◇新大陸通信・08号◇


 二次創作の伝承類です。


◇アルフレイムの日常

 
 アルフレイムの「今」をホットに採り上げる二次創作です。


☆ラクシアにおけるエロ規制

 
キングスレイ鉄鋼共和国出版法第X条第X項のX
性的欲求を掻き立てる描写がされた表現物(魔動機術による記録媒体を含む。)は、これを各種族の成人年齢に達さない者が閲覧、所持、入手する事を禁ずる。

アルショニア女王国表現規制法第X条
性的表現は、これを公開できる形式で表現する事を禁ずる。規制による損失に対しては、賠償を認めない。

ラージャハ帝国勅令第XXX号
すべての出版は検閲を要する。
補則勅令第1号
出版には活版印刷以外の手段(手書き、掘り込み、絵画など、視覚で認識されるすべての形態。)を含む。
補則勅令第2号
検閲とは(以下長いので略する)。
補則勅令8号
検閲済みの出版を再版する際には検閲を省略できる。
補則勅令第17号
国外で作成されたものを国内へ持ち込む際には検閲を要さない。販売する際に初めて検閲を要する。
補則勅令第54号
〈大破局〉以前に作成されたものに対して検閲は及ばないが、再版する際には検閲を要する。

セブレイ森林共和国の裁判官
「エロの規制ねえ。エロ絡みで違法な事してなければ別にいいんじゃね? ああ、趣味としては和姦がベスト。無理やりは認めない」

鮮血海沿いの蛮族領のバジリスク
「バルバロスに規制はない。そして創作を人族の国で密売させる」

アイヤール帝国議会大陸新暦XXX年X月X日
「ルーフェ……ルー様とジークの……ジークハルト・デーニッツ氏とのいかがわしい本が出版されていた件についてですが」
「落ち着いて下さるかな、エアリサーム高司祭。公の販路に乗らない限り、帝国の――あるいは〈領〉の検閲の対象にはならないのだよ」
「もちろん知っていますがそれでも、これは神……もとい、神殿長に対する不敬罪ではないでしょうか!?」
(興奮したエアリサーム高司祭が黒杖官により退場させられる)

セフィリア神聖王国議会大陸新暦XXX年X月X日議事録
XX伯爵「ですから、このようないかがわしい出版物は規制してしかるべきであり」
XX司祭「XXX年の判例にもある通り、性的表現は、劣情を催す事を目的とするものでなく、端的に事実を表現するもの、および内容が倫理的な創作であるものについては、それらを規制の対象としてはならないものである。いいね?」
XX伯爵「アッハイ」

 
(解説)
 性的表現に対する規制は、国によって様々です。魔動機文明時代には国によって様々な法規制があったようですが、〈大破局〉以後はそんな余裕のない国も多く、よほど体制のしっかりした国でない限り、魔動機文明時代の法令をそのままコピーしています。魔動機文明時代後期の経験則で「性的表現への過剰な規制は文化自体へ有害である」との見解がありますが、先進的な地域以外ではあまり広まっていません。
 種族や組織によっても、主張に大きな差があります。
 人間は未成年者に対しての規制は許容しますが、成人に対しての規制はあまり主張しません。おおむね西方では先進国以外で厳しい傾向があり、東方では割と寛容な傾向があります。エルフは知識欲のためか割と寛容で、特に(アルフレイムでは数少ない)アーバン・エルフは、長命で都会の特殊な趣味を満喫した挙句、かつての“高貴なるエルフ”に匹敵するほど「趣味がただれている」との批判を受ける事もあります。ドワーフは伝統的な社会では規制が厳しく、性的表現も抑えられがちで、エルフとの仲違いの(数多い)原因ともなっています。タビットは性的表現には中立的で、「異種族のくだらない趣味とヒステリー」くらいにしか思っていないと言われています――タビット向けの性的表現が異種族にはそもそも分かりません。ルーンフォークは未成年者はおらず、成人も性交渉を行わないためか、性的表現について特に感じる事はなく無視しがちです。ナイトメアは概ね生まれ育った社会に従いますが、生い立ち(例:親に高級娼館へ売られた)によっては性的表現にセンシティブな例も見られます。リカントは性的表現には比較的開放的ですが、風俗業でリカント風の付け耳をするのは「種族への侮蔑」と見なして敵視します(草食動物の耳なら構わないようです。うさぎとか)。
 リルドラケンは「お互いに楽しめるなら」と性的表現には比較的寛容です――リルドラケン向けの以下略。グラスランナーは性的な話題は内輪の事として、異種族には口にしませんが、同族の間ではどのように性的表現を交わしているのかは謎に包まれています。ティエンスは使命を果たすための子作りには積極的ですが、性的表現に対しては比較的禁欲的である一方、「事実をありのままに受け止める」傾向が強く、強い規制には消極的です。レプラカーンは性的表現への志向が強くなく、規制については極端にならない限りそのまま受け入れます。
 ライフォス神殿は規制にあまり関心はなく、所在する社会の平均的な見解に近くなります。ティダンやシーンの神殿は、「ノーマルな描写」については、未成年にアクセスさせない限りは寛容です。アステリア神殿は割と緩く(というか厳しく規制すると神話が大変な事に)、特定の対象への侮辱にならない限りは規制に反対する事が多いです。グレンダール神殿、イーヴ神殿、ハルーラ神殿は禁欲的な傾向があり、厳しい規制を後押しする事もあります。ミリッツァ神殿は女性を対象とする表現には厳しいですが、男性が対象となる事についてはそれ自体をスルーしがちです。キルヒアやミルタバルの神殿も、知識の妨げとなるような表現規制には否定的です。ダリオン神殿は性的表現について争う場からは遠く、やはりはっきりした見解を持ちません。
 冒険者ギルドは「性的表現も知識の一つである」という事から表現規制に批判的で、マギテック協会と手を組む事が多いです。魔術師ギルドは性的表現について基本的に無関心で、遺跡ギルドは表面では無関心を装いながら規制される物品を裏で売買しています。
 蛮族は、性的表現を規制するとかそういう事はあまり考えません。上位蛮族では、どちらかというと、ドレイクは「はしたない」と抑圧的で、バジリスクは「楽しむならいいじゃん」と開放的な傾向があります。

(解説の解説)
 魔動機文明時代の技術水準は、現実世界の20世紀初頭レベルに達していました。創作でいうと、「怪盗ルパン」とか「ゴールデンカムイ」とかが近いのですが、通信ネットワークとか同人誌即売会とか、ときどき逸脱したものがあるので、頭を痛くしつつ楽しむところです。
 そんなわけで、特筆されなければ「検閲制度はある」「だけど大半の国では、不敬罪とかの大きな案件ではない限り気にしない」あたりにしています。意外な所が厳しかったり、意外な所がゆるかったりで楽しみましょう。
 ちなみに、キングスレイは「プレイヤー感覚に近い規制」、アルショニアは「こじらせた規制」、ラージャハは「方針がなくて迷走した規制」、アイヤールは「連邦制国家における法律問題」、セフィリアは「伝統と規制が一致するとは限らない件」を意識しています。

 ちなみに「継承される物語」の同人誌即売会では、「15歳以下閲覧を禁ズ」……。


☆ナイトメアの悪夢

 
 ご存知の通り、ラクシアの人族の突然変異であるナイトメアは、寿命が確認されておらず、事実上の不老不死です。
 不老不死は魔法文明時代の魔法王も憧れ、そして達成できなかった永遠の夢ですが、蛮族も生まれつき持ち、多く溜まるとアンデッドとなる“穢れ”は忌避されるもので、また生まれる際に角で母体を傷付けるナイトメアは、魔法文明時代から差別を受け続けてきました。
 個体数も少なく、実態がよく知られていないナイトメア。その悩みにインタビューしてみます。

 
 ナイトメアとして生きていく上での悩みというと、やはり差別でしょうか。
「まあ、今は差別意識あるといっても、露骨な差別とかは都会だとあまり受けませんし、冒険者社会とかは理解もありますから」
 そうですか。人間のふりをしていたけど……という話はよく聞きますけど。
「あれは行き擦りの相手にだけですね。何年も近くにいるとどうせわかりますし、夏に水着になれない、半袖着られないってのもつらいですよ」
「ご近所さんには早めに、さりげなく明かしますね。そこで遠ざかるような人とは深く付き合いませんし、驚かないふりをする人もちょっと信用なりません」
 難しいですね。
「まあ関係は一時的でも、生き過ぎてタイムスケール壊れてる人でもない限り、時間感覚は変わりませんし、嫌に思いながら過ごすのって……ねえ」
「わざと隠して、ばれるまでの日数で、相手の観察眼を確かめる事もあります」
「それ意地悪ですよー」
「あははー」
 奥深い事情です。
「まあ隠そうとしたら、角だけじゃなくてあざも目立ちますからね。あと就職もですが」
 就職……。
「そうそう。年功序列の職場だと上に行かせてもらえずずっと下働きですし、そのくせ職場に一番慣れているからって責任持たされるし」
「エルフやドワーフなんかも、人間が多い職場だと大変だって聞くけど、それ以上にね」
 大変ですね。そういえば王族や貴族でも、ナイトメアに継承権を持たせない家が多いって聞きますけど。
「上司がいつまでも死ななくて、しかも気が合わないと、『いっそ殺しても』ってなりやすいですからねー」
 そんな魔法文明時代の魔法王みたいな。
「だからナイトメアは冒険者になりやすいし、ずっと現役冒険者続けやすいんですよ」
「他に行く当てがないともいうけどね!」
「そんなやけ起こさないで」

 で、話は変わりますけど、それ以外の悩みでは。
「収入の次は、健康かな」
 健康ですか。
「そうです。ナイトメアは自然死しないので、死ぬ時は大概、事故か病気ですから」
「ナイトメアは割と社会に適応できない例が多いんで――私含む――、たくわえとかサバイバル技術とかできると、そのまま森とかに引きこもる事が多いんですよ」
「そして収入が尽きそうになるといやいや社会復帰する」
「やかましい」
 え、えー、人里離れた所にいると、病気とかしたら大変ですね。
「神官とか妖精使いとかなら、怪我や病気もある程度何とか出来るんですけど」
「そういう人は近所で頼られるから付き合いもあって、万が一の時に発見されやすいんですけど、魔術師や操霊術師だと怖がられて、万が一の時に手遅れになりやすいんですよね」
「歯医者がいない時代だと、虫歯の痛みで自殺したナイトメアもいたって聞きます」
 歯は大事ですよね。
「ただ、ナイトメアは100年くらいで歯が再生するとかいう話も」
「角みたいに再生すれば楽なんですけど」
 え?
「まあ実態は不明という事で。魔法文明時代じゃあるまいし、不老不死の妙薬としてナイトメアを狙うあほとかはいないと思います」
 は、はい。
「あと、長生きしてると、周りの人がみんな死んでいくっていうのもつらいみたいです。エルフ生まれやドワーフ生まれもそうですけど、人間生まれは特に」
 どんな感じなのでしょう。
「老衰した曽孫の介護に疲れ果てて冒険者に戻ってきたナイトメアの話でもしましょうか」
 すみません。

「でもさー、リルドラケン生まれのナイトメアは、他の皆さんと違うよね?」
「そうですね。母体を傷付けないから差別受けませんし、器用で頭いいからって定職も持ちやすいですし、リルドラケン生まれの方々は、陰にこもった感じがしなくて、生き生きしてると感じます」
 ですけど、人間が多い社会ではいろいろと。
「まあねー。いちゃもん付けたい奴は『明るくしててむかつくんだよ』とか言うし、もっとひどい迷言だと『俺の差別は正しい差別』ってのもあるし」
「その手の人がある夜、ライフォス神殿横の路地で消息を絶った話でもしましょうか」
「インタビュアー脅すのやめなさい」
「はーい」
 有難うございます。少し方向を変えて、リルドラケン生まれならではの事とか。
「羞恥心がない」
 え。
「厳密に言うと、姿が人型でも精神的には『ちょっと形が違うリルドラケン』なので、羞恥心がリルドラケンにしか働かないんです」
「ええー? ほかのみんなは角の角度とか鱗の肌触りとかで興奮しないの?」
「「「しません」」」
 なるほど。恋愛とかもやはり、リルドラケンと?
「ナイトメア同士……同士っていうのも当てはまるかだけど、リルドラケン生まれ以外だと、結婚しても子供作れないからね」
「むしろ作れないからいいのかもしれませんよ」
 家族ができると重荷になるとか、ですか?
「じゃなくて、ナイトメアでも生殖は元の種族と同じだから、女性のナイトメアがリルドラケンサイズの卵を身籠ったりしたら」
 大変な事になりますね!
「それ以上怖くて聞きたくない気持ちは同感です」
「だねー。そういうわけで、リルドラケン社会のナイトメアも独身が多いの」
 複雑な話を伺わせていただきました。
「だいぶ話を戻しますけど、人型の種族に対する羞恥心が薄いから、割と露出高めな格好の子を見ると、あーこの子リルドラケン生まれだなーって、なんとなく思うんです」
「大柄であざも目立つから、すぐナイトメアだってわかるんですけど、リルドラケン生まれだと種族を隠そうとは思いませんから」
「むー。人前で脱いだりは、言われてからはしてないのに」
 言われるまでしてたんですか……。

 
(解説)
 ナイトメアには差別以外にも悩みは絶えません。人間の幼馴染が50歳越しても20歳の外見で怪しむとか、商会や役所でくすぶっているナイトメアの事務員が重大な機密を握っているとか、森の奥に引きこもっているナイトメアの高レベル冒険者を説得するとか、服が邪魔で脱ぎたがるリルドラケン生まれのナイトメアに服を着せるとか、いろいろと冒険や日常でのナイトメアならではの事が待ち受けるかもしれません。

(解説の解説)
 インタビュアーは人間で、話し手のナイトメアは4人です。各種族生まれが1人ずついる事以外は、特にそれ以上の設定の想定とかはありません。
 ところで、ナイトメアって若い身体のままという事は、必然的に性欲も。
「やめなさい」
「『彼女にしたかったのにご先祖様だった件』とか、魔動機文明時代の小説でいかにもありそうで」
「だからそーいうのもやめい」


☆ラクシアにおける教育制度

 
――ユーシズ魔法学校にて

(う〜〜〜〜〜〜〜〜)
「今日の授業はここまでです。来週までに課題は片付けてね」
「「はーい」」

「そういえばさ」
「ん?」
「キミって転校生だけど、ここに来る前は、どんな所にいたの?」
「ハーヴェスの初等学校(プライマリスクール)。8年制だけど6年までいて、ユーシズに留学に来たんだ」
「ふーん。ユーシズの教導所は6年なんだよ」
「国によってちょっとずつ違うんだね」
「ハーヴェスだとどんな事を習うの? やっぱり交易共通語・算術・神学・あと何だろう?」
「交易共通語と算術はあるけど、神学はなかったなあ。歴史とか理科とかあったけど」
「え!? 神学ないの!?」
「ん、まあ、神様の事は歴史の初めでちょっとと、あとは家で教わるかな。『せーきょうぶんり』とかお父さんが言ってたや」
「ふーん」
「そして魔法とかじゃない、他の難しい勉強をする人は、4年制の中等学校(セカンダリスクール)、さらに上だと大学(ユニバーシティ)。そこまで行くのは、魔法学校で研究者になる人と同じくらい少ないけど」
「すごいなあ」

「マカジャハットだと4年。その後は徒弟に入る事が普通。私も近所の魔術師に紹介された」

「ラージャハで遊牧してたから、部族の妖精使いがいろいろ教えてくれたなあ。たまに立ち寄る町で本を買って読み聞かせてくれたり」

「ミラージでも6年だけど、それより上は学校がないから留学する。ハーヴェスとかラージャハとか大きな国に」

「魔動死骸区に学校なんてない。親に全部教わって、魔法学校のスカウトに応じてここに来た」

「ドワーフの街だと、氏族で読み書きとか教わるよ。あとは神殿で神学とか交易共通語とか、氏族の中で勉強しにくい事をね。俺はナイトメアだから氏族にも神殿にもいるのがつらくて……ねえ」

「エルフの村だと、神殿で主日ごとに神官さんに教わりながら、平日は親とか近所の人とかにいろいろ教わってたっけ」
「何歳くらいまで?」
「15歳くらいかなあ。そこからは好きな事を追求して……うん、学びに限界はないって神官さんは言ってたけど、人によってさまざま」

「ルーンフォークはですね、ジェネレーターで基本的な教育はできてますけど、大抵は何年か集落で訓練を受けるんです」

「リカント、習う、氏族、生きるすべ。高い学び、ほかの部族の長老、弟子になる。または、人間の街行く。私のように」

「メリアもエルフと似た感じかなあ。草花種の子は物覚えが早いけど、私は樹花種だから大きくなるのに時間がかかって。草花種の子が私を追い越して成人して、種を産んで、子供を育てて、その子供も私を追い越して、枯れちゃって」
「…………」

「どうしました?」
「あ、先生。ここに来るまでに、みんないろいろな人生を歩んできたんだなって」
「人それぞれですね」
「そして6年くらいでここを出て……」
「〈始まりの剣〉と神々の導きがあれば、また道も交わりますよ」
「ですね。……だといいなあ」

 
(解説)
 魔法文明時代までは、教育は家庭と神殿がおもに関わっていました。初等教育は家庭内や共同体の神殿で行い、生活に必要な最低限の読み書きを終えた先は、そのまま何らかの職業の徒弟となるか、神官や魔術師などが家庭教師となる、あるいは親が神官や魔術師なら自分で子弟を教育していました。「現在」の基準からするとレベルが低いにも程があり、大半の平民は自分の名前か簡単な文章しか読み書きできず、貴族でも魔法以外の語彙がおぼつかない事例が目立ちますが、当時の閉鎖的な社会では知識層に読み書きを任せてそれで良しとされていました。
 魔動機文明時代の前期に、神殿の神官ではない、神官個人や俗人が初等教育を教える学校(はじめは私塾、のちに公立の学校)が生まれます。それとは関係なく、高等教育を求める人々(貴族や富裕な市民の子弟)が学者に謝礼を支払い集団で勉強を教わるようになり、学者ギルドから高等教育機関である大学が形成されたり、政府が官僚育成のために学者を集めて大学を作ったりしました。初等教育と高等教育をつなぐ中等教育ができたのは魔動機文明時代でも中期になりますが、中等教育まで受ける事が一般化するのは魔動機文明時代の後期で、末期になっても都市部以外では初等教育のみなのが普通でした。
 〈大破局〉では教育機関もダメージを受け、施設の閉鎖や学生の戦場・生産活動への動員などにより、多かれ少なかれ教育水準は低下します。その後の復興期には、教育への重点の度合いにより教育水準の回復は異なりますが、おおむね教育に熱心な社会の方が復興も早く、地域による教育格差は魔動機文明時代より大きくなっています。
 ブルライト地方(や、アルフレイム大陸のその他のほとんどの地方)では、大きな都市でのみ中等教育や高等教育を受けられます。ドーデン地方では、キングスレイでは小さな町でも中等教育を受けられますが、それ以外の国では中程度以上の街でのみ中等教育を受けられます。冒険者ギルドやマギテック協会や様々な神殿は初等教育や中等教育の支援にも力を入れており、魔術師ギルドは高等教育に、キルヒア神殿はすべての段階の教育に支援をしています。遺跡ギルドでさえも、裏社会や底辺で生きる人々が仕事に支障をきたさないように、夜学に支援を欠かしません。
 教育機関で使われる言語は、初等教育から中等教育ではおもに地方語、高等教育ではおもに魔法文明語や魔動機文明語です。幼少期に別の地方や別の種族の間で教育を受けた場合は、特技枠を1つ使用して特技《マルチリンガル》を習得し、母語を追加できます。

戦闘特技データ>選択習得の常時特技
《マルチリンガル》
前提:冒険者レベル1以上
概要:言語を1つ追加
効果:習得者は、いずれかのPC種族が使う母語を1つ、追加で習得します(どれが「母語」なのかは、最終的にGMが判断します)。その言語の「会話」「読解」を(あれば)両方習得できます。この特技を取得した後に、技能で追加される言語が重複した場合は、特に保障措置はありません(GMの許可を受けたうえで、データをリビルドしましょう)。
 「2.5」基本ルールで習得できるのは、以下の言語です。
  人間の各地方語1つ、エルフ語、ドワーフ語、魔動機文明語、交易共通語(※交易共通語を初期習得しない蛮族のためにリストアップしています)、ドラゴン語、グラスランナー語、妖精語

 なお、これらの事情は、おもに人間社会におけるもので、それ以外の種族は事情が異なります。エルフは神殿や集落で学び、成人後も仕事の傍らでお互いに学び合い、生涯にわたって多くの知識を身に付けます。ドワーフは氏族の長老や、現場で働く職人、伝承を伝えるバードが教育を行い、内部で学びきれない範囲を神殿などの外部で補います。ルーンフォークはジェネレーターで生まれつき与えられた知識に加えて、集落で生活に必要な知識を身に付けます。リカントやリルドラケンやメリアは集落単位で、タビットやグラスランナーやレプラカーンやティエンスは家族単位でおもな教育を受けます。蛮族は家庭やごく一部の氏族・神殿でしか教育を受けないため、上位蛮族であっても、特に戦闘に関わらない分野の知識においては、人族の基準からすると信じがたいほどばらつきがひどく、「蛮王は割り算ができない」というブラックジョークもあるほどです。

(解説の解説)
 教育機関の発達過程は、現実のヨーロッパを参考にしています。〈大破局〉による教育への打撃は、第一次大戦と第二次大戦をイメージしてさらに拡大しています。
 PCは全員が交易共通語を読み書きできるのですが、どこで習ったのでしょうか。……「多言語環境で否応なしに」というのもある程度は正しいのでしょうが、「交易共通語を使えないと冒険者になれない」とかだったら……。


☆なかまのリカントと わるいライカンスロープのみわけかた

 
 ひとぞくのなかまのリカントと わるいばんぞくのライカンスロープは どこがちがうのかな?

 リカントは あたまとそのまわりだけが けものみたいに へんしんできる。
 ライカンスロープは ぜんしんが はんぶんけものみたいに へんしんできる。

 へんしんしていない リカントは みみとしっぽが けものとにている。
 へんしんしていない ライカンスロープは にんげんと くべつできない。

 リカントは にくしょくの ほにゅうるいだけ。
 ライカンスロープは そうしょくの ほにゅうるいも いるかもしれない。じつは けんじゃにも よくわかって いないんだ。

 リカントは へんしんすると リカントごだけを はなせる。
 ライカンスロープは ライカンスロープごも ほかのしゅぞくのことばも はなせる。

 リカントも ライカンスロープも べんきょうしないと にんげんのちほうごを はなせない。
 ドーデンちほうからきたのに ドーデンちほうごをはなせない にんげん。もしかしたら ライカンスロープかも レッサーオーガかも しれない。

※よくわからないときは おうちのひとか ぼうけんしゃに そうだんしてね!

 
(解説)
 魔動機文明時代の前期に作られた、啓蒙用の本の一節です。リカントがライカンスロープと誤認されて迫害を受けるのを防ぐために、友人のリカントを迫害で失った賢者が書いたものを基にしているそうです。

(解説の解説)
 こんなに違いがあるのに同一視されて迫害される……ラクシアの人族は一体……。
 ま、まあ、よく知らない民族を見分けるのは現実世界の人類も苦手ですし?


☆ナイトメアの悪夢・2

 
 えー、この前は人間社会におけるナイトメアについて、主に話をしました。
 では、他の種族の社会では、ナイトメアの立場はどうなっているのでしょうか。

「エルフ社会でのナイトメアのポジション……ですか」
 はい。エルフも寿命が長いから、ナイトメアは怖がられにくいのかもって。
「残念ながら、ナイトメアの寿命は『ない』だから、怖がられたりする事もそれなりにありますよ」
 ……人間がエルフを見る時くらいに?
「そうそう。『人間<エルフ<<越えられない壁<<ナイトメア』って感じかな」
 うーん。
「実際は怪我や病気で死んだりするから、魔動機文明時代はともかく、魔法文明時代を知ってるナイトメアは聞いた事ないけど」
 まあ実際に生きてても、すごいレベルになってそうですよね。
「ですね。だからいても出てこないのかも」
 出産のときに角で傷付けるのは、魔法使いが多いエルフでも、危険な事は変わりませんよね。
「母胎を傷付けるリスクが大きく見られやすいのは、寿命が長い分、なおさらです。魔法文明時代の“高貴なるエルフ”は寿命がなかったらしいんですけど、その時代だとナイトメアはさらに忌避されていたようで」
 え、ええと、エルフの集落とか街とかだと?
「他のナイトメアにも聞くところによると、力仕事を回されやすいっていいます。あと頑丈だから、戦士団でもダメージを受けやすい最前線に回されやすくて、『私は厄介払いされてるのか』と心を病んだナイトメアの戦士もいるって」
 ……精神的ケアも重要ですね。
「まあ幸いにも、エルフはほかの個体と距離を置いてくれやすいので、ぼっちでもご近所や親戚に義理を欠かさなければ、それなりにやってけるみたいですね」
 大変な事は変わりないですね。

「ドワーフ社会でのナイトメアのポジション?」
 はい。この前はあまり聞けなかったもので。
「ぶっちゃけ、ない」
 へ?
「ヒント1、地下」
 ああ、暗いから。
「あと狭い」
 地下だと、かがまないと歩けないとか?
「そう。半地下の集落ならともかく、完全地下の集落とか結構あるし、半端者のためだけに明るくて広い場所を確保なんかしてくれないし」
 辛いですね。他にも何か……。
「ヒント2、炎と熱」
 えーと、ドワーフは火に耐性がありますよね。
「燃える火だけじゃなくて、高熱にも耐性がある。そしてナイトメアには耐性がないどころか火に弱いから、ドワーフの集落はいるだけで暑苦しかったり」
 髭とか筋肉とか。
「ボケ禁止」
 すみません。
「あと、ドワーフの生活は火への耐性を常識にしてるから」
 どういう事です?
「取っ手が金属剥き出しの鍋」
 速攻で火傷ですね。
「溶かした金属を直接手で加工」
 ダメです。
「そんな環境でナイトメアは日常生活も送れないから、成人早々に外へ放り出されたり、成人前に外のドワーフ家族に預けられたりする例も多い」
 仕方ないのでしょうけど、苦労が多い気がします。

「リルドラケン社会でのナイトメアのポジション? 普通だよ?」
 その普通がほかの種族だと普通じゃないから。
「あ、そうか。まず角で卵の殻を割って生まれるでしょ。肌が柔らかいから、小さなうちは遊びで怪我しないように気を使われるくらいかな」
 鱗ないものね。
「普通のリルドラケンと見た目が違うって人間とかは言うけど、でも普通に生まれてくるでしょ」
 まあ確かに、言われてみるとそうだけど、異貌状態のインパクトが強すぎるのかなあ。
「で、器用だったり頭を使う仕事に向いてたりするみたいだから、職人や商人、魔法使いとかになる事が多いんだ」
 ところで、ナイトメアはリルドラケンに、その、寿命が長……ないから、怖がられたりはないのかな、って。
「ないよ?」
 そう? 集落や街の偉い人って、ナイトメアはあまりいないよね?
「元々そんなにいないし、指導者はある程度決断力のある若いうちにやっといて、年を取ったら相談役になるものじゃない? というか何で、人間の指導者はお年寄りが多いの?」
 その……決断力とかは現場に任せるからかなあ……。
 あ、そういえば。
「なーに?」
 リルドラケンって、卵を産むでしょ。
「それがどうしたの?」
 ナイトメアの女性でも卵ができるから、その、とても危険だし、恋愛とか、ほら。
「性行為をすると危険だって、年頃になると注意されるよ。でも、たまには……産んじゃって」
 …………。
「え、えっと、しんみりしちゃってごめんね? ご飯食べる?」
 こ、こちらこそごめん。

 
(解説)
 人間以外のナイトメアの社会での立場についてです。

(解説の解説)
 ところで、「いっその事人間相手でもいいや」と開き直る事はあるのでしょうか。
「そういう変態行為はないです」
 ごめんなさい。


☆人名の規則

 
 多くの人族の名前は「個人名+姓」で表されるが、この形式が定着したのは魔動機文明時代である。

 神紀文明時代の人族の名前は「『父の名前』の子+個人名」「居住地名+個人名」「二つ名+個人名」の概ねどれかであり、語順もばらばらであったらしい。蛮族の誕生により、これらの名前の基準も蛮族へ引き継がれるが、下位蛮族は個人名しか持たず、上位蛮族がフルネームを持つという階層差があった。
 魔法文明時代に貴族の血統が明白になるにしたがって、「個人名+姓」が貴族から普及していくほか、父称・地名・二つ名が家のものとして相続されていく事も増えていったようである。フェンディル王家の「フェンディル」、セフィリア王家の「ヴェーレンドット」「ゼノスヴェルト」「シックザール」などが姓として古いものであるが、「フェンディル」は姓ではなく領地名であり、厳密には姓でないのではという説もある。個人名と姓の間に「ド」「フォン」を入れるのは、この時代のエルフ語やドワーフ語からの影響であったと考えられている。
 魔動機文明時代前期には、名付けに凝るようになり、魔法文明時代には割と安直に付けられていた個人名が、文化圏により好まれる少数のものに収斂していき、姓の重要性が上がる。中期以降には文化の混交により、異文化や異種族の名前が導入されるようになり、名前だけで種族を判別する事が難しくなった。貴族の血統などでは複数の個人名や複合姓を名乗る事も増えて、ますます複雑になっていく(社会により差があるが)。その一方で、住民の登録制度が広まっていき、気軽に改名するのは難しくなった。
 〈大破局〉後では、魔動機文明時代後期の名付けを概ね引き継ぎながら、「個人名+姓」一つずつに簡略化されたり、魔法文明以前の古い名前を復活させたり、社会によりさまざまである。二つ名を付ける習慣はテラスティア大陸で盛んであり、特に上位の冒険者が二つ名を名乗った場合、社会的に威信のあるものとして扱われる。アルフレイム大陸で二つ名が付いているのは基本的に有名人で、基本的に他称であるが、二つ名を自称する者もいる。

 これらの例外では、カイン・ガラの「父の名付け名+母の名付け名」、プロセルシアの貴族の「個人名+竜の名前+領地名」、平民の「個人名+父称」、神官の「修道名+神殿名」、グラスランナーの「個人名+友の名+友の名」といったものがある。まとめて卵を育てるリルドラケンでは「個人名+集落の名前」、ジェネレーターから生まれるルーンフォークでは「個人名+ジェネレーターの名前」となったりする。

 幻獣の名前は、基本的に「個人名」だけであり、人族から二つ名を付けられていても、それを気にしないかそのまま受け入れるかである。総じて個体識別への関心が乏しく、人族との接触が多い個体でもなければ名前にそれほどこだわらない。

 
(解説)
 今ではほぼ一様になっているラクシアの人名も、そこまでにはいろいろありました。

(解説の解説)
 というだけの話。リルドラケンやルーンフォークの「家名」とは? とかいう話もありますが。
 現実世界みを減らすために「ありがちな聖人名を、特に英語では付けない」「意識しないとラ行が増えるので加減する」「発音しにくい名前は実プレイで面倒なので我慢する」くらいの工夫もいるでしょう。


☆マナタイト・インパクト説

 
 ラクシアで確認されているマナタイトの大半は、アルフレイム大陸に存在する。この偏りの説明として挙げられているひとつが、マナタイト・インパクト説である。
 そもそもマナタイトとは、金属元素の構造に魔法的な回路を生じているとみられる魔法金属で、魔動機関のモーターや魔動エレベーターのフローターが代表的な用途である。また、先に述べたとおり、アルフレイム大陸に大量に産出している。
 (中略)
 ラクシアに衝突した原始惑星のマナタイトを大量に含む核がアルフレイム大陸を構成したというこの説について、最大の難点は、実証が現状では不可能という事である。原始惑星が取っていた公転経路とラクシアへの干渉、互いの完全な崩壊に至らない衝突に至る過程、破片の一部の行方など、演算用魔動機を用いてもシミュレートが困難なままである。衝突の際にできたとみられる特殊な鉱物の産出、マナタイトを大量に含む浮遊島の反発力の生成の理由、こうしたラクシアで行える解明だけでなく、将来は魔動機を宇宙空間や月に送り込み実地調査を行う事も視野に入れていきたい。

 
(解説)
 アルフレイム大陸の魔晶石とマナタイトはどこから来たのか。それをめぐる論題です。

(解説の解説)
 「ニンジャスレイヤー」二次創作で、エメツ(魂の属する異世界との接触面にできる鉱物)の由来、ニンジャ(異世界との力を肉体で引き出す能力者)の日本起源説の説明をするために、ニンパクト説でエメツ惑星を地球に半分沈めていました。露出面が日本(日本大陸)で、出アフリカした人間が日本で初めてリアルニンジャになれたのです。

  エメツ、日本大陸の起源とニンジャイアント・インパクト仮説(NJRecalls開発チーム @NJRecalls=サン)

 その辺をファンタジーにしていろいろ変更。


☆蛮族の死体処理

 
 蛮族は体内に多くの“穢れ”を含んでいるため、人族よりはるかにアンデッドになりやすいので、できるだけ死体の形が残らないような処理をしてください。
 人族の死体も大量のマナに触れるとアンデッドになりやすいですが、蛮族はさらにアンデッドになりやすいため、死体は魔動機(魔動列車を含む)、強力な魔法の品、魔晶石鉱脈から離れた所へ処理してください。

 妖魔は“穢れ”が比較的少なく、冒険者が使う度数で1〜3程度であるため、数が少なければ土葬で構いません。その場合も、自分で起き上がってこないように、穴は深く掘り、土を厚めに掛けてください。土葬する労力がない場合は、解体して風葬にしても構いませんが、居住地や道からはできるだけ離してください。多数の死体がある場合、確率的にアンデッドが出る危険性が高まるため、まとめて火葬にする事が推奨されます。水棲でないなら水葬も効果的ですが、周囲の生態系に十分な考慮を図ってください。陣営を問わず、神官による慰霊も有効なようですが、あまりはっきりした効果は出にくいようです。
 比較的“穢れ”の低いマーマンなども同様です。

 上位蛮族は“穢れ”が3〜4、大半は4のため、アンデッドになる危険が大きく、できるだけ火葬にしてください。火葬にして残った骨は脆くなっているため、スケルトンになる危険は低いですが、念のために骨も砕くのがおすすめです。土葬、風葬、水葬は非推奨ですが、ほかに手段がない場合は、死体をできるだけ細かく分割して処理してください。変身後のドレイクやバジリスク、ジャイアントなど、巨大な場合は、頭部を切断して胴体と別の場所へ埋葬するのも有効な手段として確認されています。神官による慰霊の有効性は、実験するのが危険なため確かめられていません。

 ノスフェラトゥは特殊な処分法が推奨されます。氏族により処分法は大きく異なりますので、階梯の高い賢者に相談してください。

 
(解説)
 魔法文明時代にアンデッド化の原理が解明されて以来、勝手にアンデッドになりやすい蛮族をなんとかするため、人族の間で様々な方法が模索されました。〈大破局〉以後に改めて注目されたため、蛮族を倒した冒険者はその死体を処理する新しい仕事が増えます。こうした方法は蛮族でも受け入れられ、抗争で死んだ蛮族の死体を放置しないようにしています。

(解説の解説)
 あまり厳密に考えず(考えすぎるとR-18Gです)、特に宣言とかない場合は、蛮族の死体はアンデッド化しないように適切な処理を取ったと見なしてください。破損の度合いが気になる場合は、「2Dで2なら原形をとどめない〜12ならほとんど傷がない」くらいでしょうか。
 ちなみに蛮族は人肉食が禁忌ではなく、特に異種族ならためらわずに食用にします。抗争で死んだ蛮族も例外ではなく、割と頻繁に食われますが、「敗者に侮蔑を加えるため」「倒れた強者の力を取り込むため」と、上位蛮族なら種族により動機はある程度変わるようです。


☆種族ごとのパーソナルスペースの違いとか

 
「あ、もうちょっと遠くに寄って」
「なんでー? もうちょっと近くにさ」
「仲が良くても程よい距離があるの!」
「そんな冷たい事言わないでー」
「暑苦しい!」
「…………ならいいよ」
「ナンダ、喧嘩カ?」
「じゃないんだけど、パーソナルスペースの問題かな?」
「ぱーそなるすぺーす?」
「ああ、個人が取っておきたい、安心できる距離ね」
「縄張リミタイナモンカ?」
「縄張り、とはちょっと違う気もするけど、似たようなもんかな」
「そういうのに種族差とかあるわけ?」
「あるんだろうなあ。だからもうちょっと離れてっ」

「まず、人間は地域により違うけど、西方だと近くて、東方だと遠いかな」
「みたいだねー。東方だと握手とかハグとかやんないし、オジギばかり」
「アルフレイム大陸自体、テラスティア大陸とかよりお互いに距離を置きやすいって聞いたけど、一説だと『アルフレイム大陸は湿度が高くて、人族同士で感染する疫病も多かったのかもしれない』っていうんだって」
「病を伝える小さすぎて見えない生き物の話だよね。魔動機文明時代の後期に見つかったっていう」
「ノスフェラトゥの本体はそういった病に“穢れ”が付いたとかいう説もあるけど、それはさておき」

「エルフも、少なくとも西方の人間よりは距離置くよね」
「……りかんとヨリ、距離置ク」
「エルフは離れてても孤独を感じにくいっていうし。ドワーフからは冷淡に見えるみたいだけど」
「すごい清潔さにこだわるのも、病気を警戒してるから?」
「むしろドワーフは『焼けば大丈夫』くらいに思ってない? 髭同士でハグして暑苦しい……まあいいや本人達が大丈夫なら」
「熱で乾燥した環境だったり、スチームバスやファイアバスによく入ったりで、疫病も焼けるのかも」
「ぱーそなるすぺーすノ狭サモ、地下ニ住ンデイテ空間ヲ取レナイカラカモシレナイ」
「タビットとかも穴に住むから、割と近くても平気っぽいね」
「まあ……居住空間の大半が本やメモだし」
「ルーンフォークは密着しても抵抗なさそうかなあ。仕事してると割と距離取るけど、必要だと思うとおもいきり距離詰めるよね」
「仕事での距離は教育で学んでて、根は集団生活に適してて……って感じ?」
「ソシテりかんとハ、積極的ニ近寄ル」
「モフモフの動物とかをつい連想しちゃうけど」
「ぼでぃーらんげーじガ占メル割合ガ高イノダロウ」

「リルドラケンも人懐っこいけど、意外と異種族には触れてこないよね。鱗が硬いから?」
「のしかかるような圧迫感を感じさせないために、距離を置くのかもしれないね」
「グラスランナーは、近いように見えてこちらからは近寄りにくいよね」
「安全を保つ距離をいつもうかがってるんだろうけど、そのせいで天性の盗賊とか言われる羽目に」
「メリアは短命種だと近くて、長命種だと遠いかな」
「どっちもおしゃべり好きだけど、そこだけ草と木の性質を受け継いでいるの?」
「どうなんだろうね?」

「ティエンスは、むしろこちらが近寄りにくいよね」
「凛トシタ雰囲気ダ」
「魔神との戦いが頭を離れないから、緊張感が抜けないんだろうね」
「そんな子が、ふとした拍子に心を開いてくれるのが萌える」
「心を開いてくれるように努力しようなー」
「はーい。レプラカーンも距離を置く組?」
「家族にはべたべただけど、それ以外には近寄りもしないってのが多いよね」
「ある意味極端なのかも」

「トコロデ蛮族ハ?」
「種族によるんだろうけど、コボルドはどこかに距離置いてるよね。もふもふなのに」
「他ノ蛮族ニ虐待サレ続ケレバ、アアナル。暴虐ヲ許シテハナラナイ」
「マーマンとかみたいな比較的温和な種族なら違うんだろうけど、そっちはそっちで種族の外には垣根置いちゃうだろうしー」
「ドレイクは近さを強要して、パワーハラスメント働いてそうなイメージあるかも」
「その欺瞞のうちに輝く、真に心を許し合った仲……尊い!」
「バジリスクは無頓着で、お互いの気分次第で距離を決めるのかなあ」
「ディアボロはお互いに孤独なタイプかなあ。強ければいい! 後は知るか! 的な、典型的なウォーモンガーイメージ」
「ダークトロールなんかもそんなのかなあ。人族にはちょっとわかんないよねー」
「平和がいいねー。お茶ー」
「自分デ注ゲ」

 
(解説)
 パーソナルスペースの広さは、種族によって大きく異なり、特に西方の人間と東方の人間の間や、エルフとドワーフの間で揉める事があります。

(解説の解説)
 新型コロナウイルスの話を聞きながら、「東アジアの礼法ってお互いに触れないよねー」って事も聞いて。


☆漂泊の民について

 
 ラクシアの各地で見られる「漂泊の民(アイティナラント・ピープル)」。「ワンダラー(放浪者)」「トラヴェラー(旅人)」「ティンカー(鋳掛け屋)」などと呼ばれる人族には、様々なタイプがあり、発祥も一様ではありません。

・狩猟採集民(フォレージング・ピープル)
 人族が農耕を覚えるより前からの生活形態であると、魔動機文明時代の研究では見られています。集団の規模は1つの家族から、最大でも200〜300人程度の「全員が顔見知り」になれる大きさまでです。おもな生活手段は採集によるもので個別に入手しますが、狩猟で得られる獲物は狩猟者以外にも積極的に配分されます。また、貴重な資源は集団の外と交換して、集団内で得られない物と換える例もよく見られます。資源が狩猟採集の圧力に耐えられるように移動を繰り返す事が多いのですが、資源が豊富であまり移動しなかったり、特に魔動機文明時代以降は高価な資源が採集圧に耐えられず根絶を招いたりもします。現存する人族では、リカントとグラスランナーが多く見られますが、高価な資源を外部に売って収入にする事も多いです。
 農耕などをできない大半の蛮族の社会も狩猟採集民になりますが、強者が資源を独占しようとする傾向が常にあり、災害に対しては脆弱です。集団の規模は人族よりも小さくなります。

・遍歴職能民(アイティナラント・エキスパート)
 仕事の対象が広範囲にありながら、仕事が必要とされる頻度が低く、定住して店舗を営むのが難しい職種に従事します。政治的に独立しておらず、主流の集団(おもに農民や牧畜民)にある程度従属的です。ドワーフの鋳掛け屋のように種族の標準的生活形態からかけ離れた生活を送る場合もあり、特に人間の場合、漂泊の民の職能民が異民族に近い扱いを受ける場合があります(魔動機文明時代後期の民俗学では「部族的職能民」と分類されます)。そうした職能民は一般住民と異なる文化を持ち、独自の方言やスラング、服装、料理、慣習などを備えています。そのような例として、魔動機文明時代のザルツ地方のタマフ=ダツエの民は占術を、現存するコルガナ地方のノマリ族は製薬や医療を生業にしています。リカントは同じ特徴を持つ一団(狐の部族、鼠の部族など)が職能民となる例も多く、移民からの迫害が激しくなかった大陸東部でおもに見掛けます。
 漂泊の民の職能民の起源は、第一の剣の価値観が浸透して外来者を受け入れやすくなった神紀文明時代だと考えられています。独立性の高い「部族的職能民」は、人族の人口が大幅に増加して、その辺りの資源を勝手に使えなくなっていった魔動機文明時代には、「定住民の土地や資源を荒らす」「子弟を学校に通わせない」「法律に従わない」「政府に登録をしない」などの理由で弾圧を受けました。種族としては人間であるため、グラスランナーなどの異種族では寛大に見られがち(つまり事前に対処される)な行動も許容されなくなっていました。定住化や魔動機を使った移動生活の適応(通信教育や通信販売など)をした「部族的職能民」もいましたが、独自の文化が放棄されたり弾圧を受けたりした場合も多く、迫害の対象になり組織的に殺害された戦争もありました。〈大破局〉で人族の人口が大幅に減り、職を依存する一般社会に受け入れる余裕がなくなったり、社会全体が軍事体制を敷いたりで、「部族的職能民」の多くは最終的な打撃を受けて、独自性を保てずに一般社会に飲み込まれていった例もよくあります。現存している職能民のほとんどは、生活必需品を大規模に提供したり、独自性を維持できる拠点を持っていたりするものです。
 ちなみによく話題になりがちなグラスランナーは、集団として同一の職種に従事するわけではないため、職能民としての社会的影響は集団としてはほぼありません。

・放浪者(ヴァグランツ) ※『アウトロープロファイルブック』より意味を広く取っています。
 大集団ではなく個人から数人で、とりとめなく、当てどころなく移動します。見聞を広める旅や蛮族討伐などの名誉を目当てにしたやや上層寄りの動機と、繁忙期を目当てにした農場・牧場の季節労働、鉱物の産出ラッシュなどを目当てにした労働者系の動機に分かれます。アウトドアや遺跡などでの生存術にも長けており、斥候や野伏が任務や隠遁のために放浪者をしている場合もあります。冒険者も他の大陸では放浪者にあたりますが、アルフレイム大陸の冒険者は“壁の守人”のバックアップがあるため、放浪者にはあまり含まない傾向があります。

・難民(リフュジー)
 戦争や災害で故郷を失い、漂泊を余儀なくされる人々です。たいていの場合は縁がある定住地に迎え入れられる、故郷を復興する、別の土地に入植する、餓死や凍死するなどしますが、手に付けていた職を活かして漂泊を続ける例もまれにあります。一部の「部族的職能民」は、難民を起源とすると考えられています。〈大破局〉直後には多くの難民が出ましたが、現在でもしばしばこういった難民が出て、政府や神殿が再定住や帰還に向けての支援を行います。社会的立場が弱いため、犯罪組織に引き込まれる例や、違法に売り飛ばされる例もあります。
 〈大破局〉での難民の子孫が都市の外縁や廃墟にスラムを形成している例もありますが、本題を外れるので別の機会にしましょう(注:考えていません)。

×遊牧民(ノーマッド)
 遊牧民は移動生活を送りますが、組織規模が大きく、基本的に冬営地を中心とした一定範囲を移動しており、勢力圏に固定した都市を領有して職工民や農民を傘下に置いている事も多いので、一般的に漂泊の民には含まれません。

×彷徨者(ストレイ)
 特定の居所を持たずふらついていますが、個人単位でなく、拠点から遠くに移動しない者もいます。

・漂泊の民の信仰
 狩猟採集民であっても、いわゆる「孤立した部族」は少なく、たとえそうであっても神紀文明時代以来の信仰を維持しており、おもに古代神や大神を信仰しています。まれに第二の剣の陣営の神を信仰していたり、魔神崇拝を行っていたりする危険な集団もいますが、魔動機文明時代に駆逐されたため、現在まで残っている事はあまりありません。
 職能民は職能を司る神を信仰する場合と、一般社会と共通した信仰を持つ場合、そして独自の思想体系を持つ場合があります。特に人間の職能民が独自の思想を持つ場合、第二の剣の神の影響を受けるなどで「仲間の外には何をやっても許される」と考えていた例もしばしばあり(人族の調和を旨とする第一の剣の陣営の思想からは外れた行いです)、グラスランナーのような本能的なもの(教育で抑え込める)とは異なる有害なものと見なされ、魔動機文明時代後期には厳しく取り締まられました。
 難民は漂泊に打ちひしがれて、それでも信仰を保ち続ける者と、信仰も打ちひしがれた者がいますが、信仰が薄れても神々を否定するまで行くような事はまずありません――その前に第二の剣の神の信仰に走るか、奈落教に引き込まれるかします。

・漂泊の民がほぼ見られない種族
 エルフは魔動機文明時代には人間との交渉をあまり持たなかったため、また狩猟採集生活のみに依存する事が少ないため、個人的な事情以外で森や水辺を離れて漂泊する事は少ない傾向にあります。
 ドワーフは、鋳掛け屋や隊商のような外へ出て仕事をする場合のみ移動生活を行い、仕事が終われば自分の共同体へ戻ります。共同体を離れても、頑丈で安全な拠点を持つ傾向があり、漂泊を好みません。
 ルーンフォークは目的を持って生産されます。目的意識も強いため、居所のない状態を好みません。主人と認めた相手に従って漂泊する事はありえます。
 レプラカーンは隠れ潜むのを好みますが、やはり安全な場所を確保したがります。
 ティエンスは魔神を退治し、“壁の守人”や冒険者の一員となる事が多く、その目的のためのみ漂泊生活がありえます。

 
(解説)
 漂泊の民は神紀文明時代以来は社会の主流ではないため、ラクシアでもあまり研究されていません。魔動機文明時代でも調査の目が行き届くほど文明が発達する前に〈大破局〉を迎え、現在では解明できなくなった事もたくさんあります。伝承を概ね口伝に頼ってきた漂泊の民は、魔動機文明時代に忘れ去られた古の伝承を口伝えしている例も多いため、冒険者はそうした情報源にも頼る必要があるかもしれません。また、事件が起きるとよそ者として嫌疑を受けたり、巻き込まれても地元の官憲を頼りづらかったりして、冒険者の出番になる事もあります。

(解説の解説)
 「部族的職能民」は、現実世界には存在しない用語です。「ジプシー」は「エジプト人」に由来する単語なので、交易共通語に言い換えるのがめんどくさかったです。世界観に没入できなくて気にしちゃうの。
 あと、日本には移動生活を送る集団がほぼいないので、分かりづらいなと思いますが、『デモンズライン』で気になってしまいました。安心してください。私もよく分かっていません。


☆アルフレイム大陸の条約

 
 アルフレイム大陸では、様々な国際条約があります。古いものでは魔法文明時代の単純な条文のものからありますが、大半は魔動機文明時代に締結されたものを引き継いだり、〈大破局〉後に手直ししたりしたものです。

・冒険者ギルド条約
  ――冒険者ギルドは、以下の業務を行うことはできない。傭兵業 探偵業 代理闘士 開拓復興事業 ……――
 ヴェイルボーグ政府が中心となって結んだ、“壁の守人”が母体となって作った対魔神組織「冒険者ギルド」の受け入れや行動範囲についての条約です。アルフレイム大陸で存続している人族の国のほぼすべてが正式に調印し、そうでない地域(成立したばかりの国、内戦中の国、中央政府のない地域)でも慣習法として通用しています。

・〈大破局〉以前の私的資産の破毀(はき)についての条約
  ――〈大破局〉が終結した大陸新暦X年1の月1の日時点で人族の保有下に置かれていない私的資産は保有権を喪失したものとして、これを破毀する。――
 〈大破局〉で失われた私的資産の保有権を白紙にする条約です。魔動機文明時代の遺跡で手に入れた物について元保有者や子孫の権利を封じるための条約であり、各国の国家緊急法(我々の世界の第一次大戦基準なのでほぼ無制限)による処置を追認したものです。公的資産は対象外であるため、遺跡が現存している国の一部であった場合、占拠しても領有権を主張できません。スフバールはこの条約に調印しておらず、ザムサスカ地方の旧ルセア領の資産の接収権を主張していますが、冒険者に対しては半ば目をつぶっています。

・デュランディル式目
  ――魔術ヲ使フ者ハ制御デキヌ脅威ヲ解キ放ツベカラズ――
 魔法文明時代に魔法王デュランディルが定めた法律で、デュランディルの家族や弟子たちがデュランディルを殺害して自立してからも、魔法王相互の際限ない破壊を防ぐために守り続けました。魔法文明の滅亡後には失効しましたが、「軍事目的で堤防を破壊してはいけない」などの条文は後世の条約や慣例に生きています。人族の法令一般を無視し軽蔑する蛮族でも、デュランディルへの畏怖もあり破ろうとするのは困難です。

・被造物についての人権条約
  ――ルーンフォークは人族一般に保証される権利を享受し、また課せられる義務を負う。――
 ラクシア全土規模で結ばれた、魔動機文明時代でも稀有の条約です。ルーンフォークに対する人権を認め、適切な取り扱いを義務付けるものです。コントロールが前提とされている条文の大半は現在には適用できず、事実上失効していると考えられていますが、ルーンフォークの間では今でも記念され、集落やジェネレーター施設に条文がよく飾られています。

・外交一般についての条約
  ――外交官の死体は頭蓋から脊椎にかけてを傷付けず、至急に所属国へ引き渡す。――
 魔法文明時代は些細な理由で投獄、拷問、殺害などされていた外交官の身の安全を図るため、魔動機文明時代の前期に積み上げられていった慣例や条文を、魔動機文明時代後期にまとめた条約です。原住民国家に対しての侵略には都合よく無視された歴史があるため、リカントや東部の人間はこの条約をあまり信用していません。

・国際鉄道に関する条約(大陸新暦10X年キングスフォール条約)
  ――国際鉄道の軌間は1435mmとする。――
 魔動機文明時代に結ばれた鉄道条約を、ほぼ全文改定して魔動機文明語から交易共通語にしたものです。実際に調印しているのはキングスフォールと国際鉄道が直通している国だけであり、ローカルな鉄道網(あるいは孤立した路線)はあまり従っていません。鉄道ギルドの国際鉄道施設内警察権に調印しているのはドーデン地方の国だけです。ストラスフォードが開発した鉄道は軌間が1000mmでしたが、より大型の車両を安定して走らせるため、条約の標準軌は魔法文明時代の馬車の轍(わだち)から取っています。


『ソード・ワールド2.5』:(C)北沢慶/グループSNE/KADOKAWA

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