☆ 此方と其方・6 ☆


此方と其方・5から

 
 そなたは、風邪を引いた。
 受験を終えて、合格発表も出始めた三月上旬。疲労が溜まっていた所に気が緩んだのか、久し振りに道場に行って汗を出し過ぎたのか、原因は分からないが、ともかく熱が出て、喉や身体の節々も痛み、頭の中も考えがまとまらない状態が昨日から続いていた。病院で薬を貰い、一日中寝ていたおかげで、身体も少しは楽になったため、今日は布団の中で寝転びながら過ごしている。

 
 しかし、楽になったとはいえ相対的な話であるため、普段より身体が辛いのは変わらない。
「あうー……んうー……」
「そのあどけない保護欲をそそる表情、自分と同じ顔なのに萌えるね〜」
 妹の顔の間近でニマニマしている、造作は同じなのに表情は似ていない双子の姉。それに突っ込むどころではない、くったりした有様の双子の妹。
 ゆたかは学校、そうじろうは仕事の打ち合わせ、かなたは身体が弱いため感染を恐れるそなたが部屋に入れないため、同じく受験を終えたこなたが、双子の妹の世話をしていた。そなたとしては、姉とはいえ双子で、普段の態度に尊敬できる要素が全く……というのは言い過ぎだが、まあ滅多にないこなたに弱みを見せるのはかなり癪だったりするが、朝に電話してきたつかさにそんな事を話したら、かがみがつかさに対して言うような感じでなだめられた。

 
『何で? 相手はお姉ちゃんで、しかもこなちゃんなんだよ?』
『かがみさんが相手なら嬉しいけど、ウチのダメダメな姉さんで安心できる? 具体的には、ええっと、私やかがみさんに対する言いたい放題の数々。これでつーちゃんにまで容赦なかったら、姉さんと縁を切りたい段階だヨ』
『むー。こなちゃんはそなちゃんが思ってるほどヒドい子じゃないよー。そなちゃんには気付かない所で色々と面倒見てくれてるし、お姉ちゃんにも気兼ねなく甘えてるだけだもん』
『なのかなぁ。にしては気兼ねなさ過ぎだけど。『学校でも遊び先でもお母さんに見られてるみたいだヨー』とか呻く前に言動を慎めっての』
『あはは、だねー。あ、こなちゃんに代わってもらっていい?』

 
 そんな展開があって、一部始終を知っていたらしいこなたは、おでこに解熱用シートを貼ったそなたの顔を「ぢ〜〜〜」という感じで観察している。自分や従姉妹達と同じ猫っぽい口元に、悪戯っぽい、かがみとそなたには腹立たしい笑みを浮かべられると、そなたは気だるげに頭をそむけた。そこも愛らしいと本気で感じるこなたとはいっても、口にするとタダの姉馬鹿の上にナルシストをこじらせているように見られかねないので、口走りそうになるのを必死でこらえながら、双子の妹にかがみを重ね合わせて、いつものようにほくそ笑む。
「朝につかさから電話あったけど、そこまで意地を張るそなたも可愛いよね」
「うっしゃーい」
 と言う、双子の姉並みに素直でないそなたの声も、いつもの気力はない。そなたは布団の隙間をふさぐために首周りに掛けたバスタオルをもぞもぞさせながら、少しだけ弱気な瞳に、自分と同じ容姿を映す。
「春には五月病で学校を休もうとして、夏にははしたない格好で夏風邪を引いて、秋には薄着でお腹を壊して、冬には受験が終わった当日に秋葉原へ直行して体調を崩してゆき叔母さんにまで心配掛ける姉さんに看病されるってのは業腹なんだけど」
「何を言うかね妹よ」
 散々言われても、相手が妹であるためか、感情の起伏が(昔ほどではないが)乏しいためか、気には留めても冗談交じりに怒るだけのこなた。
「おねーさんは妹の世話をするため、昨夜はチャットもネトゲーも深夜アニメも我慢して休息を取ったのですぞ」
 そんな事を言いながら差し出したのは、南瓜を牛乳とシナモンで煮込み、砂糖を加えた甘いスープ。そなたは姉の新メニューの試食をさせられる事も多いが、こなたはつかさほど料理が得手ではないので、かがみとは違っていつも「美味しい」思いをしているわけではない。かがみは「まさかあの子、私を太らせようと」「そんな事ないよお姉ちゃーん!」「はいはい、分かってますって」などと話していたりもするけど、それでもそなたはつかさが羨ましくなる事がたまにあった。
(つーちゃんはかがみさんの妹だもんね。姉さんももっとかがみさんに似てくれれば、素直に尊敬したりできるのに)
 ゆたかに対しては、料理も得意で運動も得意でいろんな知識に詳しい姉としての自覚が芽生えているのに、そなたに対してはそんな素振りがかけら程度しかないこなた。でも今の姿には、少し、そう、ほんの少しだけ、かがみの見舞いに姉と一緒に行って、あんまりなこなたの態度に怒ったかがみに「帰れよ。あ、そなたは別だからね」と言われた時の、姉の面倒を必死に見ていたつかさの姿が重なる。……みゆきが見舞いに行った日は散々朝寝していたという事実はとりあえず放擲しておこう。

 
 さて置き、スープを目の前にしたそなたは、用心しながらにおいを嗅ぎ、匙で少しだけすくって、口に含んでから毒見するように時間をかけて味わう。
「……ん、いいネ」
「南瓜は火が通るのに時間が掛かるから、いきなり牛乳でやると焦げるし、あらかじめ水で十分くらいゆでて、水を切ってから牛乳の中に入れたんだヨ」
 ほんのり程良い温かさと、喉の奥に広がる甘みと、疲れた身と心が落ち着く香ばしさが、嗅覚と味覚が敏感になっているそなたの全身に沁み渡る(いや、視覚や聴覚や触覚が鈍感になっている分、においと味を相対的に強く感じられるだけなのだが)。じっくりと咀嚼する妹を見詰めながら、姉はにこーと微笑んだ。相も変わらず締まりのない表情で、そこも妹と対照的。
「まあこれで、ランチョンミートを煮込んでとんでもない味にしたのもチャラになるネ」
「ならないヨ」
 いつもいつも、感動的な所を照れ隠しで台無しにする姉に呆れながらも、そなたは布団をかぶってもそもそと姿勢を戻す。熱に伴いやってくる、あれこれと言葉にならない考えの断片を心の隅に埋めながら目を閉じると、何やら声が聞こえてくるのに気付いた。
「姉さん、誰か来てる」
「え?」
 そなたにそう言われて、こなたも耳を澄ますと――玄関の方から声がする。

 
「お邪魔します、おばさん」
「お邪魔しますー」
「ごめんなさいね、かがみちゃん。つかさちゃんも、わざわざ来てくれて」
 かがみとつかさ、自分の娘達と同じ双子の姉妹に、挨拶をするかなたの声。それに対してかがみは――、
「こなたが迷惑をかけるのはいつもの事ですし、そなたのためならこれくらいどうという事はありませんよ」
「……聞こえてるヨかがみん。後でいぢってやるからネ――R18レベルで」
 完璧に自業自得とはいえ、あんまりな表現を、親友から母親に向かってされてしまうこなた。姉の不必要にいかがわしい表現を耳にした妹は、過激なシーンを妄想してしまい、鼻血をこっそりとティッシュで拭いていた。
「だってだって、こなちゃんもそなちゃんも、おばさんそっくりで可愛いですから〜」
「つかさっ、おばさんに何失礼な事をしてんのよ!?」
「ふふ、いいのよ。かがみちゃんももちろんだけど、つかさちゃんも二人のお姉さんみたいだものね」
 穏やかで、決して力を込めなくても、娘達やその親友達への慈しむ気持ちが伝わる優しい言葉に、当の娘達はというと――、
「……つーちゃん、お母さんに何してるのさ」
「……もし万が一の事があったら、つかさにキスしてうつしていーヨ」
「な、何をえほっ!?」
 いきなりの発言に、うろたえたそなたは軽く咳込んでしまう。こなたはそなたの身体を(どさくさ紛れに微妙な所まで)さすって落ち着かせてから、かなたから借りている半纏が肩からずり落ちているのを直してやった。
「ほらほら、興奮したから熱を出しちゃってー。かがみもつかさも可愛いから狼狽する気持ちは分かるけど、私達のかがみ趣味やつかさ趣味は、リアルだとせいぜいR15だもんね」
 煽り立てているのか釘を刺しているのか、いまいち微妙なこなた。もしそなたがいなければ「リアルで同性趣味ないし」とごまかすところだが、色々な部分で妹に寄り掛かっているせいで、自重や抑制があまり効いていない。普段なら「お母さんとただおおじさんとみきおばさんを泣かせる上に、お父さんに目の保養をさせかねないヨ」と言いそうなそなたは、それどころではなく、くったりとした反応を変えなかった。
「まったくもう。姉さんは……」
 ぶちぶち言いながらも、そなたは素直に布団に潜り込んで、病気疲れのせいで一重気味になっている瞼を閉じる。こなたはその様子を、かがみがつかさに対するような優しい姉の目で見詰めて、布団越しに身体を(今度は普通に)さすってやった。
(……いまいち頼りにしてもらえないのは、お父さんやゆい姉さんと同じだヨ。せめてかがみみたいな身体なら甘えてもらえるかなーと思った事はあるけど、ゆい姉さんにはゆーちゃんしか甘えないし、まあ色々あるんだろネ)
 小さな頃のそなたに思いを馳せながら(いや、こなたも同じ大きさだし、かがみには「今も小さいのにねー」と言われるが)、こなたは扉の向こうに柊姉妹の気配を感じる。一度気配が二階に行ったので、かなたは居間にあるお気に入りのマッサージ椅子で休んでいるらしい。基本的に泉家のマッサージ椅子は高さ調整がかなた基準になっているため、買ってきたそうじろう自身は滅多に使っていなかったりするが、基本的に肩凝りはこなた&そなたの肩揉みで解消させながら悦楽に浸り、そこを久し振りに兄に会いに来たゆき叔母さんに目撃されて幼馴染兼義姉は結婚を後悔していないか問いただされる始末なので、基本的に同情の余地は多分ない。
「どうしてるかな、そなちゃん」
「こなたが付いてれば大丈夫よ。逆にこなたは病気でもDSやPSPを離さないけど、つかさの言う事はよく聞くし」
 というか、料理や家事一般では器用なのに、それ以外では別人のように不器用なつかさに携帯ゲーム機を取り上げられるとどんな悲惨な事になるかと思うと、いささか――いや、相当心配で、自主的に片付けているのだが。
 ともあれ、今日は病気ではないこなたは、そなたを起こさないようにそーっと枕元を離れてから、扉の前でスタンバイして、扉を開けたかがみを即座に襲おうとする。
(かがみは必ず、つかさより前を歩くからネ。もしつかさが先に出てきてても、何度も何度も襲われたお返しを――)
 ――べし。
「むぎゃっ!?」
 かがみではなく内開きの扉と盛大な口付けを交わして、いつも眠そうな目を驚きで開眼しながら床にずり落ちる泉家の長女。こなたの事よりそなたが心配で仕方のないかがみの斜め後ろから、つかさが身体を割り込ませて、こなたに対して母性が働いたのか、包み込むような体勢になるところで、こなたは対等な関係を維持するために身を引くものの、そのまま自重せずに身を乗り出してくるつかさに正面から見詰められて、猟犬に凝視された狐のように固まってしまい……。
「こなちゃーん、大丈夫?」
「むぅ……かがみのムネを存分に味わえると思ってたのに」
 心配するつかさに、こなたははぐらかすような――いや、明白にはぐらかした反応を返す。それに対してつかさは、「お姉ちゃんに何をするのさこなちゃん」という双方への独占欲、「どうせ私はお姉ちゃんより胸が」という劣等感、「それでも私はこなちゃんより二十センチ近く大きいんだから」という優越感と庇護欲のブレンド、その他諸々を感じながら、無言でこなたに跨って、ほっぺをおもちうにょーんとした。殴るのとは違い、怪我をする気遣いもなく、お仕置きには最適だといのりから教わって(ついでに、「妬けるねーつかさ」とか言ったまつりの頬をいのりがおもちうにょーんして)以来、力関係はすっかり定着している。
「あひゃいあひゃい!?」
「具合はどう、そなた?」
 馬乗りにされてつかさの下でもがくこなたは放置して、かがみはそなたの瞳を覗き込む。ただでさえ熱で顔が赤いそなたは余計に顔を赤くしそうになるが、こなたとつかさの前という事もあり、ぎりぎりの危うい所で平常心を復活させた。
「だいぶ楽になったヨ。姉さんは相変わらず病院の方が逃げそうだけど」
「ひどっっ!! お父さんが言われるのは当然だけど私までっっ!?」
 あえて言っておくが、どちらも同じくらいひどい。

 
 そなたの冗談めかした言葉に、かがみは「言うわねー。気持ち分かるし」などと苦笑しながら、「う〜〜」とすねるこなたの頭を、子供をあやすようにくしゃくしゃと撫でる。つかさも姉と一緒にこなたを可愛い可愛いするため、こなたは余計に憮然としながら、今度柊家に行ったら、いのりとまつりをけしかけて双子に恥ずかしい思いをさせようかとも思ったが、逆に自分がお姉さん達の餌食になるのではないかと思ってやめておく事にした。

 
「あーあ、今頃かがみは、おじさんもゆたかちゃんも留守してる権現堂のウチで、こなたんとそなたんとウハウハかぁ」
「泉さんちを親戚みたいに呼んでどーすんのよ。あとつかさを無視するのは、いつもかがみが怒ってるけど、つかさが可哀想じゃない」
 鷲宮、柊家。テレビの前で、柊いのりは、中の妹のかがみに(そしてもちろん母のみきにも)似ている形の良い肢体を畳の上に押し付けて、背中に伸し掛かる、父のただおの方に(下の妹のつかさと同様に)似た上の妹のまつりがベタベタしてくるのを持て余していた。会社に休日出勤した代わりのせっかくの休みに、ただおから「今日はゆっくり休みなさい」と言われた手前、外で遊ぶのも気が引けて、「機装少女まどか★マキナ」に引き続いて「Dog Years」の録画を見ているのに、「お母さんがかがみとつかさに構ってばかりだもん」と言いながら甘えてきたのを抱き締めたあの日から印象が全く変わらない、つかさと近くなさそうで実は近いあどけなさを残す(かがみによると「残し過ぎ」)妹は、春休みで暇を持て余していたのをいい事に目論んだそなたのお見舞いの付き添い(と称したこなたんとウハウハ計画)をかがみに「大勢で詰めかけると迷惑でしょ」と拒否されて、手持ち無沙汰なままいつものように姉に甘えている。
「えー? お父さんはおじさんと取材受けたりお酒飲んだりしてるし、お母さんはおばさんと、かがつかとこなそなちゃん連れて湯煙紀行したし」
「東鷲宮の百観音温泉の、どこが湯煙紀行なのよ」
 背後にまつりの胸やら太腿やらを感じながら、いのりは平常心を必死で保つ――というほどの事はない。まつりはいのりに幼心のままで甘えているし、いのりにとってのまつりのイメージはいつまでも小さな頃のままだから。家族や親戚や幼馴染は、小さな頃のイメージを持ち続けるから性的な感情を抱かないままになると、いのりも耳に挟んでいた。だとしたら、かがみとつかさは何なのかといのりも思ったが、やはりあれは性的な感情抜きで、お互いに自分を相手の一部だと思っているから、たとえ傍目には禁断の関係に見えても、いのりと二人きりの時だけこっそり甘えてくるかがみや、いのりにもくっつくのが好きなつかさだから、時々こなたやそなたが大変な目に遭うのを除けば、気にする事もないと思いたい。
 しかし、まつりにとっては――どうなのだろう。姉は思うが、あまり突き詰める気もなく、妹の体重を受け止める。まつりはいのりよりかがみ達に年が近いのだが、こなたが「かがみとつかさのお姉さんなのに、中身は妹系なんですねー」と言う通り、つかさからはともかく、かがみからは姉妹としての愛情はあっても、全然尊敬されていない、泉家の双子と同じような関係。いのりの友達が妹達を見ても、まつりとかがみを双子と勘違いする子が結構いたような思い出がある。秋の祭でこなたとそなたが巫女さんをした時も、友達や後輩に囲まれるかがみを見て錯乱していたくらいだから――、
(もしかすると、まつりはかがみを――)
 自分が頼りになる姉をし続けたせいで、まつりは自分に甘えっぱなしになり、かがみは自分を手本にして「いのりとまつりの妹」ではない「つかさの姉」になってしまったのかと思うと、両親と同様に「もっと奔放にさせてあげたかったな」と考える。その分、奔放な誰かさんをいじる楽しみを覚えたわけなのだが。
「ま、いーか。こなたちゃんとそなたちゃんが今月中に五回くらいは遊びに来てくれるし」
「進学すると学校もばらばらだけど、みゆきちゃんも含めて、みんな仲良くやってけるといーね。私もこなたちゃんとそなたちゃんを可愛がれるし、みゆきちゃんに課題を教えてもらえるし」
 かがみとつかさを思いやる――と同時に自分の欲望も剥き出しの、正直過ぎるまつりの想い。いのりは上半身をずらしながら、脇にまつりの頭を抱え込み、脚も崩して互いの身を絡めた。
「そうそう、みさおちゃんとあやのちゃんも、つかさと仲良くなったみたいだし。かがみは相変わらず名字で呼ばれててへこんでたけど」
「ぷふっ。生真面目なかがみらしいよね」
 長女は次女と、互いの温もりを感じながら笑い合う。
 そして三女と四女は――、

 
「……くしゅんっ! うつった――わけじゃないから心配しないでね、そなた?」
 かがみは、みゆきと一緒で可愛らしいはずなのに豪快さも兼ね備えた(こなた談)くしゃみをして、すぐにそなたを気にかける。風邪を引いているのはそなただから、かがみがそなたを真っ先に気にするのは当たり前だが、つかさはこなたに「まさかこなちゃんも」とか「こなちゃんはそなちゃんと一卵性だから」とか、こなたを抱き締めたまましきりに気にして、逆にこなたから「だいじょぶだいじょぶ、へーきへーきー」などとなだめられている。いつもつかさが抱き締めてくるのは、お気に入りのぬいぐるみを抱っこする感覚とばかり思っていたのに、「だってこなちゃんは自由奔放だから、どこか行っちゃわないように抱き締めるの」などと、小さい子を見るお姉さんかお母さんのような事を言ってのけられて以来、こなたは余計に抵抗できなくなってしまっていた。
(……ねーさん)
 感想を円グラフで表す「べつやくメソッド」風に表現すると――、

 
  心配掛けてごめんネ、かがみさん(35%)
  普通の風邪だから大丈夫ー(25%)
  かがみさん、顔が近いヨっ!(15%)
  仲いいなー、つーちゃんと姉さん(15%)
  リア充じゃなくてもはやリア王だヨねーさん(10%)

 
 ――こんな辺りのそなた。暖かくしているせいか、東鷲宮の百観音温泉にみんなで行った時の記憶が蘇ってしまい、かがみの裸身を思い浮かべそうになりながら、必死になって情欲を払いのけて、いつもの「頼もしい親友」に対する思いに引き戻す。
「かがみさんも気を付けてネ。……で、つーちゃん。姉さんが心配なのは分かるからさ、そろそろ放してあげなよ」
「はうっ!? ご、ごめんねそなちゃん。驚いた?」
 あわあわするつかさに、頭の熱がちょっぴり引いたそなたは、「いつもかがみさんは、こんなつーちゃんに庇護欲を感じてるんだなー」とか感じながら、姉のようなニマシマした笑みが溢れるのを懸命に抑える。
「ちょっとだけ。でもねーさん、今ゾクって震えなかった?」
「ないない」
 かがみに寄り添われながら気だるげにしている双子の妹に、双子の姉は気楽に手をぱたぱたと振った。
「風邪はうつせば治るってゆーケド、かがみと濃密に飛沫感染どころじゃなくて体液感染もあだだだっ!?」
 お互いに出会って三年近く。こなたがかがみの「弱点」を(そなたの無意識の活動の成果を含めて)網羅している間に、かがみはこなたの、もっと普通の意味での弱点を網羅していた。そなたもかがみに関節の極め方や急所の攻撃方法を(「お姉ちゃんいいなぁ」「そなちゃんだけずるーい」「やはりかがみさんに想いを届けるには略奪愛を決行するしか」とか、様々なアクシデントを挟みながら)伝授して、こなたも、ついでにみさおも、かがみを容易にはいじれなくなり、逆にかがみからいじられる事が増えている。元々、姉達――いのりとまつりも、かがみをいじるのが好きだから、そんな所も実は似ていたのかもしれない。つかさもあそこまで無邪気でなければ、意識的にいじって来てるだろうし。
(むー、柔らかいよぉかがみの身体。細身で引き締まってるのに必要なトコにはしっかりお肉も付いてて。つかさやそなた相手みたいに身も心も許してくれたら嬉しいのにー)
 お仕置きされながらも、密着された約得を満喫する泉家の双子の姉。その様子に自身をうっかり重ね合わせてしまい、妄想に身悶えしそうになる双子の妹。その様子に真っ先に気付きそうなかがみは、逆襲を試みるこなたを押さえ込むのに懸命でそれどころではなかった。
 そんな気持ちを知る由もない、こなたを姉に委ねたつかさは、そなたの陰りを帯びた目を見据えて、可愛がりたい気持ちを抑えながら、手にしたタオルでそなたの耳元から首筋辺りの辺りの汗を拭く。そのまま胸元まで手を伸ばそうとしたら、そなたは毛布を引き上げて制止した。……一瞬、つかさの目に残念そうな光がよぎったのは、絶対に勘違いだとそなたは思いたい。
「で、そなちゃん、近頃はどうしてるの?」
「風邪ー……じゃなくて、私が行くのはかがみさんの近くの大学なんだケド、改めて雰囲気を見るために、今週の初めに行こうねって約束してたのに。ごめんねかがみさん」
 申し訳のない気分で一杯になってしまった、明らかに元気のないそなたに、かがみはつかさの背後に寄り添ってから手を置いて、優しく触る。かがみの手の感触とひんやりした心地良さに、そなたの表情が緩むのを見たこなたは、かがみ×そなたに萌えながら、その一方で羨ましく思っていた。こなたは「べつやくメソッド」を知らないので、複雑な感情を細かく分析できないのだが、そこまでしていたらきっと、そなたみたいに身悶えしていただろう。
「私が擦り代われば、かがみとの逢瀬も楽しみ放題だネ」
「楽しむな。でもねーさん、私とガッコ別々になるから……」
 普段は強気なそなたらしからぬ、伏せがちの目とか細い声に、双子の姉はそなたの心配を感じ取る。自分がいないと、姉はいじめられるか、一人で他人を寄せ付けずにいてしまうか、どちらにしても中学生までの姉に戻ってしまうのではないか――と。

 
此方と其方・7へ続く


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