エタメロ・時代劇アワー(完結編)


制作・脚本:大橋賢一

<登場人物>

ティナ:マリエーナのお姫様その1。実は女王様だったりする(爆)。
若葉:マリエーナのお姫様その2。ボケっぷりがグー(笑)。
レミット:マリエーナのお姫様その3。今回は思わぬ活躍をする。
アイリス:レミットの侍女。出番少なくてごめん。
主人公:食堂可憐亭の主人。仕事人のリーダーとしての真価が、今問われる。
カレン:可憐亭の女将。自称“愛のキューピッド”。
リラ:可憐亭の看板娘。仕事人の参謀格だが最近スランプ気味。
カイル:世界征服を企む悪代官。悪い事言わないからやめときなさい。
メイヤー:御用商人トロメア屋の主人。太古のロマンに魂捧げて店を傾けた人。
番ちゃん:メイヤーのゴーレム。
守護者:マリエーナに代々伝わる魔法兵器。ティナがその主人。
バイト親父:全ての黒幕。その目的は謎。
チャンプ:バイト親父の宿敵。その目的は、本編では語られる事はない(おい)。
ロクサーヌ:謎の琵琶法師。実は×××。
フィリー:ロクサーヌを影でサポートする妖精。


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 床が激しく揺れ、柱がきしむ。
「な、何なの?」
 かろうじて膝立ちで踏みとどまったレミットが、不安げに小さく言葉を発する。
 庭の築山が丸々崩れ、異様な火蜥蜴――もとい人影が、血のように赤く燃え立つ夜空に浮かび上がっていた。特徴的な陰影が、可憐亭の主人の両目にくっきりと映る。
「……ゴーレム!」
「ええ。私の大切な番ちゃんです」
 メイヤーが言う。きっぱりと。
 限りなくローセンスな名前だと一同――若葉を除く――は思う。
「……で?」
「はい?」
 ふとメイヤーが視線を近くに引き戻すと、そこには――
「この状況を打開するのに、どーゆー風に役立つのかな?」
 カレンの刀を喉元に突き付けられ、メイヤーは四六の蝦蟇の如くだらだら脂汗を流す。刃の研ぎが甘い分、もし斬られたら、文字通り死ぬほど痛いであろう。
「え〜と……」
「仕事人ども、大人しくしないとゴーレムがマリエーナの街を破壊するぞ」
 カイルが凄味を利かせ、すっくと立ち上がる。
「あ、そーゆー手がありましたね」
 やっぱり何も考えてなかったんかい、メイヤー。
「さあ、武器を捨てろ」
「ひ、卑怯よっ!」
 怒りに肩を震わせるリラ。両手に山と抱えた金目の物にはかけらも似合わないが。
「リラ、大人しく言う事を聞こう」
「そうよリラちゃん、軽挙妄動だけは謹んでね」
「分かったわよ……」
 仕事人達は仕方なく、手に持つ刀を畳に落とす。当然、金目の物までは放さない。
「ふふふ……いいざまだな、仕事人」
「くっ……」
「カイルさんっ!」
 カイルが向けた刀の前に、ティナが主人をかばうように立ちはだかる。
「私と若葉の養育係だった優しいカイルさんは、一体どこに行ってしまったんですか?」
 涙を流すティナの方を向かずに、寂しげにカイルは声を絞り出す。
「死んださ……あの時に」
「やめて下さい! 今なら戻れます!」
「いや、戻れない……。あの事がある限り、俺は……」
「そんな……!」
 それを見ていたカレンはほう、と感心するような表情を見せ、意味ありげな視線を主人に送る。
「おやおや、手強いライバル登場ねえ」
(だから何だよ、手強いライバルって)
 くすくすと笑うカレンの喉元に、ぴたりと冷たい刃が当たる。
「静かにしてくれませんか、カレンさん?」
「それと、メイヤーさんも」
 そのメイヤーの喉元にも、冷たい刃先が突き付けられる。それを持つのは、若葉。
「う……」
「若葉……ちゃん?」
「確かに仕事人さん達は大人しくするように言われましたけど、私達は大人しくするよう言われた覚えはありませんわ」
 凛とした表情の若葉が、鋭い声で言い放つ。
「そうよっ! 約束くらいちゃんと覚えててよね、古代オタク商人!」
「私は立派な歴史愛好家ですっ!」
「だったら何でゴーレムなんて持ってるのよっ!」
「あれも歴史的遺産だからいいんですっ!」
「論旨が無茶苦茶よっ! 鼻が低いくせにっ!」
「むっ……!」
「あのぉ、メイヤーさんもレミットも落ち着いて」
 若葉が二人をなだめるが、二人は鼻を突き付けるようにして睨み合ったまま。
 夜空を染める赤い劫火は、いまだ収まる気配を見せない。
「……カイル」
 主人の冷たい意志を込めた低い声に、カイルが面白そうにふっ、と笑って振り向く。
「どうした、仕事人」
「何が面白くて、ティナ姫の心を傷付けた」
「馬鹿を言え! 傷付けられたのは俺が先だ!」
 絶叫するカイルに呆気を取られる主人の肩に、そっと手が触れる。
「……ティナ姫」
「確かに私は、養育係だったカイルさんに、おうまさんになってもらったりしましたけど……だから何で、こんな大それた事を――」
 余りにも、余りにもばかばかしく思える展開に、主人は思わずぼそりと呟く。
「低水準な奴……」
「お前もさっき見ただろ、ティナの本性を! 若葉だったらまだ我慢できるが、そーゆー娘に後継ぎになられてみろっ! マリエーナの家臣達がどういう目に遭うか分かってんのか、おいっ!」
「はっ……」
 主人は、思い出した。悪夢さながらのあの光景を。
「カイル、お前の気持ちは分かるぞ」
「何か言ったかな?」
「何でもありません」
 カレンに脅迫され、あっさり前言を翻す主人。
「ともかく、姫君の他にも女の子を誘拐した理由にはならないな」
「くっ……あなた達、そこまで……」
「じーさんばーさんは無視……?」
 メイヤーの呻きもリラのあきれたような溜め息も、主人は聞き流す。
「地下牢から逃げた人達が、今頃奉行所にたどり着いているはずだ。こうなった以上言い逃れはできない。大人しく降伏して、裁きを受けるんだ」
「そうか。それはまあいいが――」
 カイルが刀を、隙のない構えですらりと構える。
「しかし俺も……ここまで来た以上後には引けん。後は修羅の道を歩むのみ」
 じり、と微妙に距離を詰めていく。びりびりと主人の肌を刺激するのは、物理的な威力をも備えた殺気。一歩、また一歩と足を進めるごとにますます強まるそんな殺気。
「ご主人さん……」
 声も出せずに震えるティナの後ろで、若葉が両手を組んで無事を祈る。
「さあ来い、カイルっ!」
 と挑発した事を、主人は後悔する余裕もなかった。
「どりゃあああ!!」
「うわあああああっ!!」
 凄まじい気合いと共にカイルの刀が襲い掛かり、受け流した主人の刀と火花を立てる。そこで体勢を崩した主人に再び襲い掛かるカイルの攻撃。それを受け止める事には成功するが、押し返すので精一杯になった主人をカイルは逃がさない。
 力と技を高い水準で備えた、カイルの凄腕。
 一発逆転を狙わなくては、もう後がない。
「これでも……」
 息を思い切り吸い込み、全身に力を蓄える。
「食らえっ!」
 力任せで強引にカイルの刀を跳ね上げ――
 ――ようとして、ぱきんと折れた。
「なっ!?」
「でやああああっ!!」
 カイルの刀が、主人を二つに引き裂こうと振り下ろされるまさにその直前。
 レミットが背後から放った蹴りが、カイルの背中を直撃した。
 銀色の軌跡は背後の壁に勢いよく突き刺さる。
「うぐ……」
 白目を剥いたカイルがどさ、と畳に崩れ落ちた。
 気力が尽きて仲良く床に倒れる主人を見て、カレンがほっとする。そして最後の勝者であった金髪の小さな英雄に、感謝の念を込めて投げキスを飛ばす。
「ありがと。ほんといいコね、レミットちゃん」
「子供扱いしないでよ、おばさん!」
「んー、そーゆー事言うのはこのお口かな?」
「あだだだだだ!」
 カレンに口をひねられ、悲鳴を上げるレミット。その脇で、ティナと若葉が倒れた二人の様子を見ている。姫達二人の表情から察するに、命に別状はなさそうだ。
「さあ、降伏しなさいよっ」
 リラが油断なくぴた、と脇差をメイヤーに突き付ける。
「……しかし、私を倒しても番ちゃんは止まりませんよ」
 それでもなお、メイヤーは不敵に微笑む。確かにゴーレムは、制御を失えば果てしなく暴走を続けるしか能がない。逆に言えば、暴走させるのが目的ならば命令が途絶えても構わないという事にもなる。例えば、無差別な破壊を行うとか。
「構いません。私が止めれば済む事ですし」
 ティナが懐から取り出したのは――さっきの鞭。
「ティナちゃん……」
 カレンの疑問に答えずに、ティナは鋭い音を立てて鞭を振るう。
 空間が歪み、中から奇妙な人物が現れる。大きさはゴーレムより一回り小さいものの、異国の幻術師か、あるいは神官のような奇妙な服装と顔立ちが人目を引く。
「守護者……」
 見上げたメイヤーが、思わず呟く。
「マリエーナに伝わる魔法兵器……まさか本当にあったなんて」
「私はこの鞭で――」
 ティナが器用に虚空で鞭をぴしり、と鳴らす。
「守護者を操れます。……メイヤーさん、番ちゃんのためにもここは降伏して下さい」
 しかし、メイヤーはかぶりを振った。
「戦いは人類の歴史……ここで受けて立たないのは歴史愛好家として恥ですね」
 メイヤーが番ちゃんに手招きをすると、番ちゃんが守護者に向かって構えを取る。
 避けられない迫り来る戦いの予感に、ティナは胸の内に込み上げてくる高揚感のようなものを自覚せざるを得なかった。長い犬歯を隠そうともせず、赤い瞳をかっと見開く。
「……負けませんよ、メイヤーさん」
 ティナが鞭を振るうと、守護者は軽々と宙を舞い、番ちゃんの目前に音もなく降り立ち戦闘体勢に入る。
「怪獣大決戦……」
 思わずリラが呟いた一言が、これから起こるであろう事態を如実に示していた。


「こっちに来ないでくださいチョップ!」
 ティナの叫びに応じて、守護者が手刀を振り下ろす。
「なんのっ! 古代の神秘アタック!」
 メイヤーも負けじと、番ちゃんに命令して反撃を繰り出す。
 守護者の手から放たれた衝撃波は街並みもろとも避難する人々を巻き込み、番ちゃんのタックルに巻き込まれた家屋が十軒ばかり瓦礫の山に変化した。
 二体の巨人は、火災の惨禍を数倍、数十倍に広げ、今もなお激闘を繰り広げている。
 既にリラと若葉は、観戦にも飽きて呑気に寝こけていた。
「ちょっと、メイヤーちゃん」
「ティナお姉様っ」
 カレンがメイヤーを、レミットがティナを説得しようとするが――
「暗殺者流かかと落とし!」
「エーテル・マキシマム発動&コンボスペシャル!」
 戦いにエキサイトしている二人は、ろくすっぽ耳を貸していない。
 カレンとレミットは互いに視線を交わし、決意を込めてうなずいた。
 各々が、右手に手近な物を掴み、
「カレン流・眠りの壷!」
「レミットブレイク!」


 ――その結果。
 制御を失った守護者と番ちゃんが、魔力切れを起こすまで暴走し続けた事だけを述べておこう。


「ふふふふふ……」
 街を見下ろすトロメア屋の裏山で、謎の男がほくそ笑む。
「どうやら計画は成功のようですね、ムフッ!」
 誰も見る者がいないのに、無意味に筋肉を強調したポーズを取る。
 バイト親父。それがこの中年男の裏での呼び名であった。表では仕事の斡旋を牛耳り、裏でも仕事の斡旋を牛耳る。当然、裏で斡旋する仕事は非合法なもの。禁止武器の売買、窃盗、誘拐、その他諸々。そう、例の魔法兵器をカイルに調達したのもこの男。
 後頭部に包帯を巻いてある――カレンに殴られた――禿げ上がった頭部に、赤い炎の熱気が当たる。この火事が収まるまで、奉行所は姫達を探す余裕などないはずだ。
「苦節一年、これで私の悲願も達成ですか、ムフッ!」
「……そうですかね?」
 不意にべべん、と琵琶を爪弾く音色が響く。
 背後に現れたのは、のほほんとした雰囲気を漂わせる琵琶法師姿の怪しい人物。
「何者ですか? ムフッ!」
「ただの琵琶法師、ですよ」
 きつねうどんをずず、とすすりながら器用に話す。
「カイルさんとメイヤーさんを煽り立て、仕事人達とぶつけ合う」
 ずるずる。
「その過程で発生するであろう街の混乱に乗じてマリエーナを滅ぼす」
 ずるずる。
「ファジーなわりには確実な作戦でしたけど」
 ずずっ……かたん。
「私がいる以上これまで、ですね」
 最後の一滴まで飲み終え、きつねうどんの器を脇にあった切り株の上に置き、そそっと口元を拭いつつ、自称琵琶法師はいとも優雅に微笑んだ。
「どうして分かったのですか? ムフッ!」
「をや? 本当にそうでしたか」
 そう言われて、バイト親父は凍り付く。
 この推察力。演技力。謎の琵琶法師は、明らかにただ者ではない。そう戦慄しながらも、その邪悪な頭脳で琵琶法師を葬り去る手段を考えつつ、バイト親父は声を出す。
「ひ、一人だけで私を倒そうとでも思っている訳ですか? ムフッ!」
「いいえ。あなたを追っているもう一人と協力して……ね」
 ちらりと木陰――いや、木陰に潜む人物に視線を送る。
「久しぶりだな」
 現れたのは、白い覆面と外套、そして赤いふんどし姿の男。
 そう。トロメア屋の池の深淵の、はるか彼方に消え去ったはずのチャンプ。
「会いたかったぞ。我が永遠の宿敵、バイト親父!」
「私も会いたかったですよ、ムフッ!」
 二人は筋肉を震わせながら、部外者には理解し難い漢の言葉で語り合う。
「それにしても、あなたが水に落ちて無事だとは驚きですね、ムフッ!」
「男の筋肉に不可能はない。お前も分かっているはずだ」
「……そうでしたね、ムフッ!」
 この場に普通の人物がいたら卒倒確実な展開が、しばし繰り広げられ――
「私の名誉のために、裏切り者のお前を倒す!」
「望む所ですよ、ムフッ!」
 チャンプとバイト親父が視線を交わし、さっと身構えた。
 燃え上がるような闘気が、辺り一面に沸き上がる。
 先に地面を蹴ったのは――チャンプ!
「アルティメットフライングマッスルボディアタック改・スペシャル!!」
 空中に舞い上がったチャンプが、赤い夜空に軌跡を描く。
「ムフッ!」
 崖を背にしたバイト親父は、それをあっけなく回避した。
 チャンプは無言のまま、谷の彼方へ落ちていく。
 数秒眺め、何かが潰れる生々しい音を耳にしてから安堵したように笑顔を取り戻す。
「ムフッ! これでどう――」
 余裕で振り返るバイト親父の表情が、次の瞬間恐怖に引きつる。
「光熱波!!」
 女性の声と共に白い光の帯がほとばしり、バイト親父に命中する。
「ムフううううううッ…………」
 チャンプの後を追うように、バイト親父の姿は崖の彼方に消え去った。
「感謝しますよ、フィリー」
 崖下から届く生々しい音には耳も貸さずに、ロクサーヌは空中にふわふわ浮かぶ小さな少女に語り掛ける。背中に透き通った羽の生えた、いわゆる妖精に。
「ったく、妖精使い荒いんだから」
 フィリーはぱたぱたと羽をはためかせ、小枝から飛び下りロクサーヌの肩にちょこん、と止まった。
「まあまあ。私がいつもフィリーに感謝しているのは本当ですよ」
「それと、あの仕事人達にもね」
「まあ……」
 既に街の半ばを焼き尽くした炎がますます荒れ狂うのを絶望的な面持ちで眺めながら、何か吹っ切れたような笑いを浮かべるロクサーヌ。
「……マリエーナの平和を守るのも、大変よね」
「ええ……」
 次に浮かんだ笑いは、ロクサーヌには珍しい複雑な表情。
「あと、もう一つ」
「何よ」
「きつねうどんの器、可憐亭に返しておいてくれませんか?」
「え〜?」


 …………。
「……ん?」
 柔らかい感触が後頭部に伝わる。どこか懐かしく、そして暖かい。
「お気付きですか、主人さん?」
 この声は――
「アイリスさん!?」
 アイリスに膝枕されている自分に気付き、慌てて飛び起きる。そして周囲を見渡すと、そこはマリエーナの街の中央広場のようだった。だだっ広い石畳の広場を囲むように瓦屋根の建物が並び、重厚な雰囲気を醸し出している。
 空はうっすら赤紫に染まり、早朝のすがすがしい雰囲気に満ち満ちていた。
「確か、カイルに切り掛かられて……それからどうしたんだ?」
「ご安心下さい。主人さんは勝ちました。姫様達もご無事です」
 実はあんまり無事ではなかったのだが。地下牢から解放されたウェンディやキャラットの通報を受け、アイリスが兵士を連れてトロメア屋に到着した際には、謎の巨人の乱闘の余波で全壊した建物が無残な姿をさらしているだけだった。
 そこから様々な紆余曲折を経て発掘に成功したのだが、それはおいて。
「ティナ様が、後ほどお詫びに若葉様、レミット様を連れて可憐亭に参ります、との事です」
「ええ、いつでもいらして下さい。アイリスさんも。任務の話抜きで」
「カレンさんとリラさんにも、アイリスが感謝していたとお伝え下さいませ」
 アイリスがぺこ、と頭を下げる。
「あ、そういえばカレンとリラは? ついでにアルザも」
「既に逮捕してありますよ。メイヤーさんやカイルさん、楊雲さんやその他大勢の方々と一緒にね」
 何の脈絡もなく話に割り込んできたのは、琵琶を抱えた琵琶法師。
「……ロクサーヌ、何でここに?」
「実は私、このマリエーナの奉行なんです。……あ、きつねうどんの代金払ってませんでしたね」
「まいどー。……じゃなくって!」
 きっちり代金を受け取った後で、主人は我に帰る。
「質問その一、何であんたが奉行なんだっ!」
「いけませんか?」
 平然と言ってのける、信じ難いがマリエーナの奉行。
「じゃあ質問その二、逮捕ってのはどーゆー事だよっ!」
 ロクサーヌが無言で指差したのは、こんがり焼け果てたマリエーナの街。
 ……………………………………………………。
「罰として終身刑か国外追放、猶予されても罰金十万ゴールドですね」
「え〜と…………」
「連行しなさい」
「はっ!」
 脇に控えていた兵士達が、がしっと主人の両手を掴み縛り上げる。
「何で、何でだよっ! 悪いのはみんなカイルとメイヤーなのにっ!」
 絶叫しながら石畳をずるずると引きずられていく、可憐亭の主人。
「主人さん……」
「をや?」
 心配げに見送るアイリスを見て、ロクサーヌが朗らかに微笑する。
「アイリスさん、ご主人に惚れましたか」
「い、いえそんな。私はレミット様にこの身を捧げた」
「春ですねえ」
 もじもじしているアイリスをよそに、ロクサーヌは花の咲き乱れる桃の小枝を繊細な指でぺき、と手折り、アイリスの茶色の髪に挿す。
「ご主人達が釈放されましたら、また可憐亭にきつねうどんを食べに行きましょうか」
 ロクサーヌはふわ、と意味もなく微笑んで、手元の琵琶を取る。
「これにて、一件落着」
 べべん。



<後書き>
「エタメロ・時代劇アワー(前編・後編・完結編)」、お楽しみ頂けたでしょうか?
 ゴーレムや妖精が出る時代劇なんて、普通ありませんが(笑)。
 目玉はオールキャストとどたばた展開。丁度ぴったり、目玉は二つだ((C)サルア・ソリュード)。……だからってチャンプを前編・後編・完結編連続で出さんでも(笑)。楊雲やウェンディ、キャラットよりも出番が多いぞ、おい(笑)。
 ここでちょっぴり、執筆過程で起きた馬鹿なトピックをピックアップ。

1、最初は前編と後編だけで、完結編は後から付け足した。
2、バイト親父が黒幕だなんて、後編を書き終えた段階では考えていなかった。
3、ホームページ掲載にあたって、全面的に書き直した。
4、原文がワープロのデータだったので、数日掛かりでパソコンに入力し直した。
5、ロクサーヌが前編・後編で食べていたきつねうどんが、完結編でたぬきうどんにすり変わっていた(笑)。

 …………………………。
 いいのか自分(核爆)。
 最後に。執筆のあれこれを手伝ってくれた妹、さやちゃんに感謝。
 さて、次回の「エタメロ・時代劇アワー」では、冤罪を晴らすために可憐亭の一同は何でも屋を――
 ……しないってば(笑)。



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