☆ 此方と其方・11 ☆


此方と其方・10から

 
 埼玉県久喜市鷲宮。『きら☆すた』では、かがりが巫女を務める神社があるが、ここにあるのは鷹宮神社。
 初めて訪れた時、神職の柊家がとても厳格な家だと思い込んでいたこなたがそなたの袖をこっそりつかんで、「かがみに嫌われたらどうしよう」「それも私だけじゃなくそなたまで」と怯えていたのを、泉家と柊家の双子達は今も、温かい気持ちで(こなたは恥ずかしい気持ちで)思い出す。
 まあ、結局は杞憂で、姉達や両親に気に入られた上に、そのうち友達ではなくて親戚のように扱われだして、今ではもはや柊家の五女と六女扱いなのだけど。

 
 人通りがそこそこある道を走って来た自動車が、神社の隅にある駐車場に、滑り込むように停車する。今日は夏休みとはいえ平日なので、先に停まっている自動車も、何台か痛車を見掛けるほかは、駐車する場所に悩むほどではなかった。
「あらよっと」
「こ、こなちゃん、運転速、かった、ね」
 柊家の自家用車から、元気のいいこなたと、ふらふらしているつかさが降りて――、
 降りて――――、
 ――えーと。
「…………そなたとかがみんとゆーちゃんは?」
「町内に入ってからこなちゃんが凄く飛ばすから、途中で置いてっちゃったけど」
 つかさは目の焦点が合っていないままで、足元も盛大によたつかせて、それでもこなたに薄めの胸を張り、かがみがつかさを見るような目で小さな親友を見据えた。
「それにこなちゃん、お姉ちゃんはこなちゃんよりオトナなんだから、そんな呼び方しちゃダメだよ?」
「ここぞとばかりにお姉さんぶるネー。私の方が二ヶ月近く早いのに」
「一ヶ月ちょっとだってばこなちゃん……えぅ」
 まだ車酔いしたままのつかさは、少しえづいて、鳥居の横に座り込んだ。

 
 つかさのクラクラが収まった頃になって、ようやく二台目の自動車がやって来る。そちらの自動車は、こなたが運転していた方より静かに、まるでお召し列車のように止まり、少ししてからこなたと同じ姿の少女が、お揃いの頭頂部の癖っ毛の束――俗に言うアホ毛を跳ねさせて降りてきた。
「ねーさーん、乱暴な運転はよしなと何度言えば――」
「まあまあ、そなた。こなたは時々運転荒いけど、成実さんほど無茶はしないんだからさ」
 泉家の自家用車から、そなたに続いてかがみが降りる。
 かがみの動きには、いつも隙がない。神楽舞を小さな頃から学んでいるだけあって、動きの端々に無意識ながらも筋が通っているのを、武道の腕が道場でも師範代クラスのそなたは前々から感じていた。ちなみに、道場を途中でやめたこなたは素手の技しか知らないが、そなたは武器を使った技も仕込まれており、道場の先生に連れられて伊勢崎線に乗って行った先の群馬県の剣道場の師範代にも(相手がかなり不運だったが)勝てたくらいである。
(あの師範代さんが言ってたケド、「努力は必ず扉を開く」んだよネ。たとえつーちゃんでも。それに比べるとねーさんは)
 こなたは相も変わらず、だらけた感じでたたずんでいる。つかさがこなたとそなたの前ではお姉ちゃん気分で気丈に頑張っているのに、いくら良く言っても自然体とは到底言えないこなたのだらけようは、外だからまだいいが、泉家では――最近は柊家でも――かなりはしたない姿で、「肌の弱いお母さんみたいに長袖に帽子完備とまでは行かなくても、せめてチラチラかがみさん達に見せ付けるのはよしてヨ」と、何十回言った事だろうか。日下部家を訪ねた時に、お兄さんもいるのに平然と下着姿で出てきたみさおよりは、学力同様にまだマシだが。
「でも、そなたには言いにくいけど、アンタ達姉妹が運転すると、自動運転と間違えられそうね」
「毎度の事だけど、そなたにはダメでも私はいいのかねかがみんや。まあ私も、成人向け同人誌をかがみにだけ見せたり、えっちな事はかがみにだけしたりだから、お互い様とは言えっケド」
「えっちな事については帰ってから姉さんに問い詰めたいケド、つーちゃんは女の子で、かがみさんは女性だからネー」
「そんな所で同意するのはやっぱり姉妹ね。まあ私も、つかさをついてくるヒヨコみたいに見てるのは、そろそろ卒業したいと思うのよ」
 こなたからは、男の子が年下の女の子に向けるのと似た微苦笑。
 そなたの分は、女友達同士の心が通い合うような目配せ。
 そして、かがみからの慈しむ母親そのものの眼差し。
「三人してっっ。こなちゃんとそなちゃんのくせに〜!」
「あはははは」「くすくす」「ふふっ」
「もう〜〜!!」
「やっぱり仲がいいよね、お姉ちゃん達って」
 力んで叫ぶつかさに、当人には悪いなーと思いながらも笑う、双子の姉と親友達。そこにやや遅れて、ゆたかも微笑みながら、そなたとかがみの背後から顔を見せた。

 
 暑さも盛りを過ぎた、昼下がりと夕方の合間の頃合い。
 二台の自動車は、ひよりの家の近くで、「ネタの宝庫でしたよー。また今度は柊家でお泊まりしたいっス」というひよりと、「サクセンカイギでス! コンヤはキジをネかせませン!」というパティをそなたが降ろし、鷲宮の町内で、「うにーひいらぎー」と半分寝ぼけたままのみさおと、「みさちゃんが色々ごめんね」と謝るあやのをこなたが降ろし、そして、柊姉妹を家に送るのと柊家の自家用車を返すのと、ついでに(といっても、こちらが本題だとゆたかは思っている)柊家の家族に会うために、鷹宮神社の鳥居のすぐ左側の駐車場に自動車を停めたのだった。
 いつもの見慣れた境内をぐるりと見回すと、この前の土師祭の巡行でただおがお供物を片付けている間に鳳輦に置いて行かれかけた事とかが頭の中をよぎり、こなたは、「やっぱりつかさのお父さんだったなー」とか思いながらくすりと笑みをこぼす。 
「かがみんちは狭いから自動車停められないけど、こんなに広い境内を無駄遣いせずに、ちょっとぐらい分けてもらったらどう?」
「姉さんの妄言は無視してお願い」
 信心がろくになく、「他力本願」を誤用して、チャット相手が真宗の門徒だったせいで散々突っ込まれた事があるこなたとは違い、普通に信心があるそなたは、姉の敬神の念に欠ける言い草に、珍しく本気で反発する。オタクにあまり偏見がないとはいえ、本人はオタクのつもりがさらさらないそなたは、鷹宮神社にお参りに来るその手の人達にあまりよい思いを抱いていなかった事もある。まあ今は、「これを機に日本の伝統に目を向けてほしいネ」と、いくらかは寛容になっているようだった。
 ともあれ、神社の制度を理解していないこなたに対して、いつもそなたが双子の姉に感じているのと同じくらい、苦々しい感情を抱いて説明してやるかがみ。
「神社は柊家の財産じゃなくて、お父さんやいのり姉さんは神社に勤めてお給料を貰ってるのよ。アニメで参拝者が増えたけど、収入だけじゃなくて支出も仕事も増えて、つかさはへばっちゃうし、まつり姉さんは逃げたがるし、禰宜さんや氏子さん達も張り切ってくれるのは嬉しいけど過労で倒れたら気の毒だし、唯一の救いはファンの人達がマナーいい人多い事かしら」
「そうなんだー。私にとってはかがみとつかさが萌えて、バイト代貰えれば、それ以外別にどーでもいいけど」
「聞けよっっ!!」
 こなたの無茶苦茶な言い草に完全に切れてしまったかがみが、こなたのもちもちしたほっぺを限界まで引っ張り、つかさが双子の姉から親友への制裁を止めようとしながらどさくさ紛れにぺたぺた密着して、ただでさえまだ暑い時間なのでちょっとだけ嫌がられてしまっている。もちろん、そなたは馬鹿姉が受けて然るべきお仕置きを受けるのを止める気などなく、『そっちこっち』のくみきのような三白眼で、姉の「助けてそなたー。かがみとつかさに襲われるー」という叫びを、右耳から左耳へ滑らかに流していた。
「何度目か分かりたくもないけど、まったくもう、姉さんは……ん?」
「あ、そなたちゃんも来てたんだー」

 
 不意に掛けられた落ち着いた感じの声に、そなたが参道の方を向くと、そこにいたのは、かがみに似た顔立ちの大人っぽい女性。つかさ似で発育の良い女の子も一緒に連れている。
「お帰りかがみ。早かったじゃない」
「ただいまー、いのり姉さん。これ、みゆきんちとみなみちゃんちからお土産」
 いつもは要領がいいけど、小さな妹達(今はあまり差はないが、主観的には)を大好きないのりは、かがみからお土産を受け取って、ついでに頭をなでなでし始める。
「や、やめてよ姉さん、こなたとそなたとゆたかちゃんの前で恥ずかしいっ」
「いつもつかさに取られている分、たまには甘えてきてよ、ね?」
 嫌がるそぶりを見せながら、長女のなすがままにされる三女。こんな時は、かがみも「妹」に見える。
「お帰りつかさ。お腹すいたー」
「そ、そんなすぐには出ないよぉ。えっと、えっと」
 一方、全然姉らしい所がないまつりは、年の近い妹にいきなりわがままを言い出して困らせる。
 姉と妹なのに関係が違う柊家の四人を、泉家の三人で眺めながら、こなたはぼそっと呟いた。
「同じ姉なのに態度違うよねー、いのりさんとまつりさん。――なんてゆーとそなたは、『ヒトの事言えるか』って毒づくんだろうけどさ」
「私じゃなくてもするヨ」
「え、えっと、こなたお姉ちゃんは私の前だと頑張るけど、そなたお姉ちゃんの前だとだらけちゃうし」
「ゆーちゃんまで……しくしく」
 妹達の厳しい反応にさらされて、わざとらしく嘘泣きをするこなただったが、そこにもう一人やって来た。背は高く、体型にめりはりもあり、いつも陽気そうな表情の成実ゆいは、色々と似ていない妹と従妹達に満面の笑みを向けている。
「やふー、ゆたかー、こなそなー」
「あれ? ゆいお姉ちゃんも来てたんだ?」
「アルコール抜けたの?」
「すみません、いのりさん。『姉』が迷惑を掛けたようで」
「ぐはあっ!?」
 ゆたかの意外そうな声、こなたの疑わしさ溢れる目つき、そなたの微塵も疑いのない申し訳なさに、打ちひしがれてしまったゆい。そのままいのりに泣き付いて、「ううっ、妹達がいじめるんですよー」「あんなに心配してくれて、素敵な妹さん達じゃないですかじゅるり、いや失敬」などとやっている。
 そんな姉達を遠目に眺める、柊家の妹達(かがみにまとわりついて肘鉄を喰らうまつりを含む)と、小早川家&泉家の妹達。
「……大変ね、アンタ達。一番大変なのは旦那さんでしょうけど、その次くらいに。ってまつり姉さん、変なトコ触るなっ」
「……指摘しないでかがみん。アレでも姉さんから逃げられる車はなくて、『埼玉県警の白と黒の悪魔』とか言われてるそーだから」
 恥ずかしい思いをさせられてばかりの三人だが、それでもゆいを好きな事には変わりないので、何かに打ち込むと天才的だがそれ以外が抜け落ちるせいで「一を得るために九を犠牲にする」と高校時代に幼馴染から言われていたとか、結婚前は夏には「ゆたかーアイスー」と転がってばかりだったとか、その類の事は、こなたもそなたもゆたかも言わないでおいてあげた。

 
 西日がうっすらと差し込みかける、柊家の台所。外は快晴で温度計も嫌な数字を出しているが、屋内はクーラーの低い音が響いている。
 既に夕食の準備が進んでいる食卓の向こうのシステムキッチンの前で、先程まで踏み台に乗って料理をしていた小柄な女性が、流しの前で、しきりに台所の入口やら窓の外やらを気にしていた。一見すると、小学生の子がお母さんに内緒で台所を使っている図なのだが、よく見ると服は長い裾やら抑えた色彩やらが大人っぽいし、大人用のアクセサリーを身に着けているし、うっすらとだがお化粧もしているので、大人だと分かる。というか、そこまで確認しないと身内以外には「大人の真似をした子供」に見えてしまうというのは、何十年にもわたる、その女性にとって最大の悩みだった。
「誰も、いませんね?」
 そう周りを気にする女性の正面にあるのは、西瓜。縦縞があり、中身が赤い、日本では典型的な西瓜で、一個を六つに切り分けて、もう一個は丸のまま鎮座している。
「……では」
 女性は西瓜を重そうに手に取り、小さな口を思い切り開けるのと併せて、ちょっと子供っぽい声を上げ――、
「あ〜〜んっ」
「お母様?」
(ぎっくぅ!)
 女性が慌てて振り返ると、そこには同じ姿が――いや、小柄な背丈や長い髪は似ているが、しなやかで強靭な筋肉も、太くて腰が強く密度も高い髪も、よく見ると色々と似ていない。
 ニヨニヨしている愛娘その一が、友達の双子の可愛い(でも本人は内緒にしたい)所を目撃した時のように、悪戯っぽい目で見ている。自分がいる所では「お友達に失礼でしょ」とたしなめるのだが、さすがに自分が原因になってはたしなめるどころではない。
「食卓はあちらでございますヨ、私達の敬愛する、かなたお・か・ー・さ・ま?」
「こ、こなたっ、違うの、これはっ!? 社務所に行くみきさんにお留守番を頼まれて、そのっっ!?」
 うろたえる母親を問い詰めて、背丈相応の可愛い胸もついでにもにもにして、外見だけでなく中身も五十過ぎに見えない様子を堪能する、少しいぢわるな娘。その後ろから、同じ容姿の双子の妹――愛娘その二が顔を出す。
「それくらいいーじゃないさ、姉さん。パティさんはひよちゃんちに行って、えっと」

 
  姉さん、私、ゆーちゃん、
  かがみさん、つーちゃん、

 
 と頭の中で考えたところで、整理のために台所のメモ紙を拝借。念のためにパティの名前も、書き込んでから取り消し線。

 
  姉さん、私、ゆーちゃん、パティさん、
   お父さん、お母さん、ゆい姉さん、
  かがみさん、つーちゃん、
   おじさん、おばさん、いのりさん、まつりさん、

 
「んううっ、こ、こなっ」
「お父さんは、午後はおじさんに取材で社務所だし」
 母親の、自分や姉より大人っぽい喘ぎ声は聞き流し、そなたは父親達に取り消し線を入れる。

 
  姉さん、私、ゆーちゃん、パティさん、
   お父さん、お母さん、ゆい姉さん、
  かがみさん、つーちゃん、
   おじさん、おばさん、いのりさん、まつりさん、

 
「おばさん達を入れても全部で十人だから、今お母さんが一つ食べても足りなくはならないし」
「ん、ああっ……じゃなくて、ええっと、そうなのね、そなた。それならお母さんが貰っても――」
 と、虫のいい事を言い出す母親の頭に――、
 とす。
 と、上の娘の手刀が、虚弱な身体をいたわるように優しく当たった。かなたはわざとらしくしゃがみ込み大袈裟な声を上げて、こなたは肩をすくめる。
「あううぅ〜〜」
「私がお母さんに突っ込む日が来るとは思ってなかったヨ。言い訳がすっごい後付けだし」
「姉さんがそんな事言えるのかはともかく、夕御飯はお母さんが作ってるの?」
 結局は西瓜をかじっている図々しい母親と、もう一切れつまみ食いしても問題ない事が分かった途端に自分も西瓜をかじりだす姉と、その姉に西瓜を半分分けてもらっている自分に呆れながら、そなたは言う。こなたにだるま落としさながらに上下重なった状態でくっ付かれ、まとわり付かれている様子は、機嫌のいいかがみに珍しく(つかさがするように)ぺたぺたされて、鬱陶しいのか嬉しいのか分からない状態のこなたのよう。
 そんな可愛い子供達をお母さんの目で見ながら、かなたは再び(娘達と共用の)踏み台に上がり、台所での作業を再開する。
「ええ。そう君――お父さんがもずくを買ってきてくれたから、それもね」
「お母さんはもずくが好きだケド、お母さんが好きな能登のもずくは、ぬるぬるぬるぬるしてて喉につかえるヨぉー」
 好き嫌いは割となくても、もずくが嫌いなこなたは、珍しく気落ちしたように、顔をしかめて口を尖らせる。
「好き嫌いはよくないぞこなたー」
 と、従妹達の後についてきたのか、そこに首を突っ込むゆいは、こなたの長い髪をぐしゃぐしゃと撫でるというか掻き回す。頭の中に冷気を入れて涼しくしようとしているのかもしれないが、かがみやつかさ達と知り合うまではスキンシップが苦手だったこなた(と、そなたも)としては、そうじろうにされているほどではないが、ちょっと鬱陶しさも感じなくもない。
 もちろんこなたは言われっぱなしではなく、他人の事は言えない「姉」に言い返す。
「そー言う姉さんこそ、トマトくらい食べなよ」
「ゆーちゃんも牛乳嫌いだケド、ヨーグルトはつーちゃんとあやのさんが工夫して食べられるようになったんだし」
「はうっ!?」
 こなただけでなくそなたにまで痛い所を突かれて、ショックを受けるゆい。というか、ゆいに痛くない所などあるのだろうかと、言い返した双子は揃って思う。ともあれ、大仰な驚愕の身振りもこなたとそなたにはスルーされてしまい、放っておけないかなたは料理の手を休めて、義理の姪にも優しい声を掛けた。
「まあまあ。今日はトマトはないけど、みきさんとつかさちゃんならきっと食べられるようにしてくれるはずよ、ゆいちゃん」
「かなた義伯母さーん。こなたがこなたがああ」
 そなたにすげなくされたこなたが泣き付くのと全く同じスタイルで、ゆいはかなたに泣き付いた。ゆいの方がずっと大きいので、傍から見ると違和感以外の何物でもないが、こなた達にとっては、小さな頃から見慣れているので別に違和感はない。……十歳くらい離れているので、かなたより小さなゆいは写真でしか見た事はないのだけれど。
「やれやれ、すっかり大騒ぎねー」
「……面目ないです、まつりさん。図体大きな『姉』がご覧の有様で」
 そなたは床下収納に入りたいくらいの恥ずかしさに身を締め付けられるような思いに襲われ、ついでにまつりにぺたぺたと襲われる。発育の良いつかさのような、しっかりした体格のまつりから、逃げようと思えば逃げられるのだが、今はとてもそんな元気は残っていなかった。
 台所に増えた新たな顔触れ(具体的には五人目)に、ひとしきり騒いだがアルコールが入っていないのでもう落ち着いたゆいから解放されて、かなたはお手製の料理を詰めたタッパーを開ける。
「いのりちゃんから好きだって聞いて、今日はこんか鯖も持って来ましたよ、まつりちゃん」
「あ、へしこですねー。お酒進むんですよこれー」
「また酒飲むのかよ。いのり姉さんと違って酒癖悪いくせに、未成年大勢の前で少しは控えろっての」
 続いて入って来て、まつりが開けっぱなしだった扉を閉めたかがみは、片肘で支えて軽々と運んできた、海水浴のお土産の西瓜を部屋の隅に転がしながら、いつもこなたを見るようなジト目ですぐ上の姉を見る。その姉もすぐ下の妹を、垂れ目を精一杯険しくして睨み返す。
「かがみはいつもお母さんにばっかり甘えて、つかさといちゃついてばかりで、たまには妹らしくしてくんないの?」
「まつり姉さんにはいのり姉さんがいるじゃない。というか、姉さんこそ姉らしい所は滅多にないくせに」
 いのりの妹とつかさの姉が、お互いにぷいと顔をそむける。
 それには構わず、そなたが今より更に小さな頃に動物園で見たマレーグマのように落ち着きのないゆいは、とにかく話したい模様で、こんか鯖に興味が移ったまつりから取り戻したそなたを、眼鏡の奥のくりくりとした瞳で見詰める。
「で、そなたは手伝わないのー?」
「ゆ、ゆい姉さんっ。私が料理苦手なのを知ってて言わないでヨっ!」
 とはいっても、料理そのものではなく手伝いなのだから、混ぜるだけとかよそうだけとか、色々とやる事はあると思うのだが。
「かがみもクッキングシートという変身アイテムがあれば料理を作れるんだから、そなたもこの際変身してみなよー」
「魔女っ子みたいに言うな。所帯じみてるのに、かなたさんみたいな女らしい所がないくせに……って、いきなり鼻血出してるじゃないの、こなた!?」
『い、いや……魔女っ子に変身したかがみを想像してると、女の私でもクるモノがあって……』
 と、まつりもいる前ではかがみであられもない妄想をした事はさすがに口を滑らせるわけにいかず、「ちょ、ちょっと暑くて」と、実際にはごまかした。「また変な事を考えたんじゃないわよね」と言いたそうなかがみも、相手が鼻血を出していては疑念を心配が上回り、「アンタもそなたも、変な所で身体が弱いんだから気をつけなさいよね」と言ってティッシュを差し出してくれたので、後で二人きりの所でばらそうかとも思っていたこなたも、申し訳なくてネタとしては封印する事にする。
「こなちゃん、私のお部屋で寝る?」
「い、いや、二階はまだまだ暑いから、居間の畳の上で転がってるヨ」
「え、えっと私も、姉さんと一緒で」
 二卵性の双子の姉で妄想をされた事を知ってか知らずか、こなたの新たな妄想を駆り立てるような事を言い出すつかさに、こなたは慌てて断りを入れて、台所に居づらくなったそなたも同意した。

 
「オレオレウチュウジンー」
「無農薬栽培の人参ー」
「……お姉ちゃん達……」
「……こなたちゃんもそなたちゃんも、扇風機の前だと可愛い所があるのね」
「わわっいのりお姉様にゆーちゃんー!!」
「ここここれは姉さんのネタに付き合っただけでー!!」

 
此方と其方・12へ続く


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