再び、お誕生日記念に頂きましたシーラです。
タイトルは今回もこちらの作成。ココで書いたおまけSSが長いので、画像だけでいい方は読み飛ばして下さい。
11月25日、シーラ・シェフィールド誕生日。
昨年は仕事でシーラの演奏を聴けないわ、シーラにかかと落としをされるわ、パティの鉄拳で殴られるわ、本当に災難だらけの一日だった。
しかし今年は仕事もなく、存分にシーラの演奏を堪能できたため、帰りの夜道も機嫌が良い俺だったりする。
「えっと……」
「……って、なーにモノローグを呟いてんのあんた?」
モノローグを呟いていたジョートショップの青年の斜め後ろ、一緒に歩いているシーラが躊躇するような声を出す反対側から、パティの怪訝そうな声が響いた。
ガス灯で僅かに路上が照らし出されているものの、人家から河畔の歩道までは離れており、周囲の空間の大半は闇の中。寂しさのあまりか自然とパティの声は大きくなり、青年は迷惑そうに、やや声を抑え気味にして返事をする。
「何だ?」
「こっちが質問してるの。どうして妙に機嫌がいいのよ?」
先程よりは微妙に声を抑えるパティだが、目を白黒させているシーラはともかく、肝心の話し相手である青年はそんな繊細な心配りに気付くそぶりすら見せず、ぶっきらぼうに口を開くだけ。
「こちらの勝手だろ」
「勝手じゃないでしょ。言ってくれないと分からないってば」
お互いに外見も性格も似ているせいか、頻繁に近親憎悪的な(傍から見ると下らない)喧嘩を繰り返している2人だが、これでも恋人というよりもはや事実上の夫婦関係だというのだから訳が分からない。
そして毎度の如く、かなり無意味に機嫌を悪くした青年は、腹いせ紛れに挑発同然の返答を返す。
「いやー、パティに殴られない一日がこんなに嬉しいものだなんてね」
「……っ! 我慢我慢……」
パティは肩を震わせ拳を握り締めながらも、怒りを張本人で発散したいという一念を強引に抑制した。もちろんその程度で殺気が収まるはずもなく、青年のいらつきと螺旋のように絡み合い、不穏な空気をスパイラル状態で共振させていた。
こーいう辺り、2人とも明らかに子供以下だが、一緒にいるシーラにとってはたまったものではない。シーラも青年とは夫婦同然のお付き合いをしているし、パティとも親友兼恋人――、いや、一応は恋敵なのだから。
なので強引に状況を転換させるため、シーラはパティに向き直って、話題へと積極的に誘導をした。
「え、えっと、今日の『夜想曲嬰ハ長調』はどうだったパティちゃん?」
「とても素敵だったわ! レコードも悪くはないけど、臨場感はやっぱり生演奏に勝るものはないわね」
シーラの声と共に、前までの不機嫌を綺麗に忘れて、パティは満面の笑顔に変わる。この場合はシーラへの好意もあるだろうが、パティとしてはこちらの笑顔の方が普通である。そうでもないと食堂の若女将など務まらない。
もちろんその斜め前方には、パティとしては例外的な相手が約1名、川辺の夜光魚を見遣りながら口を開いていた。
「単純な奴――」
「まともな会話をする気がないのなら、この場で2、3時間眠っててくれる?」
「じゃなくてえーとっ!」
そこで一瞬言葉を止めて、青年がするのは深呼吸。背後で膨れ上がっていた暗黒闘気が霧散するのを待って、背中の冷や汗を感じながら会話を続ける。
「あれは何度聴いてもいい曲なんだけど、ちょっと短すぎるような気がしないか?」
「……フルバージョンの練習を聴きながら、半分以上はパティちゃんの膝枕で眠っていたのは誰だっけ?」
「すみません俺が悪かったです」
「ふふっ♪」
片手を挙げて降参する青年の姿に、シーラの口からは思わず笑みがこぼれた。
しかしそれも束の間。幸せそうな顔に影が差して、思わず青年の裾に繊手を添えて、ぎゅっと力を込めて握り締め。
「……やっぱり、寂しいな」
囁くような声で青年とパティの注目を集め、それからぼそぼそとしているがはっきりした声を出すシーラ。いつの間にか3人とも足を止め、ガス灯の明かりがスポットライトのように照らす小さな空間にたたずんでいた。
「あなたがお仕事忙しいのは分かってるけど、おかげでプライベートだと顔を合わせる機会もあんまりないし」
「まあシーラって、その分ジョートショップの仕事を手伝ってるもんね。演奏会やレコード収録だけで結構な収入が入ってそうなのに」
「もう。パティちゃんの意地悪……」
可愛らしく頬を膨らませながら、シーラは背丈も近いパティの身体に体重を預ける。パティもそんなシーラの様子に、苦笑しながらも柔らかく温かい肢体を受け止めていた。
「で、あなた。今度の日曜は私の家でピアノを聴いてくれる?」
「あーっと……」
無意識に効果的な上目遣いを取るシーラと、裾を握られたままの青年の視線が交錯するその一瞬。
2人の視線の交錯に踏み込むのは、恋愛に疎いのを通り越し、微妙にデリカシーの無いコンビの片割れ。
「シーラって、教会の奉仕活動でオルガンを演奏するじゃない。その時に一緒に聞かせなさいよ」
「むっ……」
その瞬間シーラが思った事は、『私は恋人と2人きりになりたいのに』や『ローラちゃんに見られたら町中に噂を流される』から『そんなに私達を邪魔したいのパティちゃん』まで無数に存在したが――実際に口にしたのは別の言葉。
「……パティちゃん、ピアノは弦楽器で、オルガンは管楽器だって知ってる?」
「そんなのどーだっていいでしょ! 鍵盤が付いてるのは一緒なんだから!」
「そーいう事を言うならパティちゃん、緑茶に牛乳を入れられて我慢できるの?」
「図書館に入っていた料理雑誌で知ったんだけど、実際にやってみるとこれが結構いけるのよねぇ」
「私が言いたい事はそういう事じゃなくてー!」
「おーい……」
想定していた災難とは別の騒動を予期しながら、すっかり部外者と化した青年は、妻達の痴話喧嘩を唖然としながらただひたすら静かに見守っていた。
……という訳で、結城さんから頂きました、シーラ・シェフィールド嬢の誕生日記念画像です。
頂いたお祝いメッセージは以下の通り。
こんばんは、結城信乃です。
ごぶさたしてますが、お元気にお過ごしでしょうか?
本日は我らがシーラの誕生日、ということで毎年恒例の記念イラストです。
今年も進呈いたしますので、よろしければどこかに飾ってあげてくださいー。
手に持っているのは楽譜のつもりです。
誕生日のお祝いのお礼に演奏をするところ、といったところでしょうか。
それでは、また来年(ぇ?
どーいう音楽かな、と楽譜を凝視したら、「Nocturne(夜想曲)」という文字を発見。自分のテーマ曲の「夜想曲嬰ハ長調」をプレゼント……かどうかは分かりませんが、非常にロマンチックな贈り物となる事でしょう。相手が「好きな曲は雑音」と本気で答えかねない主人公(1)だというのはさておいて(汗)。
ちなみに「Nocturnal」だと「夜の」「夜行性」という意味になるので、暗殺者シーラにはこれまたぴったり…………ああっ冗談です冗談ーっ!!