☆ さちのほし ☆
(「初夏に抱いた想い」おまけ)


初夏に抱いた想い(後編:夕餉にて)から

 
「それじゃお休み、みゆき〜」
「お休みなさい、お母さん」
 寝る前の挨拶をした私は、さすがにすぐには眠れずに、かといっていつものように本を紐解くわけでなく、この一日に思いを馳せます。
 今日はお向かいの、二つ年下で姉妹のように親しい岩崎みなみさんとお出掛けして、博物館と本屋を回ってから、家の買い物をして帰ってきました。財布の紐がしっかりしているみなみさんのお母さんに付き合わされたみなみさんは、母娘揃って「お一人様一点限り」の物を何度も買っていましたけど、三度目からは店員さんも割引しなかったのは内緒です。
 そして――一年の別のクラスの学級委員長をしておられる、柊かがみさんとお電話を。私を「みゆき」と呼んで下さり、私も名前で呼ぶ関係のかがみさんは、知識も私と話を合わせられるほど豊かで、決断力に優れて、厳しいですけど配慮に満ち溢れて、同性でも心を惹かれるような気品のある美人で、二人でいると私の中が満ち足りるのを感じる、そんな頼もしい人。……母に話したら、「みゆきの彼氏みたいね〜」と言われたのも無理ありません。
 先程のお電話によりますと、かがみさんは、妹のつかささんのお友達の泉こなたさんをおうちに迎えておられるという事です。妹さんも泉さんも、私と同じクラスですけど、まだあまり親しく接した事はありません。しかしかがみさんからお二人の事を聞いて以来、密かに私は注目するようになりました。
 私を「委員長」と呼ぶ妹さん。かがみさんにどことなく似ている愛らしい美人さんで、色々知り過ぎて少しすれてしまった私とは違い、純粋な心を持っておられます。知識も料理については豊富ですし、ご自分では勉強は苦手だと言われていますけど、それは学年でも最上位のかがみさんとの比較でです。かなり内気な所があり、男子はもちろん女子とも深いお付き合いは乏しいようです。きっと、この上なく優しいかがみさんや、まだお目に掛かった事のないお姉さん達にいつも包まれて、家族の輪の外に出る勇気が出せなかったのでしょうけど、泉さんと打ち解けた姿は愛らしく、まるで子犬や子猫がじゃれ合うようで、クラスのマスコットのような存在として皆さんを和ませてくれます。……二人揃って授業中によく寝ているのは問題ありですが。妹さんはお料理を作るのがお好きですので、そちらからお近付きになる事ができるのでは?
 私を「高良さん」と呼ぶ泉さん。時折感じる、私に注目する視線は、私が普通受ける距離を置き気味の視線とは違い、初対面の頃のかがみさんよりなお一層遠慮のないもの。でも男の方から受ける、その、身体にしか向かってくれない視線とは違う、一種の心地良さもありました。初めの頃は感情に乏しいような印象がありましたけど、つかささんとのお付き合いで生き生きとした表情を見せて下さるようになってからは、快活な性格と男の子のような趣味のために、男子とも友達付き合いできるようで羨ましい限りです。黒井先生から「高良なら洩らさんやろ」と、生まれてしばらくしてお母様を亡くされていると伺いましたけど、そのような事を聞いてしまった私は、かがみさんのように包容力に満ちても、妹さんのように人懐っこくもないのに、泉さんからは嫌に感じられるかもしれない同情を脇に置いてお付き合いをできるのでしょうか。
 そこでふと思い立ち、私はお三方への想いを込めて囁きます。
「かがみさん」
 これは慣れた呼び名ですけど、妹さんと泉さんに聞かれるのは、初めのうちは少し照れくさいかもしれません。
「つかさ、さん」
 これで良し、ですね。かがみさんともお付き合いする以上、「柊さん」や「妹さん」で済ませるわけにもいかないでしょうし。
「こなた……さん」
 ……何故でしょう。喉の奥に引っ掛かったように、言葉が出にくいです。
 泉さんのご趣味に、私がついて行けない所があるからかもしれません。
 どことなく、男の子みたいな所があるからかもしれません。かがみさんにも男性的な面はありますけど、それとはまた、もう少し違う点で。
 でもその距離感が、また心地良くて。
「……泉さん」
 降参です。今夜は鷲宮のかがみさんとつかささんの家におられる泉さんに、この気持ちを送っておく事にしましょう。
(……携帯電話があれば、この気持ちも速やかに届ける事ができるのでしょうね)
 春日部辺りの夜空とは比べ物にならない、赤葡萄酒のような色合いに染まる夜空には、星を探す事もできません。でも私の幸運の星があるとすれば、それはきっと、昼でも夜でも私の心を占める、あのお三方に違いありません。
 胸の奥の甘酸っぱい気持ち……例えるならかがみさんはミント味、つかささんはバニラ味、泉さんはレモン味……を噛み締めながら、私はそっと目を閉じて、私の味は何の味なのか少し考えました。
(私も、皆さんの幸運の星になれますように……)

 
 かがみさんが私と親しくなられてから、つかささんと泉さんも私と親しくなられるまでの間の、そんな初夏の夜。
(おしまい)


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『らき☆すた』:(C)美水かがみ/角川書店/らっきー☆ぱらだいす