☆ 初夏に抱いた想い ☆
(前編:お姉さん達と)


 
 ある初夏、というか、まだ梅雨の合間の暑い日。夏を先取りと言わんばかりに太陽が輝く、そんな一日。
 私、泉こなたは、友達の家を訪ねていた。といっても、リアルでそこまでする友達は、今のところここだけなんだけど。
 小学校、中学校と、ごく一部の例外を除けば深い付き合いもなかった私に高校でできた、最愛――というのはちょっと危険だけどそれしか言いようがない双子の姉妹、柊かがみと柊つかさ。つかさはおっとりして可愛らしく、料理はもちろん家事一般も得意なのに、ドジだし家庭科以外の勉強は苦手だし、双子のお姉さんのかがみじゃなくても心配してしまう。かがみは凛々しい感じの美人で頭もいい、同じ学級委員でかがみとも仲良しな高良さんが博識ならかがみを例えるには聡明って感じなのに、私には黒井先生みたいに厳しくて、料理はほとんどできないし、食欲旺盛でいつも体重を気にしている。そんな素敵な二人と知り合えたのは、お父さんと賭けたPS2とパソコンよりも、高校で得た素敵な宝物かもしれない。

 
 そんな二人の家の前で、とっとと呼び鈴を押せばいいものを、棒のように立ち尽くした私は柄にもなく緊張していた(そう、暑さも相まって走馬灯紛いのモノローグに逃避するほど)。顔を出すのはまだ五回か六回くらいだし、家族の人とはお父さんとお母さんしか顔を合わせていなくて、二人いるというお姉さんを拝見した事はなかったんだけど……。
「こんちはー」
「え?」
 振り向いた先に映るのは、逆光でもないんだけど、目を眩ますほどまばゆい光の中の人の影。
 背丈は私よりずっと高い――そりゃ私は背が低いから、小さな子供以外は従妹を除いてみんなそーだけどさ。
 髪は短く、着てるのは袖も裾も長く、それでも女の人らしい柔らかさを帯びた体格が、この人が声の主なんだと教えてくれる。
 少しずつ見えてくる姿は、綺麗な髪の毛に、白い肌、馴染みのある色合いの目。
 そんな姿に、胸が高鳴って。
「はぁっ……」
 目の焦点がようやく合ったその時、私の唇から洩れたのは、つかさとかがみを初めて直視した時に洩れた、ちょっとした興奮を秘めた賛嘆の声。まるでギャルゲーのお姉さん系ヒロインに初対面した主人公みたいだなんて思うのは、オタクな私の悲しい性。
「あら、大丈夫? 長い髪だと蒸れて大変でしょ」
「だ、大丈夫です。おねーさんに見とれてしまいまして」
 つい口に出るお世辞に、「お上手ね」とその人は微笑んで、子供にするように髪を撫でて、そのついでに髪の間へ梳きを入れてくれている。
 いきなり出会った(はずの)私に、気安い感じで声をかけてくれたのは、いつの間にかすぐ横に来ていた巫女服の人。どことなくかがみやそのお母さんに似ている美人さんだから、これが噂のお姉さんの片方だろうか。かがみより少し背が高く、心持ち胸も大きそうな大人の女性を前にして、自分の背丈と幼児体型に激しい劣等感を受けてしまう。かがみとつかさの前だと「貧乳はステータスだ」と威張れるのに、初対面の人の前だと虚勢も張れないなんてねぇ。
「んー……もしかしてその制服、陵桜の制服? 勉強頑張ってるのねぇ。初等部? それとも中等部?」
(うぅ、ゆい姉さんと同じくらいの年だと思うのに、姉さんよりずっと大人らしいよ)
 お気楽な感じの私の従姉と心の中で比較して、学校の先生以外に使い慣れない敬語を頑張って使おうとしながら、声を上ずらせていくらか赤面したはずの私。かがみを連想させる鋭い感じの釣り目は、かがみがつかさを見る時のような温かさを湛えている。
 しかしまぁ――この人も私を高校生と思ってくれなかったんだ。私を産んでくれたお母さんには感謝してるんだけど、身長140センチちょっと、胸ランクは「微」、って感じの体格だけはほんとーに恨むよ。
「い、いえ、高等部の一年でっ。わ、私、かがみさんとつかささんの」
 ――同級生? いや、かがみは違うし。
 友達? いや、心の広いつかさは認めてくれるだろうけど、あの厳しいかがみが認めてくれるかな。ディープな男性のオタク丸出しの部屋――とお父さん――を見られたくなくて一度も家に呼んだ事がない図々しい劣等生を、対等の相手なんて認めてくれっこないかもしれないし。
 いっそここは親友? それとも恋人――だからどっちの――ってそれはもっと違うー!!
 なんて混乱している私を、お姉さん(?)は静かに見詰めて、従姉のゆい姉さんが妹のゆーちゃんを可愛がる時みたいに笑う。
「二人から友達が来るって聞いてたわよ。はいどうぞ」
 女の人が門を開けて、家へ招き入れる。初対面の時は優しかったのに、近頃の私にはなかなか優しくしてくれないかがみを思い出して、胸の奥底がちくりと痛んだ。
 でもそんな事はおくびにも出さず、お義姉さん(いや違うって)に精一杯礼儀正しく振舞う私。
「あ、有難うございます。えーと」
「初めまして。かがみとつかさの、上の姉のいのりです」
 かがみとそっくりの微笑に、私は柄にもなく赤面していた……んだと思う。

 
 で、赤面は解けた。いのりさんのあんまりな問題行動によって。
「……でも、初対面の人に『一緒にシャワー浴びる?』なんて言われるとは思いませんでしたよ」
「いやー、ごめんね。つい妹達の相手する感覚で。こなたちゃんは小柄で可愛いからー」
 あっさり言い放ってくれるいのりさんって、中身はゆい姉さんと大して変わらないのかもしれない。実際、16歳って昔はオトナだと思ってたけど、実際なってみると別段何かが変わるわけでもないし。
 しかし引っ掛かるのは今の言葉。美人さんに言われると妙に犯罪チックで、鎮痛剤を要らない理由が「性欲を持て余す」からってゆースネーク並みにヤバい。
(……「小さかった頃の」って付きますよねそれ? てゆーか付かなかったら怖いです)
 なんて事があって――そして私は古そうな扇風機が回っている居間で、いのりさんと向かい合わせになっていた。居間が和室というのが少し昔の漫画っぽいのに、巨大な神棚(って、この大きさは棚ってレベルじゃないよ)から生じる威圧感に、リアルでは信心深い方じゃない私は和むどころではなかった。
 神主さんの家と聞いて、私は純和風のお屋敷を想像してたけど、柊家はごく普通の家だった。あちこち増築している家は、私の家と同じくらいの広さで、両親と四人姉妹が住むには少し狭さも感じるくらい。つかさの部屋は女の子らしい可愛い小物と料理の本がたくさんの、想像通りの部屋だったし、ぱっと見が殺風景で、真面目な面白みのない本ばかりだと思ったかがみの部屋に、実は結構漫画やラノベがあって、ゲーム機も各種揃っていたのが嬉しかった。
 ……で、いのりさんは巫女服からセンスの良い感じの普段着に着替えて、私はつかさの服を(いのりさんが勝手に)借りている。私より大きいつかさの服は裾やら胸元やらの風通しが良く、端から見ればこれはこれで萌えるのかもしれないけど、身体のあちこちがすーすーするし、裾や胸元から中が見えていると思うだけで、同性趣味がないはずの私でも、いのりさんの視線を意識して胸がドキドキしてきた。
(しかしいのりさん、速攻でつかさの服を取ってきたね。やっぱりかがみは私と違う、女性らしいめりはりのある身体なんだ)
 いのりさんが出してくれた牛乳を飲みながら、かがみに似ている釣り目に浮かぶ感情を読もうとするけど、感情表現が豊かで見ているだけでも萌えるいのりさんの真ん中の妹とは違って、謎めいた感じのお姉さんの目は何も見せようとしない。でも、人に出す飲み物の一杯目が牛乳というありえないチョイスは、私の身長を気遣っているからか――もしくは体型を。
 私はそこでつい、いのりさんの胸をじろじろ見てしまっていた。意外と大きなかがみの胸に形や大きさが似てそうだからなんだけど、我ながら不躾だと思って目を伏せようとするところに声を掛けられた。
「焦らなくていいわよ、こなたちゃん。つかさも色々気にしてるけど、少しは大きくなってるんだからね」
「で、でも、母も私と同じような身体で、私も小学校出てから全然成長してないんです」
 ばれたんだよね、今の。
 もし私を変な趣味の持ち主だと思われたら、この場で家まで逃げ帰り、……そして何をするのさ泉こなた。ここで悩むくらいなら最初から来なければよかったんだよ。そう、いつもみたいに春日部とか大宮とかで遊ぶだけで、路線も違う鷲宮まで電車に乗って、そこからわざわざ歩く北葛飾郡鷲宮町鷲宮一丁目8番6号1まで来なくても。
 一応は女なのに、どうして男子みたいな嗜好を抑えられなかったんだろう、いのりさんの前でくらい。
 目前の世界が一気に閉ざされるような感覚を覚えていると、それでもいのりさんの声は容赦なく響く。
「こなたちゃんって、かがみの話に聞いた通りね」
「――え!?」
 いのりさんにかがみが私の事を話したという、その事実に私は怖くなる。かがみの事だから、私の前では我慢していても、ホントは嫌でしょうがなくて、つかさの前だから愛想良く振舞ってたんだ。宿題の答えをせがんでも、最初は笑顔で「お互い様でしょ」と言ってくれたのに、近頃は「またかよ」「たまには自分でやれよ」と冷淡で、やっぱり嫌なんだ私の事。
 趣味で気味悪がられたり仲間外れにされる事には慣れていたはずなのに、それでも嫌だから家から離れた陵桜学園に入って、せっかくつかさと友達になれたのに。頭がいいからってお姉さんに宿題を写させてもらったりしなければ、いや、少しでも外で趣味を自制してさえいれば……。
 辛い――辛いよ、かがみ、つかさ。お母さんみたいに私を置いていかないで。
「ちょ、ちょっと! かがみがこなたちゃんの事をひどく言ったわけじゃないから!」
「い、いのりさん? わ、私っ」
 いのりさんの必死な声を耳にして、意識が殻から出てきた私は、熱いしたたりを頬に感じた。自分が泣いていたんだと気付く前に、三人の妹達を愛撫、もとい撫でてきた、かがみにだけじゃなくてつかさにも似てる感触の手で、いのりさんが私の身体をさすって落ち着かせてくれる。
「宿題は自分じゃやらなくて、趣味はオタクの極みで、中年のおじさんみたいに女子をやらしい視線で見てるけど、意外に礼儀正しい所もあって、意外に家庭的で、意外に頭も回る、ですって」
 ……ごめん、かがみ。かがみがいい人で、エロゲー見て引いても、18禁同人誌を見てしまったつかさが目が虚ろなのを見て私に怒りの丈をぶつけても、蔑んだりは絶対にしないのに、そんなかがみを疑うなんて、つかさに合わせる顔がないよ。
 でもいちいち「意外に」って、随分棘があるなぁ。むぅ、まるで柊の葉っぱそのままじゃん。
「……厳しいですね」
「他人にも自分にも、食欲以外は厳しいかがみにしては上々かもしれないわよ。つかさはいい人だっていうんだけど、あの子の評価って頼りにならないし」
「私も同意見です。つかさって露骨に人馴れしていない雰囲気で、かがみの友達ともほとんど付き合いないみたいですから」
「ウチはこんな家だから、いわゆる旧家ってわけじゃない? だから近所の子も、私達とはあんまり遊ぶ機会なくてさー。つかさはいつもかがみと一緒に遊んでて、かがみもそこそこ友達付き合いはあるのに、結局はつかさを最優先だもの」
 うーん、高良さんだけじゃなくて、かがみとつかさもお嬢様だったとは。確かに二人とも品がいいし、崩れた言葉や乱暴な言葉は(かがみが私相手でもないと)使わないし、高良さんがかがみと仲良くしてるのも理解できるよ。

 
 そんな風に私がいのりさんと打ち解けているうち、時計の長針が三分の一ほど回ったところで、不意に玄関が開いた音がした。玄関を開けた人は「ただいまー」なんて言って、そのままばたばたと賑やかに上がって、居間に顔を出す。
 その人も美人で、いのりさんやかがみ、それに二人のお母さんみたいな気品に満ちた印象の美人ではないけど、つかさみたいな快活さに満ち溢れる美人さん。
「あっ、まつり。今日は早かったのね」
「ただいま姉さん。今日は友達の集まり悪くてさー」
 これがまつりさんかー。かがみより少し背は高くて、顔の感じはつかさに似てるけど、いのりさんよりずっとラフな感じの、どっちかというと私にも似たような服を着てる。大雑把に言うと、つかさの発育を良くして、気性をかがみみたいにした感じ……なのかな?
 いのりさんはそんなまつりさんと楽しそうに、まつりさんの学校(どこかの高校か大学らしい)の話をして盛り上がる。そんな傍らで私は、無言でまつりさんを観察する。まつりさんの仕草なんかは力強い感じがして、かがみにもいのりさんにも似てるけど、いのりさんやかがみみたいな女らしい口調じゃない、つかさにも似た感じ。身体付きは、背丈がいのりさんとかがみ&つかさの真ん中辺りで、骨格がしっかりしているのはつかさ似で、肉付きの方は柔らかいつかさや引き締まったかがみともちょっと違うっぽい。肌があんまり白くないのは、お父さんのただおさんからの遺伝かな。
 で、いのりさんは放置してしまった私に気付いて、私に軽く手を掛けてまつりさんへ向き直させる。緊張で硬くなってしまっていた分、いのりさんには動かしやすかったらしく、まるでお人形になった気分だった。
「あ、こちらは泉こなたちゃん。かがみとつかさの友達よ。――こなたちゃん、こちらが私の一番上の妹のまつり」
「お邪魔してます。あのー」
 と声を掛けてみるけど、まつりさんは垂れ目を険悪に細めている。つかさがかがみの真似をしているみたいでつい笑いそうになるけど必死にこらえているうち、無言をどう勘違いされたのか、機嫌が最悪の時のかがみみたいな抑え込んだ口調を返されて――、
「何か用?」
「い、いえ、何でもありませんですはい」
 懸命にファーストコンタクトを試みる私だったのに、怒ったままのまつりさんは、乱暴にふすまを閉めて出て行ってしまった。
 そして――いのりさんは平然と麦茶を飲んでる。でも、私はそれどころじゃなかった。まつりさんの、かがみのツンデレとは違う、つんつんしただけの態度に、たまらなく居心地の悪さを覚える。
「いのりさーん。私、まつりさんに何か悪い事しました?」
「まつりはね、こなたちゃんにかがみを取られたみたいに思ってるのよ」
 ちょっ、まつりさん。貴方何歳ですか。子供じゃあるまいし、少なくともかがみより年上なら、機嫌の悪いつかさみたいな態度はよして下さいよー。
「ほら、まつりはかがみやつかさと年が近くてね」
 と、いのりさんは言う。見た限りだと(まあ、泉家や小早川家じゃないんだから、柊家の場合は見た目を信用していいかな)、まつりさんとかがみやつかさは年子でもないだろうけど、二つ三つくらいしか違いそうにない。まつりさんには大人びたかがみより幼そうな面もあるみたいだから、かがみと双子だといっても通用しそうな感がある。
「だから本当は、自分でかがみやつかさをあれこれ構いたいのに、本人の性格が追い着かないせいで、かがみがしっかりしちゃって、つかさも『かがみお姉ちゃん』にべったりになっちゃって。三人とも小学生だった頃は、つかさをかがみから引き離そうとしては、つかさに泣かれてお母さんに怒られてたわよ。あの子が結構幼い所があるのは、かがみにくっ付きたいからなのかもしれないわね」
 そこでいのりさんは私の反応を促すみたいに言葉を切るけど、どう感想を返せばいいのか私には分からない。私も従姉妹が二人――ゆい姉さんとゆーちゃん――いるけど、家も違えば親も違う二人にはどうしても遠慮してしまう時がある。義叔父さんもゆき叔母さんも私には良くしてくれるけど、家庭の事情のせいで私を腫れ物を扱うようにする事があるから……余計にね。
「まあ、かがみやつかさみたいに溜め込むタイプよりは扱いやすいから、姉としてはちょっぴり楽かなー」
「……複雑なんですね、姉妹って。私、一人っ子ですから、かがみとつかさを見ていても、いまいち分からなかったりするんですよ」
 例えば、かがみはつかさが擦り寄ってもしょうがなさそうにしながら嬉しそうなのに、私が密着するのは何で嫌なのかとか。あの距離が姉妹愛を踏み越えてるように見えるのは、百合ゲーとかエロゲーとかのやり過ぎならいいんだけど。
「あ、そういえば、こなたちゃんはかがみと知り合った頃、かがみを長女だと思ってたでしょ?」
「ええ。生真面目で、まるでつかさの保護者みたいにお昼御飯を食べた後の口元まで舌を、……いえ、いのりさん達は同じ所にいませんから、保護者になるのはかがみとして自然な事なんだと思います」
 私の言葉にいのりさんは一瞬引きかけたけど、「でしょ?」と同意してくれる。
「家の、それに神社の跡取りの事だけど、かがみはね、私がお婿さん貰って継ぐんだと勝手に期待してるのよ。同じ巫女さんしてても、神道の知識はかがみの方が上なんだから、かがみが跡を継いでもいいのにねぇ」
「やっぱりかがみも、よく巫女さんになるんですか?」
 かがみの(そして、もちろん自動的につかさも)萌える所を聞き付けた私は、耳聡くいのりさんを追求してみる事に。かがみもつかさもこーいう事は恥ずかしがって話そうとしないから、ここは洗いざらい聞いて双子をいじり……でも怒られたくないからほどほどにネ。
「私よりも巫女になる事は少ないけど、休日はよく、四人揃って神社でお務めしてるわよ。こなたちゃんも興味あるなら、いろいろ神社の話をしてあげるわ」
「ええ、喜んで」
 神社より双子に興味があったけど、社交辞令もほんの少し加味して、私はもちろん頷いた。
 てなわけで、いのりさんのお話が始まるんだけど――そこで思い出したヨ。日本神話をモチーフにしたアニメやゲームは知ってても、ちゃんとした知識がサブカルチャー漬けの私の頭にはないんだって事を。一応は仏教徒のはずだけど、お父さんは仏壇の前でもそんな話を全然してくれないし。
「いい? そもそも日本の神様は、古代ギリシアやインドの神様とは違って、姿形や性格の個性が強調されない代わりに、いくらでも分けて祀れるという特徴があってね――元のが減っちゃうわけじゃないから、ゲーム流にいえば無限増殖とでも言えるのかしら?」
「え、え〜と?」

 
「私は朝晩のお勤めもしてるけど、まつりとかかがみとかつかさとかも、お祭りの時や休みの日に色々してもらってるのよ」
「そうそう。こないだなんか掃除の時に、つかさが桶の水を撒き散らしてねー」
「まつりだっていつも、いい加減な掃き方をしてかがみに怒られてるじゃないの」
「そんな事を言う姉さんだってー」
(……まつりさん、普段からイメージ通りなんですネ)
 根性無しの私は、神道の話は「また別の機会にお願いします」と断らせてもらって、もう少し簡単な話に移らせてもらった。それからいのりさんの説明や体験談――巫女さんは正規の神職じゃないとか、でも今は女性でも神職になれるとか、いのりさんは普段は会社勤めだとか、お神楽で舞うのも大事な仕事だとか、ここの神楽舞は国指定重要無形文化財だとか、巫女さんの袴はズボン型が本来の形だとか、今は自動車のお祓いが多いとか、来年のお正月は鷹宮神社に来てねとか――を聞きながら……まつりさん、いつの間に戻ってきてしかも割り込んでるんですか。機嫌が戻ってるのはまあいいんですけど。
 でもまあ、巫女さん姿のかがみとつかさを想像して、特にかがみは「あんま見るな」とか恥じらう姿を思い浮かべると、可愛くて可愛くて可愛くて悶えてしまいそう。……私、リアルで同性趣味はないんだけど、性的な興味じゃないはずだし、バーチャルで想像するのは差し支えないよね。うん。
 なんて考えているうちに、まつりさんが身を乗り出して私を眺めていた――つかさに似てる顔で、私がかがみをいじって楽しんでる時のような表情で。
「こなたちゃーん? そんなニヤけて、まさか私のかがみに惚れた?」
「え、ひぇっ!? ソ、ソンナ事ないですヨっ!?」
 不意を打たれてうろたえた私はつい動揺して声が変になるけど、まさかまつりさんに気付かれてはいないよね。……って、何を気付かれるとまずいのさ。変だよ私(いや、いつもかがみが私に言うような意味じゃなくて)。かがみは女の子で、男っぽい所はあるけどそれは私もお互い様だし。
「まあ確かにかがみは、私達の中だと一番できてる子だしねー」
 いじるのか助け舟を出すのか、どちらかはっきりして下さいいのりさん。悪戯っぽい気分のかがみにそっくりなその慈しむ目は、かがみと私とまつりさんのうち誰が対象なんですか。
「学校の勉強を優先しているはずなのに、知識はまつりより豊富だし、いっその事あの子にお婿さんを迎えた方がいいんじゃないかって気分にもなるのよ」
「うう、うるさいな姉さん。お神楽の舞いは私の方が上手なんだからね」
 結局助け舟は泥舟じゃなかったみたいで、私は小さな胸の奥を安堵させた。強がるまつりさんの姿は、つかさに何となく似ている。まあ、つかさは自然にかがみを自分より上だと思ってるから、私に「こなちゃんのくせにー」なんて言ったりする時の姿にね。
 そして私は、萌える美人姉妹のやり取りを堪能しながら、かがみとつかさが帰ってくるまでの時間を過ごしていた。

 
初夏に抱いた想い(後編:夕餉にて)へ続く


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