斬るなり裂くなり好きにします(笑)。
<店主・大橋賢一>
悠久ぱられる幻想曲「ようこそ、エンフィールド学園へ」
エンフィールドという街がある。どんな街かと言えば変な街だ。
エンフィールドには学園がある。どんな学園かと言えばかなり大きな学園だ。しかしなぜ
か卒業生が社会的に貢献しているという話は聞かない。
その規模の大きさからか、たくさんの街から入学希望者がやってくる。彼女、シェリル・
クリスティアもその一人である。
「ハァ、ハァ、よりによって入学式に遅刻しちゃうなんて・・・」
説明的だ。とにかくシェリルは急いでいた。つまり今日は4月1日であり入学式の日なの
である。
「ああっ、いきなり曲がり角から暴走馬車が!」
説明的だ。そういうわけでシェリルは危機におちいっていた。まるでヒロインのようなシ
チュエーションである。
そして、お約束のごとく颯爽とヒーローが登場した。
「とうっ!」
ヒーローは屋根の上から逆光とともに現われた。鍛え上げられた肉体がまぶしい。ヒーロ
ーはかけ声をあげながら屋根から跳躍し、暴走馬車にむけて落下速度のプラスされた強烈な
キックをおみまいした。無事着地したヒーローがポーズをとった瞬間、馬車は謎の爆炎とと
もに砕け散る。
「大丈夫かな、お嬢さん?」
ヒーローはシェリルにむけて手を差し伸べる。しかしシェリルはあまり大丈夫には見えな
かった。
「あ、あの、馬車の破片がたくさん刺さっちゃったんですけど・・・」
それでもどうにかシェリルは差し伸べられた手を握り返しつつ、ようやく自分を助けてく
れたヒーローの顔を見た。・・・が、顔は分からなかった。なぜならヒーローはマスクをし
ていたからだ。さらに加えるなら白いマントに赤いパンツ、チャンピオンベルトという、公
安が追ってきそうな出で立ちであった。思わず握り返した手を引っ込めようとしたが、ヒー
ローはしっかりとその手をつかんで離してくれなかった。
「おっと、いつのまにやらこんな時間ではないか。すまないなお嬢さん、お礼は常時受け付
けているからまた会おう!はははははははははははははは!」
ヒーローは一方的に助け、一方的に去っていった。残されたシェリルは爆煙の残る学園通
りで呆然とすることしか出来なかった。
エンフィールドは変な街である。
勿論、エンフィールド学園も変な学園である。無国籍多種族で構成されているエンフィー
ルドの中でももっとも人が集まる場所であり、さらに校風がかなり無軌道なのだ。しかし外
部からの入学生のなかにはそのことを知らずに規模だけで選んでしまう者もいる。実際には
最大の理由は別にあるのだが・・・
我に返ったシェリルが学園に着いたときには、時刻はすでに昼になろうとしていた。
「入学式、もう終わっちゃったかしら?」
もともと目立つことが苦手なシェリルは、遅れて式典講堂に入ることに抵抗を感じてい
た。式が終わるまで外で待っていようかとも思っていたところに、講堂の中から二人の女生
徒が出てきた。ショートカットの活発そうな女の子に黒髪ストレートのおとなしそうな女の
子が付いて来るような感じにシェリルのほうへ歩いてくる。おそらくは彼女らも今年度の入
学生なのだろうが、他の生徒達が出てくる様子は見受けられない。
「パティちゃん、やっぱり式を抜け出すのはよくないわ。ちゃんと待っていましょうよ」
黒髪の女の子のほうが前を歩くショートの子に声をかける。声をかけられた女の子のほう
は構わずに歩を進める。よほど怒っているのか、あるいはそれが地なのか、歩きかたが男ら
しい。ズンズンという擬音が聞こえてきそうだ。
「冗談でしょ。いったいどのくらい待たされてると思ってんのよ!あんな学園長のためにそ
こまでする意味あるわけ!?」
説明的だ。つまり学園長不在のために式が始まらず、パティというガニ股気味の女の子が
しびれをきらして出てきたところを黒髪の子のほうが引き留めに追いかけてきたといった感
じのようだ。
「あ、あの、まだ入学式は始まっていないのですか?」
勇気を振り絞ってショートの女の子に尋ねる。彼女はようやくシェリルのことに気付いた
ようで、数瞬キョトンとこちらを見た後、突然後ろの女の子とヒソヒソ話をはじめた。
「・・・あの、なにか?」
二人の行動にシェリルは自分が田舎者に見えたのだろうかと思ってしまったが、どう見て
も二人のほうが後ろ指さされそうなほどにあやしい行動をとっている。と、話が終わったら
しく、二人がシェリルのほうに顔を向ける。
「ど〜も〜、パティで〜す」
「シーラで〜す」
「二人あわせて!」
ここで二人は向き合って手をパン、と合わせ・・・
「・・・・・・・・・」
なぜかそのまま硬直する。合わせた手をゆるゆると降ろしながら、視線も下のほうに下げ
てゆく。
「パティちゃん、やっぱりまずはコンビ名を作らなくちゃ」
「だからちゃんと考えたじゃない。『ドらまた姉妹』とか『ボルカン・ドーチン』とか」
シェリルは思いっきり置き去りにされてしまっている。仕方がないので見なかったことに
して式典講堂のほうに向かおうとしたが、シーラと名乗った女の子にスカートの裾をつかま
れてしまった。
「驚かせてしまってごめんなさい。あなたも新入生なの?」
「は、はい。シェリル・クリスティアです。あの、お二人は芸人を目指してらっしゃるんで
すか?」
シェリルの言葉に反応して、パティが(やはり少々ガニ股気味に)憤慨した様子でシェリ
ルに詰め寄る。
「ん〜なわけないでしょ!私たちはファイターよファイター。その名も美少女タッグファイ
ター『名称未定』!」
名称未定を誇らしげに名乗るのもナニであるが、最初の名乗り方は漫才のそれにしか見え
なかった。勿論シェリルにはそれを言う度胸はない。とりあえず納得したことにしておく。
「ご、ごめんなさい。・・・ところで、入学式は?」
『君達は新入生かな。入学式をはじめるから講堂に入りたまえ』
いきなり講堂の上から太い声が響きわたる。目を向けると、彫像のようなシルエットが太
陽を背負いつつマントをはためかせていた。
「(・・・どこかで見たことあるような)」
シェリルが嫌な予感をつのらせているところに、パティが追い打ちをかける。
「出たわね、チャンプ校長!」
『私はチャンプ・ザ・ティーチャーだ。校長ではない』
マイクでも仕込んでいるのか、チャンプ・ザ・ティーチャーは謎のエコーをさせながら冷
静に訂正する。シェリルは『冷静に訂正』って韻をふんでるな。などと思いながら、とりあ
えず気絶して厄介事を回避することにした。
『とうっ!』
数メートルの高さから華麗に舞い、女生徒達の前に着地する。着地の際にまったく音をさ
せないところがチャンプのチャンプたる所以である。秘密のチャンプボイスのスイッチをオ
フにして女生徒達と対峙する。
「さて、新入生諸君。そろそろ講堂に入ろうか。なおもエスケープを敢行するのなら、こち
らも力づくということに・・・ムッ!」
ふと視線を下にやると女生徒の一人が気絶している。そしてその横にいる2名の女生徒の
不敵な態度。チャンプが誇る灰色の脳細胞が地球より速く回転する。
「彼女が君達になにをしたのかは私の知るところではないが、感心は出来んな。このチャン
プ・ザ・ティーチャーが君達に愛のムチを与えよう」
チャンプの言葉に女生徒は顔を見合わせる。そしてショートカットの女生徒のほうが前に
歩み出て、チャンプに向けてファイティングポーズをとった。
「望むところよ!栄光ある美少女タッグ、その名も・・・えーっと、とにかく私達の華麗な
る活躍の最初の1ページを飾れることを光栄に思いなさい!」
「・・・タッグ名はもうすこしよく考えておきましょうね」
自信たっぷりに前口上をあげるショートカットの生徒に黒髪のほうの生徒がひかえめに進
言をする。
「ふむ、まだまだ半人前のルーキーのようだな。それよりもそのポーズは教育的指導を求め
ていると判断していいのかな?」
「逆よ。私がアホ校長に教育的指導をしてあげるわ!すこしは今までのバカ騒ぎを悔い改め
なさい!」
名も名乗らずにいどみかかってくるショートカットの生徒に、チャンプはチャンプマント
を投げ捨ててそれに応じる。
「私は校長ではないと言っているのだがな」
不動の態勢で相手を睨み据えるチャンプに向け、パティは一気に間合いを縮める。ウェイ
トからして、チャンプとパティには文字どおり大人と子供の差がある。パティはチャンプの
腕が届く間合いに入る寸前、左右に素早いフットワークをはじめた。
「無謀な特攻はしないか。相手の強さを認める勇気はあるようだな。遠慮せずに二人で来て
もいいのだぞ」
そう言いながらチャンプはシーラのほうへと視線を向ける。その瞬間を見逃さず、パティ
はチャンプの左側に回り込み、ふくらはぎに右ローキックを打ち込む・・・と見せかけて軌
道を途中で変え後頭部を一撃!
「・・・フッ」
チャンプは微動だにせずに失笑し、そのまま左手で乱暴にパティの足を払い除ける。
「きゃっ!」
パティはバランスを崩して尻餅をつきかけたが、側転気味に間合いを離しながら体勢を立
て直す。
「パワー差を考えてのフェイント攻撃なのだろうが、撃ち筋を途中で曲げていてはますます
威力を失ってしまうぞ。それに後頭部を蹴っては君の足のほうが痛いのではないのかね?」
チャンプは自分の後頭部をちょいちょいと指差してパティに語りかける。パティは誘うよ
うなそのポーズに頭に血を昇らせ、まっすぐにチャンプへ突進してゆく。
「うっさいわね!そんなふうに余裕でいられるのも今のうちよ!」
「そしてもうひとつ・・・」
チャンプは言葉を続けながらもパティの跳び膝蹴りを掌で軽く受け止め、空気がうねりを
あげるほどの強烈なハイキックを打ち込む。まだ空中にいるパティはロクな防御も出来ずに
チャンプの蹴りをまともに食らうこととなった。
「より冷静でいられた者が勝つのだよ」
パティは声ひとつあげずに落下し、地面を跳ねた。
「さて、次はそちらの君に愛のムチをあげようか」
チャンプはパティを一瞥してから、シーラのほうへ顔を向ける。しかし、そこにシーラの
姿はなかった。
ビシィッ!
「むうっ!?」
刹那、チャンプの右すねでなにかが弾けるような衝撃がはしる。なにごとかと下を向いた
チャンプの顎にさらに一撃が加わる。
「(・・・疾いな。それも的確に急所を狙っている)」
攻撃を加えてきた相手は勿論シーラである。シーラはチャンプから一定の間合いを保ち、
素早い円運動と上下へゆさぶる打撃を繰り返した。
「(ヒジやヒザといった固い部分での打撃か。先程の生徒と違い、見た目のインパクトより
も実質的なダメージを重視しているようだな)」
だが、それでもチャンプはまったくひるんでいる様子はなかった。シーラはチャンプに捕
まらないようにと極力動きを止めずに攻撃を行っているため、一撃の重みがないのだ。
「フッ。冷静を装っているようだが私を恐れていることが君の動きから伝わってくるぞ。実
戦を経験したことがないのかな?」
「・・・・・・」
シーラは何も答えずに、一旦チャンプから距離をとる。上半身の力を抜き、ヒザをこころ
もち曲げ、腰をおとし、踵を浮かす。その瞳は猛禽類が獲物を狙う時のように冷たい輝きを
放っていた。
「勝負にくるか・・・よかろう。私は逃げも隠れもしない!」
ざっ!
チャンプの言葉が終わると同時に、シーラが高速でダッシュをかけ、そのままチャンプを
中心に大きめの円を描く。並の人間であったならばシーラが分身して囲んでいるように見え
るだろう。言うまでもなくチャンプは並ではない。しかしそのチャンプでさえも、シーラの
動きを完全に捕えるのは困難であった。
「(なるほどな。スピードには自信あるようだが、相手の虚を突こうとすればするほど、そ
の動きはパターン化されてしまうものだ。すなわち・・・死角からの一撃!)」
チャンプは構えていた手を下に降ろし、自然体をとった。シーラが死角、つまり背後から
近づいてきた瞬間を見極めてカウンターを打ち込むためである。
円運動を続けるシーラがチャンプの正面を過ぎたとき、不意にシーラの拳気が急激にふく
らんだ。炸裂音とともにシーラがチャンプに突進をしかけてくる。
「(!?裏の裏を読んできたか。しかし気配は抑えるべきだったな!)」
自然体で待ち受けていたチャンプはシーラの予想外の行動にも素早く対応することが出来
た。左足を小さく踏みだし、カウンターの左掌底を突き出す。
バンッ!
2度目の炸裂音の後、シーラは完全にチャンプの目の前から姿を消した。カウンターをね
らったチャンプの左掌底は空気をかき乱すことしか出来なかった。チャンプがシーラの行方
を確認しようとしたのと、頭をなにかにしっかりと掴まれたことを感じたのは、ほぼ同時で
あった。チャンプに頭上を見ることは出来ないが、そこになにがいるのかは見るまでもなく
理解することが出来た。
「(この動き・・・今年度の新入生はここまでやれるのか!?)」
チャンプは驚愕と歓喜の入り混じった奇妙な感覚に襲われた。瞬発力もさることながら、
相手に正面から向かっていく度胸、冷酷なまでに的確な狙い。コロシアムに行っても十分に
戦いぬける実力があると言ってもいいだろう。
シーラはチャンプの頭を掴んだまま体を横に数回ゆらし、一気にチャンプの頭を中心に回
転をかけた。まともに受ければ首がねじ切れかねない技である。
「君の実力は認めよう。しかし、その戦い方は少々危険だな。・・・フンッ!」
「・・・・・・!」
チャンプのかけ声ひとつでシーラはあっけなく吹き飛ばされる。チャンプがシーラの回転
と逆方向に首を回したのだ。空を舞ったシーラは難無く受け身をとったが、体勢を立て直す
前にチャンプの拳がシーラの体を捕えていた。反射的に交差防御した腕も効を成さず、ボー
ルのように跳ね飛ぶ。
「並の人間にあんな技を使っては人殺しになってしまうぞ。私がチャンプであったことに感
謝することだな」
ポーズをつけるチャンプを真昼の太陽がライトアップする。半裸のマスクマッチョが気絶
している少女達の中で腕を組んでいるのは一種異様というかダントツに異常な光景である。
「さて、帰るか」
「・・・う・・・ん」
「あ、よかった。気が付いたみたいね。大丈夫?どこも痛くない?」
目が覚めたシェリルの視界全体に見知らぬ女性の顔が映っていた。いまだに我を取り戻し
ていないままに周囲を見回すと、なぜか自分以外に2人の女性が倒れている。たしか名前を
名乗っていたような気がするのだが、どうにも思い出せない。
「・・・あの、あなたは?」
「私はこの学園の教師をやってるヴァネッサ・ウォーレンよ。講堂から出てきたら女の子が
気絶してるからビックリしちゃった。まあ、大方の予想はつくんだけどね・・・」
残りの2人の新入生に別の教師らしき人物が介抱に向かう。良く見ると講堂の中から新入
生や教師が続々と外に出てきていた。
「入学式、終わっちゃったんですね」
すでに太陽は頭の真上に来ている。もともと遅刻していたうえに校庭で気絶していたのだ
から仕方ないと言えば仕方ない・・・気絶?
「(そういえば、私はなんで気絶してたんだろう)」
まだ頭の中がぼうっとしている。悪夢から目覚め、しかしどんな悪夢だったかを忘れてし
まったときの感覚に似ている。靄のかかった頭にヴァネッサの声が入ってくる。
「それがね・・・学園長が遅刻して来るなり、入学式を急遽明日に変更するって言いだした
のよ。まったくマイペースというか行き当たりばったりというか傍若無人というか」
ヴァネッサがシェリルをだき抱えたまま眉間にシワを寄せてうなる。一方、シェリルのほ
うは自分がなにをしていたのか思い出せないことに不安を感じていた。ともあれ、入学式が
延期になったのならこのまま学園のグラウンドで寝ていても仕方がない。ヴァネッサの助け
を借りて寮に戻ることにした。
シェリルは特に目立つ行動をとることはまったくと言っていいほど無い。しかし、彼女が
望む望まないに関わらず不慮の事故が彼女を襲ったり、なぜか知り合いになる人物は騒動の
中心となるような、いわゆる「台風の目」のような人ばかりだったりする。
「おーい、シェリルー!」
声のほうへ向くと、昨日出会った2人の女生徒がシェリルに手を振っていた。しかしまだ
名前が思い出せない。
「え、と・・・ボルカンさんとドーチンさん?」
無視するわけにもいかないので、記憶の片隅から引きずり出した名前を返す。ショートの
子の3歩うしろを黒髪の子が追うように歩くのが基本のようだ。さすがにショートの子も普
段はガニ股では歩かないらしい。
「あはははは。そういえばロクな自己紹介してなかったわね。私はパティ・ソール。で、後
ろの子はシーラ・シェフィールド。これからよろしくね」
「こ、こちらこそ、その、・・・よろしくお願いします」
なんの前触れもなく友好的になったパティに、彼女はきっと台風の目なんだろうとシェリ
ルは推測した。そういう人物を呼んでしまう体質なのだから仕方がない。
「よろしくねシェリル。なんだかあなたとは仲良くやれそうな気がするわ」
シーラがパティの横に並んでシェリルに微笑む。シェリルも笑顔で返すが、その心の中で
はこれからの学園生活への不安感があふれかえっていた。
「シェリルは外からの入学生だよね。なにかこの街のことで分からないことがあったらなん
だって聞いてよ。そうだ、私んちは食堂やってるから後で歓迎会したげる!」
ドン、と男らしく胸を叩くパティを見ていると、シェリルは自分が考えていることが恥ず
かしいことに思えてしまった。彼女達がシェリルを騒動に巻き込むわけでも、打算があって
近づいてくるわけでもないのだ。友達が出来たことを素直に喜べない自分が情けなかった。
そんな後ろめたさを隠すように、シェリルは二人の好意に対して出来る限りの笑顔で応え
た。
「さあ、入学式に急ぎましょう」
『これより、本年度エンフィールド学園入学式を行います』
人工的に拡声されたアナウンスが、ようやく入学式の始まりを告げる。学園は初等部、中
等部、高等部の3つに分かれており、成績が優秀であれば10歳でもいきなり高等部に入れ
るし、初等部から飛び石で高等部まで行くことも出来る。特に年齢制限はなく、学生以外の
人に対しても特別講座が開かれることがある。入学式は全学部一斉に行われれるようだ。壇
上にガッシリした体格の壮年か初老かといった年代の男性が現われる。
『諸君、ようこそエンフィールド学園へ。私は当学園の学園長リカルド・フォスターです。
これからみなさんがこの学園で心身ともに成長し、1回りも2回りも大きくなって全員無事
に卒業してゆくことを願います』
学園長と名乗った男性は月並なスピーチを続ける。シェリルはいちおう聞いてはいたが、
あまりにも型通りなのでさすがに退屈になってきて隣りを見てみると、大あくびをしている
パティをシーラがたしなめているところであった。二人の姿を見て、ふっ、と昨日のことを
思い出す。
「(学園長・・・そういえば昨日なにかあったような。あれは・・・校長?でも学園に校長
なんていないし)」
『また、これからは栄誉ある学園生徒として公序良俗に基づいた行動をとるように心がける
ことを願います。さもなければ・・・』
不意に語尾が下がったリカルドの声に、考え事をしていたシェリルもリカルドのほうを向
く。ひそひそ話をしていた他の生徒も気になったらしく、一瞬講堂内が静まる。リカルドは
皆がこちらへ耳を傾けていることを確認し、言葉を続ける。
『正義の教師チャンプ・ザ・ティーチャーが君達へ愛の教育的指導を与えに駆けつけること
でしょう!』
その言葉とともに壇上に緞帳が勢いよく降りる。ライトが消え、謎のドラムロールがひと
しきり演奏された後、さっ、と緞帳が上がるとそこにはリカルドの姿は・・・なかったと言
えばなかった。おそらく壇上の男に「あなたはリカルドですか?」と聞いたら『私はリカル
ドではない』と答えるだろう。
「きゃー、チャンプ校長ー!!」
「どええっ!!?」
壇上のあやしいマッチョに向けて、あろうことか歓声をあげたパティにシェリルは思わず
奇声を発してしまう。よく見ると隣りのシーラもアレを見てうっとりしている。
「やっぱり昨日気絶してたのは学園長のせいだったわけね」
いつのまにかシェリルのそばにヴァネッサが来てパティ達を嘆息混じりに見ていた。
「ヴァネッサ先生!なにか知ってるんですか!?」
講堂内は壇上のアレに悲鳴をあげる生徒と、パティ同様に歓声をあげる生徒が入り乱れて
混沌と化していた。生徒達の横に待機していた教師達が必死に押さえている。
「学園長・・・言うまでもないけど壇上でポージングしてるあの人ね、あの人に指導を受け
た者は老若男女問わず学園長を信奉するようになってしまうの」
遠い目をして語るヴァネッサの視線の先で、壇上ではチャンプがポージングをしたままで
静かに緞帳が降りていっていた。すでに収拾がつかない事態となった講堂内にアナウンスが
入る。無論、チャンプの声である。
『以上で本年度の入学式を終わります』
「・・・この学園の入学式って毎年こうなんですか?」
「いえ、毎日こうよ」
ヴァネッサの無情な答えを背に、シェリルはとりあえず気絶することにした。目が覚めた
ときはまだ入学式前で、ベッドの中で悪夢を見ていたというご都合主義的なオチを切望しな
がら・・・
<「ようこそ、エンフィールド学園へ」 終>
<あとがきみたいなの>
ども、そんなわけで悠幻のぱられるすとーりーです。とか言いながら活躍してるのはEM
のチャンプ(しかも正体はリカルド)。学園が舞台なのはシェリルが書けるから。ついでに
WHのキャラも書けますからね。出てないけど。
あ、そうそう。パティがガニ股なのはなんとなくです。ファンのかたは怒らないでくださ
いね。シーラが無意味に強いのは暗殺者だから・・・ではなくシェフィールド家の英才教育
の賜物です。帝王学も学んでます。
いったいなにがメインの話だか分からなくなってしまいましたが。これからも懲りずにこ
ういうくだらないものを書いていきたいです。今回はここいらで。シーユー☆ 月刃歳
<コメントみたいなもの>
うちの看板娘二人にあないな扱いして……(汗)。
月のない夜の背後には気を付けて下さいね、くれぐれも。
こないだ煩悩ネタを作ってたら、店の300×100ピクセル看板でぶん殴られましたから。
シーラ:「店主さんが悪いんじゃない」
パティ:「今度変な事したらぐっさり刺すわよ」
……ごめんなさい。