続・悠久幻想曲・フィクションデータバージョンSS

セリーヌ救出大作戦

(中編)

 

〈注意〉
 この話は松さんの「悠久幻想曲・フィクションデータバージョンSS」の(勝手ながら)続編です。
 主人公(2)(第三部隊隊長)の名前は「ベータ」です。


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>>>3.救出作戦(原文ママ)
 

 エンフィールドの周辺には、あちこちに洞窟や地割れが点在している。天窓の洞窟の他にも、伝説の「帰れずの洞窟」、黒竜草の生える彩紅の洞窟、封印された水晶の洞窟、地底湖畔に古代遺跡の眠る雷鳴山の洞窟、人工物まで入れるなら火山制御装置に通じる地下通路、アルフォンヌ炭鉱、実験的に作られた湖底トンネル跡、異界から転移されしアメージング・バレー地下遺跡、謎の魔法生物(?)丸いヤツの訓練場『丸いヤツの穴』と、その数は優に数十に及ぶとも数百に及ぶとも言われ、自警団ですらその全てを把握するには程遠い状態であったが、猛者の多いエンフィールド市民の一部にとっては手頃な半日ピクニックコースでもあった。
 そんな山奥に、ひっそりと眠っていた洞窟の入口が、偽装を暴かれて姿を涼風に晒していた。お粗末な偽装が表面を覆っていたが、捜査に慣れたベータやヴァネッサからすれば、そんな物は逆に『ここが怪しいですよー』という目印でしかない。

 

「ベータくん! セリーヌさんはこの中なのね!?」
「ああ。人が入るくらい大きな袋を持った怪しい集団十数人の目撃証言は町外れで得ているし、魔法で痕跡を追跡してもここ数時間の間に入っていった事は間違いない」
「魔法で……って、あたしの嗅覚を強化して猟犬代わりにしただけでしょ?」
 完全装備の正規の自警団二人の後ろで、肩をすくめた由羅が、着物の上から自警団の備品である革鎧をまとい、背丈と同じ程度の槍を背負っていた。他の面々もそれなりの武装を固め、何名かを除いて緊張した表情を仮面のように浮かべている。
「でもまさか、あのセリーヌさんを誘拐する命知らずがこの世界にいるとは思いもよらなかったなぁ」
「そーよね。ライオンをパンチ一撃で沈めた人だし、素手の破壊力はエンフィールドでもベストテンに入るんじゃないかしら」
 もとい、チョップ棒を担いだトリーシャと「あたしは魔法担当だもーん」と手ぶらのままのローラを始めとして、ほぼ全員が全然緊迫していなかった。
 そんなトリーシャとローラを諫めるように、何が入っているのか分からない怪しげな鞄を山と担いだディアーナが、今にも涙をだばだばと流して泣きそうに言う。
「でもでもぉ〜、いくら破壊力があっても命中しないと意味がないんですよ? むしろ今回の犯人は大勢みたいですし、一人や二人倒される事は計算済みだったんじゃないですか?」
「ディアーナさんも妙な所で自信がないね。そんな弱気じゃダメだぞっ?」
「そぉそぉ。みんなで物理魔法を打ち込めば楽勝じゃな〜い。セリーヌさんを巻き込んでも、結構丈夫だから問題ないし♪」
「…………隊長さん。トリーシャちゃんとローラちゃんを連れて帰ってもいーですか?」
 泣き顔寸前のディアーナを、ベータは非情にも黙殺する。確かにこの二人を連れて行っても不安だが、置いて行っても勝手に後をつけてきたりして余計に不安にさせるので、それくらいなら手綱を引き絞った方が安心できるというものである。
 とそこでいきなり、今まで口を挟まなかったイヴが顔をしかめて声を出す。
「注意して」
「何がですの!?」
 クレアが声に反応し、拳を握り締めて身構える。
「何らかの薬品が残留しているみたいだわ。分かるでしょう由羅さん?」
「確かにこの辺りって、結構変な臭いがするし……」
「薬?」
 一同は、とっさに口を手で覆って息を潜める者と興味津々で空気の臭いを嗅ぐ者に分かれる。当然後者は前者に口を塞がれ、洞窟から離れた場所に引っ張られた。

 

「……っていうか、どうしてディアーナさんが無防備な側に入るのかしら。トリーシャさんやローラちゃんはまだ分かるけど」
「大丈夫ですってばぁ。結構嗅ぎ慣れた匂いでしたし」
「えほっ……、ご存知ですのディアーナ様?」
 薬が苦手だったらしいクレアが鼻をハンカチで押さえて、ヴァネッサに背後から拘束されているディアーナを涙目で見る。
「このお薬の匂いは、あたしがお小遣い稼ぎにとある薬草市から裏ルートに流した麻酔薬と同じ匂いです。ちなみに薬草市の日程と場所は、自警団の手入れが入っちゃいますから言えません」
「非合法行為を自慢なさらないで下さいっ!」
 えへ、と小さく舌を出してごまかすディアーナを、クレアは拳で張り倒した。ディアーナは忍び泣きをしながら、燻し出すための薬草を準備する。
「おほん……。ではご指示をお出し下さいベータ様」
「……さて、作戦『セリーヌを哀れな犯罪者から救い出そう』は二グループに分けて遂行される」
「二グループですの?」
「そうだクレア。まず隠し通路のグループはヴァネッサが指揮して、イヴ、由羅、ディアーナ、そしてキミが踏み込んで臨機応変に活動する」
 というか、要するに行き当たりばったり。
「俺とトリーシャとローラは正面から踏み込んで挟み撃ちにする。あと作戦の優先順位はセリーヌ救出、犯人殲滅の順だ」
「了解です隊長♪」
「はいは〜い♪ ――ヴァネッサさんも、頭を抱えて悩むのは美容に良くないわよ?」
「何でもないわ……何でもないという事にさせて……」
 もはや捕縛ですらないが、その程度の事はもはや(ヴァネッサ以外は)気にしてもいない。しかしそれ以外の事を気にするお節介な狐が約一人ここにはいた。
「まさかベータくん、自分の好みでグループ分けを決めたんじゃないでしょうね?」
「そーいう事じゃない。二人は実戦経験があるからだ」
(嘘つけ)
 と当事者の約二名以外は思ったが、なけなしの理性で口を滑らせるのは回避した。それでもヴァネッサは不安で一杯になり、約二名を睨みながら糠に釘を無駄打ちしてしまう。
「実戦経験ってまさか、指名手配の犯人に突撃して逆に人質にされた例の事件の事かしら?」
「……あれだけきつい教訓があれば、軽挙妄動はしないだろう」
「……うんうん。もー懲りたから無謀な行動はしないよボク」
 ベータとトリーシャは胸を張ってそう言いながら、一筋の冷や汗を流していた。
 その脇で、ディアーナは「ふんふふんふふーん♪」と鼻歌を歌いながら薬草を燻した煙を風下の洞窟内に送り込んでいる。もう機嫌が直ったのか、その表情は子供のように無邪気なものだった――虫の手足をちぎって楽しんでいる子供のように。
「ところでディアーナ、洞窟から聞こえる『うぎゃおー』とか『ぐへえええ』とか『ひーひーっ』とかいう声は……」
「大丈夫ですよ隊長さん。薬草の効果が出て順調に無力化している証拠ですから」
 ……洞窟内で何が起こっているのかは、全然気にしなくていいのか医者の卵。

 

 それからしばし後、ヴァネッサとその指揮下の一同は、完全に制圧体制を整えて突入の機を窺っていた。緊張でクレアとディアーナが震えて、全然緊張感のない由羅が屈伸をしているその前で、冷静な残り二名は、もはや悲鳴が聞こえない洞窟の突き当りの扉の先に意識を向ける。
「ディアーナさんが流し込んだ毒煙は、そろそろ深層に流出するか拡散するかしている頃合ね。でもくれぐれも、ベータさん達のためにも用心を忘れたらいけないわ」
「……ありがとうイヴさん。――たぁっ!」
 ヴァネッサは洞窟の中の粗末な扉を蹴破り、両手に剣と猟銃を持って室内に向けて構えた。最も危険な前衛に現場指揮官が立つのは軍の流儀だが、自警団や(直轄地の)公安局でも打撃部隊では常識である。もっとも短命に終わったエンフィールドの公安局の場合、危険な場所には誰もいないのでその限りではなかった。
「フリーズ! ……え?」
 凛々しく引き締まった表情が、自分自身の立ち位置から階段を数メートル下がった所に床がある室内(厳密には自然洞窟の広がった部分らしい)の状況を脳が認識してから、零コンマ秒で呆気なく緩む。唖然とし続けるヴァネッサの脇から由羅が顔を出し、微妙に霞む空気を吸って軽くむせた。
「うぷっ……。今は大丈夫みたいだけど、さっきのあれってほとんど劇薬じゃない?」
 湿っぽく薬臭い空気の漂う洞窟の床には、着古した制服を着た男達が痙攣しながら倒れ伏していた。たった十分足らずで起こった惨状は、床に散らばる嘔吐と喀血の痕跡、脚を血まみれにしながら叩き壊した椅子、そして断末魔と見紛うばかりの犠牲者の表情、これらに如実に示されていた。
 赫々たる戦禍――いや、戦果を眼下にしながら、ディアーナは耳掻き一すくいの罪悪感もない無邪気な声を上げて満面の笑顔を浮かべた。まあ誘拐犯に罪悪感を覚える必要はないだろうが、大陸の化学兵器テロの創案者として暗黒街で称えられるようになる未来が望ましくなければ、今ひとつ自重というものを学んでほしい。
「まさかあの葉っぱがこれだけ効果あるなんて思いもよりませんでした。ばっちり大成功ですね」
「同じ種類の薬草や毒草でも、時期や環境に応じて成分はかなり違うのよ。それに誘拐犯とはいえ、殺したり心身に障害を残させたりするのは少しまずいのではないかしら?」
「何故ですの?」
 真面目なクレアの声を耳にして、裏腹の表情をイヴは見ようとして――、
「いや……そんなに心底怪訝そうにしなくてもいいからクレアさん……」
「……ついつい忘れがちになるけど、やはりアルベルトくんの妹だわ」
 行き場を失った武装を両手にぶら下げて、だー、と涙を流しながら、オーバーアクションに肩をすくめたポーズを取るヴァネッサ二十三歳の春――厳密には違うしそれでも夏ではなく、そうかといって秋でも冬でもない。この惑星の自転軸は公転面にほぼ垂直で季節は無いに等しいし――だった。
「あうぅ〜〜っ……。ベータくんが貧乏籤を引いて気の毒だとは思っていたけど、こっちも大差なかったわね」
「まあまあヴァネッサ。この橘由羅ちゃんがいるんだから百人力じゃない?」
「……マイナス?」
「ヴァニシング・ノヴ――」
「あああっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
 能面の、それも鬼女の面のまま凍り付いた由羅が無警告で最強の物理魔法を放とうとするのを見て、呪文の放つ光より蒼ざめたヴァネッサが必死に拝み倒して制止した。ライシアンの錬金術師は耳をぴんと立てて、不機嫌そうに政府の元役人に向き直る。
「失礼でしょちょっと。あたしだってセリーヌの命に関わる時くらい真面目になっちゃうんだから」
「ほんとーに真面目なら、貴方の腰に下がっているワインボトルは何かしら?」
「気付け用よ。実はセリーヌってワインが好きなんですって」
 もちろん酒好きの由羅としてはワインも好きなのだが、由羅といえば清酒というイメージしか持たないヴァネッサはそこまで裏を読まずに笑顔を見せる。
「へえ。いい所あるじゃない」
「……本来気付け用のお酒は、消毒用を兼ねて度数の高い蒸留酒を使うんですけど……」
 反対側の扉を調べていたディアーナは小声で呟くが、問題行動を乱発していたせいで誰も聞いてはくれない。
「うっうっ……『いつも心にラブ&ピース』をモットーにしてるのにぃ〜!」
「ラブ……ですの?」
「ピース……ねぇ」
 もはや半信半疑どころか零信全疑のアイシクル・スピアさながらの視線が、クレアとイヴから放たれる。その視線は微妙にディアーナを逸らし――床へと向かっていた。
 湿っぽく薬臭い空気の漂う洞窟の床には、着古した制服を着た男達が痙攣しながら倒れ伏していた。たった十分足らずで起こった惨状は、床に散らばる嘔吐と喀血の痕跡、脚を血まみれにしながら叩き壊した椅子、そして断末魔と見紛うばかりの犠牲者の表情、これらに如実に示されていた。
 二人の心は一つになり、共通の言葉を紡ぎ出す。
「…………どこが?」
「……………………いいですいいですもういいです。先生には相変わらず叱られてばかりだしお仕置きされるのももはや快感ですと先生に洩らしたら今度は待合室を全壊させても完璧に無視されるし近頃はコロシアムでファンが付いたヤスミンさんばかり患者さんに贔屓されるし医療魔法の勉強と称してマリアちゃんは毎日毎夜病院を物理魔法で襲撃するしそのついでにエルさんまで魔法戦闘で近所や第五部隊に迷惑を掛けるし――」
「きゃーっきゃーっきゃーっ!!」
 不意に甲高い叫びが耳を聾するばかりに、洞窟全体に反響を繰り返す。天井にくっ付いていた蝙蝠が、ついでに何匹かぼとりと落ちた。
「あの叫び声は……トリーシャちゃん!?」
「陽動の役を果たしてはいるけれど、ちょっと大袈裟過ぎね。……慌てないでディアーナさん!」
 罠を危惧してイヴが制止する前に、白衣の少女は精霊魔法で速度を増して突進した。
「大丈夫ですよ。罠はありません!」
 断言しながら突っ走る後姿を唖然として見送る一同だが、クレアは素早く薙刀を構えて追撃に移った。
「……まあ通路ですものね。悪の魔術師の隠れ家ではあるまいし、大所帯では居住空間に罠を仕掛けると誰かが自爆する危険の方が大きいですから」
「そういう常識を云々できる人達なら、こういう事にはならないはずよ」
 イヴが指差す先の通路には、調べるまでもなく作動済みの罠が散乱していた。そのあちこちには、頭を手前に向けて仰向けになった男か、頭を奥に向けてうつ伏せになった男が、やはり痙攣しながら転がっている。
「…………救援に来て毒にやられたんじゃなくて、毒にやられた仲間を見捨てて逃げる途中で罠に掛かったのねこいつらは」
 早いうちに公安を辞めてよかったと物思いに耽りながら、ヴァネッサは慎重に落とし穴や人体をよけてクレアやイヴの後を追った。もちろん、その後ろから由羅も一緒に扉をくぐる。
 湿っぽく薬臭い空気の漂う洞窟の床には、着古した制服を着た男達が痙攣しながら倒れ伏していた。たった十分足らずで起こった惨状は、床に散らばる嘔吐と喀血の痕跡、脚を血まみれにしながら叩き壊した椅子、そして断末魔と見紛うばかりの犠牲者の表情、これらに如実に示されていた。
 ……我ながら描写がしつこいかも。


 
>>>4.彼女達の存在意義
 

「メテオライト・スマッシュ〜っ!」
「ぐわ〜っ!」
 まだあどけなさを残す声と共に、薄汚れた辛子色の服を着た男達が、なぜか空間を引き裂き登場した隕石に巻き込まれて宙を舞う――だけの余裕は洞窟の中には存在せず、天井に叩き付けられて悶絶し、最後に床に叩き付けられて綺麗さっぱり気絶した。
「しつこいな、もうっ!」
「あんまり鬱陶しいと、女の子に嫌われちゃうわよっ!」
 別の入口から突入していたトリーシャとローラはそれぞれ杖と短剣を構えて、まだ彼女達の人数の五倍近くは残っている元公安局員、通称野良公安を、殴り倒し切り裂き凍て付く槍で串刺し逆巻く嵐で打ちのめしと、武器と物理魔法を交えて乱闘を演じていた。野良公安は及び腰になりながら、年端も行かない少女相手に根拠のない自信に駆り立たれ、旅鼠の如く自らの死へと盲目的に突き進む。――いや、自警団員としては相手を捕縛するためにとりあえず生かしておく必要があるので、とりあえずは死んでいないはずだが。
 たった二人の女の子相手に十人近くで掛かって行く公安局員が大人気なく見えるが、所詮は素行と能力ゆえに各地の公安局から追放された連中。直言癖のラーキン元局長や実戦に弱いヴァネッサはまだしも、自警団を逆恨みして集団で窃盗や誘拐を行うような連中の実力など、常に魔物や自警団との戦いで鍛えられているその辺の盗賊にも劣る。
「くっ……このアマ、魔術師かと思ったら体術も強いじゃねえか!」
「ふざけた杖を持ちやがって、こんなのにやられたらエリートの恥だから頑張れお前ら!」
「貴様ぁ、エリートであるこの私に命令する気か!」
「というか逃げる気なんだろ! だったら俺も!」
「さっきの結束力を忘れたのか? 倒した奴は尋問で女の子を悪戯し放題だって張り切ってたじゃないか!」
「俺は大きい方の女はともかく、胸の無い幼女なんかどうだっていい!」
「……他の人達はまあどーでもいいけど、最後のおじさんだけは二重の意味で突っ込みたいわね」
 今にも同士討ちに発展しそうになる馬鹿の群れから微妙に身を引き、半ば視線を逸らしながら、ローラは額に流れる汗を大きな袖でぬぐう。これが物理戦闘の「師匠」である、アルファの恋人の一人にしてローラの家系から血を分けた王族の末裔でもある「彼女」なら暗殺術で始末できるのだが、瞬発力はともかく筋力と技術が伴わないローラはそうはいかない。
「シーラちゃんみたいな訳にはいかないし……この際やっちゃえ、トリーシャちゃん!」
「――天堂と冥府を連結し、背徳の族に誅罰を下されん!」
 トリーシャが構えたチョップ棒に、色を持たない魔力が宿る。そして振り下ろす動作と共に、鉄棒を豆腐に突き刺すように、人の塊をぐしゃぐしゃに突き崩し――、
「ディヴァイン・シャフト!」
 治癒の魔力を逆転させた、純粋に破壊をもたらす力・神聖車軸殴打。公安局員達は意識が途絶える垣間、チョップの鬼、チョップの悪魔の恐ろしさを魂に刻み込まれていた。
「悪魔って言うなー!」
 じゃあチョップの堕天使。
「…………もー好きにして」
 辛うじて神聖車軸殴打の直撃を免れた公安局員のよろめく剣をチョップ棒で叩き落として、地面を滑るような蹴りで足払い。これが見事に成功し、相手は側頭部を岩盤に打ち付けて呻きながら悶絶した。ちょうどそこにディアーナが駆け込み、男を無造作に踏み付けてとどめを加える。
「トぉリーシャちゃーん、だぁーいじょーぶですかぁー?」
「大丈夫! 今のボクはベータさんと別行動!」
「というかさぁー、相手が多すぎてはぐれてるだけ……きゃっ!?」
「死ねクソガキぃっ!!」
 隠れていた物陰から飛び出す公安局員が振り下ろした剣が、暢気に叫んで「いた」ローラの居場所を両断する。その時には既に、ローラは身をひねる最小限の動きで刃を空振りさせ、素早く呪文を唱えて白く細い指を突き付けていた。蝉の羽のようなマントがふわりと宙に舞って、そこで物理作用を変換させる魔法力を解き放つ!
「ハイパー・ソニック・ブレイク!」
「ぐぎゃ〜っ!」
 単に物質を脆くする普通のソニック・ブレイクとは違い、鉄槌に匹敵する密度にまで集束された超音波。それは哀れな公安局員を捕らえ、構えた剣を金属片に変えながら宙を錐揉み回転させる。ちなみにその先には光一つ見えない地底湖が。
「わああああがぼがぼガボがぼガぼガボ……」
 公安局員は泳げなかったらしく、悲鳴を上げ続けたまま硬直した姿勢を取り、もがきながら指先まで沈んで行く。やがて最後の指が立てた波も静まって、暗い淀みの底は何もなかったかのように無明の闇を溶かし込んでいた。
「さっすがぁ。ローラ必殺の蝉音波!」
「あたしは蝉じゃなーい! 百年間地中で眠っていたからって百年蝉扱いされたり、蝉の寿命と比較して余命計算されたりするのはもう嫌ー!」
「いや後者はやってないし……それよりさローラ、一人沈んじゃって生け捕りできないけどそれでいーの?」
 トリーシャの言葉にローラの視線が一瞬彷徨う。しかしその当人は、すぐにハンカチを出して冷や汗を拭き取った。
「……まあいいわよね。レディーに向かってクソガキ呼ばわりしてたもの」
 問題は別の所にあったと思うが、当事者が消滅した今とあっては追求するのも無意味だろう。
 ともあれ残り三人になった公安局員達は、互いに弾よけとしか思っていない仲間達の悲惨な最期に、形ばかりの薄っぺらな無念さをさえずりつつも、公安復活の際の予定ポストに空きが増えた事を密かに喜んでいた。
「あああっ、役立たず! お人形みたいにひらひらの女に無様に負けやがって!」
「くそっ、お前の死は無駄にしないぞ!」
「第一撃、発射!」
 三人掛かりで構えた魔法兵器の先端に白い光が集積。それは引き金と共に膨れ上がり――、
「うわあああっ!?」
 荷電粒子砲から放たれた光線が岩壁を砕くのと同時に、トリーシャは横にステップを踏んで回避する。そのまま尻餅をついてしまうが、勢いを殺さずに側転して素早く立ち上がった。
「第二撃、充電開始!」
「了解! ちょっと待ってろ小娘!」
「誰が待つんだよぉーっ!」
 チョップ棒が蓄電器をしたたかに打ち据え、その瞬間トリーシャと公安局員を包んでなお余りある半径三メートルに高圧電流が吹き荒れた。

 

「し、痺れるうぅ〜〜っ!!」
「……だからね、どうして粒子砲を武器で攻撃したのよ?」
 突入したヴァネッサが目にしたのは、血の気が失せていたり青紫になっていたり凍り付いていたり程よく焼けていたりする公安局員達、そして全身が痺れて悶絶するトリーシャと黒焦げになり人事不省に陥った男達だった。かねてからの打ち合わせ通り、他の面々は手際よくロープを取り出して、逃げ辛いように数人ずつまとめて縛り上げる。……怪しげな香辛料を口に突っ込んで悶絶させるディアーナや、なぜかロープではなく荒縄で縛っているクレアについては、触れておかない方が賢明だろう。
「だぁってぇ〜、岩を打ち抜くような荷電粒子食らってたらいくらボクでも凄く痛いし〜」
「あれは充電に数分は掛かると兄さまより伺いましたわ。それに射撃を制止なさりたいのでしたら、人の方を動けなくさせればよろしいのでは?」
「それを言わないでよクレアさん……まだ節々が痺れるもん」
 自分で唱えた神聖魔法で復活したとはいえ、ダメージは完全には抜け切っていない。精霊魔法のウンディーネ・ティアズは戦闘のような活性状態でしか持続しないためこの場合には使えないし、そもそもトリーシャは水の精霊との相性が微妙に悪くて最初からその呪文を覚えていない。
 とりあえず休憩してから考えよう……と思っていたが、更に奥の通路から無傷の公安局員が出てきた。若く熱気に溢れていそうな見掛けだが、微妙にねちねちした嫌な雰囲気も同時に垂れ流している。戦闘で感じた興奮状態がまだ抜けきらないローラは調子に乗って、両拳を口元に当てて大仰に悲鳴を上げた。
「やぁ〜〜んっ! まさか新手!?」
「大丈夫大丈夫。こんな時こそパティさんに挑戦するために作った特製調合スパイスを転用した、エルさん&マリアちゃん直伝こしょう爆弾で」
「やめなさい。というかどーいう意味でパティさんに挑戦するのよ貴方?」
 危ないところでディアーナが相討ちを招くのを防いだヴァネッサ。しかし幸せな野良公安は、自分に絶体絶命の危機が忍び寄っていたとは知らずに、小さな背丈をごまかすように肩を震わせていきり立った。
「何だよ何だよ。子供の分際で僕達の本拠地に不法侵入するなんてどういうつもりだい?」
「盗人猛々しいとは昔から言うけど、近頃は誘拐犯まで猛々しいのね〜」
「エンフィールド自警団の者よ。カルテ窃盗の容疑と保母誘拐の現行犯で逮捕します」
 放っておくと由羅達は誰も相手をしなさそうなので、仕方なくヴァネッサが決まり文句を口にすると、嫌味っぽい公安局員がそれに答えようと口を開く。
「そ……」
「まだ分からないのですか? 私達は正当な権利を頂きたいだけなのですよ。まったく田舎者は血の巡りが悪くて困りますね」
 口を開くその瞬間をわざわざ見計らったように、更に後ろに現れた背丈以上に態度が大きな公安局員が口を挟んだ。その巨人並みの尊大さに嫌味な青年は腰の剣に手を掛けるが、寸前で思い留まりこれ見よがしな舌打ちで我慢する。明らかにこの二人、仲は非常に悪い。
「……そんなに生活保護が欲しいなら、教会に来てくれれば奉仕の代わりに食事くらい出せるのに」
「でも、無能で無気力なこの人達に食事を出すくらいなら、猫の餌にする方が何十倍もましね」
「むしろこの方々を猫ちゃんの餌になさった方が、一石二鳥でよろしいのでは?」
「とゆーか、この人誰なのさディアーナさん?」
「野良公安AとBですね。不確定名称は『似非エリート』という辺りで」
 もはや人格すら認められていないような状態に陥っていた二人は、それでも自分達を話題の中核に据えてくれるローラやイヴやクレアやトリーシャやディアーナに感謝して、全身は歓喜に打ち震えていた。それにしては顔が真っ赤なのは理解し難いが、表情の歪みからすると激しい感激ゆえの現象だろう。いや嘘だが。
「ちょっと君た……」
「い、いいですか?」
「うるさいわねもぉ! イヴちゃんと話してるんだから口を縫っといて!」
「気の毒だから少しくらい構わないのではないかしら。でもローラさんが先だから、手短にお願いするわねBさん」
 イヴの言葉に発作を起こしたように顎をかくかくと動かしていた野良公安Bは、野良公安Aが言葉を発したその瞬間、それを封じるように前に出た。
「僕はだね、ギャラ……」
「名前があるのに失礼でしょう。ボルですよボル」
「なあんだ。人並みに名前もあるんじゃないですか」
 ディアーナの独り言に反応して、野良公安B――もといボルは、お湯が沸騰した薬缶の蓋のように喘ぎながら、野良公安Aことギャラ何とかが言葉を挟めず既に倒れている公安局員で憂さ晴らしをしているのを尻目に、往生際悪く上半身を反らす。
「私達は中央のエリートなのですよ! たかが田舎都市の私兵風情とは違うのがまだ分からないのですかね?」
「頭の悪さの度合が違うのは、私にも分からない事はないわん。そーよねイヴ?」
「ええ由羅さん。能力があるのに悪い事にしか使えない辺り、無能というよりは低能、大馬鹿というよりは薄ら馬鹿というべきね。それに現在の自警団は評議会の管轄下で公費を得て活動しているし、それ以前もショート財団だけでなく大小様々な組織から幅広く出資を受けていたから、特定勢力だけに義務を負う私兵扱いは愚昧極まるわ」
「それ以前に女の子が喘ぐのは可愛くても、いい年した男性が喘ぐのは見苦し過ぎて思わず抹殺しちゃいますからやめてもらいたいですね」
 反らした背骨を平然と蹴折られて、ぴくりとボルは硬直した。
「な、何をおっしゃ……」
「何をやり込められているんだよボル。このギャラン様に任せてあんたはすっこんでな」
 憂さ晴らしを終えたギャラ何とかが――、
「ギャランだよ。その程度の事も覚えていないのかい馬鹿ナレーション?」
 執筆者に罰当たりな言葉を吐いたギャラ何とかは即座に全身の血液が強酸性の毒液に変化して、全身の皮膚を弾けさせながら声にならない悲鳴を上げてのた打ち回る。十分近くも激痛を味わい続けて完全に発狂した頃合にやっと全ての肉が爛れて骨から剥離を始めるが、如何なる呪いが働いたのかギャラ何とかは絶命せず、腐肉にこびり付いた神経細胞を引きずりながら絶え間ない激痛に永劫に悶絶し続けた。という事にされたいならご自由に。
「すいませんごめんなさい許して許して許してええええっ!! ――それでだね、ボル程度の低能をあしらったからっていい気になるなよ女ども!」
「ごめんなさい。もー既にギャランさんをとことん哀れんであげたい気分です」
 率直なトリーシャの言葉ももはや聞こえないほど、自分が作り上げた怨念に侵蝕されたギャラン。さっきからボルに発言を邪魔され続けた鬱憤も蓄積して、興奮剤を投与されたように目が血走っている。ボルはそんなギャランを無視するように傲慢な面皮を貼り付けていたが、注視すれば小刻みに痙攣しているのが分かっただろう。
「そもそもね、滅びた王国の残り滓風情が僕達に口を利こうと思う事自体が既に間違っているんだよ!」
「ほほぉ。あたし達王族を差し置いて王国を簒奪した逆賊風情がよくおっしゃいますこと?」
 ローラの言った事は正確ではない。厳密には五十年前に王都もろとも王族の主流が断絶してしまったせいで、無数の傍流(シーラのシェフィールド家を含む)から適当な王位継承者が得られず貴族共和制になっただけである。もっとも権力に固執する多くの政治家達が、ただでさえ内心では九百年続いた王家と比較しての正統性の欠如に怯えているのに、ローラに素直に元首の座を譲るとは考えにくいので、逆賊呼ばわりするのも故無き事ではないだろう。
 この場面は後に友人達、そして王国精鋭部隊の末裔である自警団の協力を得て、ニューフィールド朝初代となったローラ女王の伝記の中で特筆される事になるのだが――、
「な〜んて、格好付けちゃったかなぁ?」
「とんでもございません。犬とでも奴隷とでもお呼び下さい」
「忠臣として褒賞と領地を下さるのでしたら、たとえパメラ元課長でも成敗してみせますとも」
「遺憾ながら元同僚として言わせてもらうけど、私としては貴方達が生まれて来た事自体が間違いだったような気がするわ……」
 幼女にひれ伏す元同僚の、エリートとしての矜持の欠片も残っていない姿に、勿体ないと思いながらもヴァネッサは涙を流さずにはいられなかった。
 しかしその時、生気を失いかけたヴァネッサの両肩に、幾分華奢だが頼もしい腕が掛けられる。
「でも一応感謝はしておけよ。おかげでヴァネッサと俺達が会えたんだからな」

 

「あ……!」
 自分に安堵と自信を与えてくれる、憎からず思う異性(一応は)の温もり。頬が紅潮するのと共に、心臓が力強く脈打つのを感じるような気もする。後ろでトリーシャが「今の殺し文句は何だよぉ!?」とか叫んでいるが、本能的にそーいう台詞を吐くベータの事を知ってしまっている分、ちょっぴり残念な気がしないでもない。計算ずくで殺し文句を使うアレフより、ある意味傍迷惑な性格でもある。
「だ、誰ですか貴方は!?」
 ボルの――こんな時でも無意味に偉ぶった――叫びに構わず、ヴァネッサの陰からベータが姿を見せる。
「全然か弱くない女性を誘拐した身の程知らずを保護しに来た人物だよ。南西辺境出身のボル君」
「えぇ〜っ!? 王都育ちのあたしまで田舎者呼ばわりしておいて、事もあろうに出身地があの大陸最後の秘境って名高い南西辺境!?」
「そうよローラさん。鳥も通わぬ南西辺境……その地に住まう人間は、未だに火を発見していないといわれるわね」
 表情も変えずに呟くイヴの様子は、その言葉に磐石の信頼感を持たせていた……のは昔の話。エンフィールドフェスティバルの前衛演劇「夢の時計」で「鰻ニョロニョロ三ニョロニョロ」と真面目にやらかしてからは、ルー共々真面目一辺倒のイメージを払拭している(というか、壊れただけのよーにしか思えないかもしれないが)。もちろんそれを聞いた一同は、真面目なベータやヴァネッサさえも含み笑いを抑え切れず、トリーシャやローラに至ってはもはや大爆笑寸前だった。もちろん揶揄されたボルは、仲間であるはずのギャランだけが上げている堂々と悪意を込めた嘲笑の前に、元からか細い理性は日没寸前の黄昏のように刻一刻と失われていた。
「ぷっ……笑っちゃダメよ笑っちゃ……」
「くすっ……くすっ……うふっふふふっ……」
「はーはははっ、お笑いだね。連中を田舎者呼ばわりするキミなんか、その正体は僻地の野蛮人じゃないか!」
「ばばば、馬鹿にするつもりですか木偶人形風情が!?」
 自分の出自を恥に感じ続けたボルは、自分の形に似せた穴しか掘れない蟹のように憎悪を投げ付ける。しかし無視の前に憎悪は空振りするしかなく、身内からしばしば『No.300』と呼ばれる女性は長い黒髪を掻き揚げ、完璧な微笑で辛辣な全否定を返した。
「いい加減鳴き声がうるさいから、吠え猿はいい加減に吠え猿の世界に戻ってくれないかしら?」
「うるさいうるさいうるさい!!」
「てゆーかそっちがうるさい黙れ」
 ごし。
 何だか乱暴な音と共に、ボルは狂気に蝕まれた脳を揺さぶられて地面に倒れた。
「なっ、何をしたんだ貴様!?」
「いや、ただ単に刀で張り倒しただけなんだけど」
「そんな訳ないだろ! 刃棟で叩き付けると曲がるか折れるかするものだろう!? い、いくら人外の化け物でもっ!?」
 ギャランは興奮しながらわめくが、ベータは峰打ちをしたのではない。精霊魔法で刀身をコーティングして、斬撃を打撃に変換しただけである。
「しかしこの程度で、未来の公安局長である僕が止まるとは思うなよ! 活動資金確保のために外部活動を続けていた手駒達が、そろそろこの拠点に戻ってくるはずだ!」
「キミの本心が見え見えの表現はさておき、手駒ってあれがか?」
「んあ?」
 いかにも面倒そうに視線をずらしたギャランの眼前には、ひたすらチョップで殴り倒される野良公安達の姿があった。
「うぎゃあああ!」
「ぐひいいいっ!」
「トリーシャ・スーパーエキセントリックワンダフルゴージャス・チョップ! トリーシャ・バウンド・チョップ! トリーシャ・スペシャルスピニング・チョップ! トリーシャ・ハイジャンプビッグローリング・チョップ! トリーシャ・ニューサンダーボルト・チョップ! ――トドメのトリーシャチョップ・本気バージョンっ!!」
 無数のチョップが元公安局員達を薙ぎ払った後には、黄色いリボンの女の子だけが手にチョップ棒を持って立ち上がっていた。大きく胸を張り、周囲を睥睨する征服者のように。
「ボク達の勝利ーっ!」
 トリーシャだけが暴れていたのだから「達」というのは違うような気がするが、仲間――と言えるかはもはや疑問だが――を呆気なく倒された嫌味な熱血男は、あまりにも使えなかった手駒どもの惨状に品の悪い舌打ちをして、燃え上がる敵意と共に二、三歩後退する。
「貴様……フォスターの娘!?」
「そーだよ。トリーシャチョップ伝承者第二十七代トリーシャ・フォスター、人呼んでチョップの天使!」
「第二十七代?」
「トリーシャチョップの継承者は、代々必ず『トリーシャ』と名乗るんだ。例えばボクが子供にチョップを教えたら、その子が新しい『トリーシャ』になるの」
 誇らしげに胸を張りながら、トリーシャはベータを脳裏に浮かべてあからさまに健康的でいかがわしい妄想に支配されている。しかし妄想内の娘が恋人を紹介していた場面で、ローラの声により現実に引き戻された。
「ま、まさか……、リカルドおじさまも昔は『トリーシャ』と?」
「二十五代目だったシスターから譲られたんだけど、似合わないからってボクを引き取って即座に譲っちゃったんだよねぇ。ボクがそーいうのに適性なかったら一体どーするつもりだったんだろ?」
 自分の「本当の名前」を知らない少女が呆れるように息を吐く。そこでようやくギャランは驚愕から蘇り、もつれる舌で必死に断片的な言葉を紡ぎ上げた。
「や、やはり……自警団の黄色いチョップの悪魔……しかも第三部隊隊長の据膳……」
「トリーシャ・ゴーストスニーク・チョップ! トリーシャ・ツイスター・チョップ! トリーシャ・デスエッジ・チョップ! トリーシャ・ソニックブラスト・チョップ! トリーシャ・サンダークラップ・チョップ! トリーシャ・ああもう何でもいいや・チョップ!」
「どぎゃっ! げひゃっ! おへえええっ!」
 折り畳まれるようにボロボロにされたギャランが宙を舞い、天井に叩き付けられて落下した。とどめに蹴りを五、六発食らわせるが、もはやギャランは声一つ上げずに岩の出っ張りに跳ね上がる。そんな哀れでもなんでもない男を憂さ晴らしに踏み付け、かかとでぐりぐりと念入りに踏んづけてから絶叫するトリーシャ。
「誰が据膳なんだよーっ!?」
「……それに答えられる人は、たった一人しか残っていないと思うんだが」
 ベータが公安局員の山の向こうを刀で指すと、そこには一人だけチョップ連打を免れたとおぼしき人物の影が……。

 
後編に続く


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