◆第十二章〜義経東下り(下)〜◆

 

 改めてプロローグ
 鎌倉街道を北へ
 奥大道
 平泉
 中尊寺〜衣川
 さようなら(どんな意味で?)


第十一章〜義経東下り(上)〜から


◇改めてプロローグ◇

九羅香「……結局、わたし達って鎌倉に長逗留しちゃったね」
紅葉「足利様や(本当に幽閉されていた)大江様には感謝されましたし……」
玲奈「筆者には仕事もあるし、別のホームページもあるし、『ど○でも○っしょ レッ○○校!』『○たわ○るもの(PS2版)』『サモ○ナ○ト4』『ソウ○クレイ○ル』もあったし、『ひ○ま○ス○ッチ』『○き☆○た』も見たいだろうしな。とはいえ(現実時間で)3年間も書きかけで放置して何してたんだよ」
与一「筆者も別にゲームや漫画三昧ではないと思うが……ともあれ鎌倉の復興を確認できたし、あとは万寿(頼家)殿が、元の歴史より早く亡くなられた頼朝殿の跡を継ぐだけだな」
静「ですね〜。ところで弁慶さん、一体何を考えているのでしょう〜?」
弁慶「えーと、まず鎌倉時代初期の殺し合いを防ぐために、北条家と比企家の有力者には全員引退してもらって、三浦家は恩賞と称して一族をばらばらに配置っと。それで、後鳥羽天皇が幕府と敵対するのを防ぐために、大番役だけじゃなくて北面の武士も幕府で独占して西国の有力武士も懐柔、ついでに万寿のお嫁さんは皇族から確保、元寇を水際で防ぐために有力武士団を軒並み九州に移転、何とか後醍醐天皇を即位させないようにして南北朝時代や室町時代の社会混乱の芽を摘みたいところなんだが……」
九羅香「????」
楓「お姉様、どーやらこいつは未来の歴史を操作するつもりのよーよ。ほんと、聖徳太子の『未来記』(中世に流行した予言書。ぶっちゃけて言えば恣意的に現れて恣意的に解釈される代物)も顔負けよね」
観月「わたくしも協力するのにやぶさかではありませんけど、歴史というものは無数の人々の意図の組み合わせですから、そう容易いものではないでしょう。……実際、前作で平家が勝利する未来を作り上げても、ほぼ全く変わらぬ未来が現れたほどですから」
与一「後は未来の異人との領地争いを有利に導くために蝦夷の渡島(わたりじま)に集団移住との事だが、米も作れない所でそんな事ができるのか?」
弁慶「流刑になった連中や、商売に行ってる連中だっているじゃないか。米の品種改良を待たなくても、麦や粟とかなら場所を選べば作れるし、ぼくじょ――牧場(まきば)で馬を育てれば武士にとっても助かると思うぞ? 未来でもけい――競馬(くらべうま)に使う馬を育てているくらいだし」
紅葉「なるほど。糠部(ぬかのぶ。未来の岩手県北部〜青森県東部)にあるような牧場を作るのですね」
玲奈「……なあ弁慶、もしかしてお前も渡島に行っちまうのか? ンな辺鄙な所に行かなくても、京に屋敷だってあるんだぜ?」
弁慶「ぶっちゃけて言うと、オレのいた時代からすると京も田舎もそんなに変わらないんだ」
玲奈「ヲイ待て」
弁慶「それに、未来だと『義経が北海道に行った』という伝説があるからな。それを踏まえてしまえば、社会が乱れた時代抜きで、オレが存在できる未来にできるかもと思ってね」
九羅香「まあわたしも鎌倉や平泉の政治に巻き込まれたくないから、冒険に出るのは大歓迎だけど?」
全成「特に約一名と、だな?」
九羅香「うひゃっ!? ぜぜぜ全成兄上っ!!」
政子「さすがは京の生まれ、その放埓さは頼朝様の面影を感じますわ? 黄瀬川で頼朝様と出会ったあの日に九羅香殿が女だとこの手で確認して(以下略)」
九羅香「わーっわーっわーっ! やめてお願い政子お義姉様ーっ!(汗)」
静「あらまあ、田舎のお方は身持ちが固いですね〜。あえて言わせて頂きますと、男女の付き合いはもっとおーぷんに行くのもよろしいのでは〜」
西行「煩悩即菩提とも言いますしな、静殿」
弁慶「西行さん、その解釈は『色即是空』を鼻血を抑える呪文代わりにするのと同レベル――同水準で意味が違いますってば……」
西行「ほう、未来では般若心経にそのような功徳も!?」
弁慶「勝手に変な功徳を作らないで下さいっ! 言い出したのはオレですけどっ!」


◇鎌倉街道を北へ◇

静「とゆーワケで、ワタシ達は冬の鎌倉を政子さんに追い出され――もとい、旅立ちました〜」
九羅香「ううっ、北風が寒い〜。静ってその格好で寒くないの?」
静「気力ですね〜。……実は術で身体を温めているんですけど」
弁慶「鎌倉を出る時に西行さんから本物の勧進帳を貰ったんだけど、これって一体どーするんだよ?」
与一「重然上人から預かった大仏再建の勧進帳である以上、弁慶、お前が勧進を集めるのだな。集めた後は紅葉殿にでも頼んで、京経由で奈良まで届けさせればよい」
弁慶「どええっ!? そんな面倒くさい――」
観月「わたくしの親族(平重衡。知盛の弟)が焼き払わせた以上、本来ならわたくしが出家して勧進を集めるべきなのでしょうが」
弁慶「――観月ちゃんが丸坊主になるくらいなら、オレが何とかしてみせよう」
楓「尼は髪を尼そぎ――ショートカットにするだけでいいのに、なに勘違いしてんのよこいつは?」
景季「いやしかし、実に賑やかな道行きですな?」

…………。

弁慶「え? 同行者?」
与一「つい先ほど合流したばかりだ。“彼”は鎌倉のすぐ近くの梶原に領地を持っておるからな。それにしても弁慶、私の弓持ちに気付かなかった件といい、相変わらず感覚がにぶっておるぞ?」
弁慶「与一の家臣についてはさて置かせてもらって――梶原とゆー事は、話に聞いてた景時の息子の景季かよ。……確かに服のセンスはあいつよりまともだな」
玲奈「……いやむしろ、京にもここまでセンスのある奴は少ないぞきっと」
九羅香「源太殿、なぜわたし達と一緒に?」
景季「実は、鎌倉と平泉のよりを戻すための使節として、鎌倉の御家人一同の代表として出されたのです。……要は、父が妖魔と化したのに付け込んで私を追い出し、あわよくば平泉で死んでもらえば攻め込む動機も出来て勿怪の幸いという程度の軽い気持ちなのでしょうが」
与一「景季殿には何の責もないのにかかわらず、そのような仕打ちをするとは……。この藤原朝臣資隆、事あらば春日明神にかけてその身をお守りいたそう」
景季「かたじけない。この平朝臣景季も、従者共々貴殿を守りましょう」
源氏兵たち「我々も、源太様にお供致します!」
静「あらまあ。与一さんと景季さんの間にフラグが立ちそうですね〜」
弁慶「(むっ)景季……こういう場合未来だと、『鎌倉に戻ったら一緒に食事をしよう』とか約束をするんだぞ?」
景季「なるほど。では与一殿、鎌倉でお目に掛かった時には夕餉でも共にいたしたく思います」
玲奈「死亡フラグかよおいっ!?(汗)」
常盤「まあ賑やかだこと。このような旅を楽しめるとは、まことに長生きはするものですね」
良成「ねえさまー♪」
九羅香「ああっ! 母上と…………誰?」
良成「ひどいです姉様っ! 弟の事をすっかり忘れるなんて! 明けても暮れても源氏再興、源氏再興で、藤原氏である僕の事なんかどうせ、ううっ(泣)」
九羅香「ごごごごごめんちょっと虚を突かれただけっ! ……えー、この子はわたしのお母さんが同じでお父さんが違う弟の藤原良成です。それと、こちらがわたしや全成兄上(義朝の七男、義経の同父同母兄)や良成のお母さんの常盤。もう1人妹がいるんだけど、そっちは京でお留守番みたい」
弁慶「ああ、つまり義朝のお妾さんか」

ばご。

九羅香「今の時代は江戸時代みたいに『奥方は1人、後は愛人』なんて心の狭い決まりはないから、奥方が何人いても構わないの! まあ奥方1号が頼朝兄上の母上だから、奥方2号とは言えるかもしれないけど」
与一「だから九羅香殿は平治の乱の後では厳しい処置をされなかったとはいえ、鎌倉では奥方1号の子である頼朝殿を消して当主の座を奪うと(特に景季殿の父に)疑念されてしまったわけだな」
玲奈「全成の奴、よくそんな環境で、史実でも頼朝が死ぬまで殺されずに済んだよな」
楓「もしかして義円(義朝の八男、義経の同父同母兄)が戦死したのも、この世界では景時が裏で何か企んでいたわけじゃないでしょーね?」
静「奥方と呼べるかは女性の身分次第ですので、範頼さん(義朝の六男)の母上のように遊女(といっても恐らく、内部では格式が高い人)でしたらお妾さんに近いのでしょうけど、朝長さん(同じく次男)の母上のように田舎の荘官の家柄でしたらちょっぴりボーダーラインっぽいですね〜」
弁慶「……とゆーか、それって現地妻?」
常盤「はてさて、娘が東夷どもに混じって働いていると聞いた時には随分寂しい思いをしましたが、こうして共に鳥が鳴くように囀る卑しい者どもに京の雅を見せてやる旅ができると思うと望外の喜びを感じますよ?」
九羅香「そ、そのお言葉有難く思います母上っ!」
与一「……常盤殿のお言葉が妙に気に障るのは、果たして私の気のせいなのだろうか?」
紅葉「……気のせいではありませんわ与一様」
楓「(……これでお義母様じゃなかったら、間違いなくこっそりと呪殺を試してやるのに)」
景季「……よく相模まで来て殺されなかったな、常盤殿……」
良成「……伊豆まではこーじゃなかったんですけど、箱根を越えた途端にあのよーな台詞を繰り返すようになって……」
弁慶「えー、ただいま地域差別的発現がありました事を深くお詫びいたします(汗)。……頼むから九羅香と良成くん、常盤御前を極力喋らせないでくれ」
玲奈「てゆーか九羅香のおふくろって、典型的な『喋らなければ最高』ってタイプかよ」


◇奥大道◇

九羅香「……さて、旅の途中で与一の屋敷や紅葉達の屋敷でお世話になりながら、お正月まで迎えてしまって、それから接待を振り切ってようやく平泉の近くまでやって来たんだけど、母上がここまで世話が焼けちゃうとは思わなかったよ」
玲奈「京の雅とやらを見せ付ければすぐに打ち解けるから、意外と扱いやすいよな……静が相手してりゃ、大人しい事この上ないし」
弁慶「与一に甥がいたのも驚いたけど――ああ、別に他意はないから弓矢は片付けてくれ――、与一の屋敷って高原にあるんじゃないんだよな。那須っていうから避暑地みたいな所を想像してたんだけど」
与一「それは『那須野』だ。那須郡の一部に過ぎん。そもそも荘官である私の一族がいるのは、そんな獣や野草しか取れんような所であるわけなかろう?」
弁慶「わ、悪かったな。未来だと用水路で水を引いて、野菜を作ったり牛を飼ったりしてるんだよ。おかげで天皇の御用邸――え〜と、離宮もあるくらいだし」
与一「すまんな弁慶。しかしその手で那須荘を富ませるのは……そもそも野菜を新鮮なまま遠くへ運ぶ技術がないし、牛の肉や乳の需要もないから難しいだろう。しかし帝の離宮ができるとは、那須野も随分と立派になるものだな」
静「ワタシもまさか、塩竈や松島をこの目で見られるとは思ってもいませんでした〜。前に奥州に来た時は北陸道回りで、出る時も奥州兵の追っ手が掛かっていましたからね〜」
弁慶「しかしまぁ、年の暮れにお盆みたいな行事があるなんてなぁ。『徒然草』に書いてあった行事をこの目で確認できるなんて、未来の学者だったら涙を流して喜ぶぞ?」
与一「なに? 未来の下野の民は年の末に先祖の供養を行わんのか?」
九羅香「京だとそーいう習慣は今でもないから、与一の驚きがいまいち分からないんだけど……」
弁慶「ともあれ武士の館を見たのは初めてだったけど、まるで『男衾三郎絵詞』みたいだったな」

ざく。

与一「失敬な。私や紅葉の家は信心深いし、通行人を弓で射殺して喜ぶような非道な真似はせんぞ?」
紅葉「その作品は正式な題名が未来に伝わっておらず、しかも男衾三郎はヒロイン――兄の吉見二郎の娘をいじめる悪役ですわ……」
良成「……弁慶さんはさておき、奥州では、白河から奥大道に沿って平泉まで立っている金色の卒塔婆があると未来の言い伝えで聞いたのですけど」
与一「……実を言うと現実世界では実物が確認されておらんのだが、地頭が道沿いに卒塔婆を立てた類例があるそうだ。金色でなくても、卒塔婆は不思議でないだろうな」
楓「……だから途中の描写は省略ってわけね」
与一「とはいえ南の方では、海道(未来の浜通り)や会津には平泉の力は及んでおらず、せいぜいが紅葉殿の実家がある信夫辺りが飛び地のような勢力圏といえよう。ほら弁慶、“献身紅十字”掛けてやるからそろそろ生き返れ」
弁慶「…………(だくだくだく)」

 
玲奈「――うわ、また雪降ってんのかよ。ま、右助も左助も忍ねこだからめげないけど」
弁慶「(……オレの両方の袖に入っているモノが何かは、とりあえず不問に付しておいてやろうか)」
九羅香「いつもの事だけど、平泉の辺りって雪が多いよねぇ。多賀国府(陸奥国の国府。本来の名前は「多賀城」。未来の仙台の近く)の辺りまで雪があんまりなかったのに」
静「京育ちのワタシにとっても、この寒さはこたえますね〜。京から東にある鎌倉が京とあまり変わらない寒さなのに、同じく東にある平泉がここまで寒いのは不思議です〜」
弁慶「えーとな静さん、鎌倉は京の東だけど、平泉は鎌倉よりずっと北になるんだ」
静「あれ? 奥州は日本の東の外れなのに、坂東より北になるなんて変ですね〜?」
弁慶「つまり静さん、日本はこーいう形をしているわけだ」
(地面に、弁慶の時代に使っている地図を描く)
与一「ほう、未来ではそのような地図を描くのか。我が家や京の寺で見た行基図とはあまり似ておらんな」
弁慶「日本は関東から西だと東西に延びてるけど、北九州――えーと、筑紫から先は南に延びてて、関東――てゆーか香取・鹿島辺りから先だと北に延びてるんだ。行基図なんかだと道路本位的な見方をしてるから、奥州は寒いものだという理解が薄いんじゃないかと思う。これで無理して奥州の北の果てで米を作らせると餓死者ゴロゴロだから、この辺を偉いさんに心得てほしいんだよな」
景季「鎌倉に帰ったら、その旨を具申してみよう。奥羽に限らず、寒地では寒地なりの暮らしの立てようがあるはずだからな」


◇平泉◇

楓「さて、ようやく平泉の町に戻ってきたわね」
弁慶「オレとしては2回目だけど、前は散々だったから……」
与一「おっと。勧進帳の件、ゆめゆめ忘れるなよ。私の弓箭(弓矢)や紅葉殿の鉾はさておいても、観月殿に尼そぎにはなられたくあるまい?」
弁慶「(ショートカットも魅力的だけど、観月ちゃんにそれって似合わなさそうだもんな……)」
(ざわざわ……)
(がやがやがや……)
良成「人が足繁く行き交っておりますね。さすがに京には及びませんけど、ここまでとは思っておりませんでした」
弁慶「改めて見ると、蔵がたくさんある町だなぁ」
紅葉「国衙領や摂関家領荘園の租税が集まる所ですもの、蔵が多いのは当然ですわ」
観月「行政上、平泉は平泉保という単位で、中尊寺を維持するために国衙から寄進された土地にあたります。そのため行政上も、国衙からの独立性が担保されているわけですが」
紅葉「秀衡様が存命中はともかく、新たな陸奥守はほぼ確実に京から送られて参りますので、平泉の立場を守るためにも、これからの舵取りが大事ですわね。ちなみにこの奥大道から東の北上川沿いに、秀衡様の館があります――というか、泰衡に放火されるまで館がありました」
九羅香「あの西の山に見えるのが毛越寺。平泉の2代目、基衡殿が建立したお寺で、京の近くの白河の法勝寺を手本にしたんだって」
玲奈「本尊を京の仏師に依頼した時のお礼が、黄金だの鷲の羽根だのアザラシの皮だの絹織物だの馬だの満載だったっていうのは、山賊業界では有名な話だぞ」
景季「あのーお嬢さん、賊を捕らえるのが仕事の鎌倉武士の前で何を言っているのかなー?(汗)」
常盤「その時にはやっぱり、紅葉ちゃん楓ちゃんの実家でも納めてる信夫文字摺の布がたくさんあったんでしょ?」
紅葉「文字摺は京でも有名ですので、未来の信夫の人々が失伝しないように対処を考えているところなのですが……まさか玲奈様、わたくしの家が摂政殿下に納めている文字摺を盗もうと考えてはいませんわよね?」
玲奈「無茶ゆーな。護衛に武士が大勢付いてたし」

 
九羅香「ここが平泉館、秀衡殿のお屋敷だよ」
弁慶「前の襲撃で焼けたままだけどな……って言おうとしたんだけど、それにしては焼けた跡が少ないよな。もしかしてもう建て直したのか?」
楓「いくらなんでも、そうすぐに館は建て直せないわよ。巫女仲間に聞いてきたんだけど、なんでも妖魔どもは南の加羅御所と無量寿院は徹底的に焼き払ったのに、平泉館はおまけ程度にしか荒らさなかったんですって。いくら術者が操ってたからって、そこまで意図的な活動をするのは怪しいでしょうに?」
紅葉「という事は、与一様……」
与一「ああ。泰衡殿の思惑では九羅香殿と秀衡殿を抹殺するのが目的で、政庁である平泉館を焼き払う必然性はなかったものと思われる。……それに頼朝殿にとって、館にある政務関係の文書はできる限り無傷で確保したかっただろうしな」
玲奈「むしろ館にいる武士達は、誤解してアタシ達に襲いかかってくるしよ」
弁慶「というか観月ちゃんを寄ってたかって手籠めにしようとした奴らは、同じ男として絶対に許せないぞ!」
観月「弁慶様、昼日中からそのような妖しい発言をなさらないよう切にお願いします……(汗)」

 
源氏兵「だからなぁ、ワシらの主の源太景季様が平泉さ来て、鎌倉と平泉が和睦するのがよかんべと仰せあるでよぉ?」
奥州兵「○○△××##%&*! #%%△○□@!」
与一「…………訛りが互いにきつ過ぎだ。下手をしたら奥州兵の方は、訛りを云々する以前に、大和の言葉を全く解していないぞ」
奥州兵2「ああ、これは紅葉様と朋輩の皆様。どうぞお入り下さい、主を失いし館へ」
弁慶「あれ? こいつは知り合いか、紅葉?」
紅葉「深い付き合いというほどではありませんけど、顔を存じておりますわ」
楓「信夫の佐藤家は代々、平泉の次期当主の乳母を務めているおかげで、平泉の勢力圏じゃなくても親しい付き合いをしてるのよ」
弁慶「つまり紅葉も――」
紅葉「――武家や公家の乳母というのはいわば後見人で、乳を赤子に吸わせる必要は必ずしもありませんわ弁慶様?」
弁慶「話は戻るけど、ここの他にも屋敷ってあるのか?」
九羅香「館の中に入ってから、橋を渡って別の敷地に入ったのを覚えてない? そっちの敷地にある建物にわたし達は泊めてもらったんだけど?」
玲奈「つまりだな、鳥頭の弁慶に分かりやすいように描くと――」

――道――平泉館
         │  北上川
  淵      橋
         │
無量光院―加羅御所

玲奈「――位置関係はこんな風になってるんだ。分かりやすく言うと、平泉館は県の分庁舎、加羅御所は県知事の公邸ってあたりだよ……って筆者が見た本に書いてあったぞ」
九羅香「御所については、将軍の陣地を『柳営』っていうから、わたしが住んでいたって伝説から『柳之御所』とあだ名が付くんだけど、そんな伝説作られると恥ずかしいってばぁ」
与一「(元々九羅香殿は、義朝殿の仇を討つ目的で戦っておられたからな……。家を背負っている私とは違い、武門としての栄誉は求めておられないのだろう)」
弁慶「ところで、秀衡の子供ってどーなったんだ?」
楓「お子様方は別々の屋敷に住んでらっしゃったのよ。……仮面の男は念入りに泰衡以外の子供も皆殺しにしてて、おかげで遠縁の一族や郎党の争いが激化。基成様が手を回したおかげで辛うじて平泉だけは落ち着いているけど、次の陸奥守や鎮守府将軍の人選次第では平泉の没落が心配だわ。とゆー事でお姉様、鎮守府将軍になってみない?」
九羅香「わたしは鎌倉と争いたくないってば! どーせなら楓がなればいいじゃない! 女がなるのもこの歴史だと私という前例ができたし、藤原秀郷の子孫の中でも有力な信夫の佐藤家の生まれだから資格も十分だって!」
弁慶「……尼将軍じゃなくて巫女将軍?(汗)」
静「なお、お堂を館の隣に建てるのは、京の郊外の鳥羽、白河、東山辺りと共通しているようです〜」


◇中尊寺〜衣川へ◇

紅葉「さて、鎌倉と平泉の交渉のために館に残られた源太様と、旅の疲れを癒すために館に残られた常盤様に良成様を置いて出たわたくし達ですが――今は中尊寺の境内にやって来ております」
九羅香「弁慶の時代には清衡、基衡、それに秀衡様の遺骸に、泰衡の首が安置されてたっていうから、何とか秀衡様の遺骸は逃げる時に佐藤家に縁がある人に託してきたけど……妖魔になぶり殺しにされた泰衡の首は、あの後の火事で焼けちゃったのかな」
静「それですけど、お坊さんに伺ったところ、仮面の男、というか廉也さんが泰衡さんの首を預けられ、金色堂に納められたという事です〜」
九羅香「……泰衡殿も、これできっと安らかに眠れるね。わたしの兄上と同じように」

 
静「しかし、噂には聞いていましたが、京や奈良にも稀に見るほどの見事なお寺ですね……今は亡き平泉の藤原家の代々の当主さん達の志を感じます」
観月「厳かで、なおかつ清らかな気がここには満ちています。まさしくここは、地上に記された浄土の足跡とでも呼ぶべきでしょう」
楓「わたしは山寺で修行したから、こーいう沈んだ感じの空気はいまいち好かないけど、静と観月が気に入ったのなら秀衡様のためにも嬉しいわね」
弁慶「何とゆーか修学旅行気分だな。修学旅行の行き先が平泉なら、オレは小さな頃の九羅香に出会って、『お兄ちゃん』と呼ばせられたのに――くうっ!」
玲奈「……奥州に逃げて来た頃に飛ばされて、衣川で『立往生』させられるのがオチだと思うぞ?」
与一「まあ説明を聞け。中尊寺を建立したのは、奥州藤原氏初代の藤原清衡殿。伽藍は御堂関白道長公の法成寺に則り、白河法皇の御願寺にも指定された。未来では荒れ果ててしまい、江戸時代に平泉を領有した伊達家の手により遺構を保護されるのだが、完全に廃絶してしまい弁慶の時代にようやく再興される毛越寺よりはマシだろうな。……しかし伊達家の先祖は、奥州を攻めた鎌倉が紅葉殿の信夫佐藤家の所領の大半を没収してそこを新たに領有したのが始まりだから、このゲームの未来では一体どうなるのだ?」
楓「ンなの別にいいでしょ。ほら、あれが金色堂」
弁慶「へぇ、金閣寺と比べると結構小さいんだな」
九香羅「……金閣寺については前に聞いたよーな気もするけど、いきなりそーいう感想しかないわけ?」
楓「金色堂は文字通り、金箔を配して浄土の荘厳を表してるのよ。今頃は京で活動してる法然上人の弟子の親鸞とかゆーお坊さんの系譜を継ぐ門徒が仏壇を金色にしてるのと、理由は一緒。……だから玲奈、物欲しそうな顔をして金色堂の1丈(約3m)以内に近寄らないで。紅葉も右助と左助を威嚇しといてね」
紅葉「ええ」
玲奈「ど、動物虐待反対ーっ!!」
弁慶「そっか。金色の仏壇は単なる派手好みじゃないんだな」
与一「弁慶は信心深くないとはいえ、一応は僧なのに失礼な事を言うな。全体が金色というのは、豊臣秀吉の黄金の茶室の想像復元のように、意外と派手さがないものだぞ」
静「ちなみにこれが異国に伝えられ、『黄金の国ジパング』という『でま』の元になったそうですね〜。ただし『ジパング』の描写には明白に日本とは思えない要素が多いため、チャンパの間違いではないかとする説もあるそうですが、そもそも誤伝なら気にする必要もさほどないでしょう〜」
九香羅「ところで、金閣寺ってのも、やっぱり浄土系のお寺なわけ?」
弁慶「いや、金閣寺……ってゆーか、金閣が所属している鹿苑寺は臨済宗のお寺だ。あそこは将軍の別荘を転用した所で、元々寺だったわけじゃないから、そこまで深い思想的背景あっての事とは思えないけどな」
静「ワタシ達の時代には日本の臨済宗は確立していませんけどね〜。宋では既に臨済宗が存在してますけど」
紅葉「ともあれ、改変された歴史の中でも、金色堂は無事に残ってもらいたいものですわね」
玲奈「なあなあ、向こうにある建物は二階建てだったぞ!」
弁慶「…………で?」
玲奈「だーっ! これだから未来人って奴は! 何十階もある高楼(たかどの)をぼこぼこ建ててやがって!」
与一「あれは二階堂だな。鎌倉でも永福寺で建てる予定があるというが、いっその事鎌倉では三階堂を……いやそれは無茶か。そもそも日本では高楼の上を用いる慣わしが存在しておらんし」

 
九羅香「やれやれ、目一杯見物しちゃったね。弁慶とも一緒に行ってたけど、やっぱりみんなで来ると楽しいよ」
紅葉「ええ。先程渡った川――衣川より先は、同じく衣川と呼ばれる所。川の方は、元はといえば、多賀城の直轄地と安倍氏の所領の奥六郡の境でしたわ。かつての一時期、400年ほど前までは、この辺りが朝廷の力が及ぶ限りだった事もありますけど、100年ほど前に津軽まで朝廷の版図に収まりました」
九羅香「ああ、わたしのご先祖の家人――」

ざく。

紅葉「ではありませんわ。かつて富強を誇った胆沢の蝦夷の縄張りを引き継ぐ安倍氏が、何故に余所者の下僕扱いされなくてはなりませんの?」
与一「安倍頼良が陸奥守で鎮守府将軍の源頼義と名前の読みが同じなのを避けるために「頼時」に改名した事があるが、あくまでも役所の上役に遠慮しただけだからな。さすがに今の九羅香殿の傲慢な失言は、全く庇う気がせんぞ」
九羅香「あううう……郷土愛が厳しいよ紅葉ー……」
楓「(はあっ)弁慶のせいよね、お姉様がこーいう性格になったの。あのお義母様の娘だから、元からこーいうトコがあったのかもしれないけど」
弁慶「ところで、本来の歴史の義経が泰衡に攻められて自害した場所ってどのへんだ?」
静「藤原基成さんのお屋敷ですね〜。未来では衣川のどこか分からないそうですけど、基成さんは幸いにも妖魔の襲撃を防ぎ、平泉に残された唯一の有力者として、事態収拾のために今も奥羽の各地を飛び回っておられるはずです〜」
玲奈「……弁慶に聞いた元の歴史だと、平泉に加勢せず見捨ててその後はよく分からないってゆーんだけど……まさかこの機会に自分が『第二奥州藤原氏』の初代になるつもりじゃないだろうな?」


◇さようなら(どんな意味で?)◇

与一「さて、別れの時が来たようだな。とはいえ私は源太殿を伴って鎌倉に戻っても、あちこちに知己が増えた以上、安達殿や足利殿の命を受けて、京や平泉のみならず、鬼界ヶ島から外ヶ浜までを往来する毎日が訪れそうだぞ」
楓「わたしは全国を歩き回って修行三昧……西行おじさんにまた会いそうな予感がするけど。ま、いつかは紅葉やお姉様の所に戻ってくるわ」
紅葉「わたくしは信夫に戻り、佐藤家の跡を継ぐのですけど、鈴ちゃん達の後見をする者が……」
観月「では、わたしが子供達の後見をいたしましょう。そして一族の菩提を弔いながら、未来で『平家物語』と呼ばれるものの基礎を作り上げます。もちろん弁慶様の元の時代のものとは違う、お姉様や他の皆様のご活躍を織り込んだものを」
玲奈「あたしは鈴鹿峠の屋敷に帰って、山賊はダメだっていうから、商人にでもなって、平泉や鎌倉と京を行き来するかな?」
静「ワタシは常盤さん達と一緒に京に帰って、九州の博多から宋に渡り、南蛮の国々まで旅をします〜。故郷が見付かっても見付からなくても、お土産をたくさん持って戻ってきますからね〜」
九羅香「そしてわたしは……弁慶と平泉で暮らすのかな? それとも渡島へ行く? それともやっぱり、他の誰かのえんでぃんぐだからそっちへ行っちゃうの?」
弁慶「う〜〜ん」
良成「……あ、こんな所におられましたか姉様」
九羅香「ど、どーしたの良成?」
景季「ああ、九羅香殿。実は雪が強くなり、海道(街道)も山道もすっかり埋もれたようでして。このままでは当分、平泉の辺りに長逗留を余儀なくされるでしょう」
巴「一度はのんびり奥州を回りたくて、義仲様の菩提を祈るための社寺参詣と温泉巡りに来たんだけど、いきなりこんな大雪じゃ、下手したら春先まで多賀国府にも出られないわね」
弁慶「巴御前? 何で今頃?」
巴「頼朝がいなくなった鎌倉に復讐するつもりなんてないから、『弐』の幕切れに出るのも忘れるほど気が抜けちゃってね。しばらくは実家がある木曽に帰ってたわ」
与一「巴御前はともかく(笑)、逗留するのは仕方ないが、その間の食料は紅葉殿の別邸からの分だけで足りるのか?」
景季「ええ、確認済みです。奥州では長い冬や凶作に備えて、食糧を蓄える風習があるもので。というか私の従者達は既に、奥州兵と酒盛りを始めている始末でして……」
常盤「京が恋しいとはいえ、鄙には鄙の良きがあると知りました。というか、紅葉殿と楓殿に夜な夜な知らされました。しばらくは平泉を歌枕とするのも良いでしょう」
弁慶「……紅葉と楓が何してたかはともかく、九羅香のお母さんって和歌を詠めるのか?」
静「え〜と、宮仕えをしていた以上それなりに詠めるはずですけど〜」
弁慶「それならまた、しばらくみんなと一緒にいられるな。なあ九羅香、平泉の近くの温泉ってどこだ? 花巻温泉ってこの時代にあったっけ?」
九羅香「(しゃきーん)」
紅葉「(すちゃっ)」
与一「(きりきりきり)」
楓「(ぶつぶつぶつ)」
玲奈「(しゅっ)」
弁慶「…………え?」

 
良成「あの〜、静殿に観月殿。弁慶殿ってこのような性格だったのですか?」
静「ええ〜。締めに皆さんから制裁を頂いてこその弁慶さんですね〜」
観月「弁慶様……菩提を弔う対象を一人分増やすような真似は、そろそろ慎まれるのが良いのでは……(汗)」


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