☆ お姉さんスイッチ(Bパート) ☆


お姉さんスイッチ(Aパート)から

 
>あらすじ

 
 ある初夏の日、私――小早川ゆたかと従姉のこなたお姉ちゃんは、四人の友達と一緒に家で遊んでいました。
 そこでつかさ先輩は、私とみなみちゃんと相談して作った「お姉さんスイッチ」を出します。これは、五つの頭文字を使った動作を相手にしてもらうという遊び道具。
 「お姉さんスイッチ」を手にした私達は、つかさ先輩のかがみ先輩に対する暴走に刺激されたのか、お姉ちゃんを、高良先輩を、次々に恥ずかしい、ちょっと大人向けな状態にしてしまいました。
 こうして満たされた私達。しかしその時お姉ちゃんは、「姉として先輩として、ゆーちゃんにやられっぱなしなわけには行かない」と口にします。
 お姉ちゃん達は一体、私達に何を目論んでいるのか――。
 『らき☆すた』二次創作ショートストーリー「お姉さんスイッチ(Bパート)」。
 人よ、未来へ帰還せ――、
「ゆたか……また泉先輩と同じ展開?」
 あ。……ごめんみなみちゃん。前回のお姉ちゃんがかっこよかったから……つい悪乗りして。
「でもこなちゃんだと許せないという名目でいたずらしちゃうのに、ゆたかちゃんだとなぜか許せて普通にいたずらしちゃうんだよねー」
 そ、そんな不穏当な発言はやめて下さいつかさ先輩――きゃあああーっ!!


>4.かがつか(続き)

 
 こなたお姉ちゃんは確かに、かがみ先輩やつかさ先輩、それに高良先輩をからかう時と同じ笑みを見せた。でも目は全く笑っていない。
 そしてお姉さん三人の手には、たった今作ったばかりの、「お姉さんスイッチ」とは寸分違わぬ構造の、書いてある文字だけが違う「妹スイッチ」。かがみ先輩は「た」行、お姉ちゃんは「な」行、高良先輩は「は」行。お姉ちゃんのには「従妹も可」、高良先輩のには「幼馴染も可」と書いてあるのが全く笑えません。
 私達に詰め寄るかがみ先輩は、鼻にかかった艶っぽい声で、女性を誘惑する男の人のような声色を出します。しかし、目は弓のように引き絞られて、下手な事をしたら速やかに射殺されそうな殺意を放っていました。
「特につかさ、アンタは随分間違った性知識を持ってるみたいだから、姉として正しい性教育をしてあげないとね?」
「みなみさんにも、年齢相応の手順を踏むというたしなみを身に付けて頂きましょうか。ええ、これは恥辱を味わわされたお仕置きなどではありませんから」
 高良先輩も、やけに機嫌良く、笑顔なのに声は全く笑わずに、眼鏡は光を反射して目の表情を読めません。
 つかさ先輩は身体を震わせて、年下のみなみちゃんの腕にしがみ付きます。やっぱりつかさ先輩はかがみ先輩に――って何考えてるんだろ私!?
「本番に突入すると説明するどころじゃないから、一度だけ言うわね。これからアンタ達には、私達の指令に従ってもらうわ。断りはしないと思うけど、もしそうなら……」
「ひう〜〜っ!!」
「つかさ先輩」
 静かな、でも力強い口調で、みなみちゃんが年上のはずのつかさ先輩を咎める。さっきの猟犬だった姿が思いもよらない、子犬のようなつかさ先輩は、私が年上なら思わずきゅんとしてしまいそうな姿です……ってそうじゃなくてー!
「……先輩達の性格からして、お仕置きを受けるのは覚悟していたはずですよ。……私の場合はつかさ先輩とゆたかの雰囲気に流されて、対抗心で暴走してしまいましたけど、後でみゆきさんに仕打ちを受けるのは当然だと思っていましたから」
「そっ、そうだよね。で、でも怖いよ……お姉ちゃん……!!」
 全身でみなみちゃんにすがり付きながら、この上なく恐ろしい神罰に怯えるみたいに、泣き叫ぶ事もできずにただ震えるだけのつかさ先輩。もしかがみ先輩が体罰を加えようとしたら庇おうと、みなみちゃんが立ちはだかるのに合わせて私も前に出た。
「ゆっ……許してもらえなくてもいいっ。だから、き、嫌いになっちゃ――」
「つかさ」
 でもかがみ先輩は、そんな私達ごとつかさ先輩を抱き留めて、天使みたいに――いや、かがみ先輩は神道の信者だから、神様のお使いみたいに温かく、そして奥深い、慈悲さえ感じさせてくれる、お母さんのように優しい声で……。
「私達が本気で嫌だったなら、抵抗なり何なりして、少なくともあそこまで素直に受け入れるわけなかったじゃない」
「あのー、私はゆーちゃん受け入れるのが本気で辛かったんですけど」
 切実な(だからごめんっ)こなたお姉ちゃんの言葉はそのまま流されて、かがみ先輩は話を続ける。端から見るとまるで、三人の娘をまとめて抱き締めるお母さんみたいかな。視界の隅の高良先輩がぽたぽたと音を立てているのを聞いて、みなみちゃんが「洗濯しないと」って言ってるけど、そんなに高良先輩って鼻が弱いんでしたっけ。
「だからね、つかさ……私はつかさにお仕置きをするけど、同じくらい喜んでほしいと思ってるの。痛いとか苦しいとか思うような事は絶対にやらないから、お願い……私の全てを受け止めて」
「うん……。嫌がったりしてごめんねお姉ちゃん。私も……自分を、お姉ちゃんの一部だと思ってるから。いつかお互い結婚したり子供を産んだりするけど、それでもお姉ちゃんは、ずっと私と一つなんだから」
 すみませんつかさ先輩。それは恥ずかしい恋人同士の台詞です。ほら、高良先輩の方から湿った鉄錆の匂いが漂ってますし。ああお姉ちゃん、先輩にティッシュかトイレットペーパーを持たせてよぉ。
「な、何言うのっ。いくら私も同じ事思っていても、みんなの前で恥ずかしい事言わないでよぉっ」
「もー。お姉ちゃんってそこが可愛いんだからぁ」
 頭上で甘えあうお二人に、上気して胸がばくばく言う私。まとめて抱き締められた時に、私はゆいお姉ちゃんほどじゃないけど大きな胸を頬に当てられました(ちなみに、みなみちゃんはお腹の上辺りに、つかさ先輩本人はちょうど胸と胸が……)。すっかりごちそうさまな気分で、いじけるこなたお姉ちゃんをよしよししながら、私は高良先輩やみなみちゃんとも一緒に観察し続けます。
 改めて「妹スイッチ」を手に取ったかがみ先輩は、しっかりとストローのアンテナを立てて、箱をつかさ先輩に向けてから「た」のボタンに右手の人差し指を添えました。かがみ先輩とつかさ先輩は左利きのはずですが、鉛筆やお箸を右手で持つ事ができます。なんでも神事で左利きなのはよくないから少し矯正したけど、普段は左手を使っていたので、一応は左手の方が上手、でも感覚が鈍らないように右手も時々使うそうで。
「それじゃ行くわね。『昂る』」
 その、日常生活でもお料理でもあまり使わない単語に、解放されたつかさ先輩は、丸い感じの目を一層丸く見開きました。もしつかさ先輩に犬の耳と尻尾があれば、珍しいものを見たみなみちゃんちのチェリーちゃんみたいにちょっぴり垂れていたでしょう。
「たかぶる?」
「興奮する、って意味よ」
「わわ、分かってたよお姉ちゃんっ。私は成績悪そうに思われてるけど、お姉ちゃんとゆきちゃんとみなみちゃんが成績いいだけで、一応は平均点くらいなんだからっ」
 成績の話をした事がないはずの私はともかく、さり気なくこなたお姉ちゃんを抜かしてますねつかさ先輩。お姉ちゃんがいじけると機嫌を取り戻すのが大変なのに。ああもう、また「背も胸も私より」とか言い出すし。
 つかさ先輩は自分の胸に手を当てて、すーと深く息を吸ってから――、
「あぁん……お姉ちゃあん……」
 ――さっきの「甘える」とあまり変わりのない展開だけど、やっぱりさっきから見ている状況のせいか、あまり衝撃を受けずに見ていられる。高良先輩は相変わらずティッシュを交換しながら、みなみちゃんはそれに付き合わされながら目を奪われ続け、お姉ちゃんは「『達する』とか、濁点オッケーだったら『抱かれる』とか」なんて、ホントは分かるけど分かりたくない事を口走っていた。
 つかさ先輩は自分のいろんな所を揉んだりさすったりして、その度に可愛らしい声を上げた。かがみ先輩はそれを観賞しながら、「ほら、そこはもう少し優しく」とか「もうちょっと後ろがいいんじゃない?」とか指導して、つかさ先輩を強く、より強く感じさせて、大人の階段を半ば強制的に上らせていく。
「ん……ああっ。お姉ちゃんのが私の中に……」
「ほらほら、達しちゃダメよ。昂ったのを発散したら一からやり直しじゃない」
「お姉ちゃんの意地悪――ひぁっ!?」
 という具合に。それにしてもつかさ先輩、どんな展開を想像してるんですか……。

 
 そして、具体的な描写がまずい状態になりかけたところで、かがみ先輩はつかさ先輩が昂るのを止めさせました。つかさ先輩の身体を抱き締めて落ち着かせながら、「これ以上続けたら、約二名の教育に悪いからね」とか言ってましたけど、とっくに手遅れです。みなみちゃんはダメージ受けすぎて、ドッジボールで内野になってしまった私にボールを当てられないからって錯乱した時よりひどい状態だし。お姉ちゃんと高良先輩も、またまた耳まで真っ赤。
 こんな過激なかがみ先輩は、スイッチを手にして続けざまに、犬のしつけ感覚でつかさ先輩の調教を続けます。
「『痴態を披露する』」
 い、いきなり血を分けた双子の妹に、友達や後輩の目の前で何をさせるんですか!? お姉ちゃんすら真っ赤になって「早いよかがみーんっ!」と言う始末なのに?
 ああ、それなのに、肝心のつかさ先輩は意味を飲み込めないみたいで……。
「ち、痴態って?」
「えっちな行為を恥じらいなく、もしくは恥じらいで快楽を抑えきれないほど行っている様子の事ですよ。『昂る』よりは表現重視と考えられるでしょうね」
 高良先輩の懇切丁寧な説明に、「がちょーん」とか古いネタをしてくれるつかさ先輩。どこでそんなネタを仕込むんですかもう。
 さて――両脚を開いて、その間にズボンの上から手を添えたつかさ先輩は、身体をさすりながらとろけたような目をして、喘ぎ声を忍ばせながら心の中の相手の名前を……。
「あっ……あぁあ……こなちゃんっ……」
 …………つかさ先輩……本人の前で大胆すぎです。こなたお姉ちゃん、すっかり魂が口から抜けてるし。ほら、高良先輩も鼻血を流している場合じゃないですよぉ。
 それにしても、幼い感じですつかさ先輩。お姉ちゃんは幼いのは体格と駄々っ子な所だけなのに、つかさ先輩は容姿も仕草も服装も、「女性」というより完全に「女の子」なんですから。だからえっちな声をされても、普通にドキドキするくらいで見ていられるんです。もし私が背丈の高い男の子だったら、絶対につかさ先輩を放っておかないのに。
 肝心のこなたお姉ちゃんは、微妙に視線をそらしながら、恥じらいを抑えるようにかがみ先輩のスカートをつかんでいる。かがみ先輩には時々大胆なのに、つかさ先輩には意外と弱いのは、やっぱりストレートな愛情表現に慣れていないから?
「まさかみゆきさん達の前で、私の名前を呼ぶなんてねぇ」
「だ、だって、お姉ちゃんを呼びながら達するところなんて、みんなの前だと恥ずかしくてできないよぉ」
「いや、私が恥ずかしいし」
 羞恥心の塊と化したお姉ちゃんに、つかさ先輩は一瞬悲しそうになり――そしてまた手を進めながら声を上げる。
「くっ、黒井せんせえっ……」
 そ、それは余計マズいと思うなー私。黒井先生は先輩の担任ですから、ほぼ毎日顔を合わせる相手でそんな想像すると、まともに顔を見られなくなりません?
「こ、これが、かがみさんの作戦ですか……」
「作戦?」
 みなみちゃんはいつもより微妙に高良先輩から距離を取りながら、うろたえた時の――先輩のお母さんに微妙に恥ずかしい所を見られた時のような声を出す。みなみちゃんは高良先輩に具体的な表現をはばかるような事をしてるし、後で高良先輩にお仕置きされるから、さすがに今は距離を取っておきたいんだろう。
「つかささんの身体を様々なシチュエーションで昂らせ、それを発散させずに悶え続けさせる。こうしてつかささんの理性を壊して、美味しく熟成したつかささんを頂こうというかがみさんの計画的な行為……なんて恐ろしい事でしょう」
「いや……そこまで非道な事は考えてないんだけど。もしかしてみゆき、そーいう事をみなみちゃんにするつもりじゃないだろうな?」
 という、要約すると「考えすぎよそれ」というのはかがみ先輩の答え。話はずれるけど、高良先輩のイメージからすると、豊富な知識を活かしてみなみちゃんを攻めるような感じがする。知識を披露するのが大好きな人だから、一旦興味を持つと、その……さっきのみなみちゃんより凄い事をするだろう。でもおっとりしていて、しかも一心不乱になると凄いから、気を付けないとみなみちゃんが壊れるかもしれない。さすがに私がいる限り、そんな事は絶対にさせないけど。
 さて本筋に戻ると、かがみ先輩は双子の妹を、寝付けない子供を優しく寝かし付けるお母さんのようにさすっていた。その姿を見るとお母さんを思い出して、実家がちょっぴり恋しくなってしまう。
 先輩達のお母さんには何度かお目に掛かった事もあるから、とても暖かい人だと知っている私。やっぱりかがみ先輩は、見た目の通り先輩のお母さんに似ているんだ。そんな事をお姉ちゃんに言ったら、「みきさんもただおさんにツンデレだったのかなー。今はすっかりデレモードだけど」なんて返す――もちろんそんな事、柊家の皆さんに言えるわけありません。
「みゆきにあれこれ言われたけど、こうすれば身体も鎮まるでしょ?」
「か、かえって落ち着かないよぉ。お姉ちゃんがいろいろ触ってると、一緒に寝る時を思い出すから」
「つかさ先輩……寝るってどちらの……」
 普通の意味に決まっていると思う一方で、別の意味でもおかしくないと自然に思ってしまう自分が怖い。私とお姉ちゃんはそんな目で見られる事はないと思うし――先輩達やみなみちゃんがいるから――、高良先輩とみなみちゃんも同じだけど、やっぱり二人は距離が近過ぎるから、生まれつき接触するのに抵抗感が無いんだろう。そういえば今日だって、「お姉さんスイッチ」を出す前からかがみ先輩に密着してたっけ。
 で、つかさ先輩はもじもじしながら、私のあんまりな質問に答えようとしない。今日は疑惑を立てる行動が多いつかさ先輩は、やっぱり楽しく遊ぶためにわざと演技をしてる……はずだと思いたい。天然――つまり、純粋だけどうっかりさんのつかさ先輩だから、そっちの可能性もあるけれど。
 でも、妹に業を煮やしたかがみ先輩は、「妹スイッチ」を手に取って、「ち」を強引に終わらせる。
「ほら、話が続かないから次行くわよ。……『つつーっ』」
「つつ?」
「……いやつかさ、怪訝そうにしないでさ、かがみのジェスチャーをよく見なよ」
 ああ。こなたお姉ちゃんはもう気付いてるけど、かがみ先輩はつかさ先輩に、身体で指をなぞられて、その反応を示してくれって言いたいんだね。学校を休んだ時によく見ているけど、こういう擬音系のスイッチは意外と多い。大抵は考えあぐねた末の強引なこじつけだけど、たまにこういう名作もあるから面白いよ。……まあさすがに、「つがう」や「突く」や「貫く」はダメだろうから。
 とはいえ、実際に身体を指でなぞられているつかさ先輩にとっては、面白いとかいうどころではなくて。
「ひぁあっ!? く、くすぐったいよお姉ちゃんっ!」
「おーおー、いい反応してるじゃない。私と同じように食べてるのに、全然太ってなくて羨ましいわ」
「でもお姉ちゃんは胸とかお尻とか――きゃんっ!?」
 前言撤回。面白そうでした。そしてかがみ先輩は両手で、つかさ先輩の身体を念入りに愛撫していきます。お互いを知り尽くした姉妹だけあって、楽しみながらも効率的に責め立てるかがみ先輩によって、的確につかさ先輩は甘い声を上げながら、とろんとした垂れ目の焦点が合わなくなっていきました。
「おっ、お姉ちゃんっ。指が私を突き上げてっ」
 ちょっとっ! つかさ先輩のどこを触ってるんですかかがみ先輩ーっ!?
「あ、ああっ。そっちの指が私に入ってくるぅ」
 ……今度はつかさ先輩の脇の下にです。でも脇の下をなぞられて笑うより快感が先に来るなんて、つかさ先輩は特別に感じやすいのか、それとも相手が双子のお姉さんだから?
「かがみって……ウサギじゃなくて、やっぱり虎か狼だったね。それでも性欲はウサギ顔負けだけど」
「む、むしろ、北アメリカの太平洋岸北西の民族の伝説に現れる怪物『人喰い』とでも表現した方がよろしいでしょうか? ちなみに日本では愛知県犬山市と岐阜県可児市の境にある野外民族博物館リトルワールドの建築物に(略)」
「みゆきさーん、一人で現実逃避モードに入らないでよぉ……」

 
 ……それから色々あって、全身をなぞられて身体をひくひくさせたつかさ先輩は、ようやく解放されてみなみちゃんに寄り掛かりました。脱力しきったつかさ先輩の身体は余計に色っぽく、そんな先輩を介抱しながら顔が赤いみなみちゃんに、ちょっぴりやきもちを焼いたかは(そしてやきもち焼いたのはどちらにかは)内緒。お姉ちゃんは「もう妻認定だよ」とか言ってるけど、誰が誰にですかもう。
「みなみちゃんのお膝の上、まるでお姉ちゃんみたい……お姉ちゃんのむにむにした感触も好きだけど、みなみちゃんの引き締まった感触もいいな……」
「どう違うのか確かめさせ――て頂くまでもありませんかがみ様」
 などと余計な事を言って黙らせられるお姉ちゃん(と、つい同意しそうになった私と高良先輩)には構わず、つかさ先輩とみなみちゃんは――、
「つかさ先輩……やっぱり背丈の分、ゆたかより重いです」
「むー。意地悪なみなみちゃんっ」
 可愛らしくむくれるつかさ先輩に「そんな所はゆたかと一緒ですね」と苦笑するみなみちゃん。ずるい。ずる過ぎる。
 そんなこんなの後にかがみ先輩が出したのは、つかさ先輩にとって更なる過酷な運命――でもなかったりして。むしろ私達の理性に猛毒です。
「『手を出される』。これくらいならいいかもね?」
「わ、私が……お姉ちゃんにだよね? ここでこなちゃんかゆきちゃんと絡めとか言われたら、恥ずかしくて死んじゃうよぉ」
 あのー、既に私達が恥ずかしくて死にそうなんですけど。高良先輩はまた執拗に鼻血を流してますし、みなみちゃんも硬直して「吸収されない、ずるい」とかぶつぶつ言ってるし。
「寝取られプレイかぁ。マニアックだねかがみも」
「『こなたが私とつかさに』と付け加えて、二人で同時に責めてもいいのね?」
「ごめんなさいかがみ様。つかささんとまぐわられる一部始終を見学させていただきますから」
 ……みだらがましい事を言うお姉ちゃんを私がほっぺぎゅーでお仕置きし、かがみ先輩は呆れて肩をすくめてから、期待にそこそこある胸を弾ませるつかさ先輩に向き直った。
 柊家は神職の家で、古い神社の神職だと家系図が神様まで繋がってる所も多いらしいから、大国主命、つまり大国様の遠い子孫という事になるのかもしれない。大国様はたくさんの神様と結婚して子供を作ったから、その……そっちの方も似てて、二人ともそちらの欲が強いなんて事は……ないよねきっと?
 でもやっぱり、全力で身体を重ね合う先輩達の様子を見ていると、そんな仮説を思わず認めてしまいそうになる罰当たりな私。
「つかさ……私の可愛い子……」
「あ、ああんっ。お姉ちゃん、硬いのが私に触ってるっ。あそこがまた、こんなに大きくなってるよぉっ」
 胸の膨らみとその先端の事を言ってると思しいんだけど、語弊しか招かない表現は慎んでほしいなつかさ先輩……。
「……ゆーちゃん」
「な、何?」
 まさかホントに――などと考えてしまった私の事がばれたのかと思ったけど、こなたお姉ちゃんはそれどころではなかった。虚ろな表情のまんまで、スーパーの棚で50%値引きされた魚の目をしながら呟くには。
「……かがみって、ゲームも徹底的にメモ作って、攻略本が出たら完全に読み漁って、ギャラリーもコンプリートしないと満足しないタイプでしょ? その感覚でつかさを徹底的に攻略して、あーいう関係になったんじゃないだろうね。現に私も、かがみに身も心も攻略され尽くしてるし」
 知らないってばそんなのっ。それより早く、鼻血の出し過ぎで貧血になった高良先輩を、頭を横にして床にっ。
 ああもう、つかさ先輩もかがみ先輩に身を任せきりにしないで下さい。お二人としては満たされてるのかもしれないけど、見ている私達が満たされなくなっちゃいます。
「ちょ、ちょっとゆーちゃん、隣の私に一体何をっ!?」

 
 ……また仔細は省略しますけど、私の意識が飛んでいる間に、つかさ先輩はかがみ先輩の手によって色々されていたみたいです。ああ便利だな私の弱い身体は。みなみちゃんみたいに虚ろな目でぺったんぺったんし続けるほどの衝撃を受けないで。
 なお、「全身をくまなく揉みしだかれた私から露骨に視線を逸らさないでよゆーちゃん」とか言うお姉ちゃんに何があったかは、自己嫌悪に陥りそうなので知りたくありません。
「――っと。今日は後輩達もいる事だし、これくらいにしといてあげるわ」
「……えぇーっ?」
 律儀に「手を出される」ところで止めたかがみ先輩は、全身が着崩れたつかさ先輩から身を離す。つかさ先輩はちょっと不満そうにしながらも、逆らおうとはせずそのまま離れた。
「私をあんなに攻めてたのに、自分が攻められるととことん弱いんだから」
「や、やはり姉妹だからではないですか? お互いの感じる所を知り尽くしているため、最高の快楽に身を任せてしまうのでは?」
 いつもの高良先輩からは想像できない「壊れた」理由付けに、何故かかがみ先輩はあっさり頷きます。
「……かもね。でもみゆき、私達を淫乱みたいに言わないでよ頼むから。ほら、つかさも内股に手を差し込まないで」
「そっ、そんな事は決してっ! 言いませんからっ!」
 太腿を撫で回しながら興奮して喘ぐつかさ先輩と、平然と微笑むかがみ先輩を見る限り、淫乱なんて生易しいものでは……いや何でもありません忘れて下さい。
「と、ところでかがみん。つかさへの最後のお仕置きは何なのかな?」
「お仕置きで決定なんだお姉ちゃん……」
 どちらかというと、つかさ先輩にはご褒美っぽいけど。つかさ先輩も息が上がってきているから、次の「と」で疲れ果てて寝ちゃうでしょうね。ちなみにその後は怖くて考えたくない――私がお姉ちゃんに色々される番だから。
 まあ後の事はともかく、ず〜〜〜〜っと双子の先輩を見ていたみなみちゃんは、高良先輩と同じ意味で「壊れた」目をしながら、真剣に私に「あの……」と声を。
「ゆたか……やっぱり胸は大きな方が?」
「み、みなみちゃんはスリムな身体のラインが素敵だからねっ?」
 お二人との比較で落ち込んだみなみちゃんを励まそうと言った言葉だけど、そこでぼそりと、「そうですか、参考になります小早川さん」とか高良先輩に言われたのは何でだろ。
 ともあれかがみ先輩がつかさ先輩に視線を合わせて唇を開き、発音した単語は――、
「『伽』」
「ちなみに伽とは、『くつろぐ時の話し相手』『寝床での性行為』の二つの意味があります。この場合はかがみさんがつかささんを(後略)」
 かがみ先輩の満面の笑顔の前に、もはやつかさ先輩はなすすべもありませんでした――。


>5.こなゆた

 
 …………かがみ先輩の凄さを目の当たりにして、私達はちょっぴりどころではなく茫然自失。お姉ちゃんは「かがみってドSなんだ」とか言いながら青ざめて、高良先輩は「お二人の親密さは聞いていましたがまさかこれほどとは」なんて言って、みなみちゃんは無言で胸をぺったんぺったんと叩き続ける。
「『いとこ同士は鴨の味』という、親族同士の夫婦の睦まじさを例えた言葉があるそうですけど、双子の姉妹は何の味なのでしょうね」
「自分が食べるわけじゃないので、どんな味でもいーですみゆきさん。あと鴨の味って、私とゆーちゃんを指してるんですか」
 極めて不穏当な高良先輩の発言は、お姉ちゃん同様に聞き流す。
 ちなみにつかさ先輩は、かがみ先輩の胸に顔をうずめて、優しく手櫛をされながら夢の中。身体をかがみ先輩の愛で満たされた今の姿は、姉妹というよりは恋人同士にしか見えません。田村さんがお姉ちゃん達で妄想してしまう気持ちが少し分かったような気がするけど、こないだのあの本は、つかさ先輩辺りにお仕置きを頼まないと。でも田村さんは逞しいから、それも漫画のネタになっちゃうような気がするんだよねぇ。
 などと想像しているうちに、いつの間にか私は、手足を拘束されていた。
「おおおお姉ちゃんっ!?」
 動転する私を平然と見るのは、当然ながら、にまにまと笑うこなたお姉ちゃん。拘束具は丈夫な革紐で繋がれているみたいで、引っ張っても手足に衝撃が直接は伝わらない。田村さんの漫画で見た事はあったけど、まさか私が使われるなんて思ってなかったよぉ。
「ゆーちゃんに抵抗されないように、手枷と足枷を使わせてもらったよ。本来はかがみ用なのが、一度使った後で『こなたってそんなの好きなんだ?』と言われて使い返されたから、使う当てがなくて困っててねー」
「そーいう当てで困らないでよ、もーっ!」
 これが知らない人にされたのなら、パニックを起こして叫ぶか、混乱して抵抗すらできなかったかだと思う。もしみなみちゃんや田村さんやパティちゃんや先輩達でも、いつもとは人が違ってしまったように感じて、かえって血の凍るような恐ろしさが増しているはず。
 なのにこうしてじゃれ合うように怒れるのは、それは相手がこなたお姉ちゃんだから。お姉ちゃんは私からの全幅の信頼を身に余ると感じてるみたいだけど、もっと自信を持ってもいいんだよ。先輩達だって、お姉ちゃんをあれだけ大好きなんだし。
 ……なんて事を考える私だけど、束縛されて褒めるなんて変な気分だよね。その間にお姉ちゃんは、「妹スイッチ」を取り出して、ご丁寧にも曲がるストローの先を私に向けてるし。
「棒状のアンテナ、恐らくこの場合はモノポールアンテナで送信を行う場合は、水平面内に際立った指向性を持たないため、目標に向けるのではなく垂直にした状態でも使用に不都合はないものと思われます。ちなみにテレビの受信などで用いる八木・宇田アンテナでは短い棒が多数並んだ導波器の側に指向性が」
「んじゃ、まずは『撫でられる』」
 いつもの如く右から左へ受け流される高良先輩はさておいて、「鳴く」とか「舐められる」とか「何でもしますから私を捨てないで」とかいう変な事を言われないでほっとした。……そんな想像を即座にできる私も、すっかりこなたお姉ちゃんに染まってるのは確実かも。
「よしよし、ゆーちゃん♪」
「えへへっ♪」
 手枷と足枷の事は忘れて、私はお姉ちゃんに撫でられる。
 お姉ちゃん(をモデルにしたキャラクター)は田村さんの漫画だともっと色々されてるそーだけど、どんなのかは見せてもらった事がないし、田村さんもお姉ちゃんも「それだけは」と泣いて拒むから。でも、田村さんが「こなゆたの場合はかがつかとゆきみなで行くべきか、それともかがみなにチャレンジもいいかも」とか言ってた意味がうっすら分かる私はちょっと嫌。
 なんて考えてると、お姉ちゃんの手が特定の場所をなぞって――、
「ひゃっ?」
 お姉ちゃんの掌に、指先に……薄手の夏服を通して、着ている肌着を探られてしまう。私の肌着は身体が冷えるのを防ぐために、厚手の物を好んでいるという事もあるんだけど、あまりにも手馴れたその様子に、先輩達――特にかがみ先輩に実行済みなんじゃないかと申し訳なくなってしまった。
「ゆーちゃんの下着、布地の面積が大きいよねぇ。かがみみたいに露出の多い下着を着けた方が、みなみちゃんも喜ぶんじゃなーい?」
「ほっ、本当ですかかがみ先輩っ!?」
「嘘に決まってるでしょ! ああもう、こんな素直な子を引っ掻き回してっ」
 誤解されて真っ赤なかがみ先輩を置いて、私のボディーチェックはまだ続く。つかさ先輩も高良先輩も真っ赤になってるけど、みなみちゃんも、「どんな下着でもゆたかはゆたかだから」なんて言わないでよもー!
 なんて考えてるうちにお姉ちゃんの手が差し込まれたのは、太腿の内側。今日はスカートだけど、さすがにお姉ちゃんも中に手を突っ込んだりはせずに、スカートの上から念入りに触れている。
「いいねぇ、ゆーちゃんの太腿。細いのに脂肪が程良く付いてる所は、太腿が太いかがみんには真似できないよね」
「なぜいちいちお姉ちゃんを持ち出すかなこなちゃん……」
「私に膝枕せがむくせに――って何でもないないっ!」
 でも膝枕は許可したんですかかがみ先輩。つかさ先輩も珍しくジト目になってますよ。
「泉さんにとって、かがみさんは理想のタイプの一つなのでしょうね。負けん気の強い泉さんですから、つい茶化すような事を言われてしまうのでは?」
「私もかがみ先輩、いや、せめてつかさ先輩くらいあればゆたかも……」
「せめて私くらいあればって、どういう意味かなみなみちゃーん?」
 真っ赤になったままのかがみ先輩には悪いけど、注目がそれて恥ずかしさを少しなりとも忘れさせてくれる。それにみなみちゃん……かがみ先輩も素敵な人だけど、みなみちゃんも素敵だよ。かがみ先輩がお姉ちゃんに宿題をせがまれたり大人向けのゲームを見せてもらったりしたのと同じくらい、私がみなみちゃんにハンカチを貸してもらったり保健委員になってもらったりしたのが大切な思い出だから――って、お世話になってるのは一緒だけど方向性が違うよーな。

 
 それからも私は全身をくまなく撫でられたけど、お姉ちゃんが加減していたんだろうか、ほとんどがこそばゆい感覚ばかりで、やがて「撫でられる」のは終わった。
 でもお姉ちゃんは休む暇もなく、手枷と足枷を外しながら次に移る。それはまあ、一通り事を終えてからお昼を食べるんだから、あんまり長引くとお腹がすくものね。
「それじゃ次は『ニーソックス』。ゆーちゃんが寝てる間に私のニーソックスを出してきたから、これ履いていーよ」
「マニアックにも程があるけど、こなたの事だから『裸にニーソックス』なんて言うんじゃないかと思ってたわ」
「さっきも言ったけど、ゆき叔母さんとゆい姉さんが来ないとは限らないからね、かがみん。叔母さんはともかく、ゆい姉さんは連絡無しでいきなり襲来するから、この前のかがみとつかさとみゆきさんも――」
 そこでお姉ちゃんは、先輩達から漂う恐怖に怯えて、頭のてっぺんの毛が毛羽立ちそうなほどがたがた震えていた。
 私は身体を横たえて、スカートの裾を乱れさせながらニーソックスを履いて、ニーソックスとスカートの間に素肌をほんの少し垣間見せる。お姉ちゃんが好きな「絶対領域」っていうのだけど、何が「絶対」なのか私には分からない。田村さんかパティちゃんに聞けば分かるのかもしれないけど。
(うぅ……お姉ちゃんが喜ぶポーズが分かっちゃう自分が哀しい……)
「私には似合わないのにお父さんが買ってきてくれたけど、こーいう時に使えてよかったよ。やっぱりゆーちゃんには白ニーソが似合うね」
 伯父さん……そんなの自分で買ってきたんですか。いくらお姉ちゃんに服を買ってあげるのが自分しかいなかったからって……。お姉ちゃんの発育が良かったら、埼玉県警に不審尋問されちゃうよぉ……。
「にしても、何も言わずに絶対領域まで披露してくれるとは……かがみもオタクの先輩として頑張らないと、そのうちゆーちゃんに抜かれちゃうよ?」
「私はそんなのじゃないし、ゆたかちゃんを変な方向に染めないで」
 かがみ先輩は私と同じ「染まってる」部類なんだろうけど、先輩にとってのオタクのイメージはお姉ちゃんだから、閾値(いきち)――えっと、オタクとして認識する下限が高過ぎるんじゃないかなと思う。先輩は田村さんに面と向かってオタク呼ばわりした事はあまりないけど、同人誌まで出す人がオタクじゃないとはとても言えないし。
「『もってけ! セーラーふく』の後で『かえして! ニーソックス』だと裸にニーソックスになるという説を見たけど、ニーソックスはセーラー服のオプションじゃないから、下着姿に余分なニーソックスが一足になるんじゃないかな?」
「泉さん……そういう会話を真面目になされても返答に困るのですが……」
 もちろん困るのは、お姉ちゃんの従妹で、ニーソックスを履いているこの私。
 この後もお姉ちゃんはニーソックスの話を延々と続けて、誰にも聞いてもらえない事に気付いて落ち込んでしまい、それをなだめるのが大変だった。特にかがみ先輩とつかさ先輩、なだめながらお菓子を咥えてたもので、お姉ちゃんが「かがみもつかさも私より甘い物がいいんだー」なんて子供みたいにすねてたし。

 
 さて――気を取り直した私達は話を続けるために元の態勢に戻る。ちなみに私が履かされたニーソックスはそのまま。
 さっそくお姉ちゃんは「妹スイッチ」を構えて、「ぬ」のボタンを押した。
「『濡れる』。この場合はゆーちゃんので、って意味だよ?」
「ハイペース過ぎるわよあんた。『濡れ場を演じる』で勘弁してあげなさい」
 具体的な説明ができないような発言に、いつもの通りの修正が入る。「伽」をつかさ先輩にさせたかがみ先輩だけど、さすがに3番目で事に及ぶのは賛成できないらしく、お姉ちゃんの要求を自重させてくれた。……つまり逆に言うと、「の」で激しい行為を求められてもかばってくれる可能性は0という事で。
 気を取り直したお姉ちゃんは、にまーとした笑みを見せて――、
「それじゃ、濡れ場の相手はかがみ――」
 みなみちゃんが私の背後、お姉ちゃんの視界のほぼ正面で、何か硬い物を握り潰したような音を立てた。
「――は私の旦那様だから、当然みなみちゃん」
 みなみちゃんが何をしたのかは興味あったけど、お姉ちゃんの顔色からすると見たらいけないような気がして、私は瞼で視覚を遮断して、想像の世界に想いを沈めた。
 ゆいお姉ちゃん譲りの私の空想は、床に横たわる私と向かい合うみなみちゃんの姿をたやすく作り上げる。ゆいお姉ちゃんは私が小学校の低学年、お姉ちゃんが高校生の頃から、一人でいる時によく、「成実さん成実さーん♪」と楽しそうにしていて、今も「きよたかさんきよたかさーん!」とお義兄ちゃんの想像に余念がない。……さすがに今のお姉ちゃんは気の毒だけど、おかげでこなたお姉ちゃんや私がいろいろ教えてもらえたりもする。
「んっ、みなみちゃん……」
 二人きりでのじゃれ合いに戸惑うみなみちゃんを、二人のお姉ちゃん達に教えてもらった方法でリードする私。みなみちゃんの体型は男の子みたいだってこなたお姉ちゃんは言うけれど、私みたいな柔らかすぎる肌じゃない、張りも滑らかさも十分で、博物館で見た磁器のように白くて艶がある、密着すると気持ちいい肌をしているし、体型も腰のくびれがしっかりと付いていて、腕も脚も羨ましいくらい長くて、力強さを感じる筋肉がしっかり付いている。手の指も爪まですーっと伸びていて、指先で巧みにボタンを外して、服の内側から私の体温を確かめてくれて……。
「泉先輩、当人の声によるアフレコは必須ですよね」
「アニメの声優さんの収録で、一人だけ時間の折り合いが付かなかった人が、後から声を吹き込むような感じでって事ね。ちなみにみなみちゃんはパイナップルだけじゃなくて、指先で胡桃を割る事もできるけど……」
「も、もちろんオーケーだよっ!?」
 思い詰めたみなみちゃんの声と、それを説明してくれるかがみ先輩の声に、お姉ちゃんは何やら慌てて了解していた。そっか、さっきのはみなみちゃんがパイナップルを握り潰した音なんだ。……飛び散った果肉や果汁は、後で掃除しといてね。
 さて、紆余曲折はあったけど、想像上のみなみちゃんは私の胸元に手を掛けて、私自身の手を持って服をはだけさせる。
「ゆたか……楽になった?」
 あ、これはみなみちゃんの声。そうなんだ――保健室でいつも、体調の悪い私の服を緩めてくれたのは、天原先生じゃなくてみなみちゃんだったの。
 て…………つまり私は、みなみちゃんにいろいろ見られてたってわけ? お風呂で裸を見てるこなたお姉ちゃんほどじゃないけど?
 ああ、いつも他人より大きく感じるらしい自分の心臓の音が、いつにも増してドキドキと響くよぉ。田村さんじゃないけど自重して私の身体ーっ!
「う、うんっ。いつもありがと、みなみちゃん」
 何とか平静を装って、空想を続ける私。実際のみなみちゃんは耳まで真っ赤なはずだけど、私が想像するみなみちゃんは頬を軽く染めて、私と温もりを分かち合ってくれる。
「ゆたかの下着……厚手だね。やっぱり冷え性なの?」
 ……覚えてたんださっきの事。つかさ先輩が身体測定の日に身に着けていたキャラ物の下着ほどじゃなくても、やっぱり恥ずかしい事には違いない。
「うう……子供っぽくて嫌?」
「そんな事……。私もほら、下着は厚手のを選んでるから。脂肪が付かない体質で冷えやすい分、タイツを履いたりして夏でも注意しないと」
 女の子にとって、冷えるのは大敵だもんね。男の子は暑がりが多くて、お姉ちゃんと同じクラスの白石先輩は歌いながら諸肌脱ぎになって、仕事で来てた小神あきらさんに張り倒されてたっけ。だからさっき履かされたニーソックスも、実は結構有難かったりして。
「しかし泉さんは細身でも冷えにくいようで、同じ女性として羨ましいですね。……かがみさんは泉さんを『体温も子供なのよ』と言われてましたけど」
 でも高良先輩の言う通り、お姉ちゃんはいつも薄着で、「パソコンの排熱が凄い部屋の癖がねー」なんて言いながら、私に気を使ってるのかいつもクーラーを強めに入れる。おかげでいつもは温度設定をし直したり毛布を羽織ったりもするのに、今日はあれだけ興奮しても誰も暑そうにしていない。趣味の点では意外と計画的なお姉ちゃんだけど、「お姉さんスイッチ」を計画したのは私達だから、多分偶然だよねこれって。……自分から先輩達にいろいろしようとしていた可能性も否定はできないけど。
「みなみーん、そろそろ私も入れて三角関係――」
「静かにして下さい泉先輩」
 氷点下のみなみちゃんの抜けば玉散る氷の刃が、お姉ちゃんをばっさり切り捨てた。「あうううううつかさああ。反抗期だよみなみちゃんが」とか「はいはい、泣かないのこなちゃん」とか「名刀村雨が登場する『里見八犬伝』でも舞台となる古河は、ここからすぐ近くでしたね。今は埼玉県と茨城県で県は違いますけど、昔は同じ下総国葛飾郡で」とか聞こえるけど、そちらは先輩達の問題だからとりあえず関係ない。
 そしてみなみちゃんは私を軽く抱き締めて、私の具合を見るお母さんやゆいお姉ちゃんと同じ結論にたどり着く。
「ゆたか、身体が冷えてる。少し身体を動かして、血行を良くした方がいい」
「小説だと身体を触れ合わせて温めようとする事が多いけど、こちらの方が不自然じゃないわね」
 かがみ先輩の事だから、小説だけじゃなくてお姉ちゃんにもされそうになったのかも。重ね重ね、えっちな従姉(あね)ですみません。
「みなみちゃん……撫でて。まだ恥ずかしいから私の手を使って」
 私はみなみちゃんに身を任せて、私の両手首を持ってもらって、私の手を介してみなみちゃんの優しさを感じていく――。

 
 そして私の想像が終わると、幻のみなみちゃんは姿を消して、囲むように見守る現実のみなみちゃんや、他のみんなが戻ってきた。
 すっかりうつむいているみなみちゃんはもじもじして、それでも何とか私に目を合わせてくれる。でも視線が泳ぐのは、私共々止められない。そりゃそうだよね、あんなに恥ずかしいシチュエーションでいろいろ想像してたから。
「ゆたか……」
「濡れた? ――ってうわっ!?」
「こ・な・ちゃん!?」
 いきなり遠慮のないお姉ちゃんに、つかさ先輩が怒ります。濡れ場を演じた私は全身が汗でぐしょぐしょに濡れていましたが、お姉ちゃんが言ったのはそーいう意味じゃないので、私も軽くデコピンしておきました。
 うつむいて大仰に呻くお姉ちゃんをかがみ先輩と高良先輩が両側から見下ろして、困った事をした妹に頭を悩ませるお姉さん達のように取り囲みます。
「……それにしても泉さん、みなみさんに色々したくてしょうがない私が言うのはおこがましいですけど、小早川さんにはもう少し遠慮された方がよろしいのでは?」
「ゆーちゃんに……かがみんみたいに喜んでもらいたくて」
「だからって人前でやるなよ。ほら、二人きりの時間くらいたくさんあるでしょ?」
 言いたい気持ちは分かりますけど、ついでに本心を暴露しないで下さい高良先輩。みなみちゃん、びくりと震えていましたよ。それにお姉ちゃんも恥ずかしい告白しないで。かがみ先輩も危険な事をけしかけないでほしいです。
 その気持ちは一緒なのか、珍しくお姉さんから距離を置いたつかさ先輩が私に寄ってきました。私より約二十センチ、つまり頭一つ分くらい背が高いつかさ先輩に、思ってもいなかった頼もしさを感じます。
「こなちゃん、もう少しゆたかちゃんの事を考えてあげようよ。私がスイッチを作ったのは、みんなで楽しむためだもん……」
「で、でもつかさ先輩っ。私、みなみちゃんを想像するのも楽しかったよ?」
 そう、確かにみなみちゃんを想像しながら自分を慰めるのは、別に嫌な気分ではなかった。身体が弱くて一人で寝ている間は、お母さんを、ゆいお姉ちゃんを、近頃はこなたお姉ちゃんやみなみちゃん達や先輩達も想像して、温もりを受ける時を夢見ている。「明日の朝を迎えられないんじゃないか」とか「みんなの間に居場所がないんだ」とか、そんな暗い考えに押し潰されなかったのも、そんな目覚めて見る夢のおかげ。
 だけどそんな私の強がりは、かがみ先輩の妹であるこの人に、本心を隠しおおせるわけもなかった。
「ゆたかちゃん、終わった後少し寂しそうだったし……」
 言われれば確かに、つかさ先輩の言う通りだった。睦み合っていたみなみちゃんの姿も感触も実在しなかったと思うと、(いくら声が本物でも)物足りない気持ちが抑えられない。
「あ……やだ、涙が。おかしいよね私。みなみちゃんを妄想で変な事させて、それで泣いてる私なんてっ」
「おかしくなんかない」
 涙が止まらない私をみなみちゃんが抱き留めると――やがて私の涙は、乾いた目に潤いを残して止まった。ゆいお姉ちゃんのように広くて、こなたお姉ちゃんのように薄いみなみちゃんの胸は、みなみちゃんには失礼だろうけど、お父さんのような包み込む安らぎを感じさせてくれた。
「一緒にいたい相手を求めるのは当然だから。私もゆたかを求めると同じ事をしたはず」
「ひどいですみなみさんっ。幼馴染の私を差し置いて小早川さんに走るなんてっ」
 大仰な演技をして、ハンカチで涙を拭くポーズを取る高良先輩……だからごめんなさいってば。
 そういう一部始終を見守っていたお姉ちゃんは、まだだっこのポーズのままの私達を見比べる。セリヌンティウスと王様の前で裸だったメロスもかくやというほど赤くなったのは、私達の姿勢が田村さんの同人誌の絵と同じだった事に気付いたから。
「これでみなみちゃんも、ゆーちゃんと結ばれてから単身赴任しても安心だね」
「……私はお婿さん確定ですか? 今は単身赴任するのが夫だとは限りませんが」
 みなみちゃんは胸を、いつもの癖でぺったんぺったんしながら、かがみ先輩を羨ましそうに見る。みなみちゃんと同じ、内気で優しいお姉ちゃんの騎士様は、お姉ちゃんにそっぽを向きながら、それでもお姉さんかお母さんのように、後ろでそっと手を繋いでいた。
 大好きなかがみ先輩に手を繋がれて幸せそうなお姉ちゃんは、手にしていたスイッチのボタンにそっと触れる。
「んじゃ次は、『寝姿』」
「小早川さんの寝姿ですか。私達と事を終えた後の泉さんの寝姿も普段とは全く異なるあどけないものでしたけど、小早川さんもきっとそっくりなのでしょうね」
 高良先輩に単刀直入な意見をされて、「あう」とか可愛い声を出しながら、私を横にして、そして膝の辺りに手を掛けたお姉ちゃん。
「もうちょっと脚を広げてー。みなみちゃんで喘いでたからいつもより血色もいいねー」
 確かに喘いでいた私は何も言い返せずに、お姉ちゃんの言うがままに脚を広げる。お姉ちゃん、後でお仕置き。できればかがみ先輩とみなみちゃんの前で。
 なんて考えていると――、
「ほらほら、もーちょっと大胆に開かないと誘惑できないよ〜?」
「ひぁぁぁぁっ!?」
 身体の敏感な所を直に触れられて、私の腰の奥は熱くなり、がくがくと上下に揺すぶられる。
「ああっ、いやぁっ。助けてみなみちゃ――んうぅっ!?」
「素直になりな、ゆーちゃん。私なしではいられない身体にしたげるから」
「あ、あのっ、泉さんっ。その言い方はいろいろとまずいのではっ!?」
 自分が自分でなくなる強烈な刺激に溺れてしまう身体。それに抗う心。こんな事を先輩達はされているのかと思うと、申し訳なさと同時に羨ましさを感じるなんて認めたくない。認めると、もう私というものが壊れてしまうから。
 それなのに、お姉ちゃんの指は奥へ――、
「やっ、やめなさいよこなたっ。ゆたかちゃんが泣いてるじゃないのっ」
 ――か、かがみ先輩!? 何故? 私はつかさ先輩と一緒にあんな事をして、しかも唇を奪ったのに?
「で、でもこれはゆーちゃんへのお仕置きだし」
「…………こなた?」
 そんな私の疑問に、口に出していないのに答えてくれるはずもなく、先輩は青っぽい紫色の綺麗な瞳を、お姉ちゃんに正面から向かい合わせる。先輩の目は名前の通り、見詰め合う相手のほんとの心を映す「かがみ」。意地っ張りなお姉ちゃんも、そんなかがみ先輩の前では、つかさ先輩や高良先輩の前にも増して素直になる。……往々にして、お姉ちゃんのえっちな気持ちも映してしまい、素直になったこなたお姉ちゃんに襲われるけど。
「た、確かにかがみやみゆきさん向けの責めは、ゆーちゃんの身体には厳しかったね」
 我に返ったお姉ちゃんは、残念そうに私を責めから解放した。それと同時に私は、目尻から溢れて頬を伝う滴に気付く。すっかり気が動転してどこかの出版社のトロフィー(もちろん伯父さんの)をつかんでいたみなみちゃんが恥ずかしそうにうつむいてしまう姿も、水分でにじんでぼやけてしまった。
 でも今の……もう少し続けられていたら、お姉ちゃんをそれまでの目で見られなくなってしまう所だったけど、辛うじて今までの関係を壊さずにいられそう。先輩達には神経質で、特にかがみ先輩の事で延々と悩んでいた(私が陵桜に入る前も、私が遊びに来た時に見た事ある)お姉ちゃんなのに、私には無神経な所がちょっと嬉し――、
(――くなーいっ!!)
 なんて私が一人芝居している間も、お姉ちゃんと先輩のコンビ(カップル? 姉妹? それとも親子とか?)は、本人達にはともかく傍目には可愛らしくじゃれ合っている。
「まったくもう――こんな事じゃ姉として失格よ? さあ落ち着いて、ゆたかちゃん」
「ってかがみーん、愛くるしい妹の写真くらい大目に見てー?」
 危険な所で止めてくれて――ついでに従妹の超ローアングルで盗み撮りをしようとしたお姉ちゃんの携帯電話を没収して――、脱力しきった私を後ろで支えてくれるかがみ先輩。意外と肉付きが良く、かといって太っているわけではない、妹のつかさ先輩が羨むのも納得できる先輩の身体には、女の子の私も惹かれてしまう。
「いやー、ニーソ姿で濡れた寝姿のゆーちゃんなんて、かがみと愛し合った直後の寝姿のつかさより萌えるよ。やっぱ従妹ってのが背徳感をそそるのかなー、ねえかがみん?」
「そんなに背徳感を感じたいのなら、私がおじさんと結婚してこなたと親子になるわよ」
「……それはやめて。教育やしつけと称して色々とされそうだし」
 そんな会話の横で、肩の辺りにかがみ先輩の胸の膨らみを感じながら、こんな所でまで「むー」とやきもちを焼いてしまう私にちょっとしたおかしさを感じてしまう。そんな事は知る由もないはずのかがみ先輩は、つかさ先輩にするみたいに、私の頭を優しく撫でてくれた。お母さんみたいなこの温かさが好きで、お姉ちゃんは甘えんぼになるんだなきっと。
「かがみとゆーちゃん、まるっきりお母さんと娘だね。そして私は――」
「お父さん役で『かがみは私の嫁』なんて言うんでしょ? そんな事言わなくても、こなたも娘にしてあげるわよ」
「だねー。普段のお姉ちゃんとこなちゃんも、お姉ちゃんがお寝坊さんを叱ったりお勉強を教えたりお昼の栄養バランスを気にしたり、もう完璧にお母さんと娘だもん」
 ……つかさ先輩の言う通り、かがみ先輩はお姉ちゃんのお母さん役がすっかりはまり役だった。お母さん――かなた伯母さんが、私が生まれるよりも前にいなかったお姉ちゃんには、私のお母さんもゆいお姉ちゃんもできるだけ一緒にいたとはいえ、やっぱりこなたお姉ちゃんもお母さんに甘えたくて、そんなお姉ちゃんに先輩は母性を刺激されたんだろう。もちろん面と向かって尋ねても、否定するとは思うけどね?
 そんな私達の傍らで、苦笑を隠せずに幼馴染の後輩をなだめる一番胸の大きな先輩と、なだめられても胸元をぺったんぺったんするのを止められない私の同級生が。
「という事は……やっぱりお父さん役は私ですか、かがみ先輩?」
「ああーっ!! ごめんみなみちゃん!!」

 
 で、よーやく最後のお仕置きにたどり着いた私とお姉ちゃん。私が言える義理じゃないけど、こなたお姉ちゃんのしつこい責めはこれでおしまいかと思うと少し安堵する。先輩達にも評判は芳しくないらしいけど、それを理由にしてお姉ちゃんにいろいろ激しくする先輩達だから、難色を示すのも本心からじゃないだろう。
 さて、お姉ちゃんのご希望はっと。
「『上り詰める』」
 上り詰める、とゆーと…………も、もしかして、かがみ先輩の「伽」とほとんど同義語では。
「『乗られる』ってのも考えたんだけど、せっかくゆーちゃんとできる機会を逃したくなくてね」
「お、お姉ちゃんのえっちっ」
「私を腰砕けになるまで攻めて、かがみの唇まで奪ってくれたゆーちゃんが、私にそんな事言えるのかなー?」
 やっぱりお姉ちゃんは意地悪だ。えっちな行為を理由に私の反論を封じておいて、結局は自分が私に同じ事をするんだから。次の機会のために反論しない私も同類だけど。
「かがみは私やつかさを相手にしてるロリコンだから、いつゆーちゃんを寝取られるか心配だったけど、まさかゆーちゃんからかがみを求めるとは、ゆーちゃんもかがみみたいに性欲旺盛だったんだ?」
「何故そこで私を引き合いに出すのよ。……そりゃまあ、つかさやこなたにされてるみたいな感じで嫌じゃなかったけど、みなみちゃんに罪の意識疼いたし」
「とまあ、かがみも身体を疼かせてるんだし、そろそろゆーちゃんも女としての全てを解放するべき時が来たね」
 なんて、お姉ちゃんは身体は疼いていない(はずの)かがみ先輩を真っ赤にさせて、私に至近距離までにじり寄る。3センチメートルとまでは行かないけど、少し荒い呼吸を感じ取ってしまうくらいの距離に、高鳴る鼓動をはっきりと感じる。昔から私は緊張すると心臓がばくばく言って何が何だか分からなくなるのに、かえって敏感になるような感覚を覚えていた。
「えっと、その……先輩達、みなみちゃん……」
 つかさ先輩、いくら自分がお姉さんからお仕置き済みだからって、「仕方ないなぁ」という顔で傍観しないで。高良先輩とみなみちゃんも目を見開いて観察しないでよー。
「わっ、私、いくらお姉ちゃんと一緒でもそんな事……」
 怯える私の前でお姉ちゃんは舌なめずりをして……かがみ先輩は呆れ返り、「こなたの馬鹿」と小さく呟き、精一杯の溜め息を洩らす。
 そしてお姉ちゃんは、悪魔のような、というよりもはや邪神のような笑顔と共に、言った。
「上り詰めるのは――ゆーちゃんだけだよ?」
 一人でなんていやぁぁぁぁ――ッ!!


>6.みゆみな

 
「なんて言いながら私も達してるんだから、ゆーちゃんも立派に泉家の血を引いてるよね」
「はあっ、はあっ」
 糸の切れたように倒れた私は、こなたお姉ちゃんの太腿の上で、薄い胸を上下させていた。身体を火照らせたこなたお姉ちゃんは、息も絶え絶えの私を、感嘆と好奇心と心配と自己嫌悪で綺麗に四等分したみたいに見守っている。口ではあれだけえっちな事を言っておいて、上り詰めさせながら何度も「大丈夫? 辛くない?」と言ってくれるのは嬉しかったとはいえ、反撃できないほど執拗に責めるのは勘弁してほしかった。
 お姉ちゃんは先輩達のモノだけど、私もお姉ちゃんが好き。でも同じ質の「好き」とは違うから、先輩達に対しては、嫉妬なんかじゃない、憧憬らしいものが心の中にある。でもだだっこな私は、お姉ちゃんを独占したくなる時がたまにあるから、理性の方で困っちゃうな。…………あ、一応、同性愛とかじゃない、じゃれ合いみたいなものだから勘違いしないでね?
「ゆたかちゃんも好きねぇ。こなたみたいににまにましちゃって」
「もー、かがみ先輩っ」
 にまにまするのは一緒でも、する時が違いますぅ。あくまでも私は純粋な従姉妹としての気持ちでお姉ちゃんが好きで、かがみ先輩とお姉ちゃんの姉妹なんだか恋人なんだか親子なんだか分からない関係とは違うんですからっ。
「でも、まるで私に甘えるお姉ちゃんみたいで――っ!?」
 つかさ先輩の口を封じるために、かがみ先輩がつかさ先輩に……重なった。口元でくちゅくちゅと音を立てると、つかさ先輩は腰砕けになってかがみ先輩に寄り添う。
「――あのーかがみん、つかさ、まだみゆきさんとみなみちゃんの番が」
「…………ああもう、分かってるわよ。せっかちなんだからこなたって」
「…………やきもち焼いてるのなら、こなちゃん混ぜて三人か、ゆきちゃんも入れて四人でもいいのに」
 抱き合ったままのかがみ先輩とつかさ先輩は、仕方なさそうに身体の密着を緩めるけど、それでも後ろで手を繋ぎ合ったまま。つかさ先輩の大胆な発言のせいで高良先輩は顔を赤くしながら、何とか鼻血を出さずに済んで、「妹スイッチ」を手にして最初のボタンを押します。
「『ハードプレイ』と行きたい所ですが、みなみさんには早過ぎますので、『はだける』くらいで」
「え……」
 当然ながら、みなみちゃんは固まった。高良先輩に「そして食べられる」なんて言ったらしい――その時私は意識が飛んでいた――みなみちゃんだと信じられないくらいいつも通りなのは、やっぱりさっき、私がお姉ちゃんにあれこれやり過ぎてたせいなんだろうか。
「おおうー。やれやれみなみちゃーんっ」
「わ〜。みなみちゃんって肌が綺麗だからいいな〜」
「みっ、みなみちゃんには刺激的過ぎるわよっ。そりゃまあ、みゆきにあそこまでやったんだから、罰を受けないといけないのは分かるけどっ」
 片や、期待に目を輝かせるお姉ちゃんとつかさ先輩(期待の内容は明らかに違う)。その逆に、もう全身が真っ赤なかがみ先輩が、場慣れしてるかと思ったのに、想像以上に純情で可愛い(はだけるのが高良先輩なら、もっと冷静だったと思うんですけど)。
「よろしいですね、みなみさん? 幼馴染の一線を越えてしまった以上、恥ずかしいとかいう理由はなしですよ?」
「分かりました。みゆきさんと……ゆたか達の前なら……」
 み、みなみちゃん。そこで私を呼んだのって、まさか田村さんの漫画に出てくるような関係として? それとも一番遠慮しないといけない年少者だから? ……まあ後者だと思うんだけど、やっぱり私、お姉ちゃん達に影響受けちゃってるよぉ。
 さて、みなみちゃんだけど、高良先輩は先輩らしく、はだける方法を具体的に指示しながら、効果的な演出を教えてくれる。
「もう少し着崩した感じで……タイツも少し下ろして、慌てて身に着けたという感じをかもし出すのがよろしいでしょう」
「かもすぞー」
 つかさ先輩が何やら冗談を言っていたのは聞き流されて、みなみちゃんはズボンを緩めて、タイツに手を……。
「あ、ショーツは露出してはいけません。年齢制限が付いてしまいますから」
「と言いながらみゆきさん、露骨に私の方を見てないー?」
 高良先輩に見られて凄く不満げなお姉ちゃんだったけど、あいにく私とみなみちゃんはそれどころじゃないし。
「こなたんは映画館に、『かがみ達の妹ってコトにしといて』と言って、子供料金で入ろうとしたからねー」
「ねーっ。さすがにそれはダメだって、お姉ちゃんに怒られてたけど」
 先輩達にはそんな事してたんだお姉ちゃん……。私と一緒の時には映画館でも「大人2名です!」と主張してたのに……。

 
 こうして、着崩れみなみちゃん(デザイン指導:高良先輩)が完成した。
 まず上から説明すると――右肩が半分出て、下着の紐が見えている。高良先輩は「青ですか。清純なイメージがみなみさんに合いますし、夏らしい爽やかな色ですね」とか、まるでこなたお姉ちゃんみたいな事を言っていた。お姉ちゃんは「無いけどしてるんだー。私も一年の時にかがみに注意されるまではしてなかったけど」とか言って、かがみ先輩にお尻を叩かれてる……ますますお母さんと娘みたい。
 そして下は――ズボンとタイツを少し下ろした分、お腹の辺りの白い肌が垣間見えて、ついでに腰の引き締まったラインも見える。まるで、高良先輩――だとちょっと柔らかそうだから、かがみ先輩の胸とお尻の膨らみを少なくしたような感じの身体つき。みなみちゃんは胸が私よりも大きくない(こなたお姉ちゃん曰く「ない」)のを気にしてるけど、それでも身体の線は十分に女らしいよ。
 で、タイツは腰骨の辺りに引っ掛かり、ズボンはもう少し下まで落ちている。タイツは所々にしわが寄って、爪先が微妙にたるんでいた。こなたお姉ちゃんは「生脚もいいけどタイツもねー」とかよく分からない事を言って、お尻を叩かれる回数を追加されてるし。しかも今度はつかさ先輩に。
 みなみちゃんがすっかり真っ赤になったところで、高良先輩はさっそく次の指示を出します。
「『膝枕』」
 着崩れたみなみちゃんの格好はそのままで、高良先輩はうつ伏せになって、みなみちゃんの太腿の内側に頬擦りします。みなみちゃんの身体がぴくんと震えて、端正な顔立ちを色っぽく緩ませながら、力の入らない下半身を先輩のなすがままにされていました。私も耳の後ろに血の熱さと脈動を感じながら見入ってしまい、止めるどころかそれを上回る期待を抱いてしまうという、お友達として失格な行為を。
 ……うぅ、私もえっちなかがみ先輩が好きなお姉ちゃんと同じ、えっちなみなみちゃんが好きな女の子なんだ。
「んっ……ああっ……。みゆきさん……それは膝枕と違……っ!」
「私に甘える泉さんのお気持ちが、こうしていると理解できるような気がします」
「そ、それは少し違うと思うなーゆきちゃん?」
 私もつかさ先輩と同意見です。お姉ちゃんは甘えているというより男の子とほとんど同じ気分で密着してるし、高良先輩だって甘えているどころじゃないですから。
 ……などと考えているうちに、みなみちゃんは背筋を反らして身体をびくっと激しく震わせて、高良先輩はみなみちゃんの太腿を撫でながら顔を上げます。先輩は血色の良いピンクの肌と少しお酒に酔ったような表情がえっちな感じで、女の子というよりもはや立派な女性。そして、二つしか違わないのにこんな差がある自分を省みて、悲しくなってしまう私。
(ゆいお姉ちゃんより凄い……。ゆいお姉ちゃんは意外と子供っぽいのに、先輩はそんな事ないみたいだし……)
「さて次は『ふ』ですが……『不義密通』というのは苦しいですね。『筆プレイ』しようにも手元に筆がありませんし、『踏まれる』でもみなみさんをそのような趣味にするのは不憫です」
 着崩れたままのみなみちゃんは高良先輩に散々弄ばれて、体力が私よりあるはずなのにすっかり息が上がっていました。先輩の暴走にみんなちょっと引いてしまったせいか、誰も口を挟まないので先輩は少し寂しそうです。……しかし筆プレイって何ですか。お姉ちゃんに「コスプレえっち」させた私が言える事ではありませんけど。
「という事で――んっ」
「んうっ!?」
 高良先輩は前触れ無しにみなみちゃんに唇を合わせて、上品な感じの音を立てて離れました。一気にのぼせたみなみちゃんを抱きかかえた高良先輩は口元を拭い、いつもらしからぬ様子で、自信ありげに不敵に笑います。
「『不意打ち』です。泉さんとかがみさんの愛情表現を参考にしてみました」
「みゆきばかり行動してみなみちゃんの行動がないじゃない。そもそも今のは指令と行動の時系列が逆よ?」
「――あ」
 理論的に突っ込むかがみ先輩に、高良先輩は眼鏡の奥の目を大きく見開いて、つい直前とは別人みたいに大慌てです。そんな高良先輩の子供っぽい所に、私と二つしか違わない女の子の素顔を見た思いがして、今までにない親近感を強めました。
(好きです、高良先輩。他の先輩達と同じくらい。同じ女の子として――みなみちゃんの『お姉さん』として。……でも二人きりでの色々は控えめにお願いしますね?)
 なんて私の気持ちが通じたわけじゃないだろうけど、お姉ちゃんは満足げに高良先輩の「萌え要素」を愛でている。するとやっぱりかがみ先輩やつかさ先輩と同じで、高良先輩も血の気を増してうずくまってしまいました。
「うーん、やっぱりゆかりさんの娘だけあるね。ドジっ娘属性はしっかり受け継いでるよ」
「あうう……返す言葉がありません」
 そこでみなみちゃんはぼそりと口を開き――、
「私……みゆきさんと一つになりたい」
「……え?」
 つまり、みなみちゃんは。
 高良先輩と。
 ……――そういう事を。
 と、見てみると、私達はもちろんだけど、高良先輩が一番真っ赤になっていました。
 みなみちゃんを見ると、いつもより、ちょっと口元が悪戯っぽい。こなたお姉ちゃんを嬉しそうにからかうかがみ先輩を、私に連想させてくれた。
「身体だけだとみゆきさんは慣れているから、言葉で不意打ちしてみました」
「いやー、ドキドキしたね。さすがはみゆきさんの『妹』、万能っぷりはみゆきさん譲りだよ」
「え、えっと、そのっ」
 …………慣れてると断言できるほど、高良先輩相手にあれこれしてるんだねみなみちゃん。高良先輩のうちだとおばさんに気付かれそうだから、恐らくはみなみちゃんちで。

 
 それから私達は、昼食をつまんだ。柊先輩達のお宅ではこなたお姉ちゃんも「柊家の味を知りたいからねー」とお手伝いするけど、さすがにキッチンに私とお姉ちゃんが入るとそれ以上の容量はないから、高良先輩とみなみちゃんは疲れを取るために休んでもらい、かがみ先輩とつかさ先輩は食卓で準備してもらいます(かがみ先輩も、料理は上手じゃないけどテーブルセッティングは上手でした)。ありあわせの物だけど出来映えは上々で、つかさ先輩にお褒めの言葉も頂きました。食べ過ぎを気にするかがみ先輩にお姉ちゃんが「またゆーちゃん達がいない時にたっぷり痩せようね♪」と言って、かがみ先輩と高良先輩が耳まで真っ赤になったのはご愛嬌。
 で――、
「もういい、ゆきちゃーん?」
「……『へ』ですけど、すぐには思い付きませんね。いま少しお待ち下さいつかささん」
「『蛇責め』――っていきなり殴らないでよかがみーんっ!?」
「どこで捕獲するのかはともかく、後輩、しかも従妹の仲良しで親友の幼馴染相手に何する気か!? 安心してみなみちゃん、できるだけいい雰囲気のを選ぶから」
「で、できるなら自分で選びたいです」
 なんて、私が横になっていた間にいろいろ盛り上がっていたみんな。興奮が収まったせいか、こなたお姉ちゃん以外はちょっとだけ普通寄りの考えに戻っていた。……恐らく。
「ええっと……へあ……へい……『へぎ蕎麦』?」
「『偏見の目』……みゆきさんにそんな目で見られるのは辛過ぎる……」
「『ペニ――』――ってまたいきなり殴らないで下さいかがみ様ーっ!?」
「みなみちゃんとゆたかちゃんの前で堂々と言うなっ。えーと、『平地に乱を起こす』? 『へそを曲げる』? 『減らず口』?」
 「へ」で始まる単語の少なさが、私達を苦境に陥れていた。「ぴゃ」とか「みゃ」とかよりはいいだろうけど、そんなお姉さんスイッチは見た事ないし。
 しかし窮すれば通ず。実は強引な所もあった高良先輩は、張らなくても堂々としている胸を張り、次の指令を宣言した。
「『塀の中』。かがみさんには『作るな、単語を』と突っ込まれそうですが、ここはあえて、吉田戦車の『エハイク』の春手錠のように恒例化の道をっ」
「恒例化しないでほしいなみゆきさん……てゆーかやっぱ、また本を買うだけ買って飽きたんだねゆかりさん」
「みゆきは凝り性だものね。で、具体的にはどんな事するの?」
 事態の収拾を最初から諦めているお姉ちゃんとは違い、どんな状況でも強引に対処するかがみ先輩。確かにつかさ先輩やお姉ちゃんの面倒を見るには、それくらい神経が太くないとやって行けないでしょう。
 さて、高良先輩はというと。
「みなみさんは犯罪者グループの一員と関わりを持つ一般人で、私は監獄の検察官。私はグループの秘密を暴こうとみなみさんを……という設定でどうでしょう? なお私は実際の司法制度をよく存じ上げませんので、ディテールにおかしな所があっても見逃して下さいね、泉さんに小早川さん」
 高良先輩があらかじめ断りを入れたのは、ゆいお姉ちゃんが警察官だからだろう。でもお姉ちゃんがやってるのは交通取締りだし、お姉ちゃんは仕事の事を私達には話さないから、そこまで突っ込める知識はないんだよね。
「でもみゆきさん、みなみちゃんにはそんな展開はまだ早いんじゃ……」
「安心して下さい泉先輩。私はゆかりさんに付き合わされて、そのような洋画も見た事がありますから」
 お姉ちゃんのゲームみたいなものかな。でもはっきり言っちゃうと、そういうゲームの真似をしてお姉ちゃんが成功したのは見た事ないような気がするんだよね。大抵は(主にかがみ先輩に)見抜かれて白い目をされるか、(やっぱり主にかがみ先輩に)強く抵抗されて諦めるか、(こちらは主につかさ先輩に)流されてしまうか、もしくは(かがみ先輩にもつかさ先輩にも)逆襲されるかだから。
「岩崎みなみ……アレの在り処を吐くつもりはないのですか?」
「いえ、アレと言われても」
 あ、始まった。みなみちゃんが被疑者で、それを高良先輩が問い詰めてるみたい。
「しらばっくれないで下さい。無数の犯罪を犯してきながら証拠をつかませなかった犯罪王こなたん――泉こなたの居場所を知る唯一の人物、小早川ゆたかの愛人があなただという事は、既に警視庁が調べ上げているのです」
 ぶっっ!!
「い、いきなり何なのさその設定!? 私の恥ずかしい設定はもちろんだけど、ゆーちゃんもつかさに麦茶吹いてるよっ!」
 私は慌ててつかさ先輩をタオルでごしごし拭きながら、うろたえるのを心の中で力ずくで抑え込んだ。もちろん、私のうろたえた原因は、「犯罪王こなたん」などではありません――当のお姉ちゃんならともかく。
 高良先輩の脳内設定では、私とみなみちゃんが、その……愛人という設定になっていた。確かに私達は同級生で仲良しだから、くっ付けるには手っ取り早いけど、安直といえば安直だし、何よりその――口付けも交わしていないのに――ってそんな関係じゃないはずなのに!?
 幸いにも私の妄想は誰にも知られず、みなみちゃんは話の筋を進めている。
「いや、私はそのような人など……と言いながら、実は私は小早川ゆたかを知っている、しかし犯罪王との繋がりなんて知らない、という設定でどうでしょう」
「設定の協力有難うございます。しかし犯罪王こなたんのネーミング、意外と不評のようですねかがみさん」
「……みゆき、私以外に返答してもらうのを諦めてるでしょ?」
 かがみ先輩が肩をすくめるのを見て高良先輩は少し寂しそうにしましたが、すぐに気を取り直して話は続きます。
「本当に知らないようですね。小早川ゆたかが、埼玉県警の柊警部に身柄を拘束された事を」
 勝手に身柄を拘束された私は疑問に思う。かがみ先輩とつかさ先輩のどちらを、高良先輩は想定してるんだろう。
「ふふ、貴方は彼女の事を知らないといいましたよね? ホントは知っているなら偽証罪、知らないなら彼女は柊警部にそのまま――こ、この後はご随意にご想像下さいっ」
 …………高良先輩が演技を続けられずに顔を赤くするほど想像できるという事は、先輩のお母さんは、娘と一緒にそーいうのまで見ているみたい。物事にこだわらない大らかそうなお母さんだったけど、だからといってそれはマズいと思う。ウチの伯父さんだって、私の前ではそーいうのは慎んでくれるくらいの配慮はあるのに。
「わ、私はゆたかちゃんをどうするんだろ?」
「……つかさ先輩は今のところ出演者ではないのですから、想像しなくて構いません」
 というか、「柊」だけでどーしてかがみ先輩じゃなくて自分だって判断したんだろ。まさかつかさ先輩も私を……なんて事はなさそうだけど。
 さて、どう出るのみなみちゃん……?
「えーと……たとえ私が小早川ゆたかを知らなくても、罪もない一人の人間を陥れるのを看過する事はできません」
「みなみちゃん……!」
 私が演じる(予定)とはいえ架空の人物への演技なのに、なぜここまで胸の奥が(体調が悪いわけでもないのに)苦しくなるの。ダメだよ私、みなみちゃんをそんな道を外れた想いで穢すなんて――こなたお姉ちゃんには「私はよくてみなみちゃんはダメなのかねー?」とか言われるに決まっているけど。
 そして悪い人役の高良先輩は、囚人(厳密には違う)のみなみちゃんのおとがい(分かりやすく言うと「下顎」)に手を添えて、もし私だったら直視するだけでのぼせてしまいそうな間近まで、大人みたいな発育の良い身体を寄せて。
「司法取引と行きましょうか。私に身を任せて楽になれば……」
「あ……ああっ」
 高良先輩が……みなみちゃんの唇を……。
(ダメーっ!!)
 心の中の叫びと共に、私の中で何かがはぜ割れ――、
「そこまでです、高良検察官!」
 うわ。見た目にも声にも似合わない、かっこいい系の演技しちゃったよ私。
 それなのに高良先輩も、まるでこの行動を予想済みだったみたいに、「ふっ」と鼻で笑って、いつもと全く違う、悪巧みをしている人っぽい口調を続ける。
「餌に釣られて出てきましたか、小早川ゆたか」
「ゆ、ゆたか……いや、ゆう!?」
 あ、そっか。犯罪王の身内だから、一般人のみなみちゃんには本名を言えないんだね。
「ごめんねみなみちゃん。つかさ警部はヒドい事なんかしなかったし、無実を納得してくれたかがみ刑事がここまで私を連れてきてくれたの」
 舞台裏のストーリーを勝手に設定して、異議がないのを確認するついでに息継ぎをする。
「……私の本名はゆたか。こなたお姉ちゃんの従妹だから本名を名乗れなかったけど、お姉ちゃんのしている事とは何の関係もなかったし……」
 胸を張っていた私は、ここで苦しい胸の内を吐露する恋人のように、切ない声に切り替えて……演技に没頭したせいか、心の底から泣きそうになってしまう。
「……でも、私なんて最低だよね。犯罪者の身内だと知られてみなみちゃんに嫌われるのがイヤで、ずっとみなみちゃんを騙してたんだから」
「ゆうがどんな秘密を持っていても、私にとってゆうは大切な人だから」
「み、みなみちゃん……っ!」
 演技なのにみなみちゃんの声は真摯で、心に痛く、そして甘くて心地良い響き。そんな私達を前にして高良先輩の手の力が強くなったような……いや気のせい気のせいっ。
 そんな私達を見ながらかがみ先輩とお姉ちゃんは、不敵な感じの笑みを交わす。演技が上手なんだろう……普段の二人とは違う、お互いの力量を認め合ったライバルみたいな雰囲気が満ちているから。
「可愛い恋人同士には、やっぱり幸せな展開が似合うわね、犯罪王こなたん」
「私の逮捕を目論んでるのに、無実のみなみちゃんを助けるために休戦してくれるかがみ刑事萌え♪」
「うっさい! ――ところで高良検察官、被疑者に対する暴行は処分の対象となる事は知ってるな?」
 かがみ先輩の担任の桜庭先生――保健室の天原先生の仲良し――みたいな演技で、かがみ先輩は高良先輩に視線をぶつけます。高良先輩は相変わらず、みなみちゃんの全身をもにもにと。
「んっ……ああっ、やめっ……!」
「どんだけー」
 同感ですが、「お姉さんスイッチ」がこんな路線になってしまったのは、私とみなみちゃんも悪いですけど、ほとんどつかさ先輩の責任ですよ。出番がないのは同情しますけど、即興劇なんですから舞台に出る理由は自分で作って下さい。

 
 高良みゆき劇場第一話「塀の中」は、結局は立場が逆転して、みなみちゃんを捕らえた背後にいる謎の権力者の名前を吐かせるために、私達で拘束した高良先輩をみなみちゃんがいろいろしちゃうという展開になりました。私に限らず、みんな悪乗りし過ぎです。よれよれになった高良先輩が「皆さんお強いですね」なんて言うものでみんな大笑いだし。
 さて、高良先輩の最後の指令、つまり「お姉さんスイッチ」の最後を飾るのは――?
「『ホテルへゴー!』です」
 高良先輩……いくら身体つきが一番大人でも、その発想はよして下さい。
「つまりみなみさんをホテルにお持ち帰りというかお持ち込みして、スイッチに囚われずにあれこれ愛玩しようという計画で――かがみさん、日光方面の電車の時刻と、お手頃な値段で六人泊まれる場所――できればバンガローかコテージをお願いします」
 そういう事だと思っていましたけど、少なくとも高校生がやっていい事だとは思いません。下手すると栃木県警に補導されます。
「ちょっと落ち着きなさいよみゆき」
 かがみ先輩は高良先輩の暴走を止めようとしますが、目の色が変わっている高良先輩は聞く耳持ちません。
「かがみさん……私とみなみさんの逢瀬を阻むおつもりですか? 私の家ではさりげなさを装う母に妨害され、みなみさんの家ではチェリーに妨害され、美術館では学芸員さんに妨害され、電車の中では車掌さんに妨害されているというのに……」
 公共の場で後輩を襲わないで下さい高良先輩。いや、公共の場でなければいいわけでもないですが。
 そこで「はーっ」と息をつき、かがみ先輩は――、
「泊まりがけで旅行するなら保護者がいなくちゃダメでしょ。いのり姉さんは会社が夏期休暇で暇だと言ってたから、ついて来てくれるか電話してみるわね」
「そうでしたね。成実さんもいて下されば、警察の注意を免れるためには最適です」
 ……「そうでしたね」じゃないです。それにゆいお姉ちゃんは警察官だから、いくら非番でも先輩達が補導されるかもしれないのに。
「まあまあ、落ち着きなよかがみにみゆきさん。暴走するのは私の役なんだから」
「……確かにその場のノリで日光まで行くのは、ちょっとやり過ぎだったわね」
「……お、お恥ずかしい所を見せてしまいました」
 お姉ちゃんに止められたかがみ先輩と高良先輩は、揃って顔を赤くしてうつむいた。ついでにつかさ先輩とみなみちゃんがもじもじしているのは、自分達が止めるのを思い付かずに先を越されたせいだと思う。だって私も「同じ」だし。
「電車賃と宿泊費を出すのは大変だよ? それにっ」
 お姉ちゃんは携帯電話を取り出し――表示されてるのは伯父さん、つまり、お姉ちゃんのお父さんからのメール。
『友達と日光へ泊まりに行く事になったから、帰るのは明日の夕方になる。かがみちゃん達を拝見できないのは残念だが(泣)、みんなで楽しんでおいてくれ。』
 思いやりと趣味(?)に溢れた、とても伯父さんらしい文面だった。お姉ちゃんの相手によって随分違う文面や、かがみ先輩の優しい(お姉ちゃんにだけ手厳しい)文面、つかさ先輩のきっちりした(たまに誤変換して、きちんと訂正メールが来る)文面、みなみちゃんの簡潔な文面、高良先輩の礼儀正しく丁寧な文面。もちろん田村さんやパティちゃんやゆいお姉ちゃんのもいろいろ特徴があるし、私のもみんながそれぞれ、私なりの特徴を感じているかも。
「おじさんってば、なぜ私が代表なんでしょうね。まさか巫女さんだから?」
「小説をよく読んでくれるからだと思うよ。まさかかがみを再婚相手に狙って……たりはしないよね」
 お姉ちゃんの声を聞き慣れた私の耳には、後半の言葉もはっきり聞こえた。まあそんな事は多分ないけれど――かがみ先輩が伯父さんと結婚すれば、私にとってかがみ先輩は伯母さんになるし、つかさ先輩にとってこなたお姉ちゃんは姪になる。つかさ先輩にも聞こえたみたいで「こなちゃんが姪……」とか呟いてるけど、幸いにも当のかがみ先輩には聞こえなかったみたい。
 ――話を元に戻すと、つまり今日は伯父さんが帰ってこないから、このままみんなが帰ると、今夜も明日の昼間も、私とお姉ちゃんが二人きり。せっかくの休みにそれは勿体無い気がするし、明日改めて遊びに行くにしても、この顔触れで集まるのは難しい。近くの鷲宮に住んでいる柊先輩達はともかく、東京の都心より先に家がある高良先輩とみなみちゃんは。
「つまり日光ではおじさまに発覚してしまう危険があると。では別方面の宿泊施設に」
「じゃなくて、このまま泉家で遊んでればいいでしょ」
「あ、そうでしたね。一つの考えに熱中すると、切り替える事ができないようで申し訳ありません」
 そして私達は、高良先輩の親しみやすい一面を新しく知る。落ち着いているようで、突っ走るとかがみ先輩とかがブレーキを掛けないと止まらないなんて、年齢からも外見からも言いにくい事だけど、やっぱり可愛いですよ高良先輩。
 でも……やっぱり夕方でお開きじゃ、高良先輩も気の毒だし、私も先輩達やみなみちゃんに甘えたい。
 そんな思惑と共に、私は高良先輩のお姉さんスイッチを手にして、「ほ」のボタンを押す。


>7.(ご自由にお入れ下さい)

 
「『火照る』っていうのはどうですか?」
「その……やっぱりそういう事でしょうか?」
 上品な感じに頬を赤く染めるのはもちろん高良先輩で、曖昧な言い方にあらぬ想像をしてるみたい――って、私がわざとそーいう言い方したから。そんな悪戯が好きな辺り、やっぱり私はこなたお姉ちゃんに染まってる。
 もちろん私は、曖昧な感じでそんな可愛い高良先輩を愛でつつ、こなたお姉ちゃんやかがみ先輩の真似をしながらにやりと笑う。
「大好きなみんなといっぱい接触してドキドキし合うんです。密着してゲームのプレイを観賞して、寄り添ってDVDを見て、輪になってカードゲーム、手を取り合ってお料理、お風呂も一緒で、そして寝る時はかがみ先輩とつかさ先輩みたいに」
「ゆたかちゃんっっ!!」
 私達の前でした事を思い返したのか、耳まで真っ赤な双子の先輩達が声を揃える。でもそんなの関係ねぇ(いや、関係ありすぎるけど。あとネタを使ってごめんなさいつかさ先輩)。
 それでも嬉しそうなかがみ先輩は平静を装い(感情表現がいちいち可愛いから、こなたお姉ちゃんの表情を読める私には見え見えだけど)、左右に垂らした、私と似ている髪形の髪をいじりながら、不承不承という名目で許してくれる。まるで、おねだりしたゆいお姉ちゃんや私に対するお母さんみたい。
「それじゃ、ゆたかちゃんの意見に賛成してあげるわ。まあ、前もってお母さんにでも電話してからだけどね」
「有難うございます♪ つかさ先輩も、愛しのかがみ先輩とたっぷり甘えさせてあげますからね?」
「――ななっ!?」
「――うええっ!?!?」
 こんな一言で、一気に舞い上がる二人、特につかさ先輩。うーん、お姉ちゃんがからかう気持ちが分かってきた。あ、でもお二人の事が大好きなのはホントですから。
「も、もうゆたかちゃんっ! 私は一応二歳くらいお姉さんなんだよ?」
 自分で「一応」なんて言わないで下さいつかさ先輩。私にとっては背丈と胸だけでも羨ましいんですから。
「つかさ先輩はかがみ先輩だけでなく、泉先輩やみゆきさんにも甘えたいのでは? 田村さんもつかさ先輩に懐かれて、全米が泣くほどのネタの数々を貰っているそうですから」
「みなみちゃんまでっ! 年上の威厳ってどこにー?」
 ありません。でも、「全米が泣く」って、「つまらない」という婉曲表現だよね。みなみちゃんだか田村さんだか分からないけど、意外と身も蓋もない性格してない?
 そういう表現を下級生にされてしまう、親しみやすいと言えなくもない先輩に、私はちょっぴり素直じゃない答えをあげる。
「そうですね、こなたお姉ちゃんくらいでしょうか?」
「失礼だなぁゆーちゃん。私はかがみんと――んっ」
 くちゅっ。
「んむんむんむむむ、むむむむむむ〜〜〜〜っっ♪」
「んんっ、んん〜んっ、んんうんんうんんんんぁ……っっん!!」
 こなたお姉ちゃんがかがみ先輩に背伸びして抱き付き、舌を口の中に何度も何度も執拗に出し入れして、私達の顔から湯気が立ちそうなほど、唾液の音を際限なく立て続けに立て続けた。お姉ちゃんの言う「夫」と愛の証を一方的に交わしながら、お姉ちゃんは私を挑発的な目でちらりと見る……さっき勢いでかがみ先輩にキスしたせいで。
 当然ながらかがみ先輩は、たっぷり口を吸われてから(抵抗できないのかあえて抵抗しないのか、田村さんとパティちゃんの間では意見の対立があるらしい)、お姉ちゃんを突き放して怒ってしまう。お姉ちゃんは、いつもはこんな場面で「かがみ萌え」とか言って余計に怒られるのに、今日は肩をすぼめて泣き出しそうになった。もちろんそれに気付かないかがみ先輩じゃないけど、お姉ちゃんには甘くするまいという気持ちがあるから、釣り目をきつめにして厳しく叱り付ける。
「な、何すんのよいきなりっ!?」
「だって、かがみはえっちな事してあげないと、オタクで趣味が男子で貧乳の私じゃ喜んでくれないから」
 ……………………。
「な、何よその短絡的な発想……」
「ギャルゲーもエロゲーもプレイしてくれないし、対戦ゲームは1点でも負けると凄く落ち込むし、漫画は好きなのが違うし、ラノベはかがみの視線がドキドキして落ち着けないし、勉強は私苦手だし、料理でかがみの綺麗な手に怪我させたくないし」
 お姉ちゃんの気持ちはよく分かるし、つかさ先輩なんか涙ぐんでいた。でも、だからってその発想は飛躍し過ぎ。何かしていないと落ち着けないのはお姉ちゃんらしいけど、つかさ先輩相手には一緒にいるだけで満足しているはずなのに。
「リアルで同性趣味はなくても、私でかがみが可愛い反応してくれるのが大好きで、普段はお堅いかがみが大胆な姿を見せてくれるのも可愛くて、それに運動するとダイエットにもなりそうで。でも私のこんな身体じゃ、顔も髪もお肌もボディラインも綺麗で、大人っぽい身体をしてるかがみは喜んでくれないよね」
 告白のようなそうでないようなお姉ちゃんの爆弾発言に、私は頭の中が漂白されていた。そんな驚きの白さの中、かがみ先輩は――、
「うにゃっ!?」
「なーにウジウジしてんのよっ。私もこなたが可愛いわよ」
 お母さんが娘を抱き締める姿勢で、お姉ちゃんの感触を味わいながら、かがみ先輩はにまにま笑った。お姉ちゃんは軽くもがくけど、がっちり固定したかがみ先輩は頬擦りしながら密着を高める。いつものようにお姉ちゃんの顔が先輩の胸元に埋もれると、お姉ちゃんは耳の先まで赤くなって、姉妹や恋人というよりは、お母さんに甘える子供みたい。
「華奢な身体は小さな子みたいで、もにもにした口は指でいじると気持ち良さそう。小さな身体を一生懸命に動かす仕草も最高だし、耳年増のわりに一度達すると純情なんだから」
「ゆーちゃんの前で何言うのさえろかがみっ! ああもう、普段と立場が逆だよぉ?」
 もがくお姉ちゃんと押さえ込むかがみ先輩に、「後で抱かせてね」と笑顔で当然のように言うつかさ先輩、「泉さんの愛玩されるお姿を、記憶に焼き付けてさしあげますから」と言いながら鼻血を出している高良先輩、無言で私をじぃ〜〜〜〜っっと見詰めるみなみちゃん。何と言うか、誰か普通の反応をしてほしかったのに、取り残された私は涙せざるを得ない。
 そしてキスを再開するお姉ちゃんとかがみ先輩。もちろん今度はかがみ先輩が主導権を取って、しつこさを感じないけど甘い感じの音を響かせていた。
「むむっ、む――――っっ!?」
「んんーっ、んんーっ、んんんー……っ♪」

 
 結局、お姉ちゃんはかがみ先輩の前にあえなく敗れて、ぐったりしたまま先輩の胸の谷間に顔をうずめている。そしてかがみ先輩は、お姉ちゃんを抱き締めながら余裕の笑顔。
「……ふぅ。見せ付けてごめんねみんな?」
「構いません。田村さん流に言うなら、これであと一週間は戦えます」
 あああああ、高良先輩が眼鏡を底光りさせて壊れてます。いや、場合によってはいつも壊れてますけど。
「短いわね」
「ですので、また来週にこなた分とかがみ分の補給を、できればつかさ分も」
「しないから。あと、そろそろ鼻血止めてよみゆき……」
 そんな先輩の胸元でぜーぜーを通り越してひーひー言ってるお姉ちゃんは、せめてもの抵抗のつもりか、先輩のスカートの辺りを揉むように探っていた。
「あ、かがみの肉体が硬くなってるー。また今度、不意打ちで握っちゃおうかなー」
「こ、この変態男女っ。あ、アンタがあんな事をするから!」
(……いや、色々していたのはかがみ先輩もです。あと、硬くなってるのが脚の筋肉ならそれを言ってよお姉ちゃん)
 ……なんて私が言えるはずもなく、怒りを猛らせるかがみ先輩だったけど、後ろからつかさ先輩が抱き留めた。
「お姉ちゃん……」
「ふーっ、ふーっ……少し落ち着いたわ」
 背中から当たるつかさ先輩の(胸の?)感触のおかげで、途端に柔らかい表情になるかがみ先輩に、「やっぱりずるいよつかさー」と言うのはもちろんお姉ちゃん。日頃の行いを棚に上げて、なぜそんな事言えるかな。まるっきり駄々っ子だよそれって。
「お姉ちゃんのお口の中は、後で私の舌で口直しさせてあげるから」
「ありがと……ごめんねっ」
 後輩の前でなに危ない会話をしてるんですか先輩達。ゆいお姉ちゃん達よりらぶらぶなカップルに認定しちゃいますよ。
 ほら、やっぱりお姉ちゃんも……。
「いいんだー。かがみがすげなくするならつかさを――」
「こ、こなちゃん、心の準備がんむうっっ!?」
 また直視できない行為を始める、いけないお姉ちゃん。あれだけ子供っぽく見えたつかさ先輩も、お姉ちゃんとの対比で普段よりずっと女性らしく思える。今度はつかさ先輩もしっかり反撃して、次第につかさ先輩にリードされる、積極的にされると弱いお姉ちゃんは……あえて解説する必要もないかな?
 そんな衝撃的な光景に身体を震わせたかがみ先輩は、いきなり高良先輩を引き寄せた。自分に飛び火するとは夢にも思っていなかった高良先輩は抵抗もせず、かがみ先輩の真剣な瞳と正面から向き合い――、
「みゆきっ!」
「な、何でしょうかがみさ――ん〜〜〜〜っ!?」
 かがみ先輩が高良先輩をきつく抱き締めて、胸と胸、腰と腰を押し付け合い、思い切り口を吸いだした。私よりずっと女性らしい身体つきの二人が愛し合う姿は煽情的で、刺激的で、いけない事だと分かっているのに目をそらせない。呼気の中に湿った鉄錆のにおいを感じた私は、鼻の下にティッシュを当てて出血をこらえていた。
 ひとしきりキスが続き、ようやく二人は口を離すけど、お互いの身体を感じ続けるのはやめない。つかさ先輩が時々言う「どんだけー」っていうのは、こんな時の感想なんだろうか。
「ふふっ……んっ。可愛い羊さんね?」
「ふぁっ……。可愛いですよ、私の雄ウサギさんも」
 かがみ先輩が高良先輩の大きな胸をわしづかみにすると、高良先輩はかがみ先輩のスカートの中で指を這わせる。もはや生死判定目前の私(いや、言葉の綾だから安心してね)が何もできずにいたら……キスで腰砕けのお姉ちゃん(ひょっとして、お姉ちゃんって意外とキスに弱い?)を離して、つかさ先輩が乱入。
「わ、私もゆきちゃんとっ!」
「つっ、つかささん――んむっ!?」
 単純なのに、ひたすら熱烈なつかさ先輩のキス。いきなり高良先輩を取られて唖然としたかがみ先輩だけど、さすがにもう一度お姉ちゃんを襲う元気は無いようで、くったりしたお姉ちゃんをそのまま寄り添わせてあげていた。
(田村さんがいなくてよかった……田村さんのために)
 女の子同士の友情や愛情が大好きな田村さんだけど、こんな所を見たら失血死してしまったかもしれない。伯父さんが言う「萌死」さながらに。
 呆然とする私に、みなみちゃんがそっと声をかけてくれる。
「ゆたか……」
 ああ、その潤んだ綺麗な、ちょっぴり宝石のような硬さも湛えた瞳。眩しさに、私はそのまま引き寄せられる。
 もちろん私はそのまま、心持ち背伸びをして、顎をそっと上げて……。
「い、いいよみなみちゃん。私のく、唇、みなみちゃんに捧げる覚悟はできてるから」
「……ゆたか、勘違いし過ぎ。好きなのは間違いないけど、ここで気持ちを暴走させるつもりはないから」
 目が前髪に隠れるほど深くうつむいて、耳まで真っ赤なみなみちゃん。そしてみなみちゃんが見る私は視線が虚ろで、お姉ちゃん達のような猫口になってると思う。
「え?」

 
「私が思ったのは、田村さんとパトリシアさんも含めて、私達も三年生になる頃にはこうなるのかと……」
 と言われて想像する、三年生の私達は――、
 愛情に素直になり過ぎて、みなみちゃん達にぺとぺと甘える私。
 田村さんの同人誌みたいに、私に色々恥ずかしい事まで言ってしまうみなみちゃん。
 作品に昇華するだけではなく、自分でも私達に実践しようとする田村さん。……その頃までには「ひよりちゃん」と呼んでみたい。
 で、言うまでもないパティちゃん。
「ちょ、ちょっと想像できないね」
「やっぱり暑いせいか、暴走してしまったみたい……私も含めて」
 またぐるぐるお目々のみなみちゃんを見ながら、今日の事件を思い出す。
 確かに、今日の私は変だった。明白に。そのショックは、十万石饅頭のテレビコマーシャルをみなみちゃんが知らない事を知ってしまった時と同じくらい。……いや、埼玉県民にとっては重大な問題なんですよ?
 そこで私はふと、左手の指を口元に寄せ……残された感触を思い出しながらそっと触れた。
 お姉ちゃんの唇、ついでにかがみ先輩の唇(ごめんなさいっっ)……。
 いつかまた、みなみちゃんの唇に触れる日が来るんだろうか。その日にはきっと、私達が見せ付ける後輩がその場にいてほしい。でもやっぱり、その後輩は私よりいろいろと大きいんだろうなぁ。
 で、みなみちゃんはまだもじもじしてて、まるで照れてるかがみ先輩みたい。やっぱり二人は雰囲気から立ち位置まで似てるから、同い年と先輩の違いはあるけど、こんなに私には魅力的に映るんだ。そんな私はお姉ちゃんとつかさ先輩に似ていると、いつか田村さんは話してくれた。悪い気はしないけど、そんなに私ってぼーっとした感じに見えるのかな? あの二人っきりで仲良くしてる所って、お部屋や柊家の縁側でぼーっとしてる所しか思い浮かばないもの。
 そして私の――えーとっ、田村さんは男子ポジションって言ってたから彼氏(?)が言うには。
「ゆたかの勘違い……嫌じゃなかった」
「――みなみちゃんっ!」
 そんな恥ずかしいみなみちゃんと私を、四人並んで楽しそうに見ていた、お姉ちゃん、かがみ先輩、つかさ先輩、高良先輩。あんなに熱烈なキスを交わし合っていたのに、こうして見るといつも通りに戻っていて、かえって恥ずかしい私とみなみちゃんは、にまにまと私達で満悦しているこなたお姉ちゃんのせいで揃って赤面。
 つかさ先輩が無言で笑顔を湛えながら私とみなみちゃんの肩に手を置くと、お姉ちゃんはいつもの猫口ではなく、隣のつかさ先輩みたいに素直な笑い声を上げながら、くしゃくしゃと私の髪をいじくった。ゆいお姉ちゃんとは背丈も体型も違うけど、お母さんと伯父さんを通じて結ばれている私達は、双子の先輩達に負けないくらい似ている事に改めて気付く。
「暴走して本性剥き出しのゆーちゃん、可愛かったよ。まるで発情したかがみとつかさみたいっ」
「本性なんて言わないでっ。ひどいよお姉ちゃんーっ」
 もう。そんなお姉ちゃんは、朝に弱くて朝寝しているところを、みなみちゃんとの予行演習も兼ねていろいろしちゃうんだから。
「応援してるわ、みなみちゃん。ゆたかちゃんも浮気なんてしちゃダメよ?」
「有難うございますっ。……ところでかがみ先輩は、お姉ちゃんとつかさ先輩と高良先輩の、誰が一番好きなんですか?」
 そして、お姉ちゃんをこんなに可愛くしてくれたかがみ先輩にもお返し。
「じゅっ、順位を付けるなんて失礼な事、つかさとこなたとみゆきに失礼じゃない。ゆたかちゃんもこなたと成実さんとみなみちゃんに順位付けたりしないのと一緒よ」
「純情だねーかがみん。世間はいろんな萌えが過剰だけど、やはり基本中の基本は純情属性だねっ」
「なっ!? ちょっと、つかさもみゆきもみなみちゃんも何とかしてよ!?」
 やっぱり先輩、みなみちゃんに似てる。みなみちゃんがお姉ちゃんの相手をしてた時も、普段のみなみちゃんよりきつい、かがみ先輩みたいな突っ込みを繰り返してたよね。
「ゆたかちゃん、近頃こなちゃんに似てきてない? お姉ちゃんもみなみちゃんも顔真っ赤だよ?」
「ゆたかもそれくらい、積極的な方が可愛いですから……」
「〜〜〜〜っ!! つかさ先輩もみなみちゃんも、恥ずかしい台詞禁止っっ!!」
 つ、つかさ先輩も意外と手強い相手かも。意地を張らない自然体だから、お姉ちゃん仕込みの自分のペースに乗せる展開に持って行きにくいし。
 そんな所でつい忘れ去られそうになっていた高良先輩は、「おほん」と軽く咳払いをした。やっぱりみなみちゃんと幼馴染だから、高良先輩も意外に無口なんだろう。よく喋りそうなイメージがあるけど、実際のところは、自分にとって必要と判断した事しか話していないみたいだから。口にしない事ではどんな事を考えているのか、知りたいような知りたくないような。
「泉さんに小早川さん、かがみさんにつかささん……今日の事はご内密に願います。私達も家族――母やみなみさんのおばさまなどに内緒にしておきますから」
「母さんはともかく……ゆかりさんには気付かれそうな気がします。あの件やあの件と一緒で」
 ……高良先輩のお母さん、ある意味みなみちゃんの天敵だって聞いてるけど、別に嫌な所を見られたわけじゃないと思うのに。
 そこでお姉ちゃんが、私とみなみちゃんをまとめて抱きすくめる。というか私はともかく、みなみちゃんにはすがり付いているようにも見えるけど。
「まあ、ゆーちゃんがゆい姉さん譲りで激しいのは、少々控えないとみなみちゃんが参っちゃうけどね」
「い、泉先輩っ」
「えへへー。みなみちゃん、今夜はいっぱい、もちろんお姉ちゃんや先輩達も一緒に楽しもうねっ♪」
 私はこなたお姉ちゃんにぎゅーと抱き締められながら、これからの期待に胸を高鳴らせる。三人とも胸が薄いから胸の高鳴りをお互いに感じる――なんてのは自虐的にも程がある冗談。うぅ、今日はかがみ先輩や高良先輩の胸にたくさん甘えるんだから。ちなみにつかさ先輩の胸は、中途半端に大きさが近くて嫉妬しそうだから避けておく(我ながらヒドいけど)。
 さてとりあえず、私はもう少し、今夜の楽しみを増やすための努力をしてみるために電話を手に取って。
「私も、田村さんとパティちゃんにお電話してみよっと」
「ちゃっかりしてるねゆーちゃん……携帯電話じゃなくてウチの電話を使うなんて。ひよりんもパティも近いからいいけど、みなみちゃんちに長電話はしないよーにね」
 一応言っておきますが、そこまで悪い事を考えてはいません。田村さんは集中していると携帯電話の呼び出し音が聞こえない事があるから、おうちの電話でご両親やお兄さん達に取ってもらおうと考えているだけです。
 さて、みなみちゃん達は一斉に携帯電話を取り出して――、
「あ、もしもし母さん――」
「――いきなりですみませんけど、今日は泉さんのお宅で――」
「――そう。お泊まりするんだけど一緒でいいかしら? うん、ありがとお母さん」
「――電話中だと思ったらお姉ちゃんがー!」
 ……なんてオチが付くのは、私達(というかつかさ先輩)らしいけどね。
「あ、田村さんですか? ひよりさんの同級生の小早川と申しますけど――」
(終)


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