を授けられた神々を信仰している、っと」
「だよね。そこで掘り下げがいると思うんだけど、まず2通りあるよね」
「どんなの?」

「その1:信仰ってどういう事?」
「え、えーと、改めて言われると、照れるよね」
「簡単に言っちゃうと、“小さき人々”が祈りを捧げて微小なマナを神々に届けて、神々は神聖魔法やその他の奇跡として恩恵を授ける」
「ギブアンドテイク」
「まあそうだけど、そこには“小さき人々”側の意思も大事だから。親愛とか畏服とか献身とか、神様を支えたいという心理的つながりがあるから、神様とのつながりが生まれる……みたい」
「みたいって」
「完全にシステムとして解き明かされてるわけじゃないからね。肝心の神官達は、そんな解き明かそうとする発想自体持たないから」
「ああ、タビットが神聖魔法使えないのは、解き明かしたがる性格が神様に嫌がられるとか?」
「そこまで単純じゃないんだろうけど、『我は神だ』と言い出すのから、『タビットが存在できる事自体が神聖魔法の働きだ』と言う人までいろいろ」
「ルーンフォークは、人工の存在だから?」
「心理的に神様と通じ合えないのかなあ。もしくは人工的に作られた理性が邪魔をするとか。妖精が見えないのも考えると、人工だからってのが大きいんだろうけど、神聖魔法だと人族って判定されるから、神様に嫌われてるわけじゃないっぽい」
「ぽいって」
「だって真相分からないし」
「あ、そういえば、つながりって?」
「神様のしてほしい事を、自分から進んでするってのが大きいかな。ライフォスだったら『みんな仲良くしたい』『人族を守りたい』って風に」
「すごいよねー。私も神聖魔法ほしいー」
「神聖魔法という見返り目当てに信仰してるというのも、まあ蛮族に多いっていうけど、そういうのでも結果的には神様の意思に則った行動してたりするし、そういうのは意気投合タイプって感じかな」
「いきとうごう、っと」
「そのまま書かないで、いったんメモして図式化して整理するように。提出後に説明を求められても楽だよ?」
「はーいっ」

(かりかりかり)
「あ、その2は……」
「神様を信仰しない、別の何かを信仰する」
「え?」
「しばしばあるのが、〈始まりの剣〉を直接信仰するタイプだよね。神官でも『第一の剣の神々を全体的に尊重する中で、特定の神様を信仰する』ってのもよくあるし」
「ああー」
「第二の剣だとあまりないね」
「神様同士の仲が悪いから?」
「控えめに言っても悪いよね。あと、バルカンっていう地底の蛮族は、なぜか第二の剣の神々を嫌ってて、剣を直接信仰しているっていうし、ガネーシャっていう蛮族も剣を直接信仰して独自の修行をしているっていうけど、そこまで入りたてのレポートに要求されないかなあ」
「でも覚えとく。ほかには?」
「アルフレイム大陸だと、やっぱり奈落教。“奈落”を崇拝するという謎の教団」
「……ね、ねえ。一応聞くけど」
「関係ないから。もし関係あっても、先輩後輩程度でぶっちゃけるわけないし――ああ話は戻るけど、奈落教は“奈落”を崇拝しているのであって、魔神を崇拝しているわけじゃないよ?」
「そうなの?」
「うん。奈落教は『魔神は神々が与えた試練』と称してるから、魔神とかラーリス信者とかは仲良しじゃないし、たぶん」
「そうなんだ。でさ」
「ん?」
「ほかの大陸にも、神々じゃない何かを崇拝するのってあるの?」
「テラスティア大陸の東のシレスカ列島、プロセルシア帝国だと、ドラゴンが土地を豊かにする――ていうかドラゴンがいないと不毛な土地になる――から、ドラゴンを土地の守り手としてるけど、ドラゴンと盟約を結んだ初代皇帝が神になってるのを崇めてるから、ちょっと崇拝とは軸がずれるかな」
「へえ。ラクシアも広いよね」
「昔の話だけど、魔法文明時代、テラスティア大陸のカルゾラル高原だと、動物の祖霊を崇拝するという変わった思想があってね。妖精であり人族でもあるフィーが妖精を生み出すトーテムを守るっていうんだけど、それとの関係があるとかないとか」
(夜は更けていく――)

 
(解説)
 アルフレイム大陸の知識層(大半の冒険者を含む)における信仰の理解の、あくまでも一つです。ラクシアの人族にとって、信仰は根本的な常識であり、改めて考えるという事はあまりありません。教義の論争は人族では「カップリングの前後」とか「解釈違い」とかそういうレベルで収まるのが普通であり、蛮族は「それより力、力!」であまり考えません。
 もちろん、目に見える利益をもたらすもの、例えば高レベルの神官とか、蛮族を追い払う幻獣とかに敬意を払うとかいうのもありますが、それは(庶民レベルではなく、賢者レベルでは)信仰とは別の話として扱います。

(解説の解説)
 神の影響が目に見える形で存在する世界での信仰のありようは、ファンタジーにおける大きな課題です。神の上にさらなる上位者がいる設定なら、その関係もより複雑になります。神官以外には何もできないフォーセリアの神とは違い、ラクシアの神は自分でもいろいろできますからなおさらです。

(後記)
 「水の都の夢みる勇者」3巻によると、奈落教、魔神へ対策する人や組織にテロ仕掛けたりする嫌にアグレッシブな組織らしく。まあ各地の支部も統一されて動いてるわけではないでしょうけど。


☆ころされたおうさま

 
 むかしむかし。
 ドーデンちほうのにしに おうさまがいました。
 おうさまは ライフォスしんでんでしゅぎょうをしていましたが おうさまをしていたおにいさんがしんで せんじゃのうらないで おうさまにえらばれたのです。

 おうさまはおそろしく きにいらないことがあると すぐにいいました。
 「ころせ!」
 そうして しょくじがおいしくないりょうりにんも えだのながさがきにいらないにわしも はんらんをとうばつにむかったししゃくも おうさまのきしにころされました。
 おうさまのちいをねらった ふくおうは ふくおうのしつじがとめてもきかず おうさまにせめられて しにました。
 キルヒアしんでんにいた おうさまのおとうとも ふくおうとなかよくしたとうたがわれて にげましたが ころされました。
 「このままでは きっと わるいことになります」
 そういった きゅうていまじゅつしも おうさまに なかなおりにいったでしをだましうちにされて とうをやいてしまいました。
 もう だれも おうさまをとめません。

 おきさきの おにいさんも おうさまにきにいられなくて おしろにとじこめられて しまいました。
 あるひ おきさきにおうじさまがうまれて おきさきのおにいさんがとじこもっているおしろに おいわいのひとがきました。
 おうさまは きにいりません。
 つぎのよる あんさつしゃが おにいさんのおしろをおそって おにいさんはころされて そせいできないように くびをきりとられました。
 あんさつしゃのうわさをした まちのひとたちも ころされて くびをきられました。
 ティダンの こうしさいは にっきに かきました。
 「みんなが おうさまに おびえている」

 ちいさな はくしゃくが みやこにいました。はくしゃくのせんぞは おうさまのせんぞをたすけて あたらしいおうさまにしたひとでした。
 おうさまは はくしゃくのはとこをかわいがって はくしゃくのりょうちを なんども とりあげようと しました。
 はくしゃくは じぶんのおしろに とじこもってしまいました。

 おうさまが しんだふくおうのこどもたちをころして かえってきました。
 そこに はくしゃくのこどもから つかいが きました。
 きげんのいいおうさまが でむかえると つかいは てがみをさしだしました。
 てがみをひらくと こう かいてありました。
 「サンダーバードのひなが てにはいりました。
  たたかいにかったきねんの えんかいをしますので サンダーバードのひなも みにきてください」
 はくしゃくのいえは おうさまのためのおいわいのおどりをおどるのも やくめのひとつです。
 なかがわるくても さそわれたら おうさまも いかないわけにはいきません。

 おうさまは はくしゃくのはとこや おうさまのきしたちや えらいきぞくたちをつれて はくしゃくのおしろにいきました。
 はくしゃくは おいしいりょうりや うつくしいしなもので でむかえます。
 おうさまがたのしくしていると はくしゃくは おいわいのおどりを おどりはじめました。

 「サンダーバードのひなが はやくみたいぞ」
 おうさまが そうやって つぶやいていると おしろのどこかで さわぎがありました。
 「なんの さわぎだ!」
 おうさまは あたまにちがのぼって さけびました。
 えらいきぞくが 「あれは かみなりでしょう」といいますが いらいらしたおうさまは またさけびそうで きしたちは なにもいえません。
 はくしゃくのこどもが いいます。
 「うまやの ティルグリスが あばれています!」

 きぞくたちが さわぎます。はくしゃくのはとこは フランベルジュをかまえて おうさまをまもろうとします。
 そこに ぶきとよろいにみをかためた はくしゃくのきしたちが やってきて ベク・ド・コルバンで はくしゃくのはとこを なぐりころしてしまいました。
 おうさまのきしたちが よろいもきていないのに たちむかいますが はくしゃくのきしたちが アールシェピースや シェルブレイカーで つぎつぎと ころしていきます。
 きぞくたちは なんにんかがたたかいましたが おおけがしたり ころされたりします。なんにんかは にげてしまいました。おうさまのしつじも ひっしでにげました。
 おうさまは きしにあずけていたスコーピオンテイルを とろうとしますが きしがころされて うけとれません。
 はくしゃくが グレイヴをふりかざします。

 すぱん!
 グレイヴで おうさまのくびが おとされました。
 はくしゃくは グレイヴのさきに おうさまのくびをつきさして おしろをやいて りょうちにひきあげます。
 「おうさまは しんだぞ!」
 「おうさまにおびえない ころされない くにを つくるんだ!」
 ティダンの こうしさいは にっきに かきました。
 「こんないぬじには むかしから きいたことがない」

 
(解説)
 キングスレイ鉄鋼共和国と、首都キングスフォールの名前の由来……はむっちゃR-18だったので(『鉄道の都キングスフォール』を読もう!)、翻案したおとぎ話です。王ではなく魔動機文明時代の有力者の没落をイメージしたという説もあります。

(解説の解説)
 だいたい足利義教。仮名だけにするとファンシーに……全然なりません。


☆大地に呑まれた戦神

 
 神々の戦いの最終決戦。
 迎え撃つはライフォスが率いる百万の聖なる戦士達。
 挑むはダルクレムが従える百万の怪物の群れ。
 生きながらに“穢れ”を受けて身も心も歪んだ哀れな者どもを、[以下欠落]

 [欠落]ダルクレムはライフォスの防御の構えを崩しきれず、グレンダールの剣に足を払われて、もんどりうって下の大岩を、数十の蛮族もろとも、ゼリーめいて叩き潰す。
 怪物どもは四散して逃げ惑うが、戦士達は傷付きまたは倒れて、追撃戦には移れなかった。
「そなた達は下がりなさい」
 キルヒアが戦士達を癒しながら言った。
「神の戦いは、神が決着をつける」
 第三の剣、ダルクレムが手に入れんとして、その手から逃れて千々に砕けたカルディアの緑の輝きが、キルヒアの身から放たれていた。

「諦めよ」
 アステリアが、いかなる氷よりも冷たく言い放つ。
「もはや人の子ではない、第二の剣の力に溺れた怪物よ。この場から下がり、怪物どもの王として生き延びるのだ」
「諦めぬ!」
 ダルクレムを厭うように力をぶつける妖精達を振り払うように、イグニスの赤い輝きをその身から放つ悪神は、九つの腕に九つの武器を構える。
「すべては、余のものだ! ラクシアも! 剣も!」
 戦神の隠していた二本の腕が、弓に矢をつがえ、放つ。それを予期していたかのように投げられていた金属の星が、矢の勢いを殺して受け流した。
「油断するな、アステリア。シーンのためにも、君を無事に帰す務めがある」
「いつも奥様の事が念頭にあるのね」
 避けようとしたところに割り込まれて、ティダンのいつも通りの落ち着いた様子に、アステリアは緊張を和らげた。
「そして気付いてみろ、娘っこ」
「何をですの。もったいぶらないで」
 アステリアの疑問に、口数少なきグレンダールは、自身を、相手を、そしてダルクレムと対峙し続けるライフォスを指さす。
 第一の剣、ルミエルの青き輝きを帯びたライフォス達は、足元が大地から軽く浮かんでいた。

 そしてわずかずつ、しかし着実に、第一の剣の神々は大地から上へと遠ざかる。ダルクレムは罵る。
「逃げるのか、ライフォス!」
「引き離されるのだ。我々はラクシアを傷付け過ぎた。〈始まりの剣〉の摂理が神々の戦いを分かち、しかるべき日が来るまで会う事はないだろう」
「たわごとを!」
 ダルクレムは新たに翼を生やし、ライフォスを追おうとする。その足元に無数の土が膨れ上がり、弾けた。
「あああおおお」
「ううううううう」
 第二の剣の神々。生きた神も、死んだ神も、無数の腕を、触手を生やし、ダルクレムを大地に繋ぎ止める。
「邪魔をするな!」
 ダルクレムが無数の腕で武器を振るうが、いくら斬り飛ばしても、叩き潰しても、第二の剣の神々の、引きずり込もうとする動きは止まらない。
 ダルクレムは自らの身体が重さを増していくのを感じながら、怒りがそれを認めまいとして、武器を振るう。
 地層が割れる音が、戦神の怒号を押して響き、[以下欠落]

 
(解説)
 神々の戦いの終わりについての伝承の一つで、神紀文明末期から魔法文明時代初期に記された石碑や黄金板に多数見られる話です。
 ダルクレムが大地に呑み込まれたのは、「第二の剣に引き込まれた」「第二の剣の力を引き出しすぎたからだ」「あまりの邪悪さに大地の底に呑まれた」などの説がありますが、「そもそも現場を誰が見ていたのだ」「キルヒアが遠くから見ていたのでは」「それならキルヒアはどこへ行ったのだ」「古代神に聞くために【コール・ゴッド】してみろ」「それだけのためにできるわけねーだろ」などにより、魔動機文明時代に大騒動になり、それ以来放置されています。テラスティア大陸のザルツ地方の“神のきざはし”の上にほぼ確定されている第一の剣の神とは違い、第二の剣の神がどこへ行ったのかも定かでならず、「ダルクレムが大地に飲み込まれた場所」を名乗る所はラクシア全土に数多くあります。

(解説の解説)
 ほんとにどこへ行ったんでしょうね、ダルクレム。
 怪物めいたダルクレムの姿は、「2.0」リプレイ「Rock'n Role」の「全ての蛮族の攻撃的な部位を備えたダルクレム神像」や、インドの多腕の神様から思い付きました。各種別ごとに1つの武器を持ち、ついでに頭や脚も増やしておきましょう。


☆時代を越えた疑問

 
(数人の若者がいる光景。周囲には人数分のマギスフィアが浮いている)
「ところでさ」
「ん?」
「“炎武帝”グレンダールの“帝”って、なんで帝なの?」
「そういえばそうだよね。神様は“なんとか神”なのが普通なのに」
「“始祖神”が神々や文明の始祖だったり、“太陽神”が自然を操ったり、“妖精神”がマナから妖精を生み出したり」
「ああ、それはね(Pi)」
(手元のマギスフィアを操作する)
『帝……“まとめあげる”。“皇帝”は“輝く統率者”というエルフ語に由来する。魔法文明時代に存在した“高貴なるエルフ”が、魔法王のうちの上位者を呼ぶ単語として用いた。一般のエルフはあまり用いず、おもに人間の地方語へ概念が引き継がれる』
「なーんか、分かったような分からないような」
「炎を扱う技術と、それで生み出す武装を司る、って意味じゃない?」
「それを言うなら“韋駄天”ラトクレスだって、えーと(Pi)……生まれた地方で“戦いの神”って意味の単語を魔法文明語に訳する際に誤訳したのが定着したんだとか」
「でさー、お茶買ってきたから魔動サモワール沸かして」
「あ、お菓子もー」
「ボドゲー持ってきたから」

(投影していた映像が止まる)
『マギスフィア再生、“17000230092055”終了しました』
「日常の光景としては中途半端で、知識の面でもこれといった決め手にはなりませんね」
「マギスフィアを端末として、アル・メナスネットワークを気軽に使ってるから、たぶん末期だと思うんだけど」
「このマギスフィア自体はここの家に代々伝わってきたものですから、持ち主は“大破局”を生き延びた可能性が高いですが、データを整理する機会がなく命を落としたのか」
「整理整頓が下手だった、とか」
「ご主人と同じですね。血のつながりがあるのでしょうし、さすがよくわかっていらっしゃる」
「何ですとっ!?」

 
(解説)
 キングスフォールで、同じ一族が魔動機文明時代から暮らしてきた家の地下室から出てきたマギスフィアです。映像ファイルの名前が自動でつけられたままだったところを見ると、気軽に撮影されたもののようです。

(解説の解説)
 “炎武帝”グレンダールの“帝”って何なの。みんなが思い続けてきた疑問でしょう。
 ちなみに現実では、商(殷)の最高神の名前から、君主の称号として使われるようになったそうです。


☆超越してしまったもの

 
 みんなはどこへ行くの。
 獣同然だった人の子に調和を教えたライフォス。
 ラクシアを一人でばらばらにしたダルクレム。
 誰もかなわない戦士、魔法使い。
  竜刃星を退けた竜の群れも。

 英雄を越えた超越者。
 道を行き尽くした先に行く求道者。
 長く生き過ぎた竜。
 小さき人だったのに〈創世の剣〉を体現してしまった神様。
  神様の力を受けたエルフの王様もまた。

 みんな地上にいられない。
 ラクシアの枠も狭すぎて。
 みんな詰めるとばらばらに。
 だから世界はみんなを外へ。
  時空の軸のその外へ。

 ルミエルの秩序は天の上へ。
 イグニスの力は地の底へ。
 カルディアの知恵は宇宙の外へ。
 フォルトゥナがあるのなら、知らない所へ連れていく。
  呪われし魂は竜刃星が鎖につなぐ。

 
(解説)
 魔動機文明時代後期に作られた詩です。神々や英雄が最後には地上を去っていく事をうたったもので、特に実証的な裏付けがなされているわけではない、純粋に文学的なフィクションだと思われていますが……?
 元はエルフ語でしたが(当時は数少ないアーバン・エルフの執筆)、各言語に訳されています。大きく分けて2つのバージョンがあり、4行ずつの構成が一般的ですが、エルフ語とドラゴン語では5行ずつになっています。

(解説の解説)
 ラクシア世界でも、世界から逸脱すると異修羅世界に飛ばされるのです(胡乱)。


☆悪王

 
「問おう、[判読不能]。蛮王とは何か」
 答えよう、[判読不能]。蛮なる王である。
「蛮族の王か、王たる蛮族か」
 族は血肉により判されるが、王は意志によるものなり。
「つまり、蛮王は蛮族である必要はないと」
 蛮族を統べ、蛮族の行いを選べば、それは蛮王である。蛮族でも、人族でも、死にぞこない(アンデッド)でも、魔神でも、幻獣でも――竜でも、変わりはない。
「それはありふれている」
 ありふれている。[判読不能]以来は。
「蛮王では人族に勝てぬ――少なくとも、アルフレイムでは」
 ならば、何を求める。
「蛮王より――さらなる強者を」

 テラスティアには、魔王がいた。
「魔王とは」
 魔法王――といったか。その中でも、法無き魔術を極めた王であった。
「魔術。神族に触れる事あたわざる術か」
 神に届けば、もはや魔術など不要であろう。神は〈剣〉の法を体現せし存在。
「ならば、魔王より強き存在は!」
 神。
「否! 〈創世の剣〉にひれ伏し、法のしもべとなる事を拒む!」
 しもべではない。神は法そのもの。竜でさえ拒めぬ、ラクシアの力そのものだ。
「それでも! 神ならざる何者かがあれば答えよ!」
 ――人族と蛮族、そして幻獣の賢者が語りしも、いまだあらざるものがある。
「その名は! 蛮王でも魔王でもない、その存在は!」

 悪王。
「――悪王」
 邪(よこしま)ではない、不善でもない、純粋なる悪を、非善を体現せし王。
「ああ――――」
 なるのではない、なすがよい、小さき者よ。汝は暗黒の灯火なり。アルフレイムの森も焼尽(しょうじん)可なる者なり。法に則り悪を、非善をなすのである。
「はは――――」
 そう、“狂神”ラーリスの放埓な道ではない、マナタイトが如き強靭なる悪を――。

 
(解説)
 名を抹消された“悪王”と、名を知られない賢者(剣を持つ者すべてを憎む幻獣ヨーウィか、竜刃星の力に堕ちたフォールンドラゴンと推測される)の会話とされるものです。だとしたら何者がどうやって伝えたのか疑問がありますが。

(解説の解説)
 蛮王は複数いて、魔王も「トリプルクラウン」で登場、それならもっと悪そうな、でも正統派の名前は……と考えた次第です。
 まあ割と思い付きそうなネーミングですし、悪王をプレイに出してみませんか?(魔性の誘い)


☆何でそう呼ぶの

 
(数人の若者がいる光景。周囲には人数分のマギスフィアが浮いている)
「でさ」
「んー?」
「ああ、食べこぼさないで」
「ファイターって、元の意味は『戦う者』でしょ」
「そうだけど」
「何で重い武具で戦うのだけファイターなわけ?」
「えーと?」
「神紀文明時代より前は、魔法とかないわけだから、ファイターしか戦うのはいなかったんじゃない?」
「フェンサーは魔法文明時代からみたいだし、でもシューターと別なのは、もしかしてその頃は弓矢もなかったとか?」
「石器時代とか歴史の先生が言ってたけど、その頃の遺跡からは投げ槍が出てくるっていうから、槍が人間の最初の武器だったのかもね」
「授業でそんな事もやるんだー」
「神様の時代より前に関心を持つような余裕と技術の積み重ねがすごいよねー」
「まあ、ファイターとシューターは分かったけど、フェンサーってなんで『剣士』なの?」
「人族が作った剣ができてから研究された技術だから、かなあ。あと急所を撃つのは剣がやりやすいし」
「槍とか殻竿とか戦鎚とかは」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
「アッハイ。フェンサーは油断なき剣士です」
「あとグラップラーだけど、『取っ組み合い(グラップル)する者』でもあんまりないよね?」
「ああ、それには一説あってね」
「マギスフィアで検索しながら胸張って言うんじゃないです」
「いいじゃん。もともとは人族や蛮族相手にインファイトするのが主流だったけど、動物や幻獣なんかも想定するうちに、近付きすぎて戦うよりは、遠くに距離を取って戦う拳や蹴りや投げ技になっていったってのがあって」
「棘を打ち出す敵とか、全身が燃え上がる敵とか、組み付けないよね」
「うわエグ」
「まあ、一人で大勢を相手にするのに、組み技や絞め技は動きが止まって危険だから、廃れていったって説もあるよ」

(だらだらと読書したりソリティアしたりで数分経過)
「プリーストって、意味からすると『祈念者』だよね。『聖職者』のクレリックとどう違うの?」
「ああ、ほら、神殿で職を持ってなくても、関係なしに神聖魔法が使えるから? 組織関係なしに神様と直接つながってるから『神に仕える者』イコール神官で」
「うんうん。神殿にいないプリーストとか結構いるもんね」
「なるほど。君のおじさんとか、いつも返り血浴びてそうな人なのに、なぜかキルヒアの神官だし」
「蛮族と魔神は楽しそうに破壊するけどね。『知識を破壊する奴らは許せん』って」
「てゆーかさ、神聖なのにどうして『魔法』なわけ? 『魔』ってナンデ?」
「『魔』って、基本的な意味は『法則に逆らう』ってのだよね。物理法則をいじってあれこれやるから?」
「神紀文明より前、人間は魔法の類を使えなくて、幻獣が使う不思議な力を『魔法』って呼んで、神官が使う不思議な力もその流れで『魔法』って呼んだんじゃないかなあって勝手に思ってる」
「要出展」
「『奇跡』とかだと神様が直接使う力と紛らわしいから、まあ仕方ないのかね」

(だらだらと以下同じ)
「そうそう。ソーサラーが『邪術師』でコンジャラーが『召喚師』なのは?」
「えー、ソーサラーが邪悪? 魔動機文明時代の前の暗黒時代じゃあるまいし」
「そこなんだけど、邪術(ソーサリー)っていうのは、『傷付けるための力』の総称なんだって。よこしまなのと悪いのとはまた別の概念で、邪術は身を守るために使える代表的な技だからさ」
「身を守るイコール殺す! サツバツ!」
「遺失呪文ならともかく、一気に眠らせたりできないものね、ソーサラーは」
「コンジャラーは分かるよ。ゴーレム作ったり人形動かしたり」
「怖がられたりするけど、お向かいのおばちゃんの人形可愛いよね」
「そういう、いろんなのを操作するための術だから、『霊を操作する者』転じて『召喚師』だとか?」
「なのかなー」
「両方使うのをウィザードっていうのは?」
「ウィザードは『達人』とか『名人』とかいう意味もあるから、魔法文明でまとめあげた二系統を使いこなす魔法使いへの尊称だったんだろうね」
「ああまた検索してるー」
「だってうろ覚えが怖いから」
「ちなみに魔法文明語で似た単語でマギ、ええっと、『賢き者』もあって」
「ちなみに単数形はマグスね」
「同じデータバンク見てない?」
「マギテックは『賢者の技の技術者』くらいの意味になるみたいだよ」
「うわーマギテックすごーい」
「魔動機文明万歳と言いたいけど、魔術も操霊術も妖精魔法も神聖魔法も、みんな得意分野あるものね」
「ねー。私達みたいに」
「いきなり照れるだろ」
「ついでに、アルケミストの『錬金術師』って、金をどうにかするんだっけ」
「ああ、それはね」

(投影していた映像が止まる)
『マギスフィア再生、“17000507234851”終了しました』
「またこのパターンかよ」
「だらだらと話を続けながら決定的な情報を与えない。ご主人とますます似てきてますね」
「嫌味か? 嫌味なのか?」
「事実です」
「ああああああっ!?」

 
(解説)
 これも、キングスフォールで、同じ一族が魔動機文明時代から暮らしてきた家の地下室から出てきたマギスフィアです。映像ファイルの名前からすると、みんな揃って夜更かしさんですね。

(解説の解説)
 技能名の選択について、どうしてその名前になったのか、ちょっと小話っぽく。アルケミスト真実は『アルケミストワークス』か『エピックトレジャリー』をご覧ください。


☆ライブハウス(生きている家)

 
「家を作った」と操霊術師が言った。
「普通の家だろうな」と魔動機師が言った。
「おっさんは既に立派な家があるだろ。塔造りの幽霊屋敷みたいな」
「失敬な。ゴーレムを動かすための無害な霊しか召(よ)んどらんわい」
 魔法文明時代でもあるまいし、そんな言い訳は通らないだろう。この前の選挙で当選した市長は、より厳しい真語魔法や操霊魔法への規制を主張しており、城塞の貴族達からは白い目で見られているが、平民のインテリ層の人気は揺るがない。魔動機の導入は着々と進むだろう。
「まあほんの数十年で死ぬ市長はどうでもいいとして」操霊術師の額からは小さな角が覗く。ナイトメアだ。
 気押されそうになるが、新進気鋭の魔動機師として、古臭い操霊術師に引き下がるなんてできない。
「で、どんな家なんだ」
「もう着くぞ」
 そして着く。操霊術師は街中に住むのを禁止されているため、田園地帯に家を構えている。妖魔の略奪行の目標にされ、妖魔の屍が田園を肥やす。操霊術師は「市長どもの皮肉なWin-Winだな」とうそぶくが、蛮族の撃退で票を増そうとして傭兵を失った市長の顔に泥を丁寧に塗り付けているようなものである。
 家はいつもの、複数の塔をぐちゃぐちゃに絡み合わせたような屋敷……いや、そうでない。
 塔の下の基礎には十本あまりの蛸と蟹をない交ぜにしたような多脚がうごめいており、驚く事に、塔を支えているではないか。
「どうかね?」
 どのような言葉を返せばいいのか。
「あ、あ」
 多脚はずる、とうごめいて、重心をしめやかに滑らせて。
 家が、動く。
 魔動機師は声を洩らしたが、これが市長だったらしめやかに失禁している。
 いつも陰気めいた操霊術師が、いつになく落ち着いた声で説明する。
「イミテーターを改造して、家の動力源とした。脚は昆虫の外骨格の要領で、中枢の神経には命令に従いつつ自律戦闘できるほどの知能を持たせた」
 ややかしげながらも迫ってくる操霊術師の家の圧倒感に押しつぶされそうになりながら、魔動機師が思ったのは、
「非効率だ」
「ほう?」
 時の概念を失ったような操霊術師の瞳に――光が浮かぶ。
「魔動機なら一体構造で魔力炉から歩行脚までを組み上げられるし、動力だけでなく便利な生活も実現できる。照明。空調。給湯も」
「惰弱だ」
 腰に下げた肉厚の剣に手を掛ける操霊術師。手を掛けるだけで抜かないが、それだけでも十分な威圧になる。魔動機師は腰が引けそうになるのを懸命にこらえて、ガンのホルダーにそっと触れた。
「文明の力を認めろよおっさん」
「操霊魔法をなめて吠え面かくなよ小僧」

 そして二つのライブハウス(生きている家)が完成した。
 魔法生物と魔動機、生きている家の決闘が始まる――!

 
(解説)
 魔動機文明中期くらいの話です。自由に移動可能な家という概念は、船や馬車などの乗り物で満たされ、また遊牧民などはテントで実現していましたが、自己顕示欲や好奇心により普通の家に動力を付ける「生きている家」という概念がしばしば生まれてきました。

(解説の解説)
 ヤドカリとハウルの動く城を混入して、「ライブハウス」を直訳。バイオパンクVSスチームパンク、ファイっ!


☆神代の魔女

 
 キルヒアがカルディアを見出した当時、数少なかった第三の剣の信徒。
 その中に、カルディアのマナの力をキルヒアから学び、魔法として使いこなした“魔女”がいた。
 ラクシアのすべてを、“始まりの剣”のごとき力で操る――そのために呼ばれた名前である。

 神紀文明の時代、“魔女”は人族を助け、また人族のための魔法の品を残した。マナを操る魔法を系統立てて、幻獣達に教えたのも“魔女”であったらしい。

 しかし、ダルクレムが蛮族を生み出し、ライフォスの仲間とキルヒアにイグニスを振りかざしたその時、首席であった“魔女”は「強者は自らのために力を使うべきだ」と言い、あくまでもキルヒアとその友のために力を尽くすべきだとした次席の“魔女”と離反した。
 神々の戦いの末に、首席は倒され、次席は姿を消したという。

 魔法を真語魔法と操霊魔法に分かたれ、妖精魔法も生まれ、召異術が現れ、魔動機術が開発され。
 神々の時代と“魔女”を人族も蛮族も忘れても、残した魔法はラクシアに足跡を残している。

 
(解説)
 神紀文明時代にいたという“魔女”の伝説です。「強大な魔術師や操霊術師の女性」を指す「魔女」という言葉の由来だというのですが、過去の大破壊により記録はほぼ残されておらず、時間の概念もあやふやなドラゴンの証言はふわふわしていて頼りにならず、全体像は時代の闇に包まれています。

(解説の解説)
 幻獣の魔法はどこから来たのとか、魔法の概念はどこから来たのとか、マナはどうなっていたんだろうとか。ルール無用のマジックアイテムも、神紀文明の亡霊も、気安く出してみちゃいましょう。
 イメージは、「やさしい新説死霊術」とか、さらに遡ると「オーフェン」とか(そっちだと異種族ですが)。


☆月を砕いた竜

 
 ライフォスが第一の剣を見出すよりはるか昔。
 ラクシアには二つの月があったという。

 とあるドラゴンが月を砕いたというが、その経緯などは定かではない。

 
「って何ですかこれ」
「神紀文明時代の碑文にあったんだけど、頭と尻尾しか残ってなくて」
「でもせめてもう少し!」
「さすがに神々の時代を知っているドラゴンでも、それより前を見聞きしてるのはいないものなあ。竜刃星とかいう彗星については、結構口伝があるのに」
「月の欠片とか残っていれば、もう少し話が違うんですけどー。これじゃただの与太話と変わりありませんよ」
「そうか。それじゃ、ミミルディア海に眠る太古の怪物と最強の魔動機兵の話でも」
「寝かせて」

 
(解説)
 ラクシアには1つの月しかありませんが、他の惑星には複数の月が確認されているものもあります。神紀文明時代の伝説には、さらに前の時代には複数の月があったらしきものもあり、一般には否定されていますが、「落下した月がマナタイトを降らせた」「破片が大陸になった」「人間の超古代文明が存在した」などの怪しげな仮説も山ほど存在します。

(解説の解説)
 シチュエーションを思い付いただけです。ゆるして。


『ソード・ワールド2.5』:(C)北沢慶/グループSNE/KADOKAWA

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